音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

【パネルディスカッション】「どのようにしてDAISY版教科書を普及していくのか」

モデレータ:
河村 宏(DAISYコンソーシアム 会長)
コメンテーター
渡部 テイラー 美香(モンタナ大学障害学生サービス部コーディネーター)
パネリスト:
井上 芳郎(NPO法人 全国LD親の会)
寺島 彰(浦和大学 総合福祉学部)
田中 和美(元公立中学校特別支援教育コーディネーター)
石井 みどり(横浜市立盲特別支援学校 図書館)

河村 宏(DAISYコンソーシアム 会長)●

早速パネルディスカッションを始めさせていただきたいと思います。「DAISY教科書の普及に向けて」というテーマで最初10分いただきまして、私からどのような流れでというのをご提案申し上げたいと思います。

今プロジェクターで映していますのは、文部科学省が去年3月に発行しています、教育の情報化に関する手引きの第9章、「特別支援教育における情報化」というところに出てくる絵です。この絵の中の最前列にいる男の子、吹き出しがパソコンについていまして。この男の子は、パソコンを机に置いて授業を受けているんですね。他の子はパソコンは持っていません。吹き出しには、「読むことや書くことの困難さを支援するためのコンピュータ」と書いてあります。このように「教育の情報化に関する手引」、文科省が昨年3月に発行した最新のものには、特別支援教育においてはこのように教育の情報化を図ろうということを絵入りで推奨しているわけです。

さらにその中の本文を見ていきますと、第2節「ICT活用による支援方策」がございます。これは先ほど矢田先生がおっしゃいましたが、繰り返しになりますが、私どもが文科省に呼ばれ、特別支援教育課にDAISYのかなり詳しいデモを2時間ほどした後にこれが出ているので、DAISYがベースになっているのだと思いますが、次のように書いてあります。「独自の支援としてはコンピュータでの使用を想定して製作された教科書の録音教材が、機能としては文章を音声朗読しているところが自動的に反転表示されるため、読み手は視覚的にわかりやすい。反転表示は一文ごとや文節ごとなどの設定ができる。また朗読箇所に対応して、挿絵や写真を表示することができるため、言葉のイメージをつかみやすいという特徴がある」。まさにDAISYですね。

今DAISYは、規格であるために、画面に表示してありますようにさまざまな機器でDAISYが再生できる、あるいはさまざまなソフトウエアで製作できる、再生できるという、スタンダードであることの強みを発揮して、世界中約40ヶ国で使われています。

ほぼ毎週のように新しい製品が出てきています。一番新しいニュースは、ラスベガスで行われているコンシューマーグッズの国際的な展示会(2010 International Consumer Electronics Show(CES)に、ブリオ(Blio)というものが紹介された。それはなぜか126万タイトルがこれで読めるというのです。その上、アクセシブルであるというのです。不思議なのはソニーのeブックリーダーは100万タイトルと書いてあるので、それより多いんだというんですね。私の推測です。詳細はわかりませんが、EPUBの電子ブックです。残りの26万はどうもDAISYブックではないかと思っています。それを足して126万じゃないかと想像しています。当たっているかどうかは、皆さん、お楽しみに。もうすぐ日本でも報道されます。

DAISYは出版のユニバーサルデザインを推進する国際標準です。学校で、職場で、地域で、図書館で、そしてネット上で、いつでもどこでもDAISYがあれば読みに困難があっても学習ができる、情報が得られる、世界のが広げられる、自分の意見をもって参加できる、そういう標準であります。

ずっと規格の開発作業を進めてきておりまして、今日もたくさんご注文が出ました。ゆっくり再生、表示と音声のシンクロがずれているとか。そういう、今はまだできないけれどもぜひやりたいということの中に、たくさんの機能があります。それについてちょっと触れたいと思います。

パネルディスカッションの講師

ルビ、これは日本固有のもので、これまでのスタンダードには入っていませんでしたが、近々DAISY4の中で実現します。規格になります。

読み。これはルビとはちょっと違って、このつづりをこういうふうに読ませたいというのをシンセサンザーに指示するためのもので、DAISY4規格及びその後に実現するということで要求を出してありますし、さらに固めていこうと思っています。

数式。これはでき上がりました。この後でデモをさせていただきたいと思います。規格としてはでき上がっています。

それから図表。これはかなり難物です。DAISY4及びその後で完成になると思います。

地図、写真。これらはいわゆるウェブと同じでオルトテキスト(ALT TEXT)であれば、既に普及しているDAISYの2.02でも可能です。

動画。これはDAISY4で実現して、手話が使えるようになるのもDAISY4です。

インタラクティビティ。これはテストや数学の問題が合ってたら先に進むとか、そういうようなところで使いたい。あるいは折れ線グラフのどれか1本を取り出してそこのところを読み上げたいというようなときにインタラクティビティが必要になるんですが、これについてはこれから研究していこうという段階で、いつかは実現したい。DAISY4及びその後で実現しようと思っているところです。

こういうふうに、今困っていること、「これができたらいいな」ということの課題をずっと、これからの開発計画の中に入れています。

今これから、ここまでできましたということをデモをします。まだあまり皆さんがご覧になってないDAISYの使い方だと思います。

DAISY3規格でDAISYコンテンツをアメリカで作っている「gh Player*」は、250ドルぐらい、3万円弱ぐらいですかね、それと日本語の合成音声エンジン、ドキュメントトーカで再生します。コンテンツを製作したのはNPO法人支援技術開発機構の研究員の濱田麻邑さんです。この開発は、九州大学、日本大学とNPO法人支援技術開発機構でチームを組んで現在進めています。

九州大学の鈴木先生は今日いらしてますし、日本大学の山口先生も今日いらしています。それそれでは短時間ですが濱田さんにこの成果のデモをお願いいたします。

http://www.gh-accessibility.com/products/ghplayer

濱田●再生デモ

(gh Playerという再生ソフトを使って中学1年生の数学ⅠのDAISY版を合成音声で再生)

河村●

今ご覧いただいたのは、今、日本語化を進めているので、来年このような機会があったときには日本語で皆さんにお示しできると思います。

言いたいことは、このような規格としてのDAISYというものを開発を進めることで、DAISYに対応しているプレイヤーが、みんなその規格にならって一緒に前に進んでいくと、いろんなプレイヤーが自分で別々に開発しなくても、数式も読めるようになっていくというところが、規格の強みだと思います。それがあるので今、世界中でいろんなメーカーの方がDAISY規格を採用しようということで、どんどんDAISY規格を採用して参入していただいております。また、皆さんがよくご存じの大手のところではグーグル、アドビ、マイクロソフトといった国際的な大企業は、みなDAISYコンソーシアムのメンバーです。そしてDAISY規格をサポートするという開発をそれぞれのソフトでやっています。

このようにして、皆さんが規格に「こういう機能がほしい」、「まだこれが足りない」というものを、DAISYコンソーシアムはどこの誰からでも要望を受け入れています。そして具体例を挙げて、全部一度には開発できないので、それが切実な緊急性の高い順番に、規格の中に取り込んでいくという開かれた規格開発のプロセスをとっているわけです。

ですから、皆さんが参加して規格を作る。自分の障害からくるニーズは、どうしてもこれが必要なんだというのはぜひ具体例を挙げていただいてそのことによって、世界中のみんながその機能を共有できるようになる。というふうな役割をやっているのが、規格としての役割です。

