今年度の調査研究では、3回にわたる事例検討会から得られた知見を整理し、総合的な「強度行動障害を示す人たちの施設処遇モデル案」を作成してきた。このうち、強度行動障害を示す人たちの支援の展開過程をまとめたものについて図1に示す。
強度行動障害を示す人たちへの支援について、どのような支援形態が望ましいのかは、各事例の個別的な要因に基づいて検討される必要がある。さらに、これまでの事例検討の結果からは、多くの事例に共通した要因として次のような点が指摘できる。
在宅の形では、行動障害の改善や関係修復、再調整などの療育的支援の展開を図ることが困難な事例。この中には、下記のような状況が含まれている。
上記1にあげた状況に陥っていないことの他に、次のような条件が指摘できる。
上記のことから、問題が複雑化する前の療育的支援を柔軟に展開できるシステムが必要であり、かつ療育効果が期待できる。その場合、臨機応変に中・短期の入所療育の活用を図れる支援体制や評価システムの構築、専門的な療育技術を有する支援者の育成と確保、その取り組みのインセンティブを高めるための報酬の設定などの制度化が不可欠となる。
終身収容を回避し、積極的な療育的活用を進めるためには、事業を実施する施設だけでなく、利用者本人、保護者、関係諸機関について、利用の目的や期間を明確にしておく作業が重要となる。
家庭や地域でもう一度暮らすことを目標に設定し、利用期間を明示することによって目標に向けた努力を現実的なものとする。また、施設入所を「捨てられ」体験と受け止めたり、家族に対する遺恨、人生への諦めの場にしてしまわないことが重要となる。
強度行動障害は一次的な障害そのものの問題ではなく、本人の特性を理解し、関係の再調整や親としての機能を回復することが重要であるとの理解を進める。また、その再調整や機能回復のための共同作業に引き入れることが必要である。
特に本人に対しては、入所前に親の立場から入所の必要性と目的を明確に示し、直面させていくことは親機能回復の第1歩である。
障害そのものの改善だけでなく、本人と周囲の関係の再調整、保護者や支援機関などの本来的な機能の回復が重要であるとの理解を進める。さらに、利用者の生涯にわたる支援の主体は地域の関係機関であることを認識し、カンファレンスなどを通じて事業期間中の利用者への取り組み内容を共有し、事業終了後の支援計画やプログラムの作成や実施、家族支援などに積極的に生かしていくことを求める。
シンプルな対人関係とわかりやすい構造化された環境の中で、今まで複雑化し、こじれた負の循環を整理していく。
行動障害と生理的リズムや生活リズムは高い相関関係にある。また、生理的リズムや身体機能に関わる自閉症独特の失行様状態への支援が必要である。
未学習を学習できる方向へ整えていくため、多動や焦った動きをゆっくりする練習などを通して、他者の指示が聞ける関係作りが重要になる。そのことは、単なる愛着関係にとどまらず、社会性や信頼関係の形成につながっていく。
幼児的万能感や非現実的なプライドの解消。現実を回避したり、無視するのでなく、きちんと向き合うための必要な支援を行なう。さらに、この社会で生き続けるために必要な暗黙のエチケットやルールの学習を進める。
家族の在宅復帰への意思確認だけでなく、内容理解や家族の力量を踏まえた支援プログラムでなければ、「関係修復」のために頑張るのでなく、「帰宅させる」ことを頑張ることになってしまうので注意すべきである。
週末帰宅の機会を活用して、在宅生活の不適切なスタイルの改善を図る
週末帰宅などを通して、今までの生活スタイルの修正や家族との関係調整を進める。必要な場合は家庭訪問による介入的支援を行ない、親としての機能の回復を図る。
実習期間、付き添い指導とバトンタッチ、施設や家庭からの通所形態など、さまざまなステップを組み合わせた、本人および作業所が安心できるための実習プログラムを設定する。
移行に向けた取り組みを本人に説明する。また移行先に対して、本人の障害特性の理解を促進するため、カンファレンスや実習を組み立てる。
療育的な支援課題を終えても、家庭復帰が困難とか、もしくは家庭の存在しない場合、グループホームやケアホームへの移行が必要になる。しかし、行動障害が改善しても、基本的な障害自体が重度の人たちの生活支援が課題となるため、それなりの知識や力量を備えた支援者が必要とされる。また、療育的な課題を残したままに生活の場で支援を行なうことは、サービスの量的な増加だけでなく、生活支援の場としての組み立てさえも変質させてしまう恐れがある。
二次的な行動障害の改善は可能であるが、一次的な障害自体の改善は望みにくい。したがって、行動障害は改善しても基本的に重度の障害を有する人たちの支援を継続することになるため、支援者は高度な専門知識や関係調整能力を求められる。そのため、移行先は大きな負担を抱えることになるため、移行先の選定にあたっては、行政機関が責任を持って介入していく必要がある。さらに、受け皿としての移行先のインセンティブを高めるための施策が不可欠である。
保護者や関係者などの地域移行へ向けた動機付けの維持のため、3年間を原則として期間を設定する意味は大きい。事例によっては期間の延長が必要となるが、その際には十分なアセスメントと課題の明確化が不可欠である。また、期間が長くなるほどに移行の困難になってくる要因が増加し、関係者が現状維持に流れてしまうことに留意しなければならない。期間延長の原因のひとつとして、利用者の行動障害よりも移行先との関係調整に関する要因のウエイトが高くなるため、移行先確保のための工夫が必要となる。