第5章 取り組み事例「自立生活支援センター・ウイリー」
第2節 各ケースの記録
(1)各ケースの属性
ケースA | ケースB | ケースC | ケースD | ケースE | |
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属性 | 男性 50歳代 精神障害 双極性感情障害 |
女性 40歳代 知的障害 |
男性 40歳代 精神障害 統合失調症 |
女性 60歳代 精神障害 聴覚障害 アルコール依存 |
男性 60歳代 精神障害 高血圧症 統合失調症 |
生活歴 |
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家庭環境 |
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経済環境 |
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接点開始 利用開始 |
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利用終了後 |
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(2)各ケースの支援経過
以下、各ケースの支援経過を記載する。なお、内容は支援をしていく中で大きな変化があったポイントを記載している。矢印はその変化にもとづいた継続的な支援をさしている。
図表5-4-1 ケースAの支援経過
図表5-4-2 ケースBの支援経過
図表5-4-3 ケースCの支援経過
図表5-4-4 ケースDの支援経過
図表5-4-5 ケースEの支援経過
(3)各ケースの支援のポイント
ここでは、各ケースの支援の特徴を示す。特に、支援を実施することで生じた利用者の行動変容に着目してそのポイントを示す。
①Aケース
精神症状の悪化によって、本人の生活上に問題が起こるため、病状のコントロールが重要であり、病気の波を知る必要がある。思いつくとフラリといなくなり、目にしたものを購入してしまう。入院中も2度ほどエスケープ歴あり、病状の安定が重要課題といえる。本人が、気分的な変化として感じているものを、実際の病状の変化として受け止めていないため、本人に病気の理解を促し病状のコントロールを図ることができない。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
本ケースは自立訓練(生活訓練)宿泊型の利用開始後すぐに約1ヶ月半の入院となった。双極性感情障害のため、病状変化したときに服薬でおいつかない場合が多い。そのため、病状の安定を図るために、服薬の自己管理を目指すよりも、確実に服用していることを確認していくことを優先すべきであると判断された。また、本人自身が病状の変化に気がつきにくいため、周りの職員が本人の様子を注意し、サングラス、バンダナの位置で客観的に病状の変化のサインを見逃さないなど、変化を把握することが重要となる。加えて、医療と密に連携をとることも確認された。
②Bケース
本ケースは山中で母子2人の生活が長かったため、生活体験や社会体験の不足が見られた。このことから、様々な社会経験を積みながら、下記の目標を掲げ、日中活動を通じながら本人の希望する地域生活のスタイルの実現をめざしている。主な支援枠組みは以下の通り。
a 日常生活自立 ・日常生活動作(調理、金銭管理) ・通院支援
b 社会生活自立 ・地域生活移行
c 就労自立 ・就業意欲の向上
この他に、対人関係における距離のとり方などの課題もあり、日常的に支援者は意識しながらその都度対応している。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
母親と元の生活に戻りたいという希望を持ちつつも、時の流れの中でそれは不可能であるという現実を受け止めて、グループホームでの生活が目標となったことがターニングポイントである。食生活や金銭管理に関する、生活上必要な事柄が出来るように、具体的な練習や取り組みを目標に掲げ、継続した支援をはじめている。
③Cケース
金銭管理が困難なことが体調の悪化や社会生活の困難さを生じるため、本人ができる金銭管理の方法について指導や工夫を行っている。また、旧援護寮や当事業所での生活から新たにみられた課題(清潔保持)に対して支援を行っている。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
2度の再入院を経て、援護寮みやこ・ウイリーの利用と、グループホーム・ケアホームを活用しての地域生活への移行に希望がもてるようになった。決められた日数と金額の中で金銭管理できないことから派生する課題(人から借りる、相談なしの高額の出費や契約など)に指導、工夫を続け、結果として一定のルール(2日分の自己管理)を確立することによって、ケアホームでの生活を実現できた。「地元にグループホームがあるなら行きたい」と本人と支援者の目標が共有され、同時期に母親が亡くなったことを知ったあとは、金銭管理のルールや生活上の課題に取り組めるようになっている。
④Dケース
本ケースの特徴として、生活の組み立て、家族間の調整、断酒、金銭管理といった事柄があげられる。
アルコール依存症ではあるが、断酒ができていて、断酒継続への意欲も高い。掃除や洗濯などは、きっちり出来ていて集団での係りの仕事の遂行は問題ない。労働意欲もありながら、体力が持たないため、就労から生き甲斐、やりがいへと支援の方向性を変更した。
ただし、過干渉による対人とのトラブルが多いため、支援者がその点について話し合いを設けている。元々生活能力に問題があると思われたが、集団生活の中で係、役割の分担の仕組みが理解できないことによる対人とのトラブルが多い。
支援の中で、字が書けない、ほとんどの文字を理解していないことが判明し、知的な面の問題も浮上してくる。
⑤Eケース
怠薬による再入院後は、以下の点をウイリーでの生活の中で確認してグループホームに移行した。主な支援の内容は次のとおりである。
・通院・服薬・入浴と洗濯・日中活動
グループホームに移行後も、当事業所併設の自立訓練(生活訓練)通所型を継続して利用している。
★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント
入院時におこなわれた日常生活のアセスメントをもとにウイリーでの支援を開始したが、怠薬による再入院をきっかけに支援者間で振り返りの会議を行うことによって、ウイリーでの生活で「できること」を確認しながら自己管理を目指す支援方針に変更した。
「できていたことが時間の経過とともにできなくなる」「できる時とできない時のむらがある」というEケースの特徴が把握できたことから、確認や見守りの支援の必要性を支援者側が理解できるようになった。