ですからそのような意味で、DAISY規格に合った教科書のコンテンツ製作の制度化。今、1,000万人生徒がいます。50万人ぐらい無償教科書を使用している義務教育の生徒がいます。自分では読めない教科書を渡されているわけです。無償で。その子どもたちが、自分の読めるものを選べるようにする基礎工事は、やはり無償教科書が、DAISYであるものを選べるようにするということだと思います。必要な本を選べるようにする、そういう制度。それからそれをちゃんと使えるために、先生も、家族も、さまざまな教育に携わる人たちがそれを活用するための人材養成、あるいは研修、そして今日、大変うれしく思ったんですが、たつの子のお母さん方の自分の声と、シンクロしたテキストをプレゼンしてくださって、ああいう形で、お母さんの声とテキストがあれば、お子さんも、自分のお母さんが自分をどう見ているのか、一緒に参加できますよね。自分はこうだよと発言して対話して参加ができる。皆が参加していくためのツールとして、DAISYという規格が普及することによって皆の参加ができるようになる。ここのところがもう一つ大事だと思います。

そういう意味で、これからのパネルディスカッションの中で、ぜひ先ほどのご発表を踏まえて、アメリカからの視点、アメリカと日本とどういうふうに見比べておられるのか渡部さんから伺い、さらにパネリストの皆さんからそれぞれの視点での最初の問題提起をいただいた後、コンテンツ製作の制度化をどう進めるのか、人材養成や研修はどうするのか、そして最後に、学習障害あるいはDAISYを必要とするお子さんや大人も含めて、その人たちが参加して自分たちの声を挙げていくために、DAISYはどういうふうに活用できるのか。そういったことについて、ディスカッションを行っていきたいと思います。

それでは最初にパネリストの方に登壇していただくのではなく、まず渡部テイラー美香さんにコメントをいただきたいと思います。先ほどの先生とお母さん方の発表に対して、恐らく渡部さんびっくりされていること、コメントしたいこともたくさんあると思います。では、渡部さんお願いできますか。

渡部 テイラー 美香(モンタナ大学障害学生サービス部コーディネーター)●

皆さん、こんにちは。アメリカのモンタナ大学障害学生支援部のコーディネーターをしています渡部テイラー美香と申します。よろしくお願いします。

先ほど発表された学校の先生、保護者の方、NPOの方の報告を聞いてまず驚いたことは、日本では代替図書を学校が組織として提供することがまだ出来てないために、保護者が代替図書を作っているということです。アメリカでは、障害のある生徒が使えるアクセシブルな図書を学校が責任を持って提供しなくてはならないので、学校が親に代替図書製作を任せるということになると、学校の無責任さが問われ、大問題になる。アクセシブルな教科書を提供するのは学校の責任です。障害のある子供たちの教育を受ける権利がしっかり守られ始めたのは30年以上も前になるので、アメリカの情況は日本と比べて進歩しているのかもしれません。親が障害のある子供のために、学校で利用されている代替図書を作っているという、弛まない努力に感心すると同時に、早急にアクセシブルな教科書の配布に関する体制を日本は作っていかなければと思います。

河村●

初対面の方もいらっしゃると思うので、渡部さんが普段アメリカでなさっているお仕事をちょっとご紹介いただけますか?

渡部●

わかりました。私の職業名はコーディネーターです。コーディネーターってどんな仕事かという話を少しします。障害を持つ学生が合理的配慮として高等教育たる大学で、バリアを排除するための合理的配慮を提供するのが私のオフィスです。障害学生が私のオフィスに来て、コーディネーターと対面をして、障害から起こるというとおかしいんですが、社会がバリアをいっぱい作っていますので、それを除くためにどういう合理的配慮が必要かというのを学生と相談する役目をしています。そして、合理的配慮を私たちのオフィスが提供する。具体的に言うと、今日のテーマでもある代替図書を提供していますし、手話通訳、ノートテイカー、そして試験の配慮とか、そういうものを提供しているオフィスです。

障害学生が大学で就学する際、教員とのコミュニケーションがとても重要になります。学生の中には、教員に合理的配慮をお願いしているんだけれどもなかなかうまくいかないから相談に乗って欲しいという学生もいます。教員へのアプローチの仕方などのアドバイスも学生にしています。また、教員からの授業をどのように行うとアクセシブルになるかという相談にも対応しています。

河村●

ありがとうございました。もう少し代替図書とは何と何で、それはどんな支援を必要とする学生さんが使っておられるのか、もうちょっと補足いただいていいですか?

渡部●

代替図書を利用している学生の障害の種類はいろいろです。例えば、視覚、発達障害、身体障害、精神障害。障害の種類に関わらず、障害により印刷された情報を利用することが困難な学生に、代替教科書を障害学生支援部で提供しています。代替教科書の種類はいろいろなフォーマットがあります。例えば、点字、テキストフォーマット、DAISYフォーマット、英語でいう「リーダー」を使っての対面朗読。先ほど河村さんと濱田さんが見せてくださった数学の話になるんですが、高度な物理や生物、数学を学んでいる大学生に、デジタル化した代替図書を提供することが、モンタナ大学で現在困っているところです。あまりに高度な公式や記号が書かれてあると、ソフトを使っての読み上げが難しい。その場合は、知識のある大学院生などにリーダーになってもらい、対面朗読をして代替図書を提供してます。

代替図書に関してアメリカの良い点は、DAISYを含む代替図書を提供する団体がいくつか存在していることです。例えばレコーディング・フォー・ブラインド・アンド・ディスレクシア(Recording for the Blind & Dyslexic (RFB&D))とかブックシェア(Bookshare)という名前を皆さん聞いたことがあると思いますが、それらが一例です。学生が授業で利用している教科書の代替図書がそれらの団体にある場合は、学生がその団体に登録し、その団体のウェブサイトから代替図書を直接自分でダウンロードすることが出来ます。しかし、この2つの団体にない本もあります。その場合、特に教科書の場合は、私たちのオフィスがその教科書をスキャンしてデジタル化して、学生に提供します。去年からDAISYフォーマットも提供するようになりました。

私は、コーディネーターとして大学に勤務していますが、一方、大学院生として授業を取っています。ADHDの診断があるので、読みと理解が遅いため、代替図書入手のリクエストをして、私自身も支援技術を使いながらDAISYフォーマットを利用しています。

河村●

ありがとうございました。また後でもう一回コメントお願いしますので、席にお戻りください。今、事務局から耳打ちされたんですが、パネリスト4人全員がパワーポイントを使うと聞きましたので、順番通りです。井上さん、寺島さん、田中さん、石井さんの順でそれぞれご登壇いただきましてプレゼンテーションをお願いしたいと思います。最初に10~15分ぐらいでそれぞれのご意見を述べていただきます。

井上芳郎さんはNPO法人全国LD親の会の事務局としてご活躍です。また特にこの10年間ぐらいは、著作権法改正の障害者団体22団体で進めてまいりました障害者放送協議会の著作権委員会の委員長として粘り強く取り組みを進めてこられまして、この1月1日に改正法が施行されたとすばらしい成果を上げましたが、その中核を担ってこられた方です。それでは井上さん、よろしくお願いします。

井上 芳郎(NPO法人全国LD親の会)●

こんにちは。今ご紹介いただきました井上です。障害者放送協議会の著作権委員会委員長ですが、実は二代目でして、初代はこちらにいらっしゃる河村さんです。私がお話しするのは、DAISYのことはあまりありません。著作権法のことと教科書のことになります。

