事例の概要 | 男性、17歳、身長160cm・体重70kg 祖母、母、本人の3人家族 |
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服薬の状況 | リスパダール、オーラップ |
利用開始日 | 2006年8月 |
出生 | 妊娠中毒症に罹り、予定日の1ヶ月前に入院。陣痛促進剤を使い、予定日前日に陣痛。自力での脱胎ができず、腹部を押して出す(出生時の体重3,168g、身長50cm)。 |
乳幼児期 | 眠らない。いつも抱っこして寝かせ、布団に下ろせなかった。昼夜逆転の傾向がみられた。大きな音や人混みで激しく泣く。一人でじっと紙を紙縒りにして遊んでいたが、児童通園施設に通う頃から、歩くことやすべり台、トランポリン、手遊び、くすぐられることなどの遊びが広がる。施設での食事ができない。 定頸 6ヶ月 離乳 6ヶ月(ミルクを嫌がり飲まない。果汁で育つ) 這い這い 右足は普通。左足が足を立てたままであった。伝い歩きは普通 喃語はなく、クレーンでの要求。呼びかけに振り向くが、返事、発声はない。 |
学齢期 | 6歳、養護学校小学部。登校しても、すぐに帰りたがり泣くことが多かった。トイレに入り、出て来なかったり、給食が食べられずに学校生活が難しかった。この頃から眠れなくなる(服薬により少し改善される)。また、体調も崩しやすく、高学年頃には、登校できなくなる。 13歳、養護学校中学部。週に3日くらいは登校できるようになるが、教室にじっとしていることができず、パニック、飛び出しが繰り返される。そうするうちに学校にも行けなくなる。 |
2歳 | 言葉が出ないことを近所のかかりつけの医師に相談。地域の専門病院を紹介される。自閉傾向を伴う精神発達遅滞の診断。併設の外来保育に1ヶ月に1回通い始める |
3歳 | 外来保育を月に2回 |
4歳 | 同病院併設の児童通園施設に入園。状態が悪くなった際に服薬開始(~5歳) |
8歳 | 言語訓練に月に2回通う |
10歳 | 同病院で心理士の外来相談を月に1回利用 |
11歳 | 言語訓練、心理士の外来相談が共になくなり、終了 |
15歳 | 行動上の問題が慢性化する中、主治医に相談し、服薬調整 |
重度の知的発達遅滞、自閉症
区分5、療育手帳A判定
言語 | 不明瞭であるが、現在教えている挨拶(おはよう、さようなら、こんにちは、いただきます)は言えるようになってきたが、他の発語はない。理解面について、日常的に聞き慣れた言葉は理解できる(指さしなども含む)。対人緊張が強く、コミュニケーションは難しい。要求や拒否などは非常にわかりにくく、嫌な場合は走り回り、欲しい物は取って行ってしまうという行動になる。一般的な嫌という表現はしない(できない)。 |
ADL | 全般的に介助が必要である。 |
排泄 | 自分で行くことはできるが、後始末ができない |
食事 | 偏食が強い。箸の使用は十分でなく、すくうようにする |
睡眠 | なかなか眠れない。早朝にようやく眠る |
洗面 | 形はできるが、用は足りていない |
着脱 | できるが、前後の理解ができない |
運動 | 歩行、走ることはできる。運動は苦手であるが、特に身体の問題はない |
学習 | じっとできず、学習への取りかかりが困難 |
多動 | 教室に居続けることができない。じっとすることができず、校庭を走り回ったり、飛び出しがあり、課題に取り組むことはほとんどできない。(唯一できるのが、シール貼り)。 |
食事 | 決まった物しか食べられない(パン、麺類、お菓子、肉)。 |
パニック | 原因がわからないパニックが頻繁に起き、対応が困難である。 |
多動/パニック | じっとできない。決まったコースを儀式的に動き回り、泣きわめく。原因のわからないパニックが2時間おきに起こる。 また、行動を制止されたり、思い通りにいかないとパニックになる。健康面・生命維持に絡んだ要素が強いため、制止や注意をせざるを得ないが、パニックがひどく対応が困難であった。 |
こだわり | 休みの日にはカレーを作る。作った食べ物はすべて食べる。外出した帰りには決まった場所で決まったおやつを買って食べる。決まった曜日に決まったコースで外出する。開いている扉は閉めないといられない。 |
食事 | 決まった物しか食べられない。また、決まったパターンで食べないといけないため、パニックにつながる。食べられる物は大量に食べてしまう。薬が飲めない(水薬をスポーツ飲料に混ぜて飲ませる。粉や錠剤は無理)。 |
