パリ・スットクホルム・オスロ出張報告書

日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 野村美佐子

はじめに

2009年1月9日から17日にかけてパリ・スットクホルム・オスロの3ヶ国を以下の目的で訪問した。

  • 1)パリで開催されるIFLA/LBS(LBSは、現在、LPDと名称変更)常任委員会において、フランス、イギリス、スペイン、オランダ、フィンランド、ベルギー、ドイツ等の各国図書館における障害者の情報支援に関する聞き取り調査を行う。
  • 2)スウェーデンにおける読みやすい図書基金(Easy to Read Foundation)の活動状況取材、DAISY版義務教育教科書の製作および活用状況およびその周辺環境の調査等
  • 3)オスロのNLS(ノルウェー録音・点字図書館)で2月のDAISY関連シンポジウムにディスレクシア当事者を招聘するための打ち合わせに出席

日程は以下の通りである。

1月10日(土)

  • ParisでIFLA/LBS常任委員会2日目出席および取材
  • 場所:バランタン・アユイ協会(AVH)
  • 担当者:上記委員会委員

1月12日(月)午前

  • 7歳~15歳の生徒へのDAISY版教科書プロジェクトの聞き取り調査
  • 場所:王立点字・録音図書館
  • 担当者:Ms.Jenny Nilsson(児童図書司書)

1月12日(月)午後

  • 義務教育における代替教科書の提供を担当する機関 National Agency for Special Needs Education and Schools (SPSM)の聞き取り調査
  • 場所:TPB
  • 担当者:Ms.Harriet Kowalski(製作と販売・管理部部長)、Mr. Bjorn Nyqust (ICT コーディネータ)

1月13日(火)午後

  • DAISY関連ツールについてのTPBの開発状況
  • 場所:TPB
  • 担当者:Mr.Kjell Hansson, Mr. Markus Gylling

1月14日(水)午前

  • 読みやすい図書ガイドラインに関する会合
  • 場所:Radisson SAS Royal Viking Hotel
  • 担当者:Mr. Bror Tronbake (読みやすい図書基金所長)

1月14日(水)午後

  • DAISY版教科書プロジェクトの実施者に聞き取り調査
  • 場所:Radisson SAS Royal Viking Hotel
  • 担当者:Ms. Anita Hilden(レークニィッタン(Leknyttan)教育社)

1月15日(木)午後

  • 2月の京都でのシンポジウムに招待予定のディスレクシア当事者、Ms. Mai-Linn Holdtに取材
  • 場所:Norwegian Library of Talking Books and Braille

上記の予定で調査および取材を行い、日本における障害者の情報支援およびDAISY版教科書製作の活動に参考となる情報を得ることができたので、訪問した国ごとに報告を行う。

パリでの各国図書館における障害者情報支援の調査結果

王立点字・録音図書館(TPB)スウェーデン

スウェーデンのではマルチメディアDAISY図書の製作が始まり、現在300タイトルが完成している。そのためのプロジェクトについてはスットクホルム訪問の報告の中で詳細に触れる。2008年の10月から、2つの大学と1つの単科大学が関わって、学生による直接ダウンロードに向けたプロジェクトが始まった。

ドイツ

2008年後半に点字楽譜に関するシンポジウムを開催した。その際のプレゼンと資料は、www.dzb.de/bachに掲載している。また楽譜を点字に点字を楽譜に変換するソフトウェアを開発した。ドイツにおいてはArgonというドイツの大手出版会社が商業用音声コンテンツをDAISYに変換した100タイトルを一般市場で販売する予定だそうだ。

南アフリカ点字図書館 南アフリカ

南アフリカ点字図書館では、それぞれの出版社との合意書を作成して、個人に対してサービスを行えるようコピーライトが免除されることが可能となった。12月8日には、障害者部門におけるDAISYのイニシアチブが始まり、南アフリカの11の言語でのエイズに関するマニュアルが完成した。

セリア(CELIA):フィンランド

フィンランドの出版社と交渉して99パーセントの電子ファイルを手に入れることが可能になり、DAISY製作を依頼ベースで行っている。ロシアと共同でさわる本を作成し、ロシアのMurmanskでさわる本のワークショップを開催する予定である。セリアの利用者が増加していて15,000人になり、毎月200から350人の利用者が増えている。

Luisterpunt 点字図書館: ベルギー、フランダー地域

2つの点字図書館がフランダー地域レベルでサービスを提供するために統合した。製作と図書館機能が分離した。図書館は、オーディオブックを製作することはなくなり、製作者から買うために国が資金提供をおこなう。このことは図書館にとって市場開発と推進の多くの機会となっている。300ある公共図書館は、Luisterpuntにより提供されるDAISYを利用している。また国は、老人ホームがそれぞれDAISY再生機を所有する上での経費を負担している。現在までに、約2,000台が購入されている。