今もご紹介がありましたが、今年1月1日に著作権法が改正されました。まだ1週間ちょっとしか経っていません。私も「紅白歌合戦」が終わり、「行く年来る年」も終わり年が明けて、ああ法改正されたのだなあと、ちょっと感慨が深かったです。

著作権法改正とDAISY教科書による教育支援

資料内容1

今スライドでお見せしているのは、文化庁のウェブページに書いてあるものです。全体はこの3倍ほどあります。正しくは視覚障害者等で、「等」が抜けていますが、著作権法37条の第3項が具体的にどう変わるのかについて、文化庁としての公式解説が書いてあります。

著作権法改正(2010.1.1施行)文化庁ウェブページより

資料内容2

ポイントだけ説明しますと、今までは「視覚障害者」でしたが、それに「等」がつきまして、「視覚障害者その他の視覚による表現の認識に障害のある者」ということで、発達障害、ディスレクシアの方であるとか、とにかく何らかの理由で視覚的な認識ができない方を含むということになりました。ここには「発達障害」も挙げてありますが、法律の文言には書いてありません。その趣旨としては、具体的障害名を書いてしまうと縛られるので、とにかく広く、今まで法の適用を受けなかった方も含めようということです。

第37条 第3項関係1

資料内容3

二番目には、今までは視覚障害者のために録音図書を作る場合は、その主体が点字図書館などに限られていましたが、それが広がりました。具体的には政令で指定するのですが、暮れも押し詰まった 12月28日にやっと確定しました。公共図書館はもちろん、学校図書館、大学図書館、老人福祉施設等々、そういうところは指定される可能性があるということです。

第37条 第3項関係2

資料内容4

そして具体的には何ができるのかいうことなんですが、今までは録音図書については貸し出しだけで、その音声データの自動公衆送信、つまりインターネットで配信することまではできました。

これが改正後どうなったかというと、要するに、必要な方式で複製していいことになりました。具体的には例えば、拡大図書ですとか、音声にしてもいいし、点字に限らず触って読むものもよい。一番画期的であったのは、デジタル化も可能になったことです。先ほど来お話のマルチメディアDAISYも、きちんと認められるようになったということです。

第37条 第3項関係3

資料内容5

公共図書館でのこのようなサービスは、残念ながらまだ広がっていません。しかし私としては大いに期待しています。それから学校や大学図書館にも期待したいと思います。

ただ問題点が一つありまして、今までボランティアの方が個人レベルというかサークルレベルで努力されて来たのですが、例えば法人格等を持っていないとやりにくくなってしまいました。このことについては、今後またいろいろ交渉していく必要があると思います。

時間を巻き戻しまして2008年9月、正式には長い法律名ですが、いわゆる「教科書バリアフリー法」が施行されました。今回の法改正に先立って文科省の検定教科書に限り、デジタル化が可能になっています。この第7条に「発達障害」という言葉が書かれています。「教科用特定図書」、要するに点字教科書、拡大教科書、デジタル方式の教科書であるとか、そういうものを含むわけですが、「整備・充実を図るために必要な調査研究を推進する」とされました。それを根拠としてリハビリテーション協会では研究・調査をやっているわけです。

障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律

資料内容6

第5条2に、教科用特定図書の発行する者に対して「電磁的記録の提供を行う」とあります。電磁的記録というのはデジタルデータなんです。要するに教科書会社から文科省経由でデジタルデータを製作者に提供できる。スキャナでいちいち読み取るのは手間です。もともと教科書編集はデジタル作業ですから、その元々のデータを渡せばいい。ただこれにはいろいろと縛りがあるようです。著作権法とは直接は関係ないんですが、解決していかなければならないと思います。

教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)

資料内容7

この教科書バリアフリー法に伴って、前倒しで著作権法33条の2が改正されました。ここには「発達障害、その他の障害」と書いてあります。これはとにかく「その他の障害」ですから、とにかく教科書が読みにくい、読みづらいという方は使えますよ、複製できますよ、ということです。しかも非営利の場合は出版社に事前通知するだけでいいのです。通知はどうするかというと、教科書協会へ一括して通知することでよいようです。

著作権法 第33条の2

資料内容8

国会図書館のことで少し補足です。国会図書館には、平成14年以降の文科省検定教科書が全て納本されているそうです。今回の著作権法改正で、国会図書館では納本された本をデジタル化できることになったのです。ただ、デジタル化の中身が問題でして、画像ファイルのみという話もあったのです。いろいろ要望を出していまして、ぜひテキストデータもとってほしいということで進めています。

著作権法改正(2010.1.1施行) 第31条 第2項 関係

資料内容9

原理的には、納本された検定教科書を国会図書館でデジタル化できるんですね。補正予算も127億円ついていますので、その中の何%使えば全部できるとの試算もあるようです。去年の6月か7月の国会で、ある議員さんが質問したんですが、教科書デジタルデータの提供について、文科省と国会図書館が連携してやることを検討すると回答していました。「検討」なので、いつになるのか不明ですが。第一義的にはこれは検定教科書ですから、文科省がきっちりやってもらうのが筋だと思います。

アメリカの例では、既に国家レベルで教科書の納本段階でデジタル化し、それを各学校でニーズのある生徒さんに、点字やデジタル図書、拡大図書というように、フォーマットに変換して使えるシステムができているそうです。

ですからぜひ日本でも、技術的には十分できるわけですから、あとはお金をかけてきちんと人を充てて、やる気を持ってやれば実現するのです。著作権法のことは、一段落したと思っていますので、今後はこういう方面を解決していく必要があるかなと思っております。

Sample NIMAS Workflow

資料内容10

最後にまとめます。まず、義務教育段階では、当然、国の責任でバリアフリーな教科書を無償供与すべきです。高校も今、新政権は実質無償化と言うのでから、当然教科書は無償でやってほしいですね。それから、検定教科書だけではダメです。教科書以外にも必要な図書はいっぱいあります。今回の法改正によって、それもできるようになりましたので、バリアフリー化を進める必要があります。DAISY準拠等の教科書を普及させるためには、バラバラにいろんなところでやるのは効率が悪いので、デジタルデータを集中管理するようなネットワークを作ることで、お金の節約も人の節約もできますので普及が進むと思います。以上です。

教科書協会ホームページ画像

今後の課題

資料内容12

河村●

どうもありがとうございました。次のスピーカーは寺島彰さんです。浦和大学総合福祉学部で教鞭をとっておられますが、キャンパスで障害のある学生の積極的な受け入れと支援ということでの実践もされておられます。それでは寺島さん、お願いいたします。

井上氏配布資料

寺島 彰(浦和大学 総合福祉学部)●

どうもありがとうございます。ご紹介いただきました浦和大学の寺島と申します。よろしくお願いします。

先ほど、話をお聞きしていてびっくりしましたのは、パソコンにソフトをインストールするのにまで教育委員会の許可が必要というお話でした。私は厚生労働省関係で働いてきまして、DAISYも最初の頃から関わらせていただいています。厚生労働省はお金を出して、DAISYの読書機器を何千台も国内やアジアに配っていました。8,800台配ったんですよ。厚労省は、いろいろ批判もありますけど、懐が深いといいますか、おおらかなところがあるんじゃないかなと、話を聞いていて思いました。

高等教育における課題

資料内容13

本題に入りますが、最近、障害学生を高等教育機関が受け入れるというのはもうかなり一般化しています。独立行政法人日本学生支援機構が毎年、大学、短期大学や高等専門学校がどのくらいの障害学生を受け入れているかを調査しているんですけれども、スライドは20年度の結果です。全国1,218校にアンケートをとっていて、障害学生が1人以上在籍するのが719校。59%の学校で障害学生が学んでいます。

