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第5章 取り組み事例「自立生活支援センター・ウイリー」

第2節 各ケースの記録

(1)各ケースの属性

図表5-3 各ケースの属性
  ケースA ケースB ケースC ケースD ケースE
属性 男性 50歳代
精神障害 双極性感情障害
女性 40歳代
知的障害
男性 40歳代
精神障害 統合失調症
女性 60歳代
精神障害 聴覚障害 アルコール依存
男性 60歳代
精神障害 高血圧症 統合失調症
生活歴
  • 企業での勤務経験あり
  • 1980年(昭和55年)後半から精神科病院に入退院を繰り返す。
  • 2004年(平成16年)に退院促進事業対象者となる。
  • 2008年(平成20年)退院
  • 企業での勤務経験あり
  • 2001年(平成13年)療育手帳取得
  • 2008年(平成20年)母親入院
  • 企業での勤務経験あり
  • 2000年(平成12年)頃から精神科病院の入退院を繰り返す。
  • 2003年(平成15年)前身の援護寮入寮
  • その後症状悪化し、病院の入退院繰り返す。
  • 企業での勤務経験あり
  • 1970年代後半関東で結婚。その後家庭内問題のため、酒量が増える。
  • 1980年(昭和55年)頃入退院を繰り返す。
  • 002年(平成14年)万引きにより警察に保護されるも行方不明
  • その後保護され入院、入院中は断酒会等に参加
  • 企業での勤務経験あり
  • 1970年代より入退院を繰り返す。
  • 2007年(平成19年)より退院促進支援事業の対象者となる。
家庭環境
  • 4人兄弟 長男
  • 以前同居するも、入所後は同居困難
  • 協力的
  • 当初、母親と2人暮らし
  • 母親入院後、母親が高齢者施設入所し、同居不可能に
  • 兄弟、母親
  • 兄家族と関係悪い(金銭、暴力のため)
  • 母親月1回差入れあり
  • 夫自殺
  • 長男は過去、飲酒による様々なトラブルにより当初退院に反対。その後行方不明
  • 二男知的障害有(企業にて勤務)保護者
  • 兄の妻(保護者)
  • 実姉(他の家族は亡くなっている。)
経済環境
  • 資産あり
  • 工賃(日中活動)
  • 障害基礎年金2級
  • 貯蓄
  • 工賃(日中活動)
  • 生活保護受給
  • 工賃(日中活動)
  • 遺族厚生年金
  • 生活保護
  • 障害基礎年金2級
  • 工賃(日中活動)
接点開始
利用開始
  • 退院促進事業対象者となることで接点開始
  • 2008年(平成20年)に利用開始
  • 病院から相談支援事業所への相談
  • グループホームに移行したが、状態悪化により再入院となる。その後、2008年(平成20年)利用開始
  • 入院中は断酒会等に参加し、落ち着いていたので、退院が検討されたが、二男の同意得られず、前身の援護寮を利用
  • 2007年(平成19年)利用開始
  • 2008年(平成20年)より利用開始(一時入院による中断あり)
利用終了後
  • ケアホームに居住
  • 就労継続支援B型利用
  • ケアホームに居住
  • 地域活動支援センター利用
  • ケアホームに居住
  • グループホームに居住
  • 生活介護利用
  • グループホームに居住
  • 就労継続支援B型利用

(2)各ケースの支援経過

以下、各ケースの支援経過を記載する。なお、内容は支援をしていく中で大きな変化があったポイントを記載している。矢印はその変化にもとづいた継続的な支援をさしている。

図表5-4-1 ケースAの支援経過

図表5-4-1 ケースAの支援経過

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図表5-4-2 ケースBの支援経過

図表5-4-2 ケースBの支援経過

図表5-4-2を拡大する【PDF:85KB】

図表5-4-3 ケースCの支援経過

図表5-4-3 ケースCの支援経過

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図表5-4-4 ケースDの支援経過

図表5-4-4 ケースDの支援経過

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図表5-4-5 ケースEの支援経過

図表5-4-5 ケースEの支援経過

図表5-4-5を拡大する【PDF:78KB】

(3)各ケースの支援のポイント

ここでは、各ケースの支援の特徴を示す。特に、支援を実施することで生じた利用者の行動変容に着目してそのポイントを示す。

①Aケース

精神症状の悪化によって、本人の生活上に問題が起こるため、病状のコントロールが重要であり、病気の波を知る必要がある。思いつくとフラリといなくなり、目にしたものを購入してしまう。入院中も2度ほどエスケープ歴あり、病状の安定が重要課題といえる。本人が、気分的な変化として感じているものを、実際の病状の変化として受け止めていないため、本人に病気の理解を促し病状のコントロールを図ることができない。

