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第3回アジア太平洋CBR会議

ジェンダーの観点からの、地域に根ざしたリハビリテーションの評価

Ummul Kher
インド ニューデリー

地域に根ざしたリハビリテーションのコンセプトは、障害のある人々にリハビリテーションを提供するため1970年代に世界保健機関によって開発された。

著しい格差と、医療ケア分野の官僚システムが複雑であることから、最も困窮した人々の玄関先まで医療ケアの恩恵を届けるために、WHOは中央集権でないシステムであるCBRを開発した。

CBRモデルはWHOのプライマリヘルスケアモデル(MHC)に影響を受けており、地域で利用可能な資源と人を使用すること、より低いコストでより効率よく基本的なリハビリテーションと医療サービスを提供することを目指している。

このようにCBRのアイデアは、1978年にソビエト連邦(当時)のアルマ・アタで開催されたプライマリヘルスケア国際会議で出現したものである。

CBRの開始時には、障害のある国民に施設での医療およびリハビリテーション施設を提供できるだけの資源を十分に持たない発展途上国にとって希望の光であると考えられていた。

それから30年が経過し、CBRは医療モデルに基づいたリハビリテーションから、人権に重点を置いたより包括的なモデルへと進化した。

しかしジェンダーに中立的なCBRのデザインは、男性支配がほとんどである地域コミュニティの文化のなかで、あまり良い手法として広まっていない。

文化に配慮する性質はCBRの特長のひとつだと考えられている。

CBRは地域の人々になじみのない、外国での障害に対する理解の仕方を押しつけるのではなく、その地域の文化での障害の捉え方を理解するようにし、それに従ってプロジェクトを設計するようにした。

CBRプログラムの人材は、地域の文化を理解しているだけでなく、地域が永続し持続するために不可欠な一員でもある地域のコミュニティのメンバーから調達された。

そしてここから問題が始まった。

CBRはジェンダーの公正について、次のような社会で公に問題にすることに失敗してきた。女性がいまだ二流市民として扱われる社会、女性がベールを被る習慣のために彼女たちの移動が厳しく制限される社会、産んだ男の子の数によって女性の価値が決められる社会、賃金の支払われない奴隷として結婚が決められ女性がしばしば家庭内暴力にさらされる社会、障害のある女性の多くがいまだ文盲で家に閉じ込められる社会。

とりわけ南アジアで、CBRは地域の上位の社会階層、途上国のエリートの男性の支配権に屈服してきた。

障害運動のなかでフェミニストの障害学者は何度も次のように指摘してきた。アクセシビリティ、雇用、政策提言、リハビリテーション等が男性のもので、そのため早急に注意されるべき要素だと考えられている一方で、関係性、結婚、家族、技術の向上、エンパワメントなどはより女性的で、時間を消費するもので、他の深刻な要素が解決されるまで待てる要素であると考えられてきたと。

結婚、家族生活、ソフト面の技術向上がアクセシビリティや政策提言などと同様に重要だということに論争はないのだが、当分の間、CBRとCBRマトリックスの適用にこの理解の仕方を借りるとすれば、これらハード面とソフト面の要素との間で健全なバランスをとることが、CBRプログラムを必ずジェンダーに配慮したものとするための唯一の方法であると理解が必要である。

多くのCBRの実践が失敗した原因を理解するために地域の文化的な特質をバランスの取れた方法で理解することが必要不可欠である。

発展途上国での女性の役割は2つの要素がある。

まず労働集約型の社会では、たくさん子どもを産むこと、特に男の子を産むことが期待される。

しかし障害のある女性は結婚に適していると考えられていない。それは障害のある人々、特に女性からは障害のある子どもが生まれると広く信じられているためである。

次に、障害のある人々は性とは関係がなく、生殖能力がないと考えられている。

彼らは身体的な欲求がない聖人と考えられるか、性欲過剰で性的に渇望していると考えられている。

今も性がタブーである社会では障害のある人々、特に女性は、性的なニーズを完全に否定され、社会で尊重されない。

この問題を解決するため、CBRマトリックスは関係性、結婚、家族の要素を備えている。

机上だけでなく実際に実践の効果を出すために唯一必要なことは、この要素を優先することである。

次に、発展途上国での経済活動での女性の役割は大変大きい。これは家族が暮らしていくための収入をひとりで得なければならないこともあるためである。

障害のある女性はたいてい経済的な生産能力がないとみなされ、ジェンダーと身体的な機能障害が二重に危険な状況を作りだし、ジェンダーにおいても経済的な面おいても彼女たちの能力が制限される。

多産、栄養不良、重労働、事故等で女性が障害者になると、結婚生活を続けられない場合が多い。

障害者になった女性は離婚される割合が大変高く、たいていの場合家族から見捨てられる。

障害のある女性は結婚に適さないとみなされているが、皮肉にもレイプ、強姦の被害に遭いやすい。多くの場合、加害者は彼女たちの知り合いである。

女性は家族の名誉と考えられるため、強姦が発生するとさらに教育やリハビリテーションを受けたり、移動する機会が減少してしまう。

障害のある女性は四方を家の壁に閉じ込められ、あまりコミュニティ内を移動する自由がなく、有意義な社会的交流をする自由がなく、補助具やリハビリテーションを利用できない。