障害学生在籍校数

資料内容14

障害学生の数はどれぐらいかと言いますと。障害別に見ますと、視覚障害の方が646人、聴覚障害の方が1,435人、肢体不自由の方が2,231人です。障害別の割合から言うと、肢体不自由の方が一番多いのですけれども、視覚・聴覚障害の方の大学在学率は相当高いですね。発達障害の方も229人となっており、昨年度は91名だったので、1年で2.5倍ぐらいになっています。発達障害者支援法や学校教育法の改正で、高等教育機関も発達障害者を支援しなければならないということが規定された影響じゃないかと考えております。

障害学生数(障害種別)

資料内容15

支援を受けている学生はどうかというと、全障害学生数が6,235人で、支援障害学生数は3,440人ですので半分ぐらいの学生が何らかの支援を各大学で受けています。発達障害の方では、299名のうち228名が何らかのサービスを受けているということですので、この比率はほかの障害の方に比べると高くなっています。新たに高等教育機関のサービス対象になった方なので、発達障害の方に対する支援が高くなっていると思われます。

支援障害学生数(障害種別)

資料内容16

次に、教科書に着目して話してお話をさせていただきます。

私たちの大学には発達障害の方はおられるのかどうかよくわかっていません。診断書をとるというのはかなり難しいので、多分軽度の方はおられるんだと思いますが、発達障害という形で明らかに文部科学省に報告するような方はおられません。そこで、教科書について現状で問題になるのは視覚障害の方です。視覚障害の方に対する図書の提供や情報保障については、従来から量的な不足があります。例えば、私どもの大学は福祉の大学ですので、社会福祉士を養成するという目的があります。社会福祉士の資格を取得するための教科書、これは、検定教科書ではなく民間の出版社が発行している教科書が何種類かあるんですけども、それらはかなり頻繁に改訂されますが、それに録音図書やDAISYがついていっているかというと、ついていけていないんです。にもかかわらず、今年の1月末には社会福祉士の試験があるわけです。視覚障害の学生はほかの学生と同じ情報を得られない状態で試験を受けなければならないというのが実態です。量的な不足はかなり深刻なものがあります。

教科書に対するニーズの高まり

資料内容17

ただ、視覚障害はデジタル化の歴史は結構長くて、今、点字図書館ではデジタル化がDAISY規格で行われていますし、点字図書もデジタル化が既に終わっています。それには厚生労働省がお金を出していました。

そして、そういう録音図書や点字図書をネット上で交換するシステムがちゃんとあるんです。例えば、どこどこの誰がこういう本を今朗読していますということがわかるシステムができています。ないーぶネットやびぶりおネットという、視覚障害者向けの書誌情報を提供するネットがあるんです。しかし、それでも、先ほど言いましたような状態で、量的不足は否めません。

システム整備の必要性

資料内容18

それにはいろいろ理由があるんだろうと思いますけれども、量的な不足は、今後の課題ですし、ずっと課題であったわけです。

もう一つのニーズとしては、専門書への対応があります。先ほど渡部先生が言われましたように、日本でも専門書を誰に読んでもらうのかというのが課題になっています。大学院生がやっているところももちろんあるんですけれども、文部科学省が補助金を少し出しているので、そういうものを使えば、同じようなことも日本でできます。ですがいかんせん分野が相当広いので、それに十分対応できるかというと、なかなか労力の面で難しいところがあります。各大学には今、障害学生が学んでいるほとんどの大学では、障害学生支援委員会とか障害学生支援室というものは既に持っていますけれども、そういうところで十分対応できていないという実態があるんじゃないかと思います。

著作権に関する環境が整備されたので、それを活用していけば、この量的な不足をかなりカバーできるんじゃないかという期待を持っております。どのように活用していくかを、きちっと考えていく必要があるだろうというのが新しいニーズじゃないかと思っております。

最後ですが、今後の取り組みの必要性としては、多様な障害への対応ということです。さっき河村先生がお話をされましたけれども、視覚障害から始まり、発達障害、ディスレクシアの方が活用されるようになり、今後はDAISYをもっといろんなことに活用できると思われる方がおられます。例えば、第4フェーズで聴覚障害者の手話の本とか、そんなのも可能ですよね。手話を単語で区切ってデータにして登録すれば、手話の本ができると思います。そういった多様な障害への対応がまず一つ必要だろうと思います。

それから、もう一つは即時性です。実は私も以前学生を組織してDAISY図書を作るボランティアを作ったのですが、あまり役に立たなかったんです。なぜかというと、製作が遅いという問題があって、対面朗読で読んでもらった方が早いんです。そこで今は障害学生支援室で、学生に少し賃金を払って対面朗読をやってもらっているんです。これは各大学でやっていて、文部科学省から補助金が出ていますから、そのお金を使って有料で対面朗読をすることができるんです。それに頼んだ方がずっと早いのです。それともう一つは、1年生の学生を集めたので、3年生や4年生の本が読めない。でも3年生、4年生を集めると就職活動などで忙しい。卒論を書かねばならない。いろいろ難しいところが出てくるんです。

そこで、ネットワークを何とか活用できないだろうかと思います。日本国中で視覚障害者の人が対面朗読を受けているんです。でもそのデータがちっとも蓄積されてないで消えていってしまう。本人たちは録音して持っておられると思うんですけれども、でも、断片的なんですよね。本としてじゃないんです。でも、そういうものを集めると、ネットワークみたいなものができないだろうかというのを思っています。

それから、技術開発についてですが、やっぱり使いやすいというのが一番大切です。DAISYはちょっと難しいという評判が立ってしまうとなかなか消えていかない。すごく優しい取り扱いの機器開発が必要ではないかと思います。しかも、それを広報できればいいのではないか。先ほどいろんな方が言われていましたように、DAISYというのを知らない視覚障害の人が結構いると聞きました。視覚障害の人が知らないはずないなと思っていたのですが、かなり、おられるということで驚いています。多分、統合教育のためにほんとどの視覚障害の方は一般学校に入ってしまうと、障害に関する情報が入らなくなっているのかなという気がします。広報をいろんなところでしていけるようなシステムが必要だと感じています。以上で終わります。

河村●

どうもありがとうございました。続きまして、田中和美様にご登壇いただきます。元公立中学校の特別支援コーディネーターとして中学生の指導にDAISYを活用されたご経験をお持ちです。また今も、さらにご活躍のお立場からご意見をいただきます。よろしくお願いします。

田中 和美(元公立中学校特別支援教育コーディネーター)●

昨年まで大阪府の公立中学校に勤めておりました。生徒の具体的な話もしますので、所属は省かせて頂きました。

2006年に通常の学級に在籍する中2の生徒にDAISYの国語と社会を奈良DAISYの会に製作してもらって、その後、支援学級の生徒や通常学級の読み書きの苦手な生徒にも支援をお願いしました。今年度も複数生徒の支援をお願いしています。その経験と、通常学級や支援学級の担任、そして特別支援コーディネーターの経験から、マルチメディアDAISYの普及について考えてみたいと思います。

