a.人的資源が最大の戦力
昨年度実施したアンケートの結果、経営戦略を検討する上でその事業所の持つ経営資源の強みと弱みについては、以下のような現状にあることがわかりました。
経営上の強みとしては、職員の熱意(52.1%)をあげる事業所が一番多く全体の半数以上があげています。次いで事業所としての信用力(40.4%) 、地域とのネットワーク(32.7%) 、優れた商品力(25.4%)、職員の指導力(22.9%)となっています。
平均工賃額別に経営上の強みをみますと、5千円未満の事業所から1.5 万円未満の事業所まではほぼ全体的な傾向と同様ですが、1.5 万円以上の事業所から「利用者の能力の高さ」を強みとする割合が高くなっています。2万円台以上の事業所になると、「地域とのネットワーク」を強みとする割合が比較的低くなっており、3万円以上の事業所ではわずか1割強となっています。3万円以上の事業所では、「利用者の能力の高さ」を強みとする割合が4割を超え非常に高くなっています。
特に、職員の熱意や指導力を経営上の強みとしてあげている事業所が多いことは、福祉関連事業所においても人的資源が最大の戦力ということができます。
b.求められる作業能力を高めるノウハウの蓄積
経営上の弱みは、利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(38.3%)をあげる事業所が一番多く、次いで独自商品の不在(30.7%)、労働意欲の低い利用者(26.9%)、乏しい経営資金(23.0%)、老朽化した施設・設備(20.3%)と続いています。
平均工賃額別の経営上の弱みとしては、1.5 万円未満までの事業所はほぼ同様な弱みをあげていますが、5千円未満の事業所では「職員の指導力欠如」をあげる割合がやや高くなっており、5千円~1万円未満の事業所では「リーダーシップの欠如」を弱みとする割合が他のクラスと比較して高くなっています。1.5 万円~2万円未満の事業所では、「独自商品の不在」が一番多くなっており、「乏しい経営資金」を弱みとして挙げています。また、地域とのネットワークの乏しさも弱みとして挙げており、このクラスが経営面で試行錯誤している姿が浮かんできます。3万円以上の事業所では、「労働意欲の低い利用者」の割合が比較的高く能力や意欲について厳しい評価をしていることが窺えます。
これらは、いずれも今まで経営的な感覚を持って事業所運営をすることの必要性がなかったことによる弱みといえ、この改善には相当のエネルギーと時間を要するものといえます。
自由意見の中にも、工賃水準をアップさせるためには職員一人ひとりの意欲の向上や意識改革が必要だという認識はあるものの、その人材そのものを確保することの難しさを訴える意見が多くあげられていました。また、生産効率をあげるために設備投資の必要性を認識しつつも将来に対する不安や資金難から設備更新が行われないなどの意見が寄せられていました。
経営上の強みと弱み
強 み | 弱 み | ||
全 体 | ① 職員の熱意(52.1%)②事業所としての信用力(40.4%)③ 地域とのネットワーク(32.7%)④ 優れた商品力(25.4%)⑤職員の指導力(22.9%) | ① 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(38.3%)②独自商品の不在(30.7%)③ 労働意欲の低い利用者(26.9%)④ 乏しい経営資金(23.0%)⑤老朽化した施設・設備(20.3%) | |
平 均 工 賃 額 別 | 5 千円未満 | ① 職員の熱意(46.2%)②事業所としての信用力(36.5%)③ 地域とのネットワーク(36.5%)④ 優れた商品力(26.9%)⑤利用者の作業能力を高めるノウハウ(23.1%) | ① 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(34.6%)②労働意欲の低い利用者(28.8%)③ 独自商品の不在(28.8%)④ 乏しい経営資金(28.8%)⑤職員の指導力欠如(25.0%) |
5 千円~1 万円未満 | ① 職員の熱意(55.3%)②事業所としての信用力(37.1%)③ 地域とのネットワーク(36.5%)④ 優れた商品力(27.1%)⑤職員の指導力(25.9%) | ① 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(43.5%)②独自商品の不在(30.6%)③ 労働意欲の低い利用者(27.6%)④ 乏しい経営資金(23.5%)⑤リーダーシップの欠如(20.0%) | |
1 万円~1.5 万円未満 | ① 職員の熱意(54.8%)②事業所としての信用力(45.9%)③ 地域とのネットワーク(36.9%)④優れた商品力(25.5%)⑤ 職員の指導力(20.4%) | ① 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(42.0%)②労働意欲の低い利用者(30.6%)③ 独自商品の不在(28.7%)④老朽化した施設・設備(21.7%)⑤ 乏しい経営資金(19.7%) | |
1. 5万円~2 万円未満 | ① 職員の熱意(50.0%)②事業所としての信用力(45.7%)③ 地域とのネットワーク(37.1%)④優れた商品力(30.0%)⑤利用者の作業能力を高めるノウハウ(18.6%) ⑤ 作業能力の高い利用者(18.6%) | ① 独自商品の不在(42.9%)②利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(37.1%)③ 乏しい経営資金(27.1%)④老朽化した施設・設備(22.9%)⑤乏しい地域とのネットワーク(21.4%) | |
2 万円台 | ① 職員の熱意(56.1%)②事業所としての信用力(45.5%)③優れた商品力(27.3%)④利用者の作業能力を高めるノウハウ(24.2%) ⑤ 地域とのネットワーク(21.2%) | ① 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(36.4%)②独自商品の不在(31.8%)③老朽化した施設・設備(24.2%)④労働意欲の低い利用者(22.7%)⑤ 乏しい地域とのネットワーク(22.7%) | |
3 万円以上 | ① 職員の熱意(43.1%)② 作業能力の高い利用者(41.2%)③ 職員の指導力(33.3%)④事業所としての信用力(27.5%)⑤利用者の作業能力を高めるノウハウ(25.5%) | ① 労働意欲の低い利用者(29.4%)② 利用者の作業能力を高めるノウハウの不足(25.5%)③ 乏しい経営資金(25.5%)④老朽化した施設・設備(23.5%)⑤独自商品の不在(21.6%) |
経営戦略を検討する上でその事業所を取り巻く経営環境は重要なポイントとなることから、それぞれの事業所に経営環境のうち経営を進めるうえで良い機会として捉えられる要因と、逆に脅威として捉えられる要因を伺ったところ次のような結果でした。
a.ビジネスチャンスのキーワードは「健康」、「安全」、「エコ」
経営の機会として捉えられる要因は、公的支援の拡充(41.6%)をあげる事業所が一番多く、次いで支援・協力者の増加(38.0%)、障害者自立支援法の施行(32.5%)、健康・安全志向の進展(26.6%)、エコ・自然志向の進展(26.4%)となっています。
平均工賃額別では、5千円未満の事業所では「支援・協力者の増加」をあげる割合が高く、この傾向は2万円未満までの事業所で顕著になっています。「公的支援の拡充」は全体では一番多くなっていますが、5千円未満の事業所ではその割合は3 割弱で、2万円以上の事業所と比して約2分の1と少なくなっています。また、1.5 万円以上の事業所では「取扱商品関連需要の増加」が比較的多く挙げられています。
特に、健康や安全、自然志向の高まりは、福祉関連事業者が特に重点を置いて取り組んでいる活動目標に合致する面が多く、経営を進める上で良い機会として捉えていることが窺えます。
b.経営を脅かす「コスト上昇」
一方、経営にとって脅威として捉えられる要因としては、原材料費の高騰(52.3%)をあげる事業所が一番多く半数を越えています。次いで障害者自立支援法の施行(50.6%)、公的支援の削減(44.0%)、燃料費の高騰(38.8%)、取引先企業の倒産・撤退(24.9%)と続いています。
平均工賃額別では、1 万円未満の事業所では6割近くが「障害者自立支援法の施行」を挙げており、1万円以上の事業所では「原材料の高騰」を挙げる割合が5割を超えています。また、1.5 万円未満の事業所では、「取引先企業の倒産・撤退」が比較的多く挙げられています。