バランタン・アユイ協会(AVH) フランス

ルイブレイル生誕100年の記念会議を開催した。また新しい図書館がオープンした。著作権が変わり、前もって許可が必要なくなったが、実施する上においてファイルのフォーマットに関わる問題があり解決していかなければならないと考えている。グローバル・ライブラリーの構築のためのプロジェクトに関してカナダの点字図書館であるCNIBと作業を行っている。また2人の盲人が司書の資格を得ることができた。

王立盲人援護協会(RNIB) イギリス

今後3年間の高レベル戦略を構築した。最近の古いDAISY再生機を新しくするプロジェクトで19,000台が発注された。イギリスでは2つの点字図書館が一緒になったので、更にその調整を必要としている。

デディコン(Dedicon) オランダ

デディコンでは、今後、ビジネスを行う組織にしていくために、内部の変革を始めている。外部のコンサルタントが雇われ、予算の1部はそのために使われる。またその他の予算は、革新的なプロジェクト、オンラインや電話でのサービス、コンテントのストリーミングサービスなどに使用される。更に、テキストと音声のハイブリッド図書(電子図書)を製作するというパイロットプロジェクトを出版会社と行った。DAISY再生機をベースにした再生ソフト、AMISが出版会社の学校を対象とした販売図書に組み込まれている。

DBB(デンマーク点字図書館): デンマーク

図書館の名前は新しく「Nota」と変更し、公式には2009年の4月から使用する。リクエストに応じたデジタル図書の製作を行っており、今後4年間の新しい合意を文化省と締結し、目的とビジョンが合えば、助成が増えていくそうだ。利用者が視覚障害者に次いで多いグループはディスレクシアである。また児童と青年に対して図書館サービスを行う。DBBのサービスを推進するためにサービスを利用したことのない人達を対象としてMP3フォーマットのCDを配布している。ウェブ上でのDAISYのストリーミングが可能となるポータルサイト(E17)の運用開始をはじめる予定だそうだ。また、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、そしてアイスランドの点字図書館と共に、グローバル・ライブラリのミニ版となるパイロットプロジェクトを行っている。

日本におけるDAISYの取り組みについても報告をする機会があり、報告を行った。日本障害者リハビリテーション協会は、国から助成を受けて、ディスレクシアキャンペーン事業を行い、DAISYのセミナーや展示の開催、小・中学の通常の教科書を利用できない生徒の希望に応じてDAISY版教科書の製作・提供を行ったことを話した。また2008年には、教科書に関わる著作権の改正により、ニーズに応じたDAISYの複製が許諾なしに可能となったこと、更に、2009年度より教科書出版会社からデータが提供され、提供に関わる経費が国の負担となるが、現実にはすぐにそこまで実施されるかは疑問であることも報告した。

2月には、DAISYコンソーシアムの理事会が日本の京都で開催されるのでその日程に合わせて、理事会終了後、日本障害者リハビリテーション協会と特定非営利活動法人支援技術開発機構(ATDO)がDAISYに関わるDAISY版教科書についてのセミナーを、またATDOは地域における障害者へのインクルーシブな情報支援のシンポジウムなどを企画していることを話した。またDAISYの利用事例を集めた当協会製作の「Enjoy DAISY」という英語の字幕付きビデオを希望者に配布することを約束した。

スウェーデン 7歳~15歳の読みが困難な生徒へのDAISY版教科書プロジェクトの聞き取り調査

スウェーデン国立録音点字図書館は、2008年の春の1学期間、スウェーデンのリーディングエー市において、マルチメディアDAISY図書を製作し、学校で試してもらい、生徒たちに適合すかどうか、またどのようなものであるべきかを調査した。対象児童は読み書きが困難な7歳から15歳の普通の学校36人の生徒と養護学校の16の生徒に対して行われた。生徒のほとんどがADD(注意欠陥障害)やディスレクシアであり、発達障害(自閉症、知的障害者)の生徒もいた。実際の調査は、子共向けの教育的なソフトを扱っている ティレスエー市 レークニィッタン(Leknyttan)教育社のアニータ・ヒルデンが担当した。今回、上記調査に関わったジェニー・ニルソンとアニータ・ヒルデンにお話を聞いた。

ジェニー・ニルソンによると、調査のために図書は、6冊から7冊製作をしており、テキストと音声、そして画像を使ったマルチメディア図書である。オリジナルは出版した本となる。ストーリーは年齢に合わせてそれほど優しくないが、テキストはやさしく書かれている読みやすい図書(LL book )を利用していた。知的障害者を対象としたDAISY図書は簡単な内容である、違った声で読む、サウンドを利用するなどの工夫をしている。また写真を多く利用をしている。あるいはテキストと写真の併用を多くしている。しかしそのためのコストがとても高くなってしまったそうだ。

