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平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業外国人研究者招へい報告書
ディヴィッド・ルコントレポート

地域を拠点とした治療の基本的原則

 私のプレゼンテーションを通して地域ベースの治療が強調された。病院とは全てのニーズがそこで満たされる自己充足型の共同体であるのに対して、地域は多くの人、システムが協力しなければならない環境のもとで、多岐にわたるサービスを提供するものである。ウィスコンシン州マディソンでの経験に基づく原則は次の通りである。(ウィスコンシン州デーン郡成人精神保健予算と配分については、表2, 表3を、精神保健システムサービスの流れについては図2を参照されたい)。

  • ケアのシステム全体を管理する中心的機関。この機関はサービスの予算、計画、準備、実施、評価に責任を持つ。この機関はサービスを直接提供することも、委託契約に出すこともできるし、直接提供と委託契約両方を行うこともできる。精神保健サービスの予算は全てこの機関に行き、この機関は地域、病院でのサービスへの予算配分、支払いに責任を持つ。この手法が全ての地域精神保健原則が実行される最善の方策である。
  • 治療の焦点を地域におく。だれがどれくらいの期間入院しなければならないかなど、全ての決定は地域から生じる。
  • サービス提供過程にかかわる全ての関係者は一つのケアシステムとして協力しなければならない。これは連続性があり、連絡調整が機能しているサービス提供には欠かせない。
  • 同様に全てのプログラムは、バラバラに独自のプログラムとしてではなく、一つのケアシステムとして、統合され、包括的で、連絡調整が機能しているサービスがサービス全体を通して提供されるように、協力しなければならない。
  • サービスは包括的であり、広範囲のサービスメニューを持ち、各人が必要としているサービスのレベルを保たなければならない。可能な限り、選択肢が提供されなければならない。統一された機能、決定に含まれるのは、責任の明確化、利用の窓口、サービス提供の承認、(各プログラム内、システム全体での)ケースマネジメント、フォローアップ、評価、管理情報システム等である。
  • 最も制限の少ない環境・治療形態という考え方は治療に関して決定を下す過程でも遵守されなければならない。地域での自然な支援体制では無理という場合に初めて制限的な手法が実施されなければならない。自然な支援・力を最大限にするノーマライゼーションに重きがおかれている。
  • 権利の宣言がなされ、コンシューマーの苦情申し立て手続きが確立されなければならない。
  • サービス提供はコンシューマー中心で、回復指向でなければならない。
  • コンシューマーはシステムのサービス提供全てに関与すべきである。具体的にはサービス提供、ピアサポート、評価(満足の行く結果であるか)、統治委員会、職員雇用過程などである。
  • 治療と事業管理は、知られている限りで最善の実践方法で行われるべきである。臨床的に確実で、費用効果がよくなければならない。
  • コストの高い医学モデルではなく、心理社会的リハビリテーションや機能的アプローチに多くの時間を費やすべきである。
  • 地域精神医療の原則に基づいて、学際チームアプローチが策定されなければならない。どの分野からの個人もチームリーダーになれるものとする。全ての分野の専門性が尊敬され、理解されるものとする。専門性は可能な限り最も効率の良い形で利用される。責任と地位は、それに価するような技術、能力に応じて与えられる。チームとしての協力、チームのメンバーの役割に対する理解が重視される。具体的には、業務の各専門分野、日常生活技術、医学的決定、セカンドオピニオン等に関してお互いをコンサルタントとして活用するノウハウである。
  • 地域による受容、統合、インクルージョン。地域は専門的な支援だけでなく、様々なレベルでのインクルージョン、変革の過程に関係する。
  • 「危険を冒すという尊厳」はシステム全体を通して、責任ある決定を重視する。
  • ニーズのレベルに応じたサービスのレベル。症状が非常に重く、短期的な入院が必要な場合を除いて、地域でほとんどの時間を暮らせるよう、個人の可能性を最大にするためのサービスレベルの提供が必要であることをこの原則は強調している。これに関してはサービスの継続性並びに地域サービス提供システムの総合性が入院期間を決定しているのである。職員によるケア付きの居住が利用できない場合、その人は自立して暮らせる段階まで治療を受ける必要があるかもしれない。しかしこの場合、長期にわたる入院は希望を失わせ、無力感を生み、依存的にし、さらに他の入院特有の問題を引き起こす。
  • システム全般の目的の方向性:ケアシステムは8割の予算を地域向けに、2割を入院向けにすべきである。優先順位が高いのはニーズが高い人である。95%の人は支援を得て、地域で生活できるはずである。仕事は本物で、自然な労働環境で提供されなければならない。半分の人は収入が得られる仕事に就くべきである。職員によるケア付きの生活は一時的であるべきである。コンシューマーの満足度、結果はおのおのの参加プログラムで評価されなければならない。
  • 入院はケアシステムの不可欠な要素ではあるが、精神科の入院期間は病気の文脈で限定されたものでなければならず、地域で生きる技術が弱められてしまうものであってはならない。この文脈でマディソンでは、過去10年間で次の平均入院日数がある。
     --急性による任意入院は5日間
     --急性による任意でない入院は15日間
     --最重度で治療によっても改善を示さない2%以下の人は1年間

