音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業外国人研究者招へい報告書
ディヴィッド・ルコントレポート

将来への視点

 新法は地域での治療に向けての動きを継続し、サービス提供を市町村が行う方向性をさらに強めているようである。今後5年間のこうした動きは精神障害のある人が身体障害、発達(認知)障害、高齢者と同等のレベルになるのを進める役割を果たすだろう。在宅での介護サービス、就労機会の拡大、サービスの契約委託化は、選択の拡大をもたらし、心理社会的リハビリテーションのための社会的サービスをいっそう重視すべきである。ケアのシステムとして機関が相互に協力し、系統だって、統合され、連絡調整のある総合的サービスを提供するための計画ができることを願う。門屋氏が将来の方向性に関して述べられた結論は、心理社会的リハビリテーションと共に「ライフモデル」が規範となるのが望ましいということだった。そして、様々なサービスは地域でのその人の生活に焦点を絞り、ケースマネジメントによって調整されると述べられていた。古屋氏は日本が大規模な精神病院収容主義から地域の精神保健システムに移行しなければならないという結論だった。

4章 提言・戦略

コンシューマーの印象

 現在の日本の状況は、いろいろな基準から検討して、コンシューマーが地域で受け入れられ、統合されるのは困難である。帯広では、住宅は地域住民への周知なしで建設されている。住民が一致団結し、反対運動を起こす恐れがあるからである。大阪のパラッパという作業所では、コンシューマーは地域住民に対して、その作業所は重度の精神病の人を対象にしていることを伝えていない。メンバーの一人は、日中はアパートにいないようにしている。それは、その男性の年齢なら仕事をしているべきで、いつも家にいるべきではないという考えがあるためだとその男性は語った。こうした事情があるためか、地域で提供されているサービスも非常に保護的で、普通の労働環境とは統合されていない。作業所で働いている人では、外的に明白な症状はほとんど見られなかった。多くの人は普通に見えたが、例外的な少数の人は感情を欠き、身体的反応もゆっくりとしていた。これは症状に関するだけでなく、投薬による影響もあるかもしれない。作業所のコンシューマーはお互いをしっかりと支え、職員、メンバー相互に本物の受容があり、職員とメンバーの協力によって「癒し」のネットワークが形成されている。こうした環境では、コンシューマーは生き生きとしていて、社交的で、しっかりと仕事をし、他人からの関心・承認を評価している。私が訪れた所ではどこでも、訪問を感謝され、喜ばれた。つまり私は一人の人間として認められていた。多くのコンシューマーはユーモアのセンスがあり、一緒にいてとても楽しかった。どうしてこうしたコンシューマーが切り離された環境で保護された人生を送っているのか、外部の人間には理解しにくい。コンシューマーは病気だということで罰を受けているかのようだ。コンシューマーの3分の1の入院理由が「社会的理由」であるのは特筆に価する。これは、コンシューマーにとって恐るべき現実である。

 やどかりの里がその理念として、だれもが地域でみんなと同じように暮らし、地域の一員として共存できるようにする(インクルージョン)を掲げているのは正しい。これは現在まさに進行している過程だと理解はしているが、多くの進歩が望まれている。環境は保護的であり、共同体や「飛び地」のようである。それにしても、正しい方向への一歩ではある。さらに、やどかりの里は当局からも予算面で認められてきている。埼玉県立精神保健総合センターとの関係も緊密になってきた。特に、アフターケア、入院施設からの直接の受け入れに関してはそうである。やどかりの里では、コンシューマーが楽しそうにしていて、支えられていると感じ、よく保護された環境の中で受容されている。「死ぬまで書き続けます」、「縄でコースターを作っています」、「これからもずっと手芸品を作り続けます」といった声があった。地域の中でのアイデンティティを持ち、生涯にわたる決意を示し、計画を立てている人に会えて話が聞けたのはよかった。

 訪問した地域の作業所内でコンシューマー同士が交流するのを見るのは、とても新鮮だった。これは病院内の環境とは明らかに対照的だった。訪問先のセンターで、本来は不要で人工的に作られた仕事にまじめに従事しているコンシューマーの姿と対比できよう。この環境ではコンシューマーは仕事を中断しなかったし、顔を上げたり、訪問者に挨拶をすることもなかった。仕事は真剣に取り組まれていて、仕事を続けることが大変重要であることが明白だった。作業内容は単純な組立だったが、全員が自分の分担に取り組んでいる様子だった。ゆっくりと組立を行い、部品を操作したり、作業の動作を行っていた。ある女性は私たちの存在を意識していて、とうとう笑いを抑えられず、大声で笑いだした。自分のいる場所に見知らぬ人が来ているという知識から来るストレスを解消するためだったようだ。こうしたレベルの固苦しさは訪問した地域での作業の場では見受けられなかった。症状の管理は、地域で応用ができるかどうか疑問である。症状の管理は、院内の制限的な環境設定(人工的に作り出された仕事などをとおして)で技術を教えるよりも、技術、能力、関心に応じて地域の統合された環境での勤労経験の一部として体得されるほうが効果的というのが私見である。