睡眠 | 夜寝ることがなかなかできず、いつも明け方にわずかに寝る。 |
上記のような行動上の問題を起こしてしまっている中、学校の担任からの依頼。偏食がひどい、夜間に眠れないために朝起きられず、学校に登校できないことが多かった。学校から行動障害の改善を目的としたショートステイの依頼を受ける(母親と学校が事前に話し合い、合意していた)。
旧法 強度行動障害判定指針 | 新法 重度障害者包括支援 |
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こだわり(3点)、物壊し(1点)、睡眠(5点)、食事(5点)、多動(5点)、騒がしさ(1点)、対応困難(5点) | 意思表示(2点)、説明理解(2点)、多動(2点)、パニック(2点)、突発的な声(2点)、突発的行動(2点)、食事(2点) |
計25点 | 計14点 |
基本的に、母子相互の依存が強い傾向を感じる。その中で、パニック回避という前向きな方向での導きが逆にこだわりを増幅させ、強固にしてきた印象がある。
食事をはじめ、睡眠やさまざまな課題がうまくできないのは、多動そのものによる不具合というとらえ方とともに、教えてもらうべき時に教えてもらえなかった(できなかった)と考えられる。
上記した本人の不具合な状態を何とか理解しようとする支援者は、本人に混乱や失敗をさせないようにさまざまなお膳立てをしてきた。それに対して、理解の乏しい支援者は「この子には無理だ」とか、それに向き合うこと自体を避けてきた傾向があったと考えられる。その中で、人から教わることや一緒に行動することが成されにくく、また、そこに至る前提となる学習姿勢(対人関係)が未確立であると考えられる。
本ケースは生活動作そのものに大きな問題があり、それが毎日繰り返される中で定着化したものと考えられる。このように定着化したものを改善するため、最初の1回目の支援・かかわりを「失敗はさせられない」非常に重要なものと位置付けた。
宿泊で家庭を離れたことがない人の、「初めての場で、初めての人との関係において、成功体験で終わること」に集中し、それを最大の目標にした。
強度行動障害を有する利用者の受け入れ、初期の療育は、特別に組織したスタッフによって行なわれる。入所利用者への支援と掛け持ちになるため、支援計画に沿って、有期限・有目的で短期的な取り組みを集中的に行ない、集団適応の促進や、施設の日課に沿った生活支援・行動障害への支援を行なっている。
ショートステイの緊急依頼であったが、事前面接と学校からの書面にて状況を聞き取る。すぐに支援の方向性を決め、受け入れの段取りを進めた。「偏食の改善」「睡眠の確保」を優先目標にし、生活リズムの改善に向けた支援を行なう。
生活という連続したものの改善のためには、
① 個々の生活動作を如何にうまく行なうかが非常に重要な鍵になる
② 生活動作をひとつずつ教えることが必要である
③ この人から教えてもらう、この人の話を聞くという「人への意識」を高める必要がある(1対1のわかりやすさと信頼関係の構築)
利用開始の時、あえて、大きな課題である昼食直前からの利用を設定した。新しい環境(ショートステイ)という大きな変化を利用し、緊密なやりとりを行なうこととした。つまり、凝り固まった習慣を、環境的・人的要素の大きな変化を利用し、介入していくということである。
期間は1週間を設定。最初の2日間は担当者が1対1で対応。3日目以降については、初期の行動改善を機にかかわる人を不特定にし、対人関係を拡げて一般化の可能性を確認する(臨機応変の対応が可能な専門性を求めず、支援ポイントのみの引き継ぎ)。
何に引っかかり食べられないのか?どう食べられないのか?を探りながらの支援となる。
まず、食事時間になった時(皆が食堂に向かう)から食堂への移動、食堂への入室、テーブルへの着席、「いただきます」の挨拶までの間、特に抵抗はみられなかった。しかしながら、スプーンを持とうとした際に持てない。
その様子から、「食べようという気持ちはあるが、食べることができない」ことがわかった。一口目の体験を大切にし、食べられない箇所を助けながら、次のようなステップを踏んで支援を行なった。
スプーンなどの道具操作はともかく、食べることにのみ集中させた。スプーンは職員が持って食べさせる形をとり、口だけ動かすよう促した。ごく少量(ごはん20~30粒くらい)を乗せ、「これだけ食べようか」と伝えると口を開く。