全般的に、昨今の諸物価値上げが福祉関係事業所を直撃していることが窺えます。また、障害者自立支援法の施行や公的支援の削減は経営的にみて機会と捉えている回答も少なからずあり、おかれている立場によって評価が異なる結果となっています。
自由意見の中には、障害者自立支援法の施行により事業所の運営が難しくなっているとの多くの意見が寄せられています。また、福祉の現場に市場原理を導入しようとする考え方に戸惑いを感じ、適応するための各種支援策を望む声も寄せられています。
外部環境における機会と脅威
機 会 | 脅 威 | ||
全 体 | ①公的支援の拡充(41.6%)②支援・協力者の増加(38.0%)③障害者自立支援法の施行(32.5%)④健康・安全志向の進展(26.6%)⑤エコ・自然志向の進展(26.4%) | ①原材料費の高騰(52.3%)②障害者自立支援法の施行(50.6%)③公的支援の削減(44.0%)④燃料費の高騰(38.8%)⑤取引先企業の倒産・撤退(24.9%) | |
平 均 工 賃 額 別 | 5 千円未満 | ①支援・協力者の増加(42.3%)②障害者自立支援法の施行(38.5%)③エコ・自然志向の進展(28.8%)④健康・安全志向の進展(28.8%)⑤公的支援の拡充(26.9%) | ①障害者自立支援法の施行(59.6%)②公的支援の削減(50.0%)③原材料費の高騰(40.4%)④燃料費の高騰(34.6%)⑤取引先企業の倒産・撤退(26.9%) |
5千円~1 万円未満 | ①支援・協力者の増加(38.8%)②公的支援の拡充(35.9%)③障害者自立支援法の施行(32.4%)④エコ・自然志向の進展(30.0%)⑤健康・安全志向の進展(26.5%) | ①障害者自立支援法の施行(59.4%)②原材料費の高騰(47.1%)③公的支援の削減(44.7%)④燃料費の高騰(33.5%)⑤取引先企業の倒産・撤退(21.2%) | |
1万円~1.5 万円未満 | ①公的支援の拡充(45.9%)②支援・協力者の増加(41.4%)③障害者自立支援法の施行(31.8%)④健康・安全志向の進展(31.8%)⑤エコ・自然志向の進展(22.3%) | ①原材料費の高騰(53.5%)②障害者自立支援法の施行(47.8%)③燃料費の高騰(43.9%)④公的支援の削減(40.1%)⑤取引先企業の倒産・撤退(26.8%) | |
1.5 万円~2 万円未満 | ①支援・協力者の増加(41.4%)②公的支援の拡充(40.0%)③取扱商品関連需要の増加(31.4%)④エコ・自然志向の進展(30.0%)⑤障害者自立支援法の施行(28.6%) | ①原材料費の高騰(57.1%)②障害者自立支援法の施行(48.6%)③公的支援の削減(47.1%)④燃料費の高騰(41.4%)⑤取扱商品関連需要の減少(22.9%)⑤支援・協力者の減少(22.9%) | |
2万円台 | ①公的支援の拡充(51.5%)②障害者自立支援法の施行(37.9%)③支援・協力者の増加(33.3%)④エコ・自然志向の進展(21.2%)⑤取扱商品関連需要の増加(21.2%) | ①原材料費の高騰(62.1%)②障害者自立支援法の施行(45.5%)③公的支援の削減(42.4%)④燃料費の高騰(42.4%)⑤取引先企業の倒産・撤退(31.8%) | |
3 万円以上 | ①公的支援の拡充(52.9%)②障害者自立支援法の施行(33.3%)③エコ・自然志向の進展(29.4%)④取扱商品関連需要の増加(29.4%)⑤支援・協力者の増加(27.5%) | ①原材料費の高騰(56.9%)②公的支援の削減(43.1%)③燃料費の高騰(39.2%)④障害者自立支援法の施行(37.3%)⑤取扱商品関連需要の減少(33.3%) |
a.期待が大きい新分野への進出
工賃水準をあげるための取組方針は、工賃アップが期待される新分野への進出(30.0%) が一番多くあげられており、次いで既存事業の拡大による工賃の確保(28.8%)、既存事業の作業効率アップによる工賃の確保(16.0%)と続いており、まだ方針は決まっていない
(12.8%)とする事業所も1割強見られました。
平均工賃額別では、5千円未満の事業所では「まだ方針が決まっていない」事業所が多くあり、その他の事業所では「工賃アップが期待される新分野への進出」が多くなっていますが、3万円以上の事業所では「既存事業の拡大による工賃の確保」、「既存事業の効率アップによる工賃の確保」といったすでに取り組んでいる事業をベースに工賃を確保する方針が考えられています。
自由意見の中には、工賃アップを考える前に事業所運営にあたる職員の増員が必要とする意見が多く見受けられました。また、利用者及びその家族が就労を望まない意識を変えていかなければ具体的には取り組めないという意見が多く寄せられていました。
また、多くの事業所が下請け状態で不等に低い工賃水準を強いられている状況では工賃水準をあげることはできないので、官公需の優先的発注をする仕組みづくりを期待する意見も寄せられています。
a.最大の課題は人材の確保・育成
工賃水準アップに向けて取り組む際の課題は、利用者の能力に差がある(43.6%)が一番多くあげられており、次いで有望分野の見極めが難しい(34.4%)、新分野における経営ノウハウが不足している(33.7%)、新分野に適した人材の確保が難しい(31.0%)、目標どおりの商品・サービスの開発が難しい(24.9%)と続いています。
平均工賃額別にみてみますと、5千円未満の事業所では、「利用者の能力に差がある」の割合が高くなっており、1.5 万円~2万円未満の事業所では「目標どおりの商品・サービスの開発が難しい」が高くなっています。3万円以上の事業所では、「必要資金の調達が難しい」が高くなっています。
福祉事業所として存在してきた事業所が経営体としての側面を持とうとする時に人材が大きな課題となっていることが窺えます。
自由意見の中には、職員そのものの確保ができないこと、職員を含めて関係者が経営的考え方や経営ノウハウを持っていないことで工賃水準アップへの取り組みが難しいとする意見が多く寄せられています。また、原材料の価格の上昇が工賃アップを妨げているという厳しい現状を訴える意見も寄せられています。
工賃アップへの取り組み方針と取り組む際の課題
工賃アップへの取り組み方針 | 工賃アップに取り組む際の課題 | ||
全 体 | ① 新分野への進出(30.0%)② 既存事業の拡大(28.8%)③ 既存事業の作業効率アップ(16.0%)④ まだ方針は決まっていない(12.8%⑤既存事業の関連分野への進出(8.3%) | ① 利用者の能力に差がある(43.6%)② 有望分野の見極めが難しい(34.4%)③ 新分野における経営ノウハウが不足している(33.7%)④ 新分野に適した人材の確保が難しい(31.0%)⑤ 目標どおりの商品・サービスの開発が難しい(24.9%) | |
平 均 工 賃 額 別 | 5千円未満 | ① まだ方針は決まっていない(26.9%)② 新分野への進出(25.0%)③ 既存事業の拡大(23.1%)④ 既存事業の作業効率アップ(17.3%)⑤ 既存事業の関連分野への進出(7.7%) | ① 利用者の能力に差がある(61.5%)② 新分野における経営ノウハウが不足している(40.4%)③ 有望分野の見極めが難しい(30.8%)④ 新分野に適した人材の確保が難しい(23.1%)⑤ 採算の見込みが立ち難い(19.2%) |
5千円~1万円未満 | ① 新分野への進出(31.2%)② 既存事業の拡大(27.1%)③ 既存事業の作業効率アップ(15.9%)④ まだ方針は決まっていない(15.9%)⑤既存事業の関連分野への進出(4.7%) | ① 利用者の能力に差がある(42.9%)② 新分野における経営ノウハウが不足している(38.2%)③ 有望分野の見極めが難しい(35.2%)④ 新分野に適した人材の確保が難しい(30.6%)⑤ 目標どおりの商品・サービスの開発が難しい(25.9%) | |
1万円~1. 5万円未満 | ① 既存事業の拡大(35.0%)② 新分野への進出(32.5%)③ 既存事業の作業効率アップ(11.5%)④ まだ方針は決まっていない(10.2%)⑤既存事業の関連分野への進出(8.9%) | ① 利用者の能力に差がある(45.9%)② 有望分野の見極めが難しい(36.3%)③ 新分野における経営ノウハウが不足している(35.0%)④ 新分野に適した人材の確保が難しい(35.0%)⑤ 目標どおりの商品・サービスの開発が難しい(23.9%) | |