DAISY化においては、センテンスごとに読んだもの、パラグラフで読んだものと2種類用意をしていた。合成音声を一切試用せず、リラックスをした状態でゆっくりと読むことで読書に慣れるきっかけとした。再生ソフトはフリーのソフトウェアのAMISと有償のスウェーデン語のEasyReader(Dolphin Computer Access)を使用した。また利用方法として、マルチメディアDAISY図書を1ページずつ聞き、その後読み上げを停止し、同じ文章を自分で読み、教師に質問をするという形態を取ったということだ。

DAISY図書は、クラスで読んで貰い、利用した生徒に対してアンケートを行った。ほとんどの人が黄色い反転があるとどこを読んでいるかがわかって良いという結果を得た。また基本的に原本と同じにしたが、絵が先にきてその説明が後にあるほうが良いという希望も合ったそうだ。日本でも教科書について同じような希望を言ってきた生徒がいたので、今後の課題として考えたい。

前述のアニータにもインタビューを行った。マルチメディアDAISY図書は、先生から読書トレーニングに効果があるというコメントをもらったと話をしている。幼児のコンピュータ使用についてお話をしているうちに、アニータさんが子共コンピュータ・プレイセンターのプロジェクトに関わっていたことがわかった。スウェーデンでは、1992年からは、2歳半から18歳までの機能障害を持つ子共達は、国内のコンピュータ・プレイセンターで遊ぶことができるようなった。スプーンがもてるようになればマウスも使用できるとして2歳半からになったそうだ。養護学校の各クラスにも少なくとも1台のコンピュータがあるそうだが、就学前に子どもたちにコンピュータでゲームを楽しんだりしてコンピュータに親しませていく。また親も引き入れていく。このプロジェクトについては、ビルギッタ・イェツバリィ氏を2003年の10月に日本障害者リハビリテーション協会主催のICTセミナー「認知・知的障害者の社会参加と情報技術」に講師として招待した。(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/031025/index.html) その打ち合わせに同年8月にスウェーデンを訪問し、その際にアニータに会ったことを思い出した。その頃から障害を持つ子どもたちへのパソコン指導、教師への支援などを前述のビルギッタと行って来たという。

尚、今回のマルチメディアDAISYプロジェクトでは、パソコンの習熟度についてDAISY図書を利用した生徒に聞いている。36人が慣れている、11人が大変慣れている、2人が慣れていないと回答をしており、多くの人がパソコンを使用していることがわかった。今後、TPBのジェニーとレークニィッタン(Leknyttan)教育社のアニータの協力を得て、DAISYマルチメディア教科書についてスウェーデンと日本の関係者で意見交換が行うことができればと考えている。

義務教育における代替教科書の提供を担当する機関、特別支援教育庁(National Agency for Special Needs Education and Schools (SPSM))の聞き取り調査

SPSMは特別支援教育のサポートの国の機関、スウェーデン特別支援教育研究機関、ろうおよび難聴のための学校が統一され、特別支援教育と特別支援学校のための教育機関として、政府のサポートをコーディネートする目的で2008年の6月に設立された。この機関の目的は、児童、障害をもつ青年および成人が質、参加、アクセシビリティ、および交友をベースとした教育を受けることを保証することであった。上記機関は、通常の教科書を利用できない障害者にEテキスト点字、少数のDAISY録音図書を製作している。自分で作成すると言うより、TPBから合成音声のDAISY図書を購買し、アクセシブルなフォーマットで印刷版の教科書を製作している企業に経済的な支援を行っている。

昨年の1月にもミーティングを持っており、今回は、SPSMからMs. Harriet Kowalski (製作と販売・管理部部長)とMr. Bjorn Nyqust (ICT コーディネーター)が参加した。SPSM側からは、DAISYコンソーシアムが進めている技術開発のプロジェクトに協力したいとの意向が示された。それを受けて、TPBのMr. Markus Gylling が、DAISYコンソーシアムにおけるDAISY関連ツールの技術開発について説明をした。更に.同行の河村宏氏がDAISYコンソーシアムの会長として、SPSMとTPBに、DAISYコンソーシアム主導の共同プロジェクトの要請を行い、今後の活動が期待されるところである。

オスロのディスレクシア当事者にDAISY利用のインタビューおよび2009年2月の京都におけるDAISY関連シンポジウムの打ち合わせ

ノルウェー録音図書・点字図書館のアーニー・シェルシュブーにミーティングの設定をお願いして、ディスレクシアの当事者、Ms. Mai-Linn Holdtとその父親に取材および日本への招待の打ち合わせを行う。彼女は現在16歳で、読むことに困難を抱えている。そのため、DAISY版教科書を使い始めたそうだ。日本のDAISY版教科書とマルチメディアDAISY図書を見せたが、彼女のDAISYの利用方法が日本とだいぶ違っていた。彼女はパソコンでDAISYの音声を聞き、その前に本のコピーを置いてテキストを目で追っていくという方法を取っていた。同行の河村氏が日本での日程、彼女が参加するシンポジウムの概要、目的などの説明を行い、質問を受けた。Ms. Mai Linの来日には父親が同行することになった。

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