強度行動障害を示す人たちの施設処遇モデル案の作成

今年度の調査研究では、3回にわたる事例検討会から得られた知見を整理し、総合的な「強度行動障害を示す人たちの施設処遇モデル案」を作成してきた。このうち、強度行動障害を示す人たちの支援の展開過程をまとめたものについて図1に示す。

A.入所・通所・療育的ショートステイなどの支援形態の選択

強度行動障害を示す人たちへの支援について、どのような支援形態が望ましいのかは、各事例の個別的な要因に基づいて検討される必要がある。さらに、これまでの事例検討の結果からは、多くの事例に共通した要因として次のような点が指摘できる。

1.入所療育が必要とされる場合

在宅の形では、行動障害の改善や関係修復、再調整などの療育的支援の展開を図ることが困難な事例。この中には、下記のような状況が含まれている。

  • 家族などの支援者も巻き込んで行動障害が複雑化し、悪循環を生じている
  • 行動障害が家族病理と連動し、中長期の分離と治療(療育)的介入が必要な状態にある
  • 行動障害のため、基本的な生活リズムを維持できない状態にある。例えば、昼夜逆転などによって、日中活動などの資源の利用困難な事例があげられる

2.通所や療育的ショートステイで対応が可能な場合

上記1にあげた状況に陥っていないことの他に、次のような条件が指摘できる。

  1. 以前にショートステイや療育支援を受けたことによって、本人の障害特性の把握や援助者との関係形成ができている。または、地域の中で療育的な支援体制を組み立てることができている。
  2. 激しい行動障害のために、家族が本人に対して恐怖感を示すまでには至っていないなどから、家族などのworkability(サービスなどを積極的に利用できる力)が維持できている。
  3. 学校や作業所など、日中活動の中核として利用できる資源があり、休まずに通うことができている。
  4. ショートステイや療育場面における成果が、家庭や学校、作業所などの場面に般化できやすい事例で、これらの日常的な場面に介入する必要が少ない。具体的には、食事、睡眠などの生活動作のスキル習得や多動などの問題が中心で、本人の示す行動障害に対人関係の歪みが大きく絡んでいない。

◆療育的ショート(ミドル)ステイのニーズの高さとそれを事業化する必要性

上記のことから、問題が複雑化する前の療育的支援を柔軟に展開できるシステムが必要であり、かつ療育効果が期待できる。その場合、臨機応変に中・短期の入所療育の活用を図れる支援体制や評価システムの構築、専門的な療育技術を有する支援者の育成と確保、その取り組みのインセンティブを高めるための報酬の設定などの制度化が不可欠となる。

B.療育的支援の展開(別紙の図1を参照のこと)

1.利用決定/事業開始

終身収容を回避し、積極的な療育的活用を進めるためには、事業を実施する施設だけでなく、利用者本人、保護者、関係諸機関について、利用の目的や期間を明確にしておく作業が重要となる。

a.利用者本人

家庭や地域でもう一度暮らすことを目標に設定し、利用期間を明示することによって目標に向けた努力を現実的なものとする。また、施設入所を「捨てられ」体験と受け止めたり、家族に対する遺恨、人生への諦めの場にしてしまわないことが重要となる。

b.保護者

強度行動障害は一次的な障害そのものの問題ではなく、本人の特性を理解し、関係の再調整や親としての機能を回復することが重要であるとの理解を進める。また、その再調整や機能回復のための共同作業に引き入れることが必要である。

特に本人に対しては、入所前に親の立場から入所の必要性と目的を明確に示し、直面させていくことは親機能回復の第1歩である。

c.関係諸機関

障害そのものの改善だけでなく、本人と周囲の関係の再調整、保護者や支援機関などの本来的な機能の回復が重要であるとの理解を進める。さらに、利用者の生涯にわたる支援の主体は地域の関係機関であることを認識し、カンファレンスなどを通じて事業期間中の利用者への取り組み内容を共有し、事業終了後の支援計画やプログラムの作成や実施、家族支援などに積極的に生かしていくことを求める。

2.個別支援計画の作成/評価/修正

  1. 生育歴、治療・教育・相談歴の整理、行動観察などにより、行動障害の要因分析、個別支援計画の作成を行なう。
  2. 関係諸機関を含めた定期的なケースカンファレンスを実施し、障害特性の理解を進めるとともに、療育的課題や支援プログラムの修正を行なう。
  3. 支援プログラムは、概ね次のように組み立てられる
    初期:混乱や不安を治め、基本的な生活リズムの確立を図る
    中期:施設内での行動障害の抑制と、地域生活に向けた支援目標の設定
    後期:家庭や地域生活における関係修復。地域の日中活動の場の調整。