マルチメディアデイジー教科書

資料内容19

マルチメディアDAISYの教科書の効果例と言いましたけれども、中学校で効果があった例です。LDと言われた生徒は通常の学級の在籍でした。漢字の読み書きが大変苦手でした。この生徒は家庭学習で使用したのですが、彼は「DAISYはハイライトがあり、わかりやすい。読み飛ばしをしなくなったし、漢字が読めるようになってきた。DAISYは、もらうとすぐ見る」と言っていました。DAISYがきっかけで本を借りたことがあり、また、高校に行きたいということから学習意欲が上がり、希望校への進学ができました。

マルチメディアデイジー教科書の効果例

資料内容20

2人目は、広汎性発達障害の生徒です。支援学級の在籍でした。不注意もありましたがハイライトで読みがスムーズになりました。耳が大変よくて、音声が理解を大いに助けました。高校生になった彼は、出会うと「先生、DAISY、わかりやすかったですね、高校でもないですかね?」と言っています。

聴覚障害の生徒は人工内耳を入れておりました。読みと文字の細かいマッチングで、本読みと長文の内容理解に効果がありました。ルビを見て、自分は今まで間違って発音していたんだなということに気づいて漢字の読みを正しました。

それから軽度の知的障害の生徒も使用しました。画面を見ながら声を出して読む練習をしたところ、内容の理解と通常学級との連携で本読みをすることができました。逐次読みが結構スムーズになり、授業で自信をもって読むことができました。それから国語の暗唱課題もうまくいきました。何回も何回も根気よく見ることによって「枕草子」、「徒然草」、「平家物語」、「奥の細道」の冒頭暗唱をクラスの暗唱テストのときに見事にやってのけました。

これをまとめると、DAISYは、ハイライトがあること、それから目と耳という複数の感覚で学習するので、大変有効な生徒が多いと思います。特に中学校になると保護者と勉強しにくくなります。それは、自立したい時期に入るからです。このツールで読める生徒には、読みの自立が、そのまま学びの自立になります。先ほどのDAISYをもらったら直ぐに見ると LD といわれた生徒が言ったのが、いい例だと思います。

マルチメディアデイジーの利点

資料内容21

次にマルチメディアDAISYの広まりについて考えてみたいと思います。DAISY版教科書製作を奈良DAISYの会に2006年にお願いしたんですけれども、そのときの製作依頼は2名だったそうです。2009年9月、80名に増えました。その9月から文部科学省の指導で、日本障害者リハビリテーション協会がコーディネートしてマルチメディアデイジー教科書を一括管理されるということになり、現在数は375名、今も教科書の提供者数がどんどん増えていると伺っています。この広まりは有効性を示しています。

マルチメディアデイジーの広がり

資料内容22

また、マルチメディアDAISYは大変有効なので作ってみたいというニーズもあります。NPO奈良DAISYの会が企画する製作講習会は11回になり、2008年からさらに増えてきて、現在100名ほどの支援学級や通級教室の担当者、図書館関係者、大学生、ボランティアなどが受講されているそうで、DAISYが有効なツールである証明が、作りたいという広がりができていることでもいえると思います。また、大阪教育大学ではこの間伺ったところによるとマルチメディア研究会というのも発足しているようです。

でも26万と言われている読みに困難な児童・生徒のまだ0.1%です。自分に合ったものを選択してほしいんですけども、まだその存在は十分には知られていないのが現状だと思うのです。それはこれまで著作権等の問題も大きかったのでしょう。マルチメディアDAISYの利用者ニーズはもっともっとあると私は確信をしています。

それからまた、なぜ教科書かということですけれども、なんといっても教科書は優れた教材です。義務教育の保障という意味でも、教科書が読めるというのはすごく大事なことだと思います。読みが苦手なために知識や自尊感情まで低下している子どもたちがたくさんいます。このマルチメディアDAISYの使用で読みのストレスが緩和される児童・生徒にとっては、学習権の保障になります。そういう意味でも広がってほしいなと思っています。

なぜ教科書か

資料内容23

私は国語の授業をしていましたが、教材の厳選・成長過程に応じた国語力の育成ということからも、やはり教科書は優れています。マルチメディアDAISY教科書を使って読めることによって理解が進む生徒に、ぜひ利用してもらいたいと思っています。

そのためにどうしたらいいかということですけれども、今日、井上さんもおっしゃいましたけれども、改正著作権法が行われて、従来より、マルチメディアDAISYも作りやすい環境になったと思います。けれでも、どこからでもダウンロードできる環境も大切だと思うのです。また、教科書の製作ができるようになりましたが、見やすいマルチメディアDAISY教科書をぜひ作っていただきたいと思うんです。だからこれまでの丁寧な作りをしていらしたノウハウが生かされてほしい。確かなガイドラインを確立した上で集中管理して、ダウンロードする環境整備を急いでほしい。国にも援助してもらう必要があると思います。

普及に向けて

資料内容24

さて、どう普及するかです。百聞は一見にしかずと言います。まず教室で見せていただきたいと思います。子どもたちに、マルチメディアDAISYはこういうものだよというふうに体験してもらう。保護者にも伝える機会をもつといいと思います。保護者会などで全体に、あるいは個別に。例えば保護者の家庭学習の中で、「あ、わが子は読み飛ばしするな」と思う親御さんはいらっしゃると思うんです。そういう方に保護者集会で、「こういうツールがあるんですよ」とお見せしたら、うちの子に使ってみたいなと思われると思うんです。あるいは、読みに困難があるという相談があったら、特別支援コーディネーターが個別にお見せになったらどうでしょうか。小学生だったらお母さんの気づきでDAISYと出会えることもあると思います。

どう普及するか

資料内容25

それから中学校で最近こんな例があったんです。担任が「LDではないかと思うので、専門家に行ってください」と言われたそうなんです。親御さんにも若干気にかかるところがあるので大変心配されていたのです。さあ診断を受けました。すると「そうでしたか」で終わってしまう。次の手だてが学校になかったりするんです。それからもう一つ、中学生は自意識が出る時期なので、困難がわかっても、特別な支援は望まない。子どもたちの中には、「いいえ、いいです、今までこうやってきたんだから、このままでいいです」という具合に。それでそれから先の支援が進まなくなるという場合もあります。

そのとき、DAISYは温かい支援になると思うんです。そっと渡すことができるからです。「使ってみたら?」という提案は保護者への励ましや本人への励ましになります。何しろマルチメディアDAISY教科書は温かい願いのこもった歴史をもちます。その生徒の読みに応じた個別作りにその願いが伝わるからです。最初に報告した子どもたちは、その後もものすごく順調に暮らしています。

どう普及していくか

資料内容26

それ以外にも学校で特別支援コーディネーターの人たちに伝えるとか、親の会、それから教師研修会などに、あるいはLD学会などにも(既に行っていただいていると思うんですけども)あちこちで広報活動をして届けたらどうかなと思います。

今日ひょっとして「あの子に合うかも」と思われたこの会場の皆さんが届けていただくのも、このツールを待っている子どもに届くんじゃないかなと思います。

将来の展望というか、今後の展望なんですが、今日のお話の中でも随分いろんなことが進んでいて、私は聞いてちょっとワクワクしました。やはりキーワードは自立とユニバーサルデザインだと思います。自立とは、子どもたちが自分で読むということだと思います。マルチメディアDAISYは教科書にとどめてはいけないと思います。教科書の成功体験、DAISYがあったら読めたよという楽読は、今後の豊かな読書生活やもっと言うなら、人生につながっていくんじゃないかなと思います。