 家族会への短時間の訪問では、地域ベースのサービスを促進する施策を支持する意見が表明されたほか、クロザリル(CLOZARIL)、レスペリドン(RESPERIDONE)という日本ではまだ入手できない抗精神病薬への関心が示された。マディソンでは特にクロザリル(CLOZARIL)が私たちのシステム内で、治療が困難な人に対する薬物による治療効果が証明されてきた。オランザピン(OLANZAOPINE)など新世代の「非定型(atypical)の抗精神病薬」は抑えられない震え、振顫等の錐体外路(EXTRAPYRAMIDAL)症状の発現を取り除き、精神分裂病の妄想、幻覚などのポジティブな症状、ひきこもり、やる気のなさなどのネガティブな症状を治療するもので、私たちのシステムでは現在中心的に使用されている抗精神病薬である。この結果、不随意的運動障害はもはや問題とはされなくなっている。

学際的チームアプローチ

 帯広で開かれた日本精神障害者リハビリテーション学会での学際チームによるワークショップに参加する機会を得た。分野を越えたアプローチの重要性は入院、地域という視点から提示された。ここで再度、学際的チームアプローチが地域での治療を成功させるためにいかに重要か強調したい。普通の地域の中で、病院の保護された隔離の環境なしで、各分野の専門家が他の分野の専門家の専門性、能力、技術を理解する能力を持つことは死活的に重要である。相互の尊敬、プロとしての礼儀正しさ、お互いをどういう場面でコンサルタントとして利用し、セカンドオピニオンを求めるのかを理解していることが求められる。チームとしての合意を実行に移すことが(個人的には同意していない場合でも)求められる。率直に意見の不一致もオープンにし、チームに貢献することでチーム内で敬意を獲得し、どの分野の専門家でもチームリーダーになれることが理解され、常にお互いをバックアップすることも求められている。さらに全員が全般的役割(ケースマネジメントや心理社会的リハビリテーションの活動)を果たすと共に、役割の境界がぼやけることもあるという理解や、隙間をお互いに埋めることが必要である。チームの全員が狭く定義された自分の専門性・役割内だけで動いた場合に、私たちはどうなってしまうのだろうか。事態に対処するために「縄張りを塗り変える人」、必要なことをするために「隙間を埋める人」は、他のことを全部やってみてもうまく行かない時に、しばしば事態の打開を行ってくれる重要なメンバーである。また、サービス提供とピアサポートにおけるコンシューマーの役割も考慮されなければならない。マディソンでコンシューマーが提供しているサービスは私たちの事業で最も革新的、刺激的、創造的であり、年間400人以上にサービスを提供している。(多職種チームによるケースマネジメントの役割定義と区分/役割領域の共有については図1、人口10万人あたりの専門職数については表2を参照されたい)。

図1. 多職種チームによるケースマネジメント(役割り定義/役割り領域の共有)

多職種チームによるケースマネジメント(役割定義と区分/役割領域の共有)の図
図に関する説明はこちら
Source: LeCount, D. (1998)

表2. デーン郡人口10万人あたりの専門職者数(郡の精神保健サービス専門職者数)

職種 総数 人口10万人あたりの数
精神科医師 10 2.50
正看護婦(士) 45 11.25
ソーシャルワーカーおよび 類似修士号保持者 70 17.50
免許取得心理士 0.75
学士(大卒)スタッフ 80 20.00
資格なし臨床スタッフ (精神保健テクニシャン) 30 7.50
総数 228 59.50

解説:デーン郡人口10万人あたりの専門職者数(郡の精神保健サービス専門職者数)
 デーン郡では,人口10万人あたりの専門職者数を統計によって示している。以下職種,総数,人口10万人あたりの数の順に示す。
 郡の精神保健サービスに雇用されている精神科医師は総数10,人口10万あたり2.5である。正看護師は総数45,人口10万あたり11.25である。ソーシャルワーカーおよび類似修士号保持者は総数70,人口10万あたり17.5である。免許取得臨床心理学者(博士号保持者)は総数3,人口10万あたり0.75である。大卒学士のスタッフは総数80,人口10万あたり20である。特定の資格を有しない臨床スタッフは精神保健テクニシャンとよばれ,総数30,人口10万あたり7.50である。専門職総数は228,人口10万あたり59.5である。
 Source: LeCount, D. (1998)