1. 5万円~2万円未満 | ① 新分野への進出(34.3%)② 既存事業の拡大(27.1%)③ 既存事業の作業効率アップ(14.3%)④既存事業の関連分野への進出(12 9%)⑤ まだ方針は決まっていない(10.0%) | ① 目標どおりの商品・サービスの開発が難しい(40.0%)② 有望分野の見極めが難しい(35.7%)③ 利用者の能力に差がある(34.3%)④ 新分野における経営ノウハウが不足している(31.4%)⑤ 新分野に適した人材の確保が難しい(27.1%) | |
2万円台 | ① 新分野への進出(34.8%)② 既存事業の拡大(22.7%)③ 既存事業の作業効率アップ(18.2%)④ 既存事業の関連分野への進出(7.6%)⑤ 既存事業の経費節減(7.6%) | ① 利用者の能力に差がある(42.4%)② 新分野に適した人材の確保が難しい(40.9%)③ 有望分野の見極めが難しい(39.4%)④ 新分野における経営ノウハウが不足している(31.8%)⑤ 進出する市場に関する情報が不足している(30.3%) | |
3万円以上 | ① 既存事業の拡大(33.3%)② 既存事業の作業効率アップ(25.5%)③ 新分野への進出(19.6%)④ 既存事業の関連分野への進出(9.8%)⑤ 既存事業の経費節減(5.9%) | ① 利用者の能力に差がある(43.1%)② 必要資金の調達が難しい(31.4%)③ 新分野に適した人材の確保が難しい(27.5%)④ 採算の見込みが立ち難い(27.5%)⑤ 有望分野の見極めが難しい(23.5%) |
a.まずはベクトル合わせ
事業所が工賃アップへの取り組みを具体的に取り組む際は、経営者が工賃アップの必要性を認識するところから始まり、概ね図表7-4のような流れになります。
まず、経営者が認識した工賃アップの必要性を、事業所内の職員の中で理解し共有しなければなりません。つまり、事業所内のベクトルを同じ方向に向ける努力が求められます。これは、実施段階に入ったときに、その取り組みを円滑かつ効率的に推進するために最も重要なものと言えます。特に、事業所で働く職員の人たちは福祉の仕事に使命感を持って働いている人たちが多く、利用者の就労についての必要性に疑問を持っている人が存在します。このような人たちにも工賃アップの必要性を認識していただき、意識の共有化を図ることが工賃アップへの取り組みの第一歩と言えるでしょう。
次のステップは、利用者及び利用者の家族に工賃アップの必要性を周知させ、理解を得ることです。利用者が作業員として工賃アップに取り組むことになるのですから理解を得ることは当然ではありますが、工賃アップへの取り組みが規則正しい生活をそれまで以上に求められるなど、利用者の生活上に若干の制約が伴う事が想定されるため、後々のトラブルを防ぐ意味でも利用者及びその家族の方々の理解を得ることが必要となります。
周辺環境が整った段階で、具体的な取り組みの検討に入ることになりますが、事業所として組織的に推進するプロジェクトチーム(PT)を組織して取り組むことが必要です。PTのメンバーは管理者や生活指導、授産事業の責任者や工賃アップに興味を示している職員等で構成し多角的な視点からの検討が可能となるよう編成することがポイントです。
b.己を知る
工賃アップに向けた方策の検討の第一は事業所内部に関する検討で、事業所を経営的な視点で再評価することから始まります。一般的に経営戦略を策定するときには、現在の経営資源の強みを武器として競争条件の中でいかに優位性を確保するかということを検討しますが、ここでも事業所の経営資源の中で、いろいろな競争条件の中でも強みとなり得る能力(得意分野)を明らかにすることから始めます。
次に、事業所を取り巻く経営環境の評価ですが、市場のニーズがどのように変化しているか、特に取扱商品関連の需要がどのようになっているのかを分析、把握します。また、それらの市場ニーズに関連する業界の動向や地域内企業の業況などを把握し、事業所に対してどのような影響を及ぼしているのか、及ぼそうとしているのかを把握し評価します。特に、事業所が取引している企業の動向は直接的に事業所の業績に影響を及ぼすことになりますので十分な検討が必要です。
また、事業所の事業に関する法規制や公的支援の動向なども今後の事業所経営のあり方を検討する上で、事業所の将来にプラスに作用するケースとマイナスに作用するケースが考えられるので検討、評価する必要があります。
c.得意分野で工賃アップ
事業所の経営上の強みや経営環境の確認、評価ができた段階で、工賃アップに向けた具体的な事業領域や手法の検討に入ることになります。事業領域や手法の検討をするときに大切な視点は、事業所の強み、得意分野を無理することなく活かせる範囲、手法を設定することです。
工賃アップの手法としては、①新分野への進出 ②既存事業に関連する分野への進出
③既存事業の拡大 ④作業効率の向上 ⑤経費の節減 の5つの方法が考えられます。
事業領域、手法が決まれば、それを計画に基づいて実行することになります。実行した成果は定期的に確認作業を行い、工賃アップが図れるよう諸対策を実施することが必要です。
工賃アップへの取り組みを円滑かつ効果的に進めるために、外部専門家から専門的なアドバイスをいただきながら取り組むことも大切なことと言えます。
工賃アップに向けた取り組みフロー図
一般的に、企業の経営戦略を立案するときに用いられる手法として「SWOT分析」があります。
SWOT分析とは、事業所の内部環境(経営資源)である経営者(施設長)、職員及び作業をする利用者等の「人的資源」、事業所のある土地、建物および設備等の「物的資源」、元入金や積立金などの自己資金、公的機関からの補助金、事業資金として借り入れる借入金等の「資金的資源」、事業所として外部から経営に関する情報を収集、取得するための仕組みや内部で管理するための情報を生み出し活用する仕組み等の「情報資源」などと、事業所を取り巻く外部環境(経営環境)としての法的な規制や助成制度の動向、生産している商品やサービスに関する消費(需要)の動向、生産している商品やサービスに関する業界の動向や競合関係、生産に必要な原材料等の供給状況などがどのようになっているのかを分析し、事業所の内部環境の強み「Strength」と弱み「Weakness」を明らかにするとともに、外部環境の中で事業所にとって機会「Opportunity」として捉えられるものと脅威「Threat」として捉えられるものを明らかにして、それらをマトリックスの表に分類整理して、事業所としての今後の進むべき方向を導き出していく手法です。
また、SWOT分析の手順としては、2段階に分けて分析を進めることになります。
第1段階では、内部環境と外部環境について話し合った意見を下表のようにプラス要因とマイナス要因に分類整理します。
SWOT分析表(1)
プラス要因 | マイナス要因 | |
内部環境 | 強 み | 弱 み |
(経営資源) | (Strength) | (Weakness) |
外部環境 | 機 会 | 脅 威 |
(経営環境) | (Opportunity) | (Threat) |
次の段階では、内部環境の「強み」の中の各項目が、外部環境の「機会」の中の項目や「脅威」の項目と関係性がないかを検討し分類します。同じように内部環境の「弱み」の中の項目も外部環境の「機会」と「脅威」の項目との関係性を検討し分類します。
その際の視点としては、
① 事業所の「強み」を活用して市場の「機会」をビジネスチャンスとして活かす方策はないか。
② 事業所の「強み」で市場の「脅威」を回避する方策はないか。
③ 事業所の「弱み」のために市場での「機会」を逃さないための対応策はないか。
④ 事業所の「弱み」で市場での「脅威」が現実のものにならないための方策はないか。
で、それぞれ次表のように整理、分類します。
SWOT分析表(2)
内 部 環 境( 経 営 資 源 ) | |||
強 み | 弱 み | ||
外部環境( 経営環境) | 機 会 | 事業所の「強み」を活用して市場での「機会」をビジネスチャンスとして活かす方策はないか。 | 事業所の「 弱み」のために市場での「機会」 を逃さないための対応策はないか。 |
脅 威 | 事業所の「 強み」で市場での「 脅威」 を回避する方策はないか。 | 事業所の「 弱み」で市場での「 脅威」が現実のものにならないための方策はないか。 |
具体的な検討にあたっては、ひとつのセクションに偏った意見になることを避ける意味で、事業所内のいろいろな部門の職員を交えて意見を出し合い、間違いのないより確かなものになるように配慮する必要があります。
a.人的資源
事業所の人的資源は、経営者(施設長)、職員及び利用者(作業者)に分けられます。 その人的資源がどのような状況にあるのかを、工賃アップを図るために組織されたプロジェクトチームのメンバーで話し合います。