将来の展望

資料内容27

それから、障害ということにとどめてもいけないと思うんです。高齢化だってあります。だから、例えば国会図書館や公立図書館で書籍をマルチメディアDAISY版にして借りられるようにする、つまり、選択できるようにすることが大事だと思うんです。著作権問題もありますが、基本的に本を読む人が増えることは、出版社、著者にとっても利益になるはずだと思います。

デジタルネットワークの早期構築が望まれますが、そのためにも国の援助が欲しいと、これもまた思うところです。

最後、これから紙ではなく電子ペーパーに向かう時代になると思います。今日も携帯電話にもそういう機能が付けられそうだというのがありましたけれども、この時代にマルチメディアDAISYも乗っていく必要がある。そのためにも、本人に有効なツールに出会うこと。今、まず、マルチメディアDAISY教科書を必要な子供たちに届けたいものです。

眼鏡をかけたらよく見えるというふうに、マルチメディアならよく読めるー同じスタートラインに立つためのこの支援が、必要な人にどんどん知られ、届けられてほしい。垣根のない合理的な配慮。ユニバーサルなマルチメディアDAISYに向かうことが、これからのマルチメディアDAISYの普及にそして豊かな読書生活や仕事につながっていくのではないかなと思います。ご清聴どうもありがとうございました。

河村●

田中さん、どうもありがとうございました。それでは最後のパネリストになります、石井みどりさんです。横浜市立盲特別支援学校の図書室にお勤めです。石井さんは盲学校とろう学校、両方を経験されておられるという、非常に幅広く特別支援の子どもたちと接触をしておられる方です。それでは石井さん、よろしくお願いいたします。

石井 みどり(横浜市立盲特別支援学校 図書館)●

こんにちは。横浜の盲学校から参りました石井です。

ここに盲学校の蔵書をいろいろ並べておきました。これが「100万回生きたねこ」、買ってきた本です。これに点字のシールが貼ってあります。これは大阪の岩田さんとおっしゃる全盲のお母さんがご自分のお子さんに読み聞かせをしたいという気持ちで始められたものです。ですので点字が逆さになっていたり、文字のところに点字が貼ってあったりしたんですけれども、盲学校の場合は見えないお子さんのための絵本ですので、全部の文字を左の上から読み飛ばしがないように点字シールが貼ってあります。

100万回生きたねこの本

これは「手で読む絵本」です。いろんな素材を使って情景がわかるよう工夫したものです。これも、ただポンとお子さんに渡しただけではわかるものではないのです。ただの紙にぼろ布が貼ってあるくらいにしかわからないのですけれども、こういったものをたくさん、お母さんや周りの大人と一緒に読むことによって指から状況がわかるようになります。もちろん点字がありますが、ここに実は墨訳と言いますが、点字に墨字が書いてあります。そうすると点字が読めないお母さんも、子どもの指を触らせながら、また、点字を読めなくても絵本を楽しむことができるのです。皆さんもそうだったと思いますが、小さいときを思い起こしてください。まだ点字や文字を読めなくても、お母さんが読んでいくうちに、自分の名前の「み」を見付けて読んでいく。それと同じように点字に慣れていくことができます。

これは市販の点字だけの「100万回生きたねこ」。これはパソコンではなくて、手で点字を打ってあります。緑色の紙はちょっと厚いんですね。そうすると同じ点でも指の感触がしっかりします。それによって、初めの頃はこれで点字を読むことができます。

これは拡大されています。字の大きさがあまり浮きだっていませんが、大きさを見て下さい。

実は今年の元旦、私も、3人の先生がおっしゃったように改正著作権法が施行されることに、私は、多分この人生の中で一番すばらしい元旦を迎えました。

それから、今日は手話通訳の方、とてもすばらしい手話通訳をしてらっしゃいます。この手話がマルチメディアDAISYにつくんですよね?

私は以前ろう学校にいましたが、聞こえるお母さんが聞こえない子どもを産んでしまったときに、お子さんに絵本を読めないんです。絵本を読み聞かせできないと、子育てが楽しめないですよね。絵本を読むことによってお子さんと情動をともにできない。悲しい場面でお母さんが泣いた。でもお子さんは泣いてくれない。お子さんは言葉がわからないから、お母さんが何を言っているのかわからないのです。例えばお父さんのあぐらの中で、マルチメディアDAISYを一緒に読む。そしたらお父さんの感情もお子さんの感情も一緒にできる。こんなすばらしい絵本ってないですね。絵本の数だけマルチメディアDAISYも手話、絵本ができたらいいなと思っています。

DAISY

ここにDAISYがあります。これも、マルチメディアDAISYであって、しかもさっきどなたかおっしゃった、簡単に編集できるようになると、マルチメディアDAISYの声の部分をお母さんあるいはお父さんの声に替えられる、あるいは担任の先生の声に替えられる、そういったものができたら良いなと思っています。

実はこれだけの図書の中で売っているのは、この絵本だけです。他は全部ボランティアさんが作っています。点字を貼るのも、手で読む絵本も拡大絵本も、手で打った点字図書も、全部ボランティアさんが作っています。私どもの図書館を支援してくださっているボランティアさんは600人います。600人の皆さん、さっきおっしゃっていましたが、本当にボランティアさんは最後の部分が「妻の部分」という活動をしてくださっています。「12月末にこれが要るのよ」と申し上げると、ボランティアさんは受けてくださっちゃうんですね。時には寝る間もなく支援してくださっています。

盲学校がDAISY図書をどう使っているかと言いますと、まず、昔からあったカセットテープの代わりになるものとして、通常の録音図書として使っています。盲学校のお母さんや教員の中には「簡単に録音図書を使わないでよ」という方がいます。でも子どもって、ちゃんと読みたいとき、中身をちゃんとつかんで、自分のスピードで自分のテンポで読みたいときには点字図書になるのを待っています。でも情報を得たいという場合には、DAISY図書でいいわよ……あ、失礼しました。

実は昨日の夜、卒業生からメールが来ました。本が届いたから背表紙を切ってよと。私は、「大事な会議があるので気分を冷静にしておきたい、だからイヤよ」と言ったら、今日と明日とあさってが休みだからスキャナで読み取るので(今朝)背表紙を切ってほしい。私が学校に行きましたら、\6,000幾らと\8,000幾らの本でした。でも卒業生は、その本を読まないとこれからレポートが書けない。そういったことが、改正著作権法が施行されることによって、背表紙を切らなくてもよくなるのではないかということを期待しています。

二番目に、皆さん意外に思われるかもしれませんけど、点字をまだ速く読めない、習い立ての生徒。例えば内容を理解しておくと、点字の推測読みが可能になるんですね。点字というのは一つひとつ6つのマスを追っていくのではなく、動きの中で、動的触読文字と言います。そうするとそのお子さんの点字の触読の能力よりもちょっと早めにDAISYを再生しておくと、推測読みをしながら指の中で読んでいっているんですね。点字を、人指し指の先だけではなくて、全部の指を使って読めます。右手も左手も使って読みます。そういうときにちょっと速めにDAISYを再生しておくと、とても手助けになります。

もう一つの使い方。三番目の使い方。墨字をきちんと読めない児童・生徒。今までの発表の中にもありましたけれども、そういうお子さんはもちろんDAISY図書が有効です。

もう一つ、目の病気のために、例えば眼圧が上がってしまうとか、目が疲れてしまうとか、あまり目を酷使すると見えなくなる速度が速くなってしまうような生徒に、DAISY図書は有効です。ざっと画面を見ながらも、再生機をとめて漢字を確認することもできますので、とても有効です。

