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平成18年度厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究推進事業報告書

「精神科回復期リハビリテーション病棟」のあり方に関する研究

木谷 雅彦
国立精神・神経センター精神保健研究所

Ⅰ.はじめに

厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)「精神科病棟における患者像と医療内容に関する研究」に平成18年度に参加し研究を行った。その研究成果について報告する。

平成15年9月より「精神病床等に関する検討会」が開催され、その中では「精神病床の役割と機能分化等のあり方」が大きなテーマのひとつとして議論された。その結果、平成16年9月に発表された精神保健福祉改革ビジョンにおいては「急性期、社会復帰リハ、重症療養等の機能別の人員配置、標準的な治療計画等について、厚生労働科学研究等により検討した上で、その成果を踏まえ、中央社会保険医療協議会で結論を得る」とされている。本研究はここで指摘されている厚生労働科学研究である。

精神科病床機能分化を進めるうえで、できる限り多くの患者の短期間での退院を促し、長期入院患者数を抑制する機能を有する、「精神科回復期リハビリテーション病棟」が今後重要になっていくと考えられる(図A参照)。本稿では、調査結果をふまえ、同病棟のあり方や実現可能性を考察する。

図A

図 病床の機能分化のイメージ

Ⅱ.研究目的

平成18年度の研究に先立って行われた研究の結果についてまず述べる。平成16年度は、公立精神科病院2施設を対象にして、聞き取り調査と439名の患者の入退院データの解析をした。その結果をふまえ「精神科回復期リハビリテーション病棟」の基準を設定し、平成17年度は、前年度の調査データおよび民間精神科病院院長への聞き取り調査から、「精神科回復期リハビリテーション病棟」の基準を検討し精緻化した123

平成18年度は、精神科救急病棟を設置する25病院(2006年10月現在)を対象に、「1年以内に退院した件数」が最も多い同病棟からの転棟先病棟を「精神科回復期リハビリテーション病棟」のモデルと捉え、その運用実態を調査した(研究①)。また対象病院に、「精神科回復期リハビリテーション病棟」の必要性、および昨年度設定した「精神科回復期リハビリテーション病棟」の基準の適否を尋ねた(研究②)。これらにより、今後の「精神科回復期リハビリテーション病棟」の実現を提案する素材として活用することを目的とした。

Ⅲ.研究方法

調査票の作成

まず「1年以内に退院した件数が最も多い精神科救急病棟からの転棟先病棟」(以下、「モデル病棟」とする)について、職種ごとのスタッフ数および定期的に実施している退院促進のためのプログラムとその頻度を問う設問を配した(研究①)。

さらに、昨年度まで検討した定義による「精神科回復期リハビリテーション病棟」の要否、および10の基準の適否についてそれぞれ、意見を尋ねた(研究②)。

Ⅳ.研究結果

調査を依頼した25病院のうち、23病院から調査票を回収した。このうち、研究①については13病院、研究②については16病院から有効な回答を得た。

【研究①】

1.モデル病棟の診療報酬上の病棟種別

以下の通りであった(表1)。

  • 精神病棟入院基本料(2または3)(6件)
  • 精神科療養病棟入院料(3件)
  • 精神科急性期治療病棟入院料(1件)
  • その他・不明(3件)

2.モデル病棟の機能(各病院の回答による)(表1

  • 精神病棟入院基本料の6病院のうち、3病院が「リハビリテーション」「社会復帰」と位置づけていた。
  • 精神病棟入院基本料の6病院のうち、1病院が「救急治療支援」と位置づけていた。

3.モデル病棟での平均入院期間

以下の通りであった。

  • 0-3ヶ月:8件
  • 3-6ヶ月:3件
  • 無回答:2件

4.モデル病棟のスタッフ数(図1

有効な回答のあった9病院で、看護師は1病床当たり0.25~0.3人とほぼ一定していたが、医師は0~0.15とややばらつきが見られた。専属の精神保健福祉士、作業療法士をともに置いていない病院が3あった。

5.モデル病棟における退院促進プログラムの実施(図2

SST(Social Skills Training)は、回答のあった8病院中5病院で月4回(週1回)実施されているが、その他の退院促進プログラムの実施の頻度には月0~11回とばらつきが見られた。

6.救急病棟からモデル病棟へ転棟した患者の1年以内の退院先(図3図4

  • 各病院ごとの状況を見ると、「1年以内で8割以上退院している」のは11病院中5病院(自宅退院に限れば、2病院)であった。(図3
  • 回答のあった11病院の平均で、救急からの転棟患者の66.9%が1年以内に自宅へ退院しており、社会復帰施設等への退院も含めると、72.7%が1年以内に退院していた。(図4

【研究②】

1.「精神科回復期リハビリテーション病棟」の必要性(図5

必要:15
不要:1

(必要な理由として挙げられたコメント)

  • 救急・急性期の入院治療を受けても退院できるレベルに達しない患者がある一定の割合で存在する。
  • 入院1年を超えないうちに退院に向けての専門的アプローチが必要だから。
  • 地域に戻すため患者個々の生活スキルを高めるための支援が必要
  • 救急病棟で受ける患者の中に処遇困難者も少なくなく、長期化するケースもみられる。そうした方にとって、こうした病棟があればと思われる。
  • 入院3ヶ月を超えてしまう患者が一定数存在する。