まず、「経営者(施設長)」についてですが、経営者として事業所のビジョンや将来的方向性を持っているか、それを実現するための取り組み方針を持ち、職員や利用者の家族に示しているかがなど、経営者としての基本的な考え方がどのようになっているかを話し合います。これは、事業所として経済活動を進める上で一丸となって取り組むことが出来るか否かのポイントと言えるからです。また、経営者として地域内の活動に積極的に参加し、地域内での人的ネットワークを形成しているかを検討します。これは、事業所としてこれから地域内で経済活動を進める上で容易に進められるか否かのポイントになるからです。
次に、「職員」についてですが、職員として物事に対して前向きに取り組む姿勢があるか、日常の業務改善について積極的に発言しているかなど、職員個々の人間性などを話し合います。これは、事業所の日常業務を遂行している職員が事業所全体の実質的な運営を担っており、その職員の積極性が事業所の強い戦力になるからです。また、その職員の過去の職業経験、趣味、特技や地域での人的ネットワークがどのようになっているのかをわかる範囲で話し合います。これは、職員の持つ能力、経験によりこれから新たに取り組める範囲が左右されるからです。
「利用者」は作業を担当する人的資源であり、一部に障害を抱えてはいるものの良いところを上手に引き出していくことにより、作業者としてその能力を発揮していくことも可能です。その意味で、利用者の家族共々、事業所の運営に協力的か否か、作業に取り組む姿勢に熱心さ、チャレンジ精神が感じられるかなどを検討します。
このように人的資源について話し合い、それぞれに出された意見を経営資源としての「強み」であるか、「弱み」であるかを分類、整理して人的側面での得意分野を明らかにします。
望ましい人的資源
例:人的資源の検討表(強みと弱み)
経 営 資 源 | 強 み | 弱 み | |
人的資源 | 経営者 | ・事業主としての経営感覚を持っている。・事業所を統率するリーダーシップを持っている。・地域での各種活動に積極的に参加している。・地域活動の中心的な役割を担っている。・地域内の多くの企業経営者との交流がある。・利用者家族からも信頼されている。 | ・経営的センスがない。・リーダーとして先頭に立ちたがらない。・地域での各種活動にはあまり参加していない。・利用者家族からあまり信頼されていない。 |
職 員 | ・職員のやる気は旺盛。・地域活動に積極的に参加していて知り合いが多い。・取引業者から信頼されている。・作業の合理化・効率化に積極的に取り組んでいる。・イラスト、デザインなどの特技を持っている職員がいる。・既存事業の関連分野に関する経営的知識を持っている職員がいる。・既存事業以外の事業を経験したことがある職員がいる。・新しい事業に関し積極的な提案がある。・既存事業以外の事業に関する特殊技術を持っている職員がいる。 | ・職員にやる気がない。・作業に関する知識がない。・利用者を指導する能力に欠ける。・工賃アップの必要性を理解しようとする気持ちがない。 | |
利用者( 作業者) | ・利用者、家族共々事業所の運営には協力的。・言われたことは素直に聞くことができる。・作業時間中は熱心に作業に取り組んでいる。・集中力を持続できる利用者が多い。 | ・無断欠勤する利用者が多い。・作業時間中に作業に集中できない利用者が多い。 |
a.物的資源
事業所の物的資源としては「土地」、「建物」、「設備」、「店舗」及び「商品」があります。
「土地」は、全体のスペースの広さ、立地条件や使い方の自由度などが着眼点として挙げられ、これから新しい事業に取り組む際の前提条件となります。したがって、現在の状況を把握して、そこでの新事業の展開が無理な場合は、資金的負担が発生しますが他の場所に用地を求めるなどの方策を講じるなどの必要性が出てきます。
「建物」は、現建物の物理的な利用スペース、建物付属設備の状況や建物の管理状況などを確認して、事業展開に必要な使い方の自由度がどの程度あるかによって「強み」、「弱み」を判断します。場合によっては、建物の新設や改築などにより「弱み」を補うような対策が求められることになります。
「設備」は、製造加工の現場で使用する設備の持つ性能、稼働状況や老朽化の状況などで事業展開の自由度がどの程度あるかによって「強み」、「弱み」を判断します。現有設備のままで新しい取り組みに対応できれば望ましいのですが、新しい事業によっては設備の新設、更新などの対策を講じた上で取り組む必要が出てくる場合が発生します。現有設備で対応不可能で、設備の新設、更新もできない場合は、その事業への取り組みは不可能ということになります。
「店舗」は、商品を販売する施設で、顧客の近くで製造現場からもあまり離れていないところに設置されていることが望ましい状態と言えます。また、顧客を迎え入れるスペースであり、顧客と商品の出会いの場でもあるのですから、快適な環境が整っていることが求められます。そのような観点から「強み」、「弱み」を判断していきます。店舗の場合は、取り扱う商品の性格があまり変わらなければその商品を陳列するためのスペースさえ確保できれば新しい事業への対応は可能となりますが、まったく性格の異なるものを取り扱うような場合は増築や店内改装などの対応が必要になります。
「商品」は、お客様に使っていただいたり食べていただくもので、お客様の評価でその商品としての価値が決まります。したがって、商品の価格が製造するのにかかったコストに適正な利益を加えたもので設定しても十分に価格競争力が備わっているものとなるような配慮が必要となります。 そのようなことから、デザイン性や使用する原材料等でこだわりを持った商品を作り上げることが望まれます。
このように物的資源について話し合い、それぞれに出された意見を経営資源としての「強み」であるか、「弱み」であるかを分類、整理して物的側面での優位性を明らかにします。
例:物的資源の検討表(強みと弱み)
経 営 資 源 | 強 み | 弱 み | |
物的資源 | 土 地( 立地) | ・広々していてまだ未利用地も多い。・市街地に近くお客が来やすい立地にある。・主要道路に面しており交通は便利な所にある。・周辺の敷地は空き地が多く、土地の利用に関して苦情が来ることはない。・敷地内は法的に何でも建てられるようになっている。 | ・狭くて拡張の余地はない。・郊外地にあり交通が不便なところにある。・主要道路からは離れていて目立ちにくい所にある。・周辺に住宅が密集しており、騒音等で苦情が寄せられることが多い。・敷地内は建築制限があって新たな建物は建てられない。 |
建 物 | ・建物は広くまだ使っていないスペースがある。・比較的新しい建物で、快適な環境が確保されている。・道路から物品の搬出入がしやすい建物になっている。・平屋建てで人やモノの移動がしやすい。・建物にエレベーターが付いており上階に移動しやすくなっている。 | ・建物は狭く新しいものを入れるスペースはない。・建物は老朽化しており、作業をする環境としては劣悪すぎる。・商品の搬出搬入がやりにくい建物構造になっている。・建物全体がせまく、人やモノの移動に支障が生じている。・建物にはエレベーターが付いていないので、上階に行くのに不便。 | |
設 備 | ・設備は比較的新しく性能もよい。・設備の稼働状況にまだ余裕がある。・余っている設備があり新しい作業が入っても受け入れられる。・各種の設備が整っており、どのような要望にも応じられる。 | ・設備は老朽化しており良く故障する。・設備はフル稼働状態で追加で生産する余裕はない。・設備は現在の作業をするもののみに対応するもので、他の作業には応じられない。 | |
店 舗 | ・外観はユニークでよく目立ち存在感ある店舗になっている。・店内はゆったりとしており、お客様がくつろげるスペースがある。・陳列台等は新しく陳列する商品とマッチしている。・陳列スペースはゆったりとしており、他の商品を陳列するスペースは確保できる。・空調設備も整っており、快適なスペースとなっている。・店舗は地域の人たちの交流の場所になっている。 | ・店舗は他の施設の一部に設置してあるのみで、店舗らしさがない。・外観は古さが目立ちみ店舗としての訴求力は弱い。。・店内は狭くゆっくりできるスペースはない。・専用の陳列台はなく、商品を台の上に並べて置いてあるのみ。 | |
商 品 | ・品質重視の商品で顧客からの評価が高い。・安さにこだわっており、お客様の評判も良い。・デザインセンスの良い商品で表彰されたことがある。・商品の魅力で遠くから注文がくる。・オンリーワンの商品でまねされることはない。 | ・どこにでもある商品であまり魅力がない。・他店の商品と比較して価格が高い。・品質は良いが価格競争で負けている。・品質にムラがあり、あまり評価されていない。・商品として存在感がない商品であまり売れていない。 |
a.資金的資源
資金的資源としては、「自己資金」、「補助金」及び「借入金」があります。