今年度8月に光村図書の国語のマルチメディアDAISYを使ったお子さんがいます。恐らく初めて、音声と文字が結びついて、今まで教科書を暗記なんて全然できなかったのですけれども、お手紙を暗記しました。しかも自分なりに感想文を書きあげました。これは画期的なことです。

子どもたちは、今までもお話がありましたけれども、パソコン世代です。遊びではなくてお勉強のためにパソコンを使えるのはこれは子ども達にとって、すごいことですね。子どもたちが「勉強してるんだ!」って使っています。

4番目に、点字も墨字も読書の手段にはならないお子さんがも在籍しています。本当に盲学校というのは、さまざまな特性のある児童・生徒がおりまして、今年度は中学部3年生に48ポイント、ゴシック体の拡大印刷をして本を読んでいる女生徒がいます。Aさんとしておきましょう。中学部の3年生ですので、B4の紙に印刷するととんでもない量になってしまうわけです。Aさんは、頁をめくることができないので、私はそれを綴じないで渡すわけです。あまり重くなってしまうので、時には家に宅急便で送ります。Aさんの部屋は、多分、読み飛ばしたB4の紙でいっぱいになってしまうのではないかと思うのですけれども、ここでDAISYが活躍するわけです。

盲学校が最初にDAISYの恩恵を受けたのでしょうけれども、DAISYの可能性がよくわかっていません。充分に検証されていない中で、ただ現象的には児童・生徒はどんどん可能性を広げていってくれているので、それを教員がどうサポートするかが課題になっています。

様々なDAISYの講習会を開いています。赴任してきた教員、あるいは地域の先生の講習会をしています。授業の中に入っていただいたり、生徒あるいは保護者に講習をしていただくこともあります。目的に合ったパソコンの使い方、あるいはDAISY再生機の使い方、スキルに合った講習を、本当に無料で、時間も何の保障もなく、横浜の盲学校はすごい坂の上にあるんですが、そこをトコトコと上がる訳ですが、私はただ、「来てよ」と言ってお願いしています。

DAISY講習会の様子

最後に申し上げておきたいことがあります。横浜の盲学校の特製のDAISY図書の紹介です。読み聞かせDAISY版というのを作っています。これは普通のDAISY図書に、同じ音源があるわけですので、始まりの部分に「何々さん、今日は何々のおばさんがお話ししますからね」といれます。それによりすっと、DAISYに入ってくれるんですね。奥付は最後にもっていってます。それからストーリーテリング付きのDAISYを作りました。それは概要や登場人物がわかっていると、聞きだめしなくても、最初に「河村」って出てきたら、この人が主人公だとわかっていればすっと物語に入っていけますよね。

それから専攻科の学生には、東洋医学の、あのわけのわからない文字を暗記用のDAISYも作っていただいています。授業を録音して、DAISYのノートを作ったりしているわけです。

先ほどから大きな課題として教科書、特に高等部の教科書についてあがっています。実際、全国の盲学校の連携はとれていません。特に高等部でDAISY図書を拒否している学校が幾つかあります。これが本当に盲学校の高等部の教科書のDAISY化の大きなネックになっています。教員が使い方を知らない、生徒に使い方を教えられられないこともありますけれども、それも大きなネックになっています。

ただ数学については、先ほどとても明るい声があったのでちょっと安心しているのですが、でもやはり当事者が何を要求しているのか。当事者が参加しないDAISY図書というのは、やはり使い勝手が悪いのではないかと思っています。

特にDAISY製作がボランティアさんの手によっているのはおかしいですよね。アメリカができていること、外国ができているのことが、なぜできないか。人とお金をつけてくれればいいわけなので、それを皆さん、何とかしようじゃないですか。

石井氏配布資料

河村●

ありがとうございました。では、時間が押し詰まっていますが、せっかくですのでパネリストの方に壇上に並んでいただきます。用意をする間も進めさせていただきます。

今、4人の方からそれぞれ今後どう進めていくのか、普及をどうしたらよいかという視点で、それぞれのお立場からのご意見、ご提言をいただきました。今日、事例報告をしてくださった先生方から、それぞれ今後の進め方について一言ずつ。最初に補足あるいは言い残したことを含めて、最大1分以内で特急でご意見をいただきたいと思います。よろしくお願いします。マイクが参りますので、荒川先生からご発表の順に1分以内で一言、今後の進め方ということでお願いいたします。

荒川●

DAISY教科書については、必要な子にはなければいけない支援ですけれども、それ以外の子にもあると便利な支援です。今は必要な子には申請をして使っていただいていますけれども、もっと気軽に広く使えるようになっていくことを私は希望しています。

河村●

ありがとうございました。それでは矢田先生、お願いします。

矢田●

私の資料の最後の紙にもあるんですけれども、通級に来ている子は非常に厳しい状況で在籍学級で過ごしていますので、在籍学級でもそれを活用すると、より効果的な学習ができる可能性があります。私のところにも希望している担任もいますので、通常学級に普及いしていくきっかけは、通級教室に通っている子どもさん、その学級担任・教科担任から進めていけると、それが一番合理的じゃないかなと思っております。

河村●

ありがとうございました。山下先生、お願いします。

山下●

発表の中にもあったんですけれども、私が意識的に、先ほど先生のご指摘もあったんですけれども、市の教育委員会に働きかけているといいますか、許可をとっているのは、実はそこが狙いかと思っています。トップダウン的に進める必要があると思っていますので、我々教員がうまく使えるようにということで、かかわり教室の先生の方からも市の教育委員会に働きかけてもらって、現場サイドからも教育委員会に「有効ですよ」と働きかけをしていくことが必要なのかなと思っています。

河村●

ありがとうございました。では牧野さん、お願いします。

牧野●

大変残念なんですが私、これから保育園に迎えにいかないとならないので、これで最後にさせていただきます。私、図書館の中で本に携わっている者でもありますので、これから図書館でも気軽にDAISYが手に取れるように内部から働きかけられたらいいなと思っています。ありがとうございました。

河村●

ありがとうございました。山中さん、お願いします。

山中●

兵庫県の学校の先生たちにどんどん知っていただくために来月、西宮市教委のコーディネーター研修に伺うことになっています。今後、兵庫県下さまざまなところでそのような機会に恵まれますよう、活動を続けていきたいと思っています。ありがとうございました。

河村●

さまざまな補強意見といいますか、アイデアがありました。ここでもう一回、先ほどお約束したように、渡部美香さんに、パネリストも含めて全体について、どういうふうにして日本で進めていったらいいかについて、何かコメントがありましたらお願いいたします。

渡部●

時間が迫ってきましたので、簡潔にいつくか要点を言わせていただきます。まず、ボランティアの人たちだけに頼って代替図書を提供する体制を変えなければならないと思います。障害のある人たちの教育を受ける権利を保護するために、DAISYを含むアクセシブルな教科書がきちんと提供できるシステムを、日本政府がきちんと資金を割り当て作っていかなくてはならないと思います。

それと、アメリカが昔失敗したことなのですが、代替図書を利用できるのは、ある一定の障害を持つ者だけと決めてしまった過去があります。読みの困難はいろんな障害から生じます。だから視覚障害、発達障害だけというようにとどめず、広い領域の障害から読みの困難が起こることを、さらに多くの人たち、いろいろな分野の人たちに啓発することが大事だと思います。そして、効率的に啓発するためには、読みの困難のある当事者たちが、情報にアクセスする権利が自分にあるのだと主張することが大事だと思います。当事者の皆さん、頑張って主張して、日本を変えていってください。