次項では入院を減らすための戦略を議論する。

表3 デーン郡の成人精神保健予算と配分 (2001年度)

支出項目
コミュニティサポートプログラム 4,161,600 29.52
住居 3,295,900 23.38
ケースマネジメント 1,717,300 12.25
入院:  急性・強制:州立病院
   急性・自発:地域病院
941,500
325,000
6.68
2.31
危機介入 1,264,400 8.97
精神療法 899、900 6.38
雇用関連サービス 487,100 3.46
デイサービス 561,200 3.98
アウトリーチ その他 377、100 2.67
医療サービス:投薬 56,400 0.40
総計 14,097,400 100%

注:・ 総予算の80%以上は地域プログラムや地域での治療に配分される。
・ 予算の20%以下が入院患者治療に使用される。
・ クライエントの95%以上が地域で生活し,・ 住宅の外からサービス(地域サービス)を受けている。

解説:デーン郡の成人精神保健予算と配分(2001年度)
  2001年のデーン郡の成人精神保健予算と配分は以下に示すとおりである。予算表に付された注が示すとおり,デーン郡では,総予算の80パーセント以上は地域プログラムや地域での治療に配分される。予算の20パーセント以下が入院患者治療に使用される。クライエントの95パーセント以上が地域で生活し,住宅の外からサービス(地域サービス)を受けている。
 予算の支出項目,額,予算総額に対する割合を以下それぞれ示す。
予算総額は1409万7400ドルである。コミュニティサポートプログラムには,416万1600ドル,全体の29.52パーセントが使われている。住宅には,329万5900ドル,全体の23.38パーセントが使われている。ケースマネジメントには171万7300ドル,全体の12.25パーセントが使用される。入院では,急性期強制入院に州立病院が使われ,94万1500ドル,総予算の6.68パーセント,急性期自発的入院には地域の病院が使われる。予算は32万5000ドル,総予算の2.31パーセントである。
 危機介入には126万4400ドル,8.97パーセント,精神療法には89万9900ドル,6.38パーセントが使われる。雇用関連サービスには48万7100ドル,3.46パーセントが使用される。デイサービスには56万1200ドル,9.98パーセント,アウトリーチ,その他のサービスには37万7100ドル,2.67パーセントが使われる。また,医療サービス,投薬には5万6400ドル,0.4パーセントが使われる。

図2-1 デーン郡成人精神保健システム

デーン郡成人精神保健システムの図

図2-2 デーン郡成人精神保健システムサービスの流れ

デーン郡精神精神保健システムサービスの流れの図

図(2-1,2-2)に関する説明はこちら
Source: LeCount, D. (1998)