CBRプログラムは、補助具とリハビリテーションサービスの恩恵が、家屋の壁によって制限されず、障害のある女性が経済的に自立し、社会的に尊重されるように確実に供給しなければならない。

たいていの世帯では、家族の間で平等に資源が分配されていない。

家族のなかでは男性のメンバーが一番栄養を取り、教育やそのほかの設備を利用している。女性のメンバーは男性の余り物で満足している。

頻繁に妊娠したり、子どもや家族を優先して必要な栄養を数年取り続けない状態が続くと、重労働とあいまって出産時に死亡したり、貧血になったり、老齢の前に重篤な障害を負ったりする場合が多い。

教育を受けていない助産師による出産は、生命を脅かす感染症を引き起こし、障害もしくは死に至る場合が多く見られる。

CBRプログラムは、容易に入手できる高価でない栄養源、月経時の衛生、産前産後の疾病等の予防方法について、女性を教育する役割を率先して担うべきである。

新生児と母親の障害や死亡を減らす、適切かつ安全な方法を助産師に教育するCBRプログラムを、どのコミュニティでも実施すべきである。 

最近、酸をかける攻撃が世界の多くの地域で大幅に増加しているが、

女性への攻撃は南アジア諸国での憂慮すべき傾向である。

酸をかける攻撃では酸や他の有害な物質が、見た目を醜くしたり、障害を負わせたり、重傷を負わせる目的で、人の体、特に顔面に投げかけられる。

皮膚組織が重篤な火傷を負う結果、しばしば組織が露出する。骨組織が露出してしまう場合もある。

酸攻撃の生存者は盲目になることも多く、顔や体にむごい瘢痕が残る。

CBRは世論形成や、コミュニケーション、コミュニティの動員という手段によって、このような事件を防ぐ重要な役割を果たすことができる。

酸攻撃で障害を負ったケースは、他の障害とは異なる特徴がある。

政府は苦痛で時間がかかる官僚的な書類申請作業の後にわずかな補償しか支給しない。

また社会的なサポートが欠如しているため、酸攻撃の生存者は孤立してしまう。

酸攻撃の生存者のリハビリテーションにおけるCBRの重要な役割は、このような孤立を埋めることである。

一般的に、CBRプログラムで技術者、カウンセラー、トレーナーとして男性が雇用される割合が高い。このことで、リハビリテーションサービスを必要とする障害のある女性が、CBRプログラムへアクセスしにくくなっている。

CBRプランナーがリハビリテーションワークと啓蒙活動、ジェンダーに配慮した態度の構築との間でバランスを取るべき時期がきている。これは女性障害者が社会に完全に受け入れられ、CBRプログラムのトレーナー、ワーカー、マネージャーとして重要な役割を果たせるようにするためである。

CBRモデルはただひとつではなく、どこでも受け入れられるCBR手法はあり得ず、コミュニティはすべて同じではない。

コミュニティのレベルですべての意志決定をするのは良くないという事を、認識することが重要である。

CBRのボトムアップの取り組みは、必要な場合にはトップダウンアプローチで規制され、監視されなければならない。これは、伝統的な習慣や信条を支持し地域コミュニティを愛することが、理性的な行動、機会均等の必要性、社会正義を圧倒してしまうことを防ぐためである。

政府と関連省庁はCBRプログラムに参加しなければならない。

参加の程度はコミュニティや国家によって違って良い。

たいてい女性障害者の問題は障害運動で無視されている。ほぼ全てのNGOや団体、大きな組織のリーダーが男性であり、障害運動は男性が支配する場であることが、女性障害者の障害運動を減らしている。

障害のある女性の問題は女性団体によってさえ挙げられていない状況である。これは障害のある女性のニーズは他の女性のニーズとは異なるものであるという誤った捉え方がされているためである。

彼女たちに障害があるということが、彼女たちを女性だと受け入れるということよりも、優先して考えられている。

CBRは障害と女性団体との間のミッシング・リンクになりうる。障害のある女性に働きかけることで彼女たちが自身の権利に対して敏感になり、女性障害者たちが障害者であることと女性であることの両方の適切な代表者になることができれば、このことが可能になる。

障害のある女性のエンパワメントについては、彼女たちの政治参加と、意志決定において積極的な役割を担うことが、最重要条件である。

障害のある女性が自立して生計を立てるという夢が実現に近づくよう、彼女たちのスキル向上が強調されるべきである。

長年CBRのコンポーネントのうち、保健の活動にエネルギーが投入されてきた。徐々に 教育、生計、社会に力が入れられるようになり、エンパワメントが順番の最後にきていた。

しかし今、このCBRマトリックスの順番を逆にすべき時である。

エンパワメントを最もフォーカスを当て最初に取り組む重要なコンポーネントと位置づけて、

スキル向上からアドボカシー、コミュニケーションとコミュニティの動員からCBRを開始することにより、障害のある人々がリハビリテーションの受益者にとどまるのではなく、自身の将来を切り開くよう積極的に参加することが可能になるように。


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