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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

調査地域の各事例にみる「地域力」の状況

小田島 明(国立伊東重度障害者センター指導課長)

小田島 はい、どうも。小田島です。私のほうで発表させていただくのは、今回、地域力というのをどうやって計るかという議論を研究班でしている中で、一つの指標として永田祐さんが持ち込んでくれたのですが、フリードマンの「力の剥奪モデル」、そういう中で切り口を見つけていったらどうかということで、先ほど説明が谷口さんのほうからあったものです。

今日、実はお手元に報告書が行っていれば、それぞれ先ほど紹介のあった地域についての、その地域を俯瞰したそれぞれの分析枠組みに基づく地域の状況というものがそこで語られています。私が担当した郡山などで言いますと、郡山というのは宮下さんたちの長年のご努力で地域力というのは高いと思っています。では普通の研究ですと、じゃあこういう郡山が一つのモデルだという話にすぐなってしまうかと思うのですが。

我々がもう一点注目したのは、そこで生活する一人一人の当事者にとってはどうなのか。つまり当事者がどう関わっているのかという、先ほどの谷口さんのまとめの最後のほうにありましたよね。当事者とのアクセシビリティがどうなのかというのはすごく重要だろう。つまりは、結果として当事者がそれによって生活をその人らしく生きているかということが、もう一つ分析しなければいけないポイントだろうと考えていたところです。

ですから各地域の分析枠組みに基づく結果というのは報告書には入っておりますので本日は用意できておりませんが後日ご参考ください。

小田島 私がこれからご説明申し上げるのは各地域の事例、それぞれ一人一人がその分析枠組みから見たときにどうアクセスしているのかということです。

総じて言いますと、資料は44ページ以降をご覧ください。総じて言えることとしては、やはり一人一人の視点から見ると、必ずしもその地域にある資源との結びつきというのは、十分ではなかったかも知れません。特に今回事例として取り上げた人たち、事例を探すのもかなりたいへんだったのですが、それぞれの地域の調査をコーディネートしていただいた方たちにお願いして、ピックアップしてもらった方達なんですね。ということは、少なくとも地域の核となる人との接点はある人たちです。ところがじゃあ資源をうまく使えている人達なの?というと、必ずしもそうではなかったなという実感を私は持っております。

「自分らしく生きる」、地域力というのは本人から見たら材料ですよね、自分らしく生きるための。その材料がうまく使えているかどうかという視点で計るということがこの研究のひとつのポイントです。

資料の44ページを見ていただくとわかるのですが、9地域のうち、実は1か所だけ、抜かしております。というのは、その地域だけ当事者の方ではなくて当事者の保護者の方、あるいは当事者の協力者からの聴取りになってしまいましたので、そこを除いてこの1から14までの人たちを挙げております。

若干補足の意味でこの地域それぞれの特徴を簡単に述べますと、まず規模で考えると大都市、これは渋谷が該当するのだろうと思います。このように中堅、小規模地域、小都市、というような分け方をしております。

まず表の一番上の旭川ですが、先ほどこれは谷口さんのほうから詳しく説明があったと思いますが、これから地域の体制ができていくところだろうと思います。

郡山につきましては、私が調査に入って、今日来られた宮下さんもそうですが、ILの会という当事者組織が長年の運動をしておりまして、そういう中で行政とも協働関係を持つようになった。協働関係を持つようになったがために、ILの会自体は身体障害の方を中心に始めたのですが、現実的にはその組織の運動や、当時の政治的な状況もあったのだと思いますけれども、その後は知的障害者の支援事業も立ち上がる、精神障害者の支援事業も立ち上がる、あるいは障害者以外の方たち、一般の人たちも巻き込んだネットワークもいくつも立ち上がるというように、当事者運動から派生して地域というものを総体的にネットが張られるようになってきた地域だと思います。

ただし、そうなればなったで、完成型にすぐなるわけではなくて、郡山としてもたとえば障害同士のネットワーク、障害別のネットワークにつながるとか、障害別の資源同士のつながりというのは若干薄いかなという状況があります。また、今回調査にご協力いただいた郡山市のAさん、Cさん、あと実はもう一人いらっしゃるのですが、そういう方たちを見ていても必ずしも資源とのアクセシビリティという点で、郡山の持っている資源をうまく使えていないという状況が見られているところです。

渋谷区ですが、これはもう言わずと知れた大都市部であり、財政的には非常に豊かな地域なんですね。大きな商業地域を抱えていますから。ところが繁華街も近いということで、特に今回は知的障害の方の事例で見ていますけれども、そういう繁華街の中で生きていく障害者の姿というのが語られておりますし、東京の中でも渋谷というのは大都市の中に住宅地域もありますので、わりと住民同士のコミュニケーションがなくて互助がないのかなと思うと、事例の中ではけっこう近隣の商店街の人たちが接点を持ってサポートしてくれていたりする地域なんですね。

和泉村ですけれども、ここも先ほどちょっと紹介がありましたが、やはり非常に小規模な地域である。そういう意味では互助と公助との境がすごく不透明な地域。それが特性で、悪いというわけではなくて、そういう特色をもったところです。またもう一点言うと、この数年の間に起きている市町村合併によっていろいろな動きがあって、それでせっかくできた事業が市町村合併によってなくなってしまったという、特殊な事情もあるところです。

十津川村も、どちらかと言えば田舎ですので、障害者の地域支援ということを考えるだけの障害者もいない。そうするとやはりどうしても、障害者のことについては一つの施設で、ということが村の大方の方たちの意識になっていく地域だと。だけどそこにはそこで互助の組織もある。そういう意味では一面だけをとらえて語ることはできないというのが小規模地域の特徴かなと思います。

中堅都市、次に尾道市がありますが、ここは規模的に郡山とかなり似ているのですね。ここの大きな特徴は、実は自立運動があった地域なのですが、今でもあるのですが、郡山とは違って、その運動が低迷しているのですね。そこで、郡山のような発展が見えなくなっている。つまり主体が継続性を持てていないということが影響している地域です。ただ、障害ではありませんが、後ほど説明しますけれど、地域の住民を巻き込んだ「サロン」という活動がある地域で、ここがけっこう面白い特徴のある資源となっているところでありました。

善通寺市ですが、ここは四国学院大学の学生ボランティアがかなり、共助という意味での支援ネットを長年持っておられた地域でした。それがためかどうか私は分析しておりませんけれども、大学はどうしても4年で出ていくということもありますので、継続性という面で近年かなり問題になってきている。つまり新しい支援部隊というものが今後できてこないと果たしてこの先どうなるのかなという不安があると聞いております。

狩俣地区というのは宮古島でして、一番この中で田舎かも知れません。互助を中心とした地域。隣の人の顔がわかるという地域。ところがそういう中で、当事者の人たちはアクセシビリティがどうなのかというと、あまりよくないんですね。そういったことが今回の調査でわかった。それぞれの地域の簡単な特徴であります。

1ページめくっていただきますと、取り上げた14名の方達についてが、地域生活を営んでいくための6つの基盤との関係を表してみたのですが、簡単にさせていただきます。特徴的に言うと、「生活を成り立たせるために必要な知識や技能を確保できる機会」、これが少ないと言えます。

それから「就労や生活のための資金の確保」。これは、就労の確保という意味も入れて分析しているのですが、関係性に丸がついているのは渋谷と和泉村だけですね。要するに自分に力をつけるための知識やなりあるいは就労の機会ということが、本人たちからみるとあまり関係性が持てていないと思っております。そのへんは今後、45ページのそれぞれの分析枠組みの関係の中の①、②と書いてある中に入れておりますので、またその中で説明させていただこうと思います。

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