口に入れると舌で転がすようにし、噛まずに溜めている。吐き出すだろうと思えたので、その前に咀嚼の仕方、嚥下のタイミングを教えていく。「モグモグ…」と声をかけ続ける中で、タイミングが合ってくる。そして、「ゴックン」を伝える。少しタイミングはずれたが、合わせようとし飲み込むことができた。
続けて、別の品目をスプーンに乗せる。1口目で理解できたようで、声かけしなくても口を開く。咀嚼・嚥下のタイミングだけ伝え続けると、難なく食べることができる。3~4口目は声かけの必要もなく、口を開け、咀嚼・嚥下ができるようになる。食べられた経験と食べられる実感をもってもらい、次のステップに進む。
「スプーンを持とうか」と声をかけると、抵抗なく持てる。観察していると、スプーンに乗るだけの大量の食物をすくって口元まで運ぶが、口が開かず、自分でも食べられないとわかっているのか、量の調整が難しいようであった。以降、少量をすくえるように手を添え、固形物については小さく刻むと食べられるようになった。
家庭では、朝の4~5時くらいにようやく眠れると聞いていた。
布団に入るが、眠ることができない状況に気付かされる。寝返り、足の置き位置を直す、独語が出ており、脈拍を測ると100/分を超えている。軽い運動をしているくらいの活動が布団の中で行なわれている。多動状態であり、眠気が来ない。
そこで、多動をコントロールしていく。
約3時間かかったが、0時には就寝することができた。
上記の実践により、教える-教えられる関係が形成されていった。その中で「この人といることでじっとしていられる」という経験につながり、いわゆる多動状態(じっとできず、ウロウロする)は一切見られなくなった。
(母親からの聴き取りより)
8月
夏休みに1週間あかりの家でショートステイを利用する。ひどい偏食だったが、牛乳も飲めるようになり、野菜も食べられるようになる。3~4時を過ぎて寝るのが当たり前だったのが、家でも0時には眠れるようになる。
9月
新学期、学校の給食でも牛乳や野菜を食べられるようになり、先生方も驚かれる。
1週間の集中的な短期入所終了時の様子である。具体的な行動上の問題に対して、丁寧に一つずつ教えることで、施設内での生活動作は劇的に改善された。その後、帰宅してからもその変化は維持され、食事の問題、睡眠の問題などが劇的変化をした。
それぞれの生活動作の正しい振る舞い方を体得したことで、本人の生活そのものの変化が起こった。
旧法 強度行動障害判定指針 | 新法 重度障害者包括支援 | |
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自宅 (帰宅中) |
こだわり(3点)、物壊し(1点)、多動(3点)、騒がしさ(1点) | 意思表示(2点)、説明理解(2点)、多動(1点)、パニック(1点)、突発的な声(1点)、突発的行動(1点) |
計8点 | 計8点 | |
あかりの家 | こだわり(1点) | 意思表示(2点)、説明理解(1点)、突発的な声(1点) |
計1点 | 計4点 |
初回の利用により、家庭・学校での状態もいくらか改善されたが、環境的、対人的な面で崩れることが予測できたため、母親との話し合いの中で、2~3ヶ月に1回は定期点検の位置付けでショートステイを利用することになった。
特別な1対1の取り組みはせず、初回の利用で作り上げた正しい習慣を維持することを目標にしながらかかわる。
あかりの家と家庭・学校における振る舞いの間にそれぞれ違いがあったが、定期的に利用してもらう中で、地域生活が維持されていた。
(母親からの聴き取りより)
10月
再び連休を利用してあかりの家のショートステイ。家でも0時までに眠れる状態が続く。
3月
不安定な状態が続く。高等部への進学、高等部には今まで知っている先生が誰も付いていけないことなどを話していたようであった。その辺から崩れている。卒業式は何とか無事参加できたが、その後から体調を崩し、春休み中は不安定な状態が続く(体調が崩れて熱も下がらないので、ショートステイの利用ができなかった)。
(母親からの聴き取りより)
高等部入学。何とか入学式に参加するが、体育館を走り、トイレに立てこもる。担任を含め、顔なじみの先生はいない状態で、机を倒すなど、学校で暴れることが多くなる。
上記の様子を相談され、これまでより短い周期で定期的なショートステイの利用を決める。
具体的には、毎週末の定期利用によって、状態の維持や変化への早めの対応を行なえるようにする。また、行事等の前後で崩れが起こりやすい傾向を踏まえ、母親からの積極的な希望もあり、状態の修正・崩れへの予防という位置付けでも利用を行なっている。