「自己資金」は、字の示すように事業所内部の資金で、出資金、営業利益で生み出された積立金や出資者からの出資金があります。これらは、多ければ多いほど経営上の「強み」となり、事業展開に欠かせないものです。新規の事業に取り組む場合は、その多少により取り組む事業の規模が決まってきます。あまり大きな投資をして既存事業に悪影響を及ぼし、事業所の存在すら危ぶむことになっては困ります。
「補助金」は、事業の継続にあたって受けられる公的な補助制度に基づく補助金や新規事業を行う時に受けられる補助金などがこれにあたります。補助金は、その時々で制度が変更されたり廃止されたりしますので、その都度、公的制度について情報を収集することが大切です。
「借入金」は、すでに借り入れしているものとこれから事業を行う上で借り入れ可能な借入枠がどの程度あるのか、必要な時に必要なだけの借入が可能かなど、日頃の金融機関との取引関係が大きく作用します。したがって、金融機関との関係が経営上の「強み」、「弱み」となってきます。
これらの検討を行い、資金的資源の側面から優位性を明らかにします。
例:資金的資源の検討表(強みと弱み)
経 営 資 源 | 強 み | 弱 み | |
資金的資源 | 自己資金 | ・事業資金としての積立金は常日頃から行っている。・新規の事業資金は準備してある。・現在の事業で収益が上がっており資金的な余裕がある。・新規事業に出資する用意がある。 | ・現在の事業で損失が発生しており、資金的には苦しい状況にある。・自己資金は目減りしており、新規の事業に取り組む資金的余裕がない。・新しい出資者はいない。 |
補助金 | ・公的な補助金は受けられる状態にある。・補助金は現在も受けており、今後も継続して受けられる。 | ・補助金は減額されており、今後増加される見込みはない。・補助金は受けられない。 | |
借入金 | ・事業資金としての借入枠にまだ余裕がある。・新規の融資に応じてくれる金融機関がある。・公的な融資制度があり、申し込めば借りられる状態にある。 | ・借入金は限度いっぱい借り入れており、新規の借り入れはできない。・以前、返済の猶予をお願いしており、今後の新規借り入れには応じてくれない。 ・公的な融資制度で利用できる制度がない。 |
b.情報資源
情報資源としては、「外部情報の収集、活用」と「内部情報の収集、活用」があります。
「外部情報の収集、活用」は、需要動向や競合関係などの経営環境に関するに情報の収集とその活用の仕組みがあるか、また、その活用状況はどの程度かによって「強み」と「弱み」に分けられます。事業所が経営活動を行う上で、売れる商品づくりや顧客に喜んでいただける商品やサービスの提供を可能にするためには、地域社会の消費者の志向や需要の動向などを踏まえた上で行うことが必要であり、競合する企業の存在やその企業の動向などによって具体的な事業展開の方法が変わってきます。そのような配慮がなされているか否かが企業の「強み」にもなり「弱み」にもなるのです。
「内部情報の収集、活用」は、事業所内部における生産活動や販売活動に伴う各種数値の収集とその活用がどの程度なされているかで、「強み」と「弱み」に分けられます。内部情報は特に生産効率を高めたり、販売効率を高める方策を検討するときに役立つもので、結果として収益性が向上し、工賃アップを図ることが可能となります。したがって、内部情報の収集がなされているか、その活用が十分になされているかを検討して、「強み」と「弱み」に分類します。
これらの検討を行い、情報資源の側面から優位性を明らかにします。
例:情報資源の検討表(強みと弱み)
経 営 資 源 | 強 み | 弱 み | |
情報資源 | 外部情報の収集と活用 | ・取扱商品の需要動向を定期的に把握する仕組みは整っている。・地域内の企業情報は的確に把握し取引に生かしている。・収集した外部情報をみんなが共有している。・部門ごとの需要動向を分析して経営活動に生かしている。・取引先との情報交換を定期的に実施し経営活動に生かしている。・経営活動に必要な情報を定期的に提供してくれるアドバイザー、協力者がいる。・市場調査を実施して地域のニーズをとらえる努力をしている。・取引先からの苦情には素早く対応しており、業務改善に生かしている。 | ・外部情報の把握は必要性がないと思い何もしていない。・地域内企業の動きは他所のことで当事業所には関係ないと思っている。・外部情報を収集しても活用の仕方がわからないので収集していない。・収集した情報は収集したままになっている。・取引先から苦情が寄せられても何も対応していない。 |
内部情報の収集と活用 | ・販売、生産等に関する計画と実績の数値を収集、把握する仕組みはできている。・収集した情報をみんなが共有している。・どの部門がどれだけ収益を上げているか知っている。・情報の共有化、有効活用を目指した会議、研修会を定期的に開催している。・内部での報告、連絡、相談がスムーズに行われており、情報の伝達、共有化が素早く行われている。 | ・部門間の会議は行われておらず、他部門のことは何もわからない。・販売や生産活動のデータは取っているもののその場限りの情報になっている。・計画的な生産、販売は相手により左右されることが多いので必要性をあまり感じていない。 |
a.外部環境における「機会」と「脅威」
事業所が置かれている外部環境は、主に「市場の動向」、「競合関係」と「支援者・協力者」の側面があります。
「市場の動向」としては、消費者の一般的志向や取扱商品などの需要の動向などがあり、その動向によって事業所の今後の経営基盤が盤石なものか、あるいは脆弱で経営を継続するために方針の転換が必要になってくるのかの判断が求められます。事業所の行っている事業に関連する需要が増加傾向にあり、また事業所の得意分野に関する需要が増加傾向であれば「機会」として捉える事が出来、積極的に事業を推進していくことが可能となります。
「競合関係」としては、地域内における企業の動向や同じ事業を行っている他の企業の動向などで、それらの企業活動を制限する法制面の動向も含めて検討することになります。当事業所が行っている事業が地域内で行っている唯一の事業所で、新規の参入もないような状態であれば特に問題はありませんが、将来有望な分野へは新規参入は当然起こりうることです。そのような観点から地域内の企業の動向を探り、現在の状況の中で、何が「機会」として捉えられるのか、何が「脅威」として捉えられるのかを検討します。
「支援者・協力者」としては、事業所の基本方針や日頃の活動に理解を示し、事業所の事業運営をバックアップしてくれる貴重な存在で、その人たちの支援の状況が時には事業展開の「機会」となる場合があります。また、支援者・協力者の動きによっては「脅威」となることもありうることです。このように当事業所の活動状況が支援者・協力者の方々の賛同が得られているのかどうかを見極めていくことも大切です。
b.事業所の地域での存在価値の確認
事業を拡大し工賃の向上を目指そうとするとき、事業所が所属する地域において果たしている役割は何かを改めて見直し、その役割をより強いもの、大きなものにしていく姿勢が必要です。
特に、障害者を雇用して働く場を提供しているということを超え、経済社会の一員としての自覚を持ちながら、地域の生産活動の一翼を担っていること、また、その中において当事業所が生産活動を進める事業所として必要不可欠な存在になれればベストです。
また、地域内の企業の中には、新規取引先となる企業、競合先となる企業などが存在します。
そのようなことから、当事業所が地域においてどのような役割を担い地域貢献しているのか、今後、どのような貢献が期待されているのかを、今まで関わりのある関係機関、取引先、支援者等との話し合いの結果を踏まえて検討し、地域における当事業所の位置付けを再確認することが求められます。
地域における事業所の位置付け
例:外部環境の検討表(機会と脅威)
外部環境 | 機 会 | 脅 威 |
需要動向 | ・生産している商品の需要が増加傾向にある。・生産している商品の原料価格が低下している。・取り扱っている商品が消費者の健康志向にマッチしている。・取り扱っている商品が消費者の低価格志向にマッチしている。・世の中の健康、安全志向が事業所の目指す方向と同じ方向にある。・消費者のニーズが自然志向、本物志向になっており事業所の目指す方向と一致している。・地域内に新しい事業所ができて、取引の可能性がでてきた。 | ・生産している商品の需要が減少傾向にあり売り上げの減少が予測される。・生産している商品の原料価格が高騰してコスト競争力が低下している。・消費者のニーズが自然志向、本物志向になっているが、事業所として対応しきれない状況にある。 |