★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント

本ケースは自立訓練(生活訓練)宿泊型の利用開始後すぐに約1ヶ月半の入院となった。双極性感情障害のため、病状変化したときに服薬でおいつかない場合が多い。そのため、病状の安定を図るために、服薬の自己管理を目指すよりも、確実に服用していることを確認していくことを優先すべきであると判断された。また、本人自身が病状の変化に気がつきにくいため、周りの職員が本人の様子を注意し、サングラス、バンダナの位置で客観的に病状の変化のサインを見逃さないなど、変化を把握することが重要となる。加えて、医療と密に連携をとることも確認された。

②Bケース

本ケースは山中で母子2人の生活が長かったため、生活体験や社会体験の不足が見られた。このことから、様々な社会経験を積みながら、下記の目標を掲げ、日中活動を通じながら本人の希望する地域生活のスタイルの実現をめざしている。主な支援枠組みは以下の通り。

a 日常生活自立 ・日常生活動作(調理、金銭管理) ・通院支援

b 社会生活自立 ・地域生活移行

c 就労自立 ・就業意欲の向上

この他に、対人関係における距離のとり方などの課題もあり、日常的に支援者は意識しながらその都度対応している。

★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント

母親と元の生活に戻りたいという希望を持ちつつも、時の流れの中でそれは不可能であるという現実を受け止めて、グループホームでの生活が目標となったことがターニングポイントである。食生活や金銭管理に関する、生活上必要な事柄が出来るように、具体的な練習や取り組みを目標に掲げ、継続した支援をはじめている。

③Cケース

金銭管理が困難なことが体調の悪化や社会生活の困難さを生じるため、本人ができる金銭管理の方法について指導や工夫を行っている。また、旧援護寮や当事業所での生活から新たにみられた課題(清潔保持)に対して支援を行っている。

★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント

2度の再入院を経て、援護寮みやこ・ウイリーの利用と、グループホーム・ケアホームを活用しての地域生活への移行に希望がもてるようになった。決められた日数と金額の中で金銭管理できないことから派生する課題(人から借りる、相談なしの高額の出費や契約など)に指導、工夫を続け、結果として一定のルール(2日分の自己管理)を確立することによって、ケアホームでの生活を実現できた。「地元にグループホームがあるなら行きたい」と本人と支援者の目標が共有され、同時期に母親が亡くなったことを知ったあとは、金銭管理のルールや生活上の課題に取り組めるようになっている。

④Dケース

本ケースの特徴として、生活の組み立て、家族間の調整、断酒、金銭管理といった事柄があげられる。

アルコール依存症ではあるが、断酒ができていて、断酒継続への意欲も高い。掃除や洗濯などは、きっちり出来ていて集団での係りの仕事の遂行は問題ない。労働意欲もありながら、体力が持たないため、就労から生き甲斐、やりがいへと支援の方向性を変更した。

ただし、過干渉による対人とのトラブルが多いため、支援者がその点について話し合いを設けている。元々生活能力に問題があると思われたが、集団生活の中で係、役割の分担の仕組みが理解できないことによる対人とのトラブルが多い。

支援の中で、字が書けない、ほとんどの文字を理解していないことが判明し、知的な面の問題も浮上してくる。

⑤Eケース

怠薬による再入院後は、以下の点をウイリーでの生活の中で確認してグループホームに移行した。主な支援の内容は次のとおりである。

・通院・服薬・入浴と洗濯・日中活動

グループホームに移行後も、当事業所併設の自立訓練(生活訓練)通所型を継続して利用している。

★インシデントポイント:支援していく上でのターニングポイント

入院時におこなわれた日常生活のアセスメントをもとにウイリーでの支援を開始したが、怠薬による再入院をきっかけに支援者間で振り返りの会議を行うことによって、ウイリーでの生活で「できること」を確認しながら自己管理を目指す支援方針に変更した。

「できていたことが時間の経過とともにできなくなる」「できる時とできない時のむらがある」というEケースの特徴が把握できたことから、確認や見守りの支援の必要性を支援者側が理解できるようになった。