河村●

ありがとうございました。それではパネリストの方、せっかく壇上に並んでいただきましたので、先ほどのご発表の順で最初に井上さんからお願いいたします。

井上●

著作権法のことを中心に話しましたけれども、著作権のことは大体片づいたようにも言いましたが、実は片づいてはいません。細かいところで見るとまだまだ課題はいっぱいあります。ただ今回の法改正は、本当に画期的だったと思っています。最大限それを活用して、実効性のあるものにすることが必要だと思っています。法律というのは、ただ字で書いてあるだけのものですから。

それから読みの困難のある方というのは想像以上に多いわけでして、年を取ると見えづらくなる。実は私もだんだんそうなりつつあります。潜在的なニーズはそういうふうに非常に多いわけです。

昨年11月の終わりに参議院の議員会館で、ある集会を持ちました。そこで視覚障害、聴覚障害、発達障害の方や、上肢の麻痺で手が自由に動かなくて本が読めないという方もお呼びし、実情を訴えていただきました。ですから今後はそういうことも必要になると思いますし、今後の著作権法改正のテーマは、「フェアユース」ということになります。日本語では「公正な利用」ということですが、法律で細かく逐一条件を決めて、限定列挙でやるのでなく、とにかく著作物を利用する理由がフェアであれば、いいじゃないかということです。これは著作権者側に言わせると、ととんでもないという意見もあるのですが、今後はそういう課題になっています。ですからそっちの方もしっかりやっていかないといけないなと思っています。

河村●

それでは田中さん、よろしくお願いします。

田中●

たくさんの人が今日も熱心に聞いていただいて、何かすごく明るいというか、うれしい感じがしました。私も出会ったDAISYを、また他の人にも伝えていきたいと思います。駅か何かで出会ったら、子どもたちが、例えば「何読んでるの?」と言ったら「マルチメディアDAISYで読んでんねん」とか、「DAISYで本を読んでんねん」というような時代が来て、自由にいろんな人が(線を引く必要はないと思うんです)わかりやすくて使える人がどんどん使うような、そういう豊かなことを認め合える社会になったらいいなと思います。どうもありがとうございました

河村●

ありがとうございました。寺島さん、お願いします。

寺島●

著作権法の改正は本当に画期的だと思います。これから数年間はこれをいかに活用するかを考えたらどうかなと思います。一つは、公共図書館が作れるようになったのはすごいことだと思いますが、そういうところを、ネットワークでいかにつないでいければいいかというところだと思います。

それからもう一つは、出版社から直接データをもらえるようになっています。とりあえず教科書だけですけれでも、その部分をもうちょっと発展させていければと思います。

3つ目は、国会図書館が自由にそれをデジタル化できるのです。

この三つは、今後5~10年で、活用したいところだなと思っています。

石井●

実は申し上げることがなくなってしまったのですが、ボランティアさんの専門性というのは、本当にすばらしいんですね。ですのでお金がついたときに、この専門性をどこかで全国のものとしていただきたい。それが一点です。

それともう一つ、教育委員会に対して、横浜市の場合本当に幸運なことに、特別支援教育課の相談室長が、実は現場でマルチメディアの使い手だったんですね。これは横浜市にとってとてもありがたいことです。

最後に、盲学校の足並みが揃っていません。これは私はとても恥ずかしいと思うことです。ここで言えないくらい恥ずかしいのですが、当事者が結束して要求を出さないでどうするとも思っております。私たちが使うマルチメディアDAISY、DAISY図書が、自分たちが欲しいものができないかもしれない。そこでやはり盲学校の足並みが大事だと思います。

河村●

ありがとうございました。私からも一言、付け加えさせていただいてディスカッションの締めにさせていただきたいと思います。

今、たくさんご提案がありました。みんなそのとおりだと思います。それで、もう一つ重要なことは、実は著作権法が変わってチャンスが増えたというのは制度の上だけのことでして、実態からいくと、一番権限もあり予算もあるところが、やる気を示しているのかどうかというところが実は問題なんです。

今日からでもやれるというところが本当にやろうと思っているのか。身近にある国会図書館、公共図書館含めて、学校図書館も大学図書館もそうです。制度的なバリアがなくなったのに、そういったところが本当に準備ができているのかなという辺りが一つのカギだと思います。

そう言いながら、これまで必死に支えてきたボランティアグループには何の権限も保障されていません。新しい著作権法を活用して今日からやれるという状態になっていません。これがもう一つの大問題だと思います。

今まで支えてきた団体が自由にダウンロードして配信できる、それが実現できていないんです。ですからここの部分が完全に逆立ちしていますので、大変大きな成果ではありますが、もう一回、この逆立ち状態をひっくり返さないと、本当に有効には活用できない。そのためにはお金も必要だし、本人たちの声が何よりも決め手だと思います。

一番重要なのは、DAISYと出会いを必要としている本人たちに、DAISYがあることがわかってないし、本当にごく少数の人しか、著作権法が変わってどんなチャンスが増えたのかが理解できてない。そこのところをどうやってつないでいくのかがキーポイントだと思います。

本当に必要とする人たちが、「これが自分が必要なんだ」という声を上げれば、世の中は変わるんだろうと思います。

もう一つ、本当に必要な人たちに情報が伝えられていない最たるものを最近発見しましてびっくりしました。総務省で新世代ネットワークという議論をずっとやっています。新世代ネットワークって皆さん、聞いたことありますか? あまりピンとこないですよね。これから15~20年先の日本のネットワークインフラをどうしようかという、非常に壮大な議論をやっているんです。その目的が、なんと社会問題を解決するためのネットワークだという位置づけになっています。ヨーロッパで言うと、e-Inclusionという言い方があります。ICTを活用して世の中のさまざまなこれまで社会参加できない人が社会参加できる社会を作る、これがヨーロッパのe-Inclusionです。その中には障害者も高齢者も少数言語の人もみんな入っているわけです。この新世代ネットワーク技術戦略中間報告書というものをダウンロードしてまざまざとタイトルを見ました。英語のタイトルが最初に来ます。「Diversity & Inclusion」というのかタイトルです。多様性とインクルージョンというのが英語のタイトルです。それが日本語のタイトルでは「新世代ネットワークの技術戦略」。これほど中身を国民に知らせないで、ものすごく重要な基幹的議論をしている例をなかなか見ることは難しいと思います。先ほどから、ネットワークでダウンロードできたらいいのにと随分語られているんですけれども、この新世代ネットワークの技術戦略のどこにそういう願いが反映できているのか。今、問題を抱えている人たちが問題を出し、参加する場所が本当に作られて政府の次の15~20年先の戦略議論になっているのか。

これは一例です。こういったところが随所にあるわけです。ですから私たちは、本人たちが声をあげるのがものすごく大事ですけれども、やはりこういうものに情報知識としてきちんとアクセスできるようにしていく活動も、まず第一にやらなきゃいけないのかなと思います。中身を読むのはわかりにいし難しいのです。だけどこれが社会問題を解決するんだという基本戦略になっている以上、これをきちんと、私たちの社会問題、私の問題をどうするんだというのを抱えている人たち一人ひとりが参加できる、議論できる社会にしていく。そういう展望を持って、DAISYがあらゆるところで必要な人みんなが使えるようにすることが必要なのではないかと思った次第です。

皆さん、パネルディスカッション、ありがとうございました。私、皆さんの意見に聞き惚れて、時間管理を忘れてすみません。ではここで、総合司会に返させていただきます。