競合関係 | ・当事業所の行う業務は地域内で高く評価されている。・当事業所の行う業務と同じ業務をする会社は地域内には存在しない。・新しく取引を希望する会社が現れている。・当事業所が行う業務に関する規制が強化され、新規参入は難しくなった。 | ・地域内の他の会社が当事業所と同じ業務を始めた。・他の会社が当事業所の取引先と同じ業務の取引を開始した。・当事業所の取引先が倒産してしまった。・当事業所が行う業務に関する規制が緩和され、新規参入が予測される。 |
支援者・協力者 | ・支援者が自主的にサポーターズクラブを組織してくれている。・積極的にセールス活動をしてくれる支援者がいる。・新しい事業に関し積極的に提案してくれる支援者がいる。・新しい事業に関する経営ノウハウを提供してくれる支援者がいる。・新事業に関する技術指導をしてくれる支援者がいる。 | ・支援者・協力者が年々少なくなっている。・支援者で組織しているサポーターズクラブが解散してしまい、安定した売り上げが期待できなくなった。・支援者の気持ちが段々事業所から離れていっている。・事業所の考えと支援者の考えが一致せず意見の対立がある。 |
a.強みを活かせる事業領域の設定
地域社会において事業所が置かれている現状と地域環境の変化がどのような状況にあるかが確認できたら、今後の事業所の存在価値を少しでも高めていくための事業領域の検討に入ります。
検討にあたっては、事業所としての「強み」や「弱み」、経営環境の変化を前提条件として、これからどの分野に事業展開していくのかを検討します。
その際、大きくは「事業所としての基本理念」や「ビジョン」を踏まえた形で事業展開していくことを基本的方向として検討することが、関係者が一丸となって取り組める事業領域を設定することにつながります。
具体的な事業領域の設定は、①誰に ②何を ③どのようにして 提供していくのかを決めることになります。
事業所の現況を踏まえて事業領域を設定するときの大切な視点は、事業所の「強み」を活かせる事業領域を設定することといえます。いわゆる得意分野を活用して地域への貢献の幅や深みを増していく方法で、前述の事業所の「強み」を活用して市場の「機会」をビジネスチャンスとすることです。
例:SWOT分析による経営戦略の検討
内 部 環 境 | |||
強 み | 弱 み | ||
外 部 環 境 | 機 会 | ・新分野に関する経営ノウハウを持った協力者が現れたので、新分野に進出することとし、事業所の設備を一新する。・健康志向の高まりで需要が見込めるので、事業所の未利用地を活用して現在生産している自然食品の加工施設を拡充し、増産体制を整える。・新しい企業が進出してきたので事業所の良いところをアピールして新規顧客に結びつける。 : | ・店舗が古く顧客吸引力が弱かったが、支援者が積極的にお客様を紹介してくれて売り上げの増加が期待できるようになったので、店舗を新築して対応する。・安全志向が高まってきたので、今まで以上に衛生管理に注意して事故防止に努め、信頼性を確保する。・自社の製品に対する需要が高まってきたので、生産現場を見直し、生産量の拡大を図る。 : |
脅 威 | ・サポーターズクラブが解散してしまい、安定していた売上が期待できなくなったので、自慢の商品を地域住民向けに積極的に販売して売り上げを確保する。・競合が激しくなってきたので、スタッフの企画力を生かして新しい商品を開発するなど新分野への進出を図る。・既存商品の需要が落ち込んできたので、対象とする顧客層のニーズを見直し商品の改良に取り組む。 : | ・競合が激しくなってきており、売上増が期待できなくなったので、経費節減に努め必要利益を確保する。・既存商品の需要が減ってきたので、営業部門を強化し、新規顧客を開拓して売り上げ減少を防ぐ。・取引先の増加が期待できないため、作業所内の整理整頓を徹底させて、作業効率を高め必要利益を確保する。 : |
b.事業領域の基本的な考え方
一般的に、事業領域を検討する際に活用する考え方として、アンゾフの「成長ベクトル」による方法があります。 それは、対象とするマーケット(市場)と提供する商品・サービス(製品)の双方を既存分野と新規分野に分け、それぞれの組み合わせによって次表の4分類にしたものです。 なお、カッコ書き部分は本報告書における工賃アップに向けた具体的取り組みとして掲げている5つの方策の一部を当てはめたものです。
アンゾフの成長ベクトル
製 品 | |||
既 存 | 新 規 | ||
市 場 | 既 存 | 市場浸透( 既存事業の拡大) | 製品開発( 関連分野進出) |
新 規 | 市場開拓( 関連分野進出) | 多角化( 新分野進出) |
これらにより事業領域を決定しますが、具体的に方策を進めるうえでは、それぞれにリスクが伴います。
特に、「多角化」はいままでの事業の延長線上にはない事業展開ですので、進出する分野に関する情報と経営ノウハウが蓄積されており、経営面における支援者が現れない限り失敗する恐れがありますので、慎重な取り組みが望まれます。
「市場開拓」、「製品開発」は既存事業の展開がベースになっていますが、関連する市場、新製品の開発等への事業展開として新たな担当者を配置することが必要になり、その分野におけるノウハウが求められます。
「市場浸透」は既存事業の拡大ですが、競合する同業者の動向、市場そのものの需要動向などを見極めて、重点分野を定めて事業展開することが望まれます。
そのほかに、工賃を向上させる方策としては、事業領域は同一で変わりませんが、作業効率を高めて結果的に工賃を向上させる方法と、経費節減によって工賃を確保する方法があります。
それぞれの事業展開に向けた留意点は次項に詳しく述べたいと思います。
a.必要な顧客満足の考え方
現在の事業のやり方では思うような利益がでない、やっただけの達成感を味わうことのできる工賃を出したい、そう思っていても、どうやってそれを実現していいかわからないというのが実際の悩みです。
利益を上げられないのは、現在の商品やサービスの売上が上がっていない、もしくは売上があっても利益を出すことができないからです。売上が上がらないのはそもそも現在の商品やサービスを利用する顧客がいない、つまり顧客から受け入れられていないことが考えられます。
よくあるのは、自分たちが作りたいもの、やりたいことだけで考えて商品やサービスを提供しているケースです。作っても作っても売れ残りの山が積みあがるばかりで少しも利益を出せないばかりか、やればやるほど損する状況に陥ります。また、以前にはよく売れたのに、最近になって売上が落ちてきたという場合もあります。いずれにしても、その原因は顧客からの支持が得られていないからなのです。これを「プロダクト・アウト」といいます。作るだけ作ってあとは売れるのを待つだけという状況です。
事業をするからには「マーケットイン」の考え方、つまり顧客の欲しいと思う商品やサービスを提供することが必要です。さらには顧客がその商品を購入したり、サービスを利用することによって満足を得るような「顧客満足」の考え方を中心に据えて提供する商品やサービスを決めなくてはなりません。
既にモノあまりの成熟社会になって久しく、顧客の商品やサービスに対する選別の目は厳しくなるばかりです。安くていいのは当たり前、その上でどんなメリットを顧客に提供できるかが勝負です。最近では機能を強化した商品がヒットしています。脂肪燃焼効果を高める下着、周囲の騒音をシャットアウトするヘッドフォンなど、日頃の顧客の不満を商品やサービスで解消することが「顧客満足」に繋がります。探せばまだまだ新しい分野への進出の種はあるはずです。
事業を継続するには、「顧客満足」を獲得し、それにより事業継続に必要な「適正利益」を生み出していくことが一番大切なことなのです。
つまり、なぜ新分野への進出が必要かといえば、既に顧客から見放されてしまった商品やサービスから、顧客が求めている商品やサービスを提供する方向に転換していくためだからです。
b.新分野進出の基本的方向
新分野進出(多角化)を選択する場面としては、既に市場が飽和状態でその製品やサービスの代わりになるものがたくさん世に出現し、市場自体が縮小してきている状況の中で事業所を継続していく必要性が生じていたり、更なる発展を目指して積極的に打って出るなどの必要性が生じた場合などです。失敗する危険性は高いのですが、現状のままでも事業の継続が難しくなってきているのですから、新分野に進出する前に充分に調査、準備を行い、できる限りリスクを減らすようにし、思い切って進出することが必要です。
新分野進出の方向として考えられるのは、現在の商品の市場分野とほとんど関連性がないけれども、今後高い成長性が見込まれる分野に進出して新規事業を展開する例です。経験のない事業での事業展開なのでリスクは大きいのですが、急速に市場が成長して供給が需要に追いつかない状況であれば、ノウハウを蓄積しながら事業展開する道があります。
