本章では、サービス利用計画作成費の利用実績が高い地域に対して実施したヒアリング調査の結果を報告する。
ヒアリング調査は、委員会での検討の基礎情報となる、地域での相談支援実態を把握すること、サービス利用計画作成費の今後の給付対象範囲やその給付内容のあり方について制度運用の現場担当者から意見を把握することを目的とする。
具体的には、サービス利用計画作成費の利用実績の高い地域において、行政担当者・相談支援事業者に対し、相談支援事業及びサービス利用計画作成費の給付実態(給付対象者の障害種別・障害程度区分等の状態像、給付対象としての具体的な選定理由等)を把握するとともに、現行の給付対象範囲や給付内容のあり方について意見等を聴取する。
自治体名 | 調査日 | 対応者 |
---|---|---|
北海道帯広市 | 平成19 年12 月6 日 | 行政担当者 |
宮城県登米市 | 平成20 年1 月17 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
山梨県甲府市 | 平成19 年9 月27 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
長野県長野市 | 平成20 年1 月15 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
愛知県知多圏域 | 平成19 年9 月12 日 | 相談支援事業者 |
京都府京都市 | 平成19 年12 月14 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
大阪府大阪市 | 平成19 年10 月12 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
大阪府茨木市 | 平成19 年12 月14 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
大阪府堺市 | 平成20 年1 月8 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
山口県宇部市 | 平成19 年12 月13 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
沖縄県那覇市 | 平成20 年1 月9 日 | 行政担当者・相談支援事業者 |
①圏域の基本情報
・市町村名、人口、面積
・障害者数:手帳保持者、障害種別・障害程度区分別
・障害福祉サービスの支給決定者数:サービス別
・障害者関連サービスの整備状況
②サービス利用計画作成費の利用概況
・対象者数(推計でも可):障害種別・障害程度区分別
・支給決定者数:障害種別・障害程度区分別、支給決定理由別、支給決定期間別
・給付者数:障害種別・障害程度区分別、支給決定理由別、支給決定期間別
③相談支援の実施体制
・行政主管部署の概要:担当者の人数、職種、経験年数、専任・兼務の状況等
・委託相談支援事業者の概要:事業者数、担当者の人数、職種、相談支援従事者・サービス管理責任者研修の修了有無、経験年数、専任・兼務の状況、併設サービスの状況等
・地域自立支援協議会の概要:設置時期、構成メンバー、協議内容、指定相談支援事業者との関係
・市町村相談支援機能強化事業の概要:配置された人数、職種、経験年数、所属、専任・兼務の状況、具体的な活動内容
・地域移行や退院促進事業の取組状況
④個別ケースの相談支援・サービス利用計画の作成
・計画作成担当者:行政、委託相談支援事業者、本人の参画状況
・計画作成の具体的プロセス、業務内容、業務量、使用している様式等
・計画作成にあたっての連携先:教育関係、就労関係、医療関係(医師、訪問看護、保健所等)、住まいの確保(居住サポート等)
・計画作成の効果:施設等への入退所率、本人・家族の満足度等
・計画作成の負担:どんなケースやどのプロセスの負担感が大きいか
・サービス利用計画作成費対象者とそうでない者の異同:担当者、プロセス、業務内容、業務量、様式、連携先、効果、負担
⑤サービス利用計画作成費の利用が低調な理由、今後改善すべき事項
・給付対象範囲:
*サービスの限定(重度包括、グループホーム、ケアホーム、施設入所、自立訓練)
*施設・病院からの退所等に伴い一定期間集中的な支援が必要
*単身(家族が障害・疾病等を含む)で自らサービス事業者等との連絡調整等が困難
*重度包括支援対象者のうち重度訪問介護等の他サービスの支給決定者
*サービスの数
・人員体制:人数、資質、サービス管理責任者との役割分担
・地域資源の整備状況
・利用者・家族を取り巻く生活環境、キーパーソン
・行政・相談支援事業者のコーディネート力
・給付にいたる手続き
・相談支援にかかる費用(サービス利用計画作成費の単価)
・対象者の把握方法
