障害者自立支援法が施行され、日本の障害者福祉に大きな転換期を迎えることになりました。「障害者や高齢者にかかわらず、あらゆる人が共に住み、共に生活できる社会を築く」というノーマライゼーションの実現のためには、障害のある人が経済的にも最低限の収入を得ることが必要と考えられます。
こうしたなか、全国社会就労センターでは、施設で働く利用者の工賃倍増を目指し、コンサルタント等のアドバイスを受けながら経営改善を行う「工賃水準ステップアップ事業」をスタートさせました。この事業は平成19 年度以降、「工賃倍増5か年計画支援事業」として都道府県単位で全国展開されています。
しかしながら、就労継続B型事業所等の施設においては、福祉的就労の意識が強く、工賃アップを図る経営感覚になじまないというのが、現実であります。一方、施設の現状を知るコンサルタントも少なく、その手法が確立されていないことも懸念されています。
このため、当協会において昨年度の基礎調査に引き続き「厚生労働省障害者自立支援調査研究プロジェクト」を受託し、事業所における「工賃水準向上マニュアル」を作成することになりました。マニュアルづくりにあたっては、企業経営の根源である経営基本、生産、販売、財務、労務、利用者、経営戦略という7つの視点に注目し、章立て構成を行っております。執筆にあたっては、事業所における工賃アップの取り組みの中で、実践すべき改善項目が解りやすく理解できるよう、図表を入れそれぞれのテーマ毎に見開きで読めるよう工夫いたしました。
就労支援における工賃アップという目標を達成するためには、事業所(施設)のトップの決断はもとより、そのビジョンをどのように具体化していくのかという点で、職員一人ひとりの意識改革、モチベーションの向上が待たれるところです。職員のスキルアップは同時に利用者のスキルアップにつながる可能性を秘めております。利用者の自立した日常生活や社会生活を確保するためにも、工賃アップへの取り組みの重要性が認識されます。従来から障害福祉の世界は外部から閉ざされた一面を感じさせますが、中小企業診断士等のコンサルタントの活用により、経営改革や新分野への取り組みに活路を見いだせる可能性を大きく感じるところであります。
最後に本事業の推進にご尽力をいただきました委員会委員の皆様、本プロジェクトにご協力をいただきました関係者の皆様に対し心より感謝申し上げます。
平成21 年3月
社団法人 中小企業診断協会
障害者自立支援調査研究プロジェクト委員会
委員長 大 塚 愼 二
平成18 年度、全国社会就労センター協議会(セルプ協)が実施した「工賃ステップアップ事業」により、就労継続支援B型事業所に対する経営コンサルタントの派遣による経営改善、作業改善がモデル事業として行われ、その成果が期待されています。
障害のある人が経済的にも自立した生活を送るためには、工賃水準の向上が急務であるにもかかわらず、就業支援施設に対するノウハウを持つコンサルタントは少なく、またその手法についても確立されたものがありません。平成19 年度より「工賃アップ5ヵ年計画」として都道府県単位で全国展開されることになり、コンサルタントの質・量の問題が懸念されるところです。
当協会は全国全ての都道府県に支部を持ち、また各支部に福祉部会を設けコンサルテーションを実施している実績を有していることから、そのノウハウを活用し、工賃水準向上のためのコンサルテーション手法を開発すると共に、全国の支部を通じ、本事業に参画するコンサルタントに対し広く普及を図ることで、全国で均質なコンサルテーションの実現に資するものと考えています。
施設における工賃水準の向上マニュアルを作成する上で、地域性や障害種別、作業内容が異なる施設自体の実態を知ることが必要です。このため、平成19 年度は施設の現状と課題を抽出することで、マニュアル作りの一助となる基礎的データ等の収集に関する調査を実施いたしました。
本年度は、マニュアルづくりのため、アンケート調査のデータを分析しながら、マニュアルを作成することといたしました。マニュアルづくりにおいては、まず始めに、一次原稿を執筆し、それに検証を加え、最終原稿を完成いたしました。また最終原稿をもとに、コンサルタント向けの講習会を開催し、内容の周知を図ることといたしました。
本事業では「就労継続支援B型事業所等に対する工賃水準向上のためのコンサルテーション手法開発事業マニュアルづくり」として以下の5事項を検討し、マニュアルの完成とその周知に努めました。
各検討・実施項目の概要は次のとおりです。
マニュアル作成における検討・実施項目
マニュアル構成の検討 | ワーキング委員会を通じ、昨年度の調査内容を分析し、工賃アップに役立つプロット構成を検討し、各検討項目に対しわかり易く読みやすい内容構成とした。 |
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一次マニュアル原稿の執筆 | マニュアル編については、経営基本、生産、販売、財務管理、労務管理、利用者、経営戦略の7 章立てとして、それぞれのプロットに図や表を挿入することでできるだけわかり易い文章での執筆を心掛けた。 |
一次原稿の検証作業 | 作成した一次原稿をもとに、関東地区のB型授産施設等におもむきマニュアルの有効性を検証し、施設の責任者等の意見を取り入れ、最終原稿のための改善データとした。 |
最終原稿の執筆 | 検証データをもとに、次の項目について加筆した。①全てのプロット項目を見開きにしてとりまとめる、② 図や表を必ず挿入する、③受注活動の項目を加える、等。 |
講習会の開催 | 工賃水準マニュアルについて、事業者(施設)及びコンサルタントに対して講習会を開催した。[ 開催地区: 福岡(大牟田)、神奈川、東京、千葉、北海道(札幌)] |
事業実施スケジュール
今年度事業を実施するに当たり、事業の方針等を決定するプロジェクト委員会、およびプロジェクト委員会の下にワーキング委員会を設置しました。実施体制及び主な執筆担当分野は次のとおりです。
所 属 | 委員名 | 役 職 名(主な執筆担当分野) |
委 員 長(ワーキング委員兼任) | 大塚 愼二 | (社)中小企業診断協会本部理事 中小企業診断士(第1編 プロジェクトの背景・第2編 販売) |
委 員 | 鈴木 清覚 | ゆたか福祉会参事全国社会就労センター協議会副会長 |
委 員 | 叶 義文 | 大牟田敬愛園施設長全国社会就労センター協議会調査・研究・研修委員会副委員長 |
委 員 (ワーキング委員兼任) | 江波戸 勝 | (社)中小企業診断協会 中小企業診断士(第2編 経営戦略) |
委 員 (ワーキング委員兼任) | 味田村 正行 | (社)中小企業診断協会 中小企業診断士(第2編 労務・利用者) |
委 員 (ワーキング委員兼任) |
谷 きよみ | (社)中小企業診断協会 中小企業診断士(第2編 販売) |
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委 員 (ワーキング委員兼任) |
草間 亨 | (社)中小企業診断協会 中小企業診断士(第2編 生産) |
委 員 (ワーキング委員兼任) |
藤村 典子 | (社)中小企業診断協会 中小企業診断士(第2編 経営基本・財務) |