現在の商品やサービスと顧客(市場)の二つの軸の関係と市場の成長度合いから新分野進出の方向性を検討し、実際にその市場でその商品やサービスを利用する顧客がどれだけ存在し、それにより必要とする利益が得られるのかを検証しなければいけません。その市場自体が有効であり、そしてそれが事業所にとって進出するに値するかどうかを評価します。
国の財政状況が逼迫する中、公共事業が減って市場が縮小し、売上が激減した建設業者が自社の従業員にホームヘルパーの資格を取得させて、介護事業に参入した例などがあります。
こうした未経験の分野への参入には、参入する市場のノウハウを持つ事業者との提携などにより、経験不足を補うというような方法をとる場合もあります。
a.確実に利益の期待できる市場で事業を考える
新分野進出を検討するとき、その市場の規模が数字で把握できて利益が上げられる規模なのか、市場の購買力を数字で把握することが重要です。
その製品やサービスを購入(利用)する顧客の数、その購入(利用)費用、その購入(利用)頻度を把握し、一定期間に可能となる売上額を把握することが必要です。
この数字は人口統計(総務省)や家計調査(総務省統計)などを参考にして算出することになります。また、統計データなどで資料がみつからなければ、独自にアンケート調査を実施して売上予測をします。そして、そこから必要な利益が上げられる規模であることが必要です。また、今後その市場が成長していく可能性があるのかも問題になります。
そのときには、どの地域までが顧客の範囲となるのかを見極めることも重要です。その地域の人口が減少傾向にある場合は市場の成長が期待できるとは考え難いでしょう。また、店舗の場合に店舗の周囲どれぐらいの距離を商圏と考えるかです。
また、対象とする市場の顧客に対して宣伝活動や販売活動が可能なのか。
たとえば、働く女性を対象にした商品を販売するときに、店舗を6時に閉店してしまっては、顧客に買物の機会を提供することができません。店舗の立地が駅から離れた住宅街にあっては来てくれる可能性は少ないでしょう。営業時間を延長できるのか、また、インターネット販売で24時間受付可能にし、店舗立地に左右されない販売方法をとるなどの工夫が必要になります。また、その商品がインターネット販売に適しているのか、インターネット販売をするノウハウがあるのかも問題になります。
b.新製品開発のステップ
ここまで、新分野への進出が必要な理由やその方向性に選び方について説明してきましたが、次に、新製品の開発を進める流れについて説明します。
① 新製品のアイデア出し
既に説明した商品と市場の関係から方向性を選び出し、その選んだ中からアイデアを出していきます。アイデアの源泉となるのは顧客の要望・苦情、取引先の情報、業界紙や競争企業の製品などの情報などが考えられます。違う業界からヒントを得るという場合もあります。業界内では常識でも、別の業界では非常識というケースも少なからずありますから、業界の常識を打ち破る新製品を開発するためにも別の業界を参考にするのは効果的です。
② アイデアをふるいにかける 組織の目的や対象市場に照らして、アイデアをふるいにかけます。ふるいにかけるのは新製品の開発には多額の費用がかかりますので、アイデアを選別して不必要なコストを節約する目的があります。ここでよいアイデアが不採用にならないように注意が必要です。また、コストを全く意識せずに現実離れしたアイデアを採用することは最も危険です。
③ アイデアの事業性を評価する
ここでは製品の特徴を明確にすることが重要です。他社製品との差別化やポジショニングなどをはっきりさせておきます。また、利益を生み出す可能性の評価が重要です。顧客の購入頻度や購入単価等による売上予測および総費用や費用を支払った上で利益が残るかなどを試算します。
④ 試作品を製造する
具体的な試作品が作れたら、サポーターズクラブのメンバーや支援者等の協力を得て反応を調査します。この段階では顧客に支持される製品を作るために技術者と販売者との協働作業で行います。
⑤ 調査結果を踏まえた市場投入 調査結果に基づき、価格や販売方法を決めて、商品を本格的に市場に投入するとともにセールスプロモーションを行う。
なお、可能であれば、価格や販売方法などを複数採用して試験的に限定販売してみて、その結果のデータを収集し、その結果から最適と考えられる価格、販売方法、販売対象などを決定することも考慮してください。
c.新分野進出を実行するための経営資源のチェックポイント
新分野進出に際しては、対象市場で対象商品やサービスを提供するための技術や人材、設備などの経営資源が備わっているかも問題です。もしなければ、設備を整えたり、人材を教育したり、ノウハウを持つ人材を雇用したりする資金が必要になります。
ここで、新分野進出のための経営資源のチェックポイントを次にあげておきます。これらのチェック項目がクリアできれば新分野への進出はスタートとなります。
新分野進出のための経営資源のチェックポイント
経営資源 | チ ェ ッ ク ポ イ ン ト |
人 材 | ・職員に余裕はありますか。・既存分野の合理化で対応できますか。・新分野に関する技術を持った職員はいますか。・技術を持った人材を採用できますか。・新分野進出のためのチームは組めますか。 |
設 備 | ・既存設備が活用できますか。・新規設備は導入できますか。・作業スペースは十分確保できますか。 |
資 金 | ・開発資金は十分ですか。・設備導入資金はありますか。・増加運転資金の備えはありますか。 |
販売体制 | ・販売チャネルは確立できますか。・販売提携先は確保されていますか。・販売ツールの検討はしていますか。・営業に適した人材はいますか。 |
仕 入 | ・必要な材料・部品の仕入れルートは明確ですか。・安定的に供給を受けられますか。 |
規 制 | ・法的規制や許認可の必要はないですか。・申請手続きは済んでいますか。 |
管 理 | ・現在の管理体制は十分ですか。・新分野に適した管理者はいますか。・新分野の管理体制は確立できますか。 |
a.大切な既存顧客のニーズの把握
ここでは既存の市場に新製品・サービスを投入し工賃を確保する方法について説明します。
シーツのクリーニング作業をホテルや病院から請け負っている事業所が洗濯物の引き取り・納品に伺っている現場で、単に引き取り・納品だけでなく、納品するシーツを使うベッドメーキング作業などの軽作業まで請負を拡大することなどの取り組みがこれにあたります。
また、既存の顧客(市場)に対して現在の商品を改良して新しい機能を付加した商品を提供し、買い換えを促す方法も一般的に行われています。家電製品のモデルチェンジやパソコンソフトのバージョンアップがこれにあたります。現在の商品やサービスのラインを軸にして、顧客の使用場面や好みにきめ細かく対応した多様な商品を提供したり、現在使用可能な商品をモデルチェンジにより早めの買い替えを促す方法です。現在の技術やノウハウ、設備などを活用できるために、投資負担が少ないことがメリットになります。
現在の顧客(市場)を対象とするため、日頃の取引において顧客満足を得ていることが必要条件となります。また、既存顧客のニーズを普段から把握しておくことで、商品の改良、新製品の開発のヒントを容易に得られるようになります。顧客からのクレーム情報や日頃の顧客とのやり取りから、商品に対する不満や不足点、顧客の年齢や家族構成、好みなどの顧客情報をすくいあげて、記録・蓄積しておくことが重要です。
直接消費者に販売しない場合は、卸業者と日頃から情報交換をしておくことも必要です。
事例: 綿棒を白から黒に変えて、単価引き上げに成功 綿棒を中心にした衛生用品を製造している会社が、綿棒の色を黒にしたことにより商品単価が2倍でも売れるようになった例です。 通常、綿棒は耳あかをとるために使用されますが、白の綿棒を使うよりも黒の綿棒を使ったほうが、取れた耳あかの量が一目で確認できるために、顧客に支持されて売れ行きが良くなりました。さらに単価は白に比べて2倍でも黒い綿棒のほうが売れています。 |
b.提供している商品やサービスも立派なセールスマン
既存事業の対象としている市場を拡大させて工賃を得る方法は、提供する商品やサービスを他の地域に販売範囲を拡大したり、同一地域内においても現在の顧客とは違った顧客へ商品やサービスを提供する取り組みです。
日頃の営業活動の成果として新しい顧客を獲得したり、取引先の紹介により新しい顧客と取引が開始されるなどのケースが考えられます。
販売地域の拡大の場合は、違う地域に商品を配送する必要性が発生しますので、採用に当たっては要員の確保の可能性や採算性をよく検討して対処することが必要となります。また、販売方法を通信販売にしたり、その地域に販売拠点を設けたりして積極的に販売地域の拡大を目指すことも場合によっては必要になります。