・制度の周知方法
⑥その他
・サービス利用計画作成費の運用に当たり困っていること
・サービス利用計画作成費の効果的な活用に関する意見・要望
2.ヒアリングで提起されたサービス利用計画作成費の運用上の課題
先進自治体ヒアリングで共通して提起されたサービス利用計画作成費の運用上の課題は以下のとおりである。
○障害者の「相談支援」にはさまざまな定義があるため、定義によっては業務内容が 多岐にわたる(生活全体のマネジメント、個別具体的な暮らしの支援・見守り等)。
また、一般相談と個別給付としての作成費との関係も不明確である。現状では、相 談支援に関わる関係者に業務内容についての共通認識がないため、今後は、相談支 援業務としてどこまで何をすればよいか、定義を明確にする必要がある。
○相談支援業務の内容が不明確であるため、行政、委託相談支援事業者、指定相談支 援事業者、その他関係機関が、どのような役割分担と連携で相談支援を進めるべき か、担い手の議論ができていない。相談支援業務の定義を明確にした上で、業務内 容に応じた担い手を明確にする必要がある。
○相談支援の流れを俯瞰した場合、サービスの利用に結びつく前段階での支援に技術 や時間を要することが少なくないことを踏まえ、どの段階から作成費の対象とすることが適当か、検討する必要がある。
○サービスを利用する以上、相談支援業務は必ず発生するので、給付対象を限定せず サービスを利用するすべてのケースに作成費を給付することを検討する必要がある。
○障害児・者を支援するサービスが自立支援法の介護給付以外にもある(例:訓練等 給付、地方単独事業、医療、保育、教育、就労、権利擁護等)ことを踏まえ、「サ ービス利用計画作成」への給付という位置づけを再検討する必要がある。
○世帯で支援を必要とするケースのほうが相談支援の業務負担が大きい場合もあり、 自立支援の視点からも、家族の有無が条件となることについては再検討する必要がある。
○施設・病院からの退所等支援の過程をみると、退所等前の関わりが長期にわたり業務負担が大きい場合もあるので、どの時点から作成費で評価するか、客観的な判断 基準も含めて再検討する必要がある。
○三要件のいずれかに該当する複数サービスの利用者という対象者の規定が、作成費の支給決定を抑制している実態を踏まえ、対象者の範囲を再検討する必要がある。
○障害児は「地域生活移行時の支援」「単身(または家族がいても支援が期待できない)」という条件になじみづらいため、障害者とは異なる条件設定を検討する必要 がある。また、幼児期~学齢期における発達支援・療育支援に係る相談支援にも一 定の評価が必要である。
○作成費で評価する相談支援業務の内容・範囲・期間を明確にして、それにかかる諸経費を算定し、事業所の経営が安定する作成費単価を設定する必要がある。現状では、事業所が積極的に事業に参入し、作成費だけで事業所運営できる単価ではないため、作成費の需要があっても供給が不足する実態がある。
○施設・事業所のサービス管理責任者とサービス利用計画を作成する相談支援事業者の役割分担を明確化し、それに応じた報酬を担保する必要がある。
○作成費の支給状況は、障害程度区分の認定調査段階で行政が対象該否を判断するか、 申請主義か等、行政のコーディネート力に大きく左右されている。また、従来から 相談支援を着実に実施してきた自治体では、新たに作成費を支給しなくても、従来 の業務範囲で対応できるのではないかという意識もある。作成費を積極的に活用す るためには、行政のコーディネート力の向上が必要である。
○相談支援は間接サービスであるため、給付内容の透明性を確保するための方策を検 討する必要がある。透明性確保のためには事業所に書類作成等の客観的なエビデン スを求めざるを得ないが、その負担が過剰にならないよう配慮する必要がある。ま た、相談支援業務の効果を客観的に評価できる指標や適切な評価体制等を自治体ご とに整備する必要がある。
○当事者の「身近なところで気軽に相談できる相手が必要」というニーズと「より高 度で専門的な相談支援の機能が必要」というニーズの両方に対応できる相談支援体 制はどのようにあるべきか自立支援協議会等の場で協議し、その体制整備を促進す るための装置の一つとして作成費を積極的に活用する必要がある。
○サービス利用計画作成費は間接サービスで、利用者にとってのメリットが意識しに くく、利用者から積極的な利用申請が期待しにくいこと、自立支援法の制度が複雑 かつ頻繁に変更されるためサービス提供事業所も作成費について十分な知識がな いことから、利用者・事業者双方に向けて、一層の制度周知が必要である。
○相談支援が的確に行われるためには、公的サービスの基盤整備はもちろんインフォ ーマルな支援も含め、一層の地域資源の開発が不可欠である。
→ 自治体ごとのヒアリング結果の詳細はVI.資料編を参照。