本ケースの行動上の問題は健康的な生活を維持していくための土台となる食事・睡眠そのものであった。
本ケースに関する事前情報をみると、極端に評価が悪かった。「食べられない」「寝られない」など、改善には相当の労力、時間が必要であると予測された。しかし、実際に支援を行なっていくにつれて、「できない」「しない」のではなく、「したくてもできない」「したくてもわからない」という見方に変わっていった。この視点から支援を組み立て、彼が理解しやすい、成功し続けられるプログラムを組むことにした。
長い間繰り返されてきた失敗体験は、本人、両親や支援関係者にとっても根が深い。支援者の「できない」「しない」という理解は過小評価や過介助につながり、「しない」ことは支援拒否と解釈されていた。今日までの実践を通して、「したくてもできない」という視点に立つことと、成功体験を積み重ねていく必要を痛感している。
また、ショートステイの定期利用は、「定期点検」的な役割を果たしている。ショートステイを利用しながらの地域生活は、将来的にも継続していく必要を感じている。
強度行動障害は、関係や環境が絡み合い、強化され、こじれてしまうことが多い。以下のことを押さえ、軽重つけながら支援を組み立てることが有効的な支援となる。
多くの場合、本人は問題行動にがんじがらめにされて身動きできない。また一方で、家族や他の支援者などを巻き込み、問題がより複雑になってしまう。そのようなこじれきった関係や環境内での修復は相当に困難である。一旦、その関係と環境から切り離す。
支援者と利用者というシンプルな関係、構造化されたわかりやすい日課や環境の存在する療育的、かつ整理された場面の中で支援を行なう。
本人の内面に沿った支援や納得は、意欲の引き出しに不可欠である。その意欲が行動障害を変容させる動機になる。そして同時に、強度行動障害の多くは、相手や状況に関係なく自己の枠組みを肥大化した傾向がみられる。併せて、支援者の指示に従える関係作りを行なう。
行動障害の背景として、食事・睡眠・排泄/日中活動に大きな乱れのあることが多くみられる。また逆に、強い行動障害によってこれらが大きく乱れることもあり、両者は高い相関関係を有している。したがって、食事・睡眠・排泄/日中活動をしっかり送るための支援は重要である。
強度行動障害への支援を有効的なものにするために、期限と目的は不可欠である。単なる設定というだけではなく、支援者や家族などへの動機付けでもあり、本人にとっても行動変容に向けた努力のエネルギーとなる。
多動・固執・パニックと摂食排泄睡眠の難しさを兼ね備えたケースの場合、人と共有するルールの理解と生理的行動の乱れを示している。人と共有するルールを持ちにくいが故に、生理的行動の習慣が身に付けられなかった場合が多いように感じる。
そこで、生活を健康的に営んでいくこと、食べる(食事)、寝る(睡眠)、出す(排泄)/出る(豊かな日中活動)を適切に行なえることが重要となってくる。
こういう型のケースで多く感じることは、ひとつできれば、全体的に行動がまとまってくるということである。本ケースも当てはまることで、食べるという行為を適切にしていくことで、生理的行動全般に起こっている歪んだ理解や誤解の傾向が同じ理由で起こっていることに気付く。また、本人も一定の傾向をつかむことで、他の行動の歪みや誤解に気付きやすいように感じる。
有効的/予防的支援で記した強度行動障害を示す人たちへの支援には、相当なトレーニングによる細やかな専門的視点と対応の柔軟性が必要になる。そして、専門的な支援のできる人材を確保し、育成していくことが重要になる。
しかし、福祉の仕事に対して、将来の自分の展望が持ちにくいと言われる待遇、そういった先入観が人材を遠ざけている状況があり、大きな課題となっている。
入所施設の機能に物理的な限界がある中で、地域で暮らし、家庭崩壊などに陥っている事例が非常に多くなっている。現在の短期入所事業において、こうした人たちの受け入れを行なっているが、人的、環境的に十分応えきれない現状がある。
自閉症療育の実績をもつ施設の短期入所に中・短期療育入所加算制度を導入し、強度行動障害加算事業的な事業とは別に、問題が複雑化する前の療育的な支援を可能にするような、小回りの効く体制を整えていく必要がある。
資料作成:福原 正将(あかりの家)
事例報告:福原 正将(あかりの家)