(不要な理由として挙げられたコメント)

  • 3ヶ月を過ぎれば、特に9ヶ月と限定した病棟での効果は疑問

2.「精神科回復期リハビリテーション病棟」の実現可能性(図5

実現可能:7
実現不可能:8
無回答:1

(実現可能な理由)

  • 既存の病棟の充実活用
  • 構造上は可能。プログラム等は努力により可能

(実現不可能な理由)

(1)人員の不足

  • 他の整備すべき専門病棟への人員配置で一杯の状態
  • 充実したプログラムを提供するためにはスタッフ教育と人員が必要である。

(このほか「マンパワーの不足」という理由が2件あった。)

(2)対象患者の限定

  • 救急の患者に対象を限定しているため
  • 急性期、救急のうけ入れ病院のためベッドがもたない。
  • 総合病院の為、救急急性期と合併症治療に専念せざるを得ない。

(3)その他

  • 救急病棟を出て9ヶ月以内に退院するものは少ないはず

3.「精神科回復期リハビリテーション病棟」の基準の適否(図6

①3対1看護

適当:9  不適:3  無回答:1

(不適当な理由)

  • マンパワーの不足
  • 2対1相当で(より手厚い配置にするべき)

②PSW1名、OT又はCP1名以上を病棟専属とする。

適当:9  不適:4

(不適当な理由)

  • PSWは2人以上必要
  • 心理士も必要
  • OTとCP(どちらかではなく)両方必要

③精神科療養病棟と同様の病棟環境を持つこと。

適当:7  不適:5  無回答:1

(不適当な理由)

  • 社会性が必要(「療養病棟と同様」では不十分)

④患者の8割以上が9ヵ月で自宅退院(自宅・単身アパート・グループホーム・社会復帰施設を含む)。ただし3カ月以内に再入院した者は退院とみなさない。

適当:7  不適:6

(不適当な理由)

  • 1つの病棟で8割が退院することは難しい。(同意見が他に2件)
  • むしろ、1度は3ヶ月以内に入院しても、その後の経過がよい場合もある。

⑤当病棟入院時に医師、看護師、在宅復帰支援を担当する者、その他必要に応じた関係職種が共同して精神科リハビリテーション総合実施計画を作成し、患者に対して説明を行う。

適当:13  不適:0

⑥心理教育、SST、OT、フィールドトリップ等退院促進プログラムの実施

適当:13  不適:0

⑦個別ケースの退院の実現を目標として主治医、担当看護師、及び地域生活支援関係者を含む多職種によるカンファレンスが実施されること。

適当:13  不適:0

⑧入院中より退院促進・地域連携室(仮称)との連携。(室の要件:病院内に地域支援専任の看護師またはPSWが3名以上いること)

適当:12  不適:0  無回答:1

⑨診療報酬は転入棟後9ヵ月までを限度として算定(3ヵ月ごとに逓減)。精神科急性期治療病棟と精神科療養病棟の間の点数とする。

適当:10  不適:3

(不適当な理由)

  • 急性期治療と同等(の点数にするべき)
  • 安すぎるし厳しい。

⑩病棟単位または病室(ユニット)単位を考慮

適当:11  不適:2

Ⅴ.考察

【研究①】

救急からの転棟患者が1年以内に8割以上自宅退院しているモデル病棟は、現状では限られている。

モデル病棟のスタッフ数、退院促進プログラムの実施状況を見ると、いずれも、「救急治療支援」機能を明確にしているE病院が他の病院に比べ手厚いことがわかる。しかしながら、E病院の退院率が他の病院に比べて高いとはいえない。スタッフ数、退院促進プログラムの実施状況と退院率との相関については、今後精査する必要がある。

【研究②】

1.「精神科回復期リハビリテーション病棟」の必要性・実現可能性

16病院中15病院が「必要」と回答したものの、「実現可能」との回答は7病院にとどまった。不可能な理由として、4病院が人員の不足を挙げた。また3病院が対象患者を限定していることを挙げた。

2.「精神科回復期リハビリテーション病棟」の基準の適否

昨年度までの研究で提示した施設基準については、10項目すべてについて7病院以上が「適切」と回答した。提示した基準は概ね支持されたとみなすことができる。

一方、①②③④⑨⑩について、「不適」という回答と、その理由についてのコメントがあった。

人員配置について具体的な数を示した①②は、「不適」とする回答がそれぞれ3件、4件あったものの、その理由として、「マンパワーの不足」で実現できないというコメントよりも、より手厚い人員配置基準を作るべきだというコメントのほうが多かった。

③を「不適」としたコメント1件は、療養病棟より厚遇の環境を求めていた。

⑨を「不適」としたコメント2件は、より高い診療報酬点数を付けることを求めていた。

以上のコメントから、「精神科回復期リハビリテーション病棟」を実現するのであれば、十分な診療報酬点数を付け、より手厚い環境を確保することを各病院が望んでいることが示唆された。

ただし④を「不適」とするコメントからは、「患者の8割以上が9ヵ月で自宅退院」という基準が実情と離れている可能性が示唆された。「精神科回復期リハビリテーション病棟」の実現に向けては、更なる検討の余地が示唆されたといえる。