音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

地域力の概念規定と分析枠組み

永田 祐(愛知淑徳大学医療福祉学部講師)

ご紹介いただきました愛知淑徳大学の永田です。どうぞよろしくお願いいたします。

はじめに ~「地域力」を信じられるのか

まず私の発表の位置づけですが、私は専門が「地域福祉」で、具体的には、これからお話しするような「住民の力」、「当事者の方の力」というものをどうやって高めるかということを研究しております。

今回の研究テーマの中で、先ほどから出ているような地域全体をエンパワーメントするというのはまさに地域福祉の研究テーマであると思っておりまして、私はそうした観点から、個人の方の力というよりは、地域全体を、いいかえれば、「地域力」をいかに高めていくか、地域全体をどのように変えていくかということに焦点を当てて発表したいと思います。

最初に、横田さんの言葉を引用してあります。横田さんはご存じの方も多いと思いますが、障害者運動を長年引っ張ってこられた青い芝の会の方ですが、横田さんはある本の中で、このようにおっしゃっています。

「地域福祉を信用しろって、いつから地域は変わったのか。地域とは、障害者を忌み嫌い、排除し抑圧してきたところではないか」。

私は、研究で「地域福祉をやっています」というときには、常にこの言葉を頭に置いていなければいけないなと思っています。地域の力というのは、安易に信用していいものではないのではないかということを念頭に置いておかなければいけないのではないかと思っています。このことを最初にご紹介しましてから、本題のほうに入っていきたいと思います。

現在、地域福祉の分野でも、障害に限らず、地域の力というものに対する期待というのは非常に高まっています。例えば、子どもの安全であるとか、皆さんもいろいろご承知だと思いますが、防災であるとか、それから子どもが安心して帰宅できないので、地域で見守りましょうといった防犯活動であるとか、認知症の高齢者の方の見守りなども地域に期待される活動です。このように、いろいろな場面で地域の力に対する期待というものが高まっているという現状があります。

一方で、そういう地域の活動の担い手というのは、民生委員さん、それから自治会長さん、いろいろな方がやっていらっしゃるわけですが、「こんなにいろいろできないよ」というような声も実際に漏れ聞こえてきます。民生委員の方とか、それから共同募金とか社協会費などを集めてくださっている町内の方も、おじゃますると不審者扱いされるし、もううんざりである、といったようなことをおっしゃっている方の声もたくさん聞いています。

さらに、地域が抱える課題というのも、素朴な住民の力で解決できるような問題だけではなくて、やはり多様化、複雑化しています。たとえば愛知県では、外国人の方の問題があります。それから、もちろん精神障害の方の施設ができるというと反対運動が起きたりなど、非常に複雑で多様な問題が出てきています。「総論賛成・各論反対」といわれるように、安易に地域の力に頼ってそもそも問題解決なんかできるのだろうかというような疑問も一方ではあります。

現在地域が抱えるさまざまな課題というのをちょっと振り返ってみると、まず参加されている住民自身の意識の問題があるだろうと思うのです。意識の変容が求められるような課題とか、意見が対立するような、価値観が対立するような問題というのがそもそも含まれている。このようなコンフリクトをはらんだ課題が地域の中にたくさんあるのではないかと思います。

私も地域福祉計画とか地域福祉活動計画とか、そういう地域の計画づくりに関わることがあるのですが、最近は「住民参加が大事です」ということが言われるものですから、住民の方にたくさん参加してもらいましょうということで、住民座談会のようなことをして、住民の皆さんの声を聞く機会を設けます。参加されたことのある方もいらっしゃると思うのですが、こういう住民座談会をやると、だいたい同じ方ばかりがいらっしゃる。民生委員さんであるとか、町内会長さんですね。その方が悪いわけではなくて、同じ方がみえるということです。それで、一生懸命議論をしていただくのですが、やはり、人が集まらないと不安なものですから、声をかけます。それで、自治会長さんとか民生委員さんが、「よっしゃ」ということで来てくださる。いつも議論している人がたまたま住民座談会という違う場所で地域の問題を話し合う、ということに結果的になってしまうということがよくあります。

何が言いたいのかというと、結局そういう場で議論されるという問題というのは、マイノリティの課題ではない場合が多いのです。もちろん、すべてではありません。力のある住民の方は大勢いらっしゃるわけで、ひとくくりに議論してはいけません。しかし、例えばそこで障害者の方の問題が話されるなんていうことはあまりと思います。やはり、高齢者の方のゴミ出しが問題だとか、カラスが突っつくからなんとかしなければいけないとか、それが問題でないわけではないけれども、地域福祉計画の住民座談会でそんなようなことを議論する場合が多くなります。

それはもちろんファシリテーターの職員の方の力量もあります。しかし、ここでお話したいのは、「住民の声を聞く」という事は重要ですが、実際、今例に挙げたような議論をいくら積み重ねても、「本質的な問題」を解決する力にはなかなかならないのではないかということです。たとえば、スライドにあるように、逆に「排除する力」が強化されてしまうのではないか。こういう危ない人がいるからなんとかしてほしいとか、それは誤解だったりすることが多いわけですけれども、ああいう施設が建つのはとんでもないことだからなんとかしなければいけない。逆のほうに地域の力が強まってしまう可能性もあるわけです。

私はそういう問題意識がありまして、地域の力を高めるというときに、こういうことに気をつけなければいけないのではないかという思いがあります。それから、そもそも地域で問題解決できるのか、少し議論してみたいと思っています。

こうした状況、つまり、排除の問題がなかなか解決されないという問題、わかりやすく言えば、「総論賛成・各論反対」という姿勢を変えていくためにどうしたらいいかということで、以下では2点にポイントを絞って、他のパネリストの皆さんがお話された事例でも出てきたキーワードを拾いながらご説明したいと思います。

最初ちょっと何を言っているのだかという感じのことだと思うのですが、だんだん説明していきますので、最初はちょっとご容赦ください。

次へ→