同一地域内の従来と異なる顧客に取引が拡大することは、地域内での当事業所のシェアが高まることになるので好ましい方向と言えます。
この取り組みを推進ためのポイントは、いずれも既存の商品やサービスが既存の顧客に一定以上の評価を受け、その商品やサービスを「売り」にして新しい市場に参入することになりますので、常日頃から提供する商品やサービスの質を重視し、不良品の発生を極力防ぐための品質管理の徹底が望まれることです。
提供する商品やサービスの評価が高ければそのことが口コミにより広まり、新たな顧客を呼び込むことも起こりえますので、品質重視の経営は市場の拡大に不可欠なものと言えます。
事例 ホームページを活用して販売地域を拡大した食品会社 地元の小売店に商品を卸していた食品卸売会社が、地元小売店の相次ぐ廃業の影響で売上が急減したことをきっかけにして、インターネット販売を始めた例です。 商品はもともと贈答用として購入されることが多かった新潟の「笹団子」でした。インターネットで販売することで、販売地域が拡大し、売上が増加しました。ホームページには検索エンジン最適化対策(SEO)を実施して、顧客を呼び込む工夫がされています。贈答品の需要ですから、インターネットで依頼者から送り先を指定してもらえば全国どこへでも配送が可能です。 |
既存の商品やサービスを現在の市場の中で拡大させていく取り組みです。この場合は、市場が充分に存在していて、なおかつやり方次第で新しい取引が期待できるなど成長の可能性がある場合に採用します。広告宣伝を強化したり、販売網を整備したり、販売促進策を強化したりしながら、既存の市場に対して販売機会を見出していく方法です。
大別すると「顧客の数を増やす」方法と「一人が利用する量を増やす」方法があります。
a.顧客数を増やして売上を増加させる
この方法は、現在の顧客を事業所のファンとして固定客化を図るとともに、商品やサービスの認知度を高めて、その利用による購入者の得られるメリットを強調して新規の顧客を増やしていく方法です。
そのためには、商品そのものの魅力を高めるとともに、事業所(店)のイメージ、接客技術、販売促進活動などを徹底させて、地域内の住民、会社などに当事業所の商品やサービスをアピールしていくことが必要です。
例えば、野菜などを販売する事業所では、食材としての使い方や効能を包装紙などに記載して、顧客に利用するシーンなどを提案していくことが考えられます。食材などはレシピを提案する方法がよくとられます。効能については食材に含まれる成分とその効能の関連性をPOPやチラシを活用して説明します。
客数増加のポイント
b.利用する量を増やして売上を増加させる
この方法は1回の量を増やす方法と利用頻度を高める方法があります。
1回の量を増やす方法としては、品揃えを豊富にしてお買上げ点数を増加させる、関連商品を近くに陳列して販売するなどの方策がとられます。
利用頻度を増やす方法としては、販売方法にインターネットや電話、ファックスなどを利用しての通信販売を導入する方法や企業等への出張販売、地域イベントへの出店等自らが消費者の現場へ出かけていって販売する方法、お店(事業所)でのイベント開催やお店(事業所)にコミュニティスペースを併設しお客が買物以外でも気軽に来店するお店にして、ついでにお買物をしていただくなどの方法があります。
このように利用しやすさの工夫、購入しやすさの工夫をすることで今までよりも来店頻度、購入頻度を高めることが可能となります。
利用量を増加させるポイント
a.3S(整理、整頓、清掃)の徹底
作業効率を高める取り組みとしては、作業場の環境を作業者(利用者)の働きやすい環境にすることが大事な取り組みとして挙げられます。
作業場の内部を整理整頓して、工具や材料、仕掛品などの置き場所や仕掛品が次の工程に移動するときの通路を確保し、作業台周辺を含めた作業場内のどこに何があるかわかりやすく、そして作業のしやすいようにしておくことで、作業がはかどり生産量の向上につながり、結果的に不良品の発生を防ぎ、デッドストックを少なくすることにつながっていくことは一般によく言われていることです。また、作業場の中の清掃を徹底して行うことで、作業者に気持ちよく作業に取り組んでもらい作業効率の向上に努める取り組みが望まれます。
作業場内に3S運動の推進に関する標語を掲示するなどして、事業所としての取り組みを職員及び作業者及び来場者に趣旨を徹底させて行くことが、作業効率アップに向けた基本であり、こうした取り組みが、仕掛在庫削減、作業改善、設備改良、作業の合理化、不良品対策、労働災害の防止など、作業場管理全般につながっていくといえます。
店舗などの販売の現場においてもこのことは共通することで、特に外部のお客様が毎日来店されるところですので、整理、整頓、清掃の3Sだけでなく、清潔、躾を含めた5S運動として取り組むことが望まれます。
3S・5Sの具体的内容
3S運動を組織的に取り組むことがポイントで、そのためには、事業所内に「3S運動推進委員会」を立ち上げ、職場ごとに「推進リーダー」をおいて定期的に普及啓蒙活動を実施するとともに、チェック項目に基づいてチェックし、成績優秀部門を表彰するなど運動として継続実施するための仕組み作りが必要です。
3S(5S)運動の手順とそのポイント
b.作業量と作業員(利用者)の個性に配慮した作業員の配置
作業効率を高めるためのもうひとつのポイントは、作業量に見合った作業員の配置です。
作業量はその日その日で異なると思いますが、少なくとも数日前には作業量はわかるはずです。その作業に必要な作業員はどの程度であるかを作業の監督責任者はある程度の見通しを立てて当日の人員の配置を行います。
作業量に見合った人員を配置し作業効率を高めるためには、作業者一人一人の個性、特徴を把握して、適切に指示をしていかなければなりません。そのためには、常日頃から作業者の行動に目を配るなどして、作業者が興味を示す事柄や得意な作業を把握しておくことが望まれます。
また、病気による欠勤なども起こりうることですので、作業者(利用者)の健康状態にも留意して人員配置をすることが望まれます。
a.経費節減は全員の理解と協力のもとで
経費を節減して必要利益を生み出す取り組みは、主に需要の低迷により売り上げの増加が期待できないケースや激しい競合の中で競争力を強化する場合に用いられる取り組みです。
この取り組みを成功させるためには、事業所全体で取り組む必要があります。そのためには職員全員がその意義と必要性を理解したうえで、予算管理を徹底させ無駄な経費を抑えていく努力が求められます。ただ、経費の節減ばかりに目が行って必要な経費まで削減していったのでは本末転倒になりかねません。
経費は事業所運営に必要なものですから、必要なものは支出することが必要で、求められるのは費用対効果といった考え方で、この費用を支出してどれだけの効果が期待できるのかといった考え方を徹底させることこそが必要だと思います。
b. 「ムリ・ムダ・ムラ」の排除
企業経営において経費節減を進める時に、第一番に取り組むことは、「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」の排除です。
「ムリ」とは、やらなければいけないことが能力を上回っている状況をいい、どう足掻いてみてもどうしようもない状態を表します。
「ムダ」とは、やらなければいけないこと以上にその処理能力が用意されており、その事業所の持っている能力を十分に発揮できずにいる状態を表します。
「ムラ」とは、「ムリ」と「ムダ」の状態が時によって交互に現れるなど、作業の標準化がなされていない現場によく現れる現象を表します。
福祉の事業所でよくあることですが、消費者のニーズや志向があまりないにもかかわらず、得意分野を活かせるということから、あまり売れない商品を作り続けており、結果的にデッドストックとして倉庫の片隅に積んで置かれている商品を見かけます。これは「ムダ」そのものです。
また、ある作業工程で行っていた作業が終了し、次の資材が到着しないために一時作業を中断するなどの現象が起こります。これも「ムダ」が発生したことになります。
「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」の中で、一般的には「ムダ」が一番多く発生します。したがって、「ムダ」の排除を考えることが経費節減の早道といえるでしょう。
「ムダ」の中には、作りすぎの「ムダ」、手待ちの「ムダ」、運搬の「ムダ」、加工の「ムダ」、在庫の「ムダ」、動作の「ムダ」、不良品手直しの「ムダ」があります。これらのムダを最小限にすることによって経費の節減に取り組むことになります。 ここで、これらの「ムダ」を排除するための方策を示すと以下の通りとなります。
「ムダ」を排除するための方策
1.経営資源
2.外部環境