3.療育的支援の課題

(1) 不安・混乱などの鎮静と整理

シンプルな対人関係とわかりやすい構造化された環境の中で、今まで複雑化し、こじれた負の循環を整理していく。

(2) 生理的リズム/基本的な生活リズムの立て直し

行動障害と生理的リズムや生活リズムは高い相関関係にある。また、生理的リズムや身体機能に関わる自閉症独特の失行様状態への支援が必要である。

(3) 行動化の抑制、不適切なスキルの修正と適応行動やスキルの促進

未学習を学習できる方向へ整えていくため、多動や焦った動きをゆっくりする練習などを通して、他者の指示が聞ける関係作りが重要になる。そのことは、単なる愛着関係にとどまらず、社会性や信頼関係の形成につながっていく。

(4) 自己信頼、他者信頼の回復

(5) 現実認識、人格の構造化の支援

幼児的万能感や非現実的なプライドの解消。現実を回避したり、無視するのでなく、きちんと向き合うための必要な支援を行なう。さらに、この社会で生き続けるために必要な暗黙のエチケットやルールの学習を進める。

4.家族支援

家族の在宅復帰への意思確認だけでなく、内容理解や家族の力量を踏まえた支援プログラムでなければ、「関係修復」のために頑張るのでなく、「帰宅させる」ことを頑張ることになってしまうので注意すべきである。

(1) 週末帰宅の活用と毎回の評価

週末帰宅の機会を活用して、在宅生活の不適切なスタイルの改善を図る

(2) 家庭や地域生活への介入的支援の必要性

  • 行動障害が家族への暴力に至り、利用者への恐怖感をもたらしているか否かが、家族機能の回復や修正を大きく左右する
  • 本人の障害特徴の理解と支援方法の習得を支援する
  • 保護者と利用者本人の約束事を設定し、その取り組みへの評価と励ましを行ない、時には対決の機会を設定することで、保護者の親としての自信の回復を図る
  • 料理、洗濯、掃除などの家事を媒介にした親子のかかわりと評価を進めることで関係の修復を図り、親子双方の自信回復につながる(母が変われば必ず子どもも変わる)

(3) 家族への精神的な支援

  • 障害児を持ったこと、養育上の失敗感や虐待などの心理力動の理解と支援
  • 親の両価感情、防衛機制などの保護者心理の理解
  • 生育歴の聴取や面談を通して、家族の辿ってきた歴史を追体験し共感する中で、共同作業を行なうパートナーとして、支援プログラムの遂行を励ましていく

C.移行支援/アフターケア

(1) 家族や作業所、地域との関係の修復や調整

① 家庭などの生活の場への復帰

週末帰宅などを通して、今までの生活スタイルの修正や家族との関係調整を進める。必要な場合は家庭訪問による介入的支援を行ない、親としての機能の回復を図る。

② 作業所などの日中活動の場への移行支援

実習期間、付き添い指導とバトンタッチ、施設や家庭からの通所形態など、さまざまなステップを組み合わせた、本人および作業所が安心できるための実習プログラムを設定する。

③ その他

移行に向けた取り組みを本人に説明する。また移行先に対して、本人の障害特性の理解を促進するため、カンファレンスや実習を組み立てる。

(2) グループホーム・ケアホームへの移行支援

療育的な支援課題を終えても、家庭復帰が困難とか、もしくは家庭の存在しない場合、グループホームやケアホームへの移行が必要になる。しかし、行動障害が改善しても、基本的な障害自体が重度の人たちの生活支援が課題となるため、それなりの知識や力量を備えた支援者が必要とされる。また、療育的な課題を残したままに生活の場で支援を行なうことは、サービスの量的な増加だけでなく、生活支援の場としての組み立てさえも変質させてしまう恐れがある。

◆事業終了後の移行先の確保とインセンティブ

二次的な行動障害の改善は可能であるが、一次的な障害自体の改善は望みにくい。したがって、行動障害は改善しても基本的に重度の障害を有する人たちの支援を継続することになるため、支援者は高度な専門知識や関係調整能力を求められる。そのため、移行先は大きな負担を抱えることになるため、移行先の選定にあたっては、行政機関が責任を持って介入していく必要がある。さらに、受け皿としての移行先のインセンティブを高めるための施策が不可欠である。

◆本事業の利用期間の設定について

保護者や関係者などの地域移行へ向けた動機付けの維持のため、3年間を原則として期間を設定する意味は大きい。事例によっては期間の延長が必要となるが、その際には十分なアセスメントと課題の明確化が不可欠である。また、期間が長くなるほどに移行の困難になってくる要因が増加し、関係者が現状維持に流れてしまうことに留意しなければならない。期間延長の原因のひとつとして、利用者の行動障害よりも移行先との関係調整に関する要因のウエイトが高くなるため、移行先確保のための工夫が必要となる。

D.医療と療育(福祉)

  1. 生理的、生物学的視点から行動障害の要因を検討することも重要である。医学的・心理学的検査や薬物療法だけでなく、ケースカンファレンスなどを通じて精神医学的コンサルテーションの積極的な活用が望まれる。
  2. 療育的な支援や丁寧な観察に基づく服薬調整などの適切な医療の活用や連携が必要であり、パニックや行動障害の抑制のための隔離など、安易な利用の仕方は避けるべきである。

図1.強度行動障害を示す人たちの支援の展開過程(まとめ)は、こちらをクリックしてください

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