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IFLAリヨン年次大会報告

日本障害者リハビリテーション協会情報センター 野村美佐子

はじめに

 2014年8月16日から22日にかけてリヨンで開催された第80回国際図書館連盟(IFLA)年次大会は、132か国から、3900人が参加した。この大会のテーマは、「図書館、市民、社会:知識の合流」であった。障害という視点から本会議を報告する。
 その視点から本大会で特筆すべきことは、IFLAは、8月18日に国連のポスト2015開発アジェンダ(United Nations post-2015 development agenda)の枠組みの中で情報および知識へのアクセスを保障するために、国連加盟国に「すべての人が持続可能な開発と民主的な社会の促進に必要な情報へのアクセスを持ち、これを理解し、共有できるようにすることを目的とした、2015年以降の開発課題の採用という国際的なコミットメントを示す」ことを要求し、2014年9月から2015年10月にかけて推進していく、『情報と開発に関するリヨン宣言』(注1)を発表したことである。
 2015年までのミレニアム開発目標(注2)には、障害という表現は一切なく、ポスト2015開発目標に障害者の視点を入れるべく昨年度の9月に国連において障害に関するハイレベル会議が行われた。このような動向をみると今回の宣言はとても重要であると考える。今回のIFLAの発表は、図書館の障害者の情報と知識へのアクセスを保障するための原動力としても期待したいと思う。

IFLA/LSNの常任委員会について

 私が所属する特別なニーズのある人に対する図書館サービス分科会(LSN)は、常任委員会を2回開催した。昨年、同分科会の使命をホームレスの人やディスレクシアの人と具体的に明言することについて、「これは公共図書館が行うべきことであり、本分科会がすべきでない。」との意見もあり、1年以上討議が続いた。最終的には、「現在でも公共図書館において対象者に対する図書館サービスが行われていない現状をみると同分科会においても積極的に推進していかなければならない。」とする声が圧倒的多数であったため、ミッションの変更(注3)が承認された。そのこともあって今回の委員会では、公共図書館分科会と共同でホームレスに対する図書館サービスに焦点をあて、来年、南アフリカのケープタウンで開催するIFLA大会で、セッションを行うことを決めた。また同セッションにおいては、ホームレスだけでなく、同じように社会的な弱者に対する図書館サービスとして、精神障害者や受刑者も対象とする予定で公共図書館分科会の担当委員と話し合いを進めている。

LSNによる分科会開催

 本大会でLSNが行った2つのセッションについて紹介したい。8月17日のオープニングセッションの後、開催したのが、「国連障害者の権利条約:障害者と世界中の図書館サービスの意義」をテーマとするセッションであった。約140人の参加があり、関心の高さが伺われる。国連障害者権利条約に基づき、障害者のための情報や図書館サービスのアクセスを推進していく上での図書館の役割に焦点を当てた。最初に障害者の権利の専門家および当事者として国際的に評価されている、国連障害者権利委員会の副委員長であるテレジア(Theresia Degener)が、障害者権利条約の図書館サービスへの影響について講演を行ってくれた。最初に図書館に関連する条項を説明し、今後、締約国における批准の実施をモニタリングする権利委員会について説明を行った。次に、障害者の医学モデルから社会モデルに、そして2000年からは、人権モデルへのパラダイムシフトの社会への影響を述べた。つまり、障害者をチャリティ、医学的な治療、および社会的な保護の対象として見るのではなく、権利を求め、社会における積極的な参加メンバーとして見るべきであると述べた。そしてこのような概念を持って、図書館は、権利条約を広めていく推進者となるべきであると述べた。

テレジナのプレゼンを行っている様子

「テレジナのプレゼンを行っている様子」

 彼女は、このセッションの後、9月に開催された権利委員会においては、「IFLAの会議で図書館のアクセシビリティについてこれから取り組むという約束をした。」とのことなので、今後、彼女自身が図書館との関わりの中でアクセシビリティを推進していくことが期待される。権利条約の9条のアクセシビリティについては、すでに権利委員会でどのような解釈ができるかについて討議し、その結果を「一般的意見第2号(2014)」と公表しており、その日本語訳(注4)は、DINFサイトに掲載している。  次に日本の河村宏さんのプレゼンがあった。2014年の1月に権利条約を批准をした日本において、実施していく上での図書館と図書館員の役割について話した。テレジナと同様、権利条約前と採択後における「チャリティから人権」への大きな変化があったこと、その観点から障害のある利用者と図書館員の両方における発想の転換の必要性を語っている。 2011年の東日本大震災の教訓を基に、情報へのアクセスの重要であったことを語った。そして健常者と同等のアクセスは、基本的な人権であり、図書館および図書館員の責務は、権利条約にある合理的な配慮としてアクセシブルでわかりやすい情報を提供すること、またローカル、地域、国際的なレベルでのコミュニティの障害者の参加を支援していくことであるとしている。またプレゼンの中で「Born Accessible」という英語が使われているが初めからアクセシブルであることを意味し、そのための出版のインフラもまたサポートしなければならないと述べている。結論として、2013年の障害に関するハイレベル会議で手話付きのマルチメディアで配布されたアクセシブルな成果文書を事例として見せてくれた。この文書は国連の以下のサイトからダウンロードができる。

http://www.un.org/disabilities/documents/hlmdd/daisy/readme.html

成果文書の再生が行われている様子

「成果文書の再生が行われている様子」

 次にフランスのトゥールーズ公共図書館におけるアクセシブルな政策を担当する、マリーノエル(Marie- Noëlle Andissac)の発表があった。権利条約が図書館と図書館員にとって有益な原則となると考えている。アクセシビリティ、情報への権利、文化的なイベントへの参加に関わる権利を述べ、その実践的な事例としてトゥールーズの公共図書館のサービスをあげている。たとえば、点字本、フランス語の手話本、音声解説付きの映画、アクセシブルなウェブサイトやニューズレターなど障害の特性に応じたアクセシブルなファーマットの資料を提供している。またフランス語手話による無料電話サービスも提供しており、そのための図書館員に対する障害やサービスについての研修も行っているそうだ。パリにおいては、公共図書館のネットワークがあり、それぞれのネットワークが、多数の手話本を持っており、聴覚障害者にとってアクセシブルな文化的なイベントも行っているが、これらのサービスは、権利条約に基づいていると強調した。

マリーノエルのプレゼンの様子

「マリーノエルのプレゼンの様子」

 最後の発表者は、スペインにおいて最大の視覚障害者施設である「ONCE」に所属するフランシスコ(Francisco Javier Martínez Calvo)であった。彼は、2013年6月にWIPOが主導して採択した「盲人、視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」について発表した。20カ国のWIPO締約国がそのために国内の著作権法を整備し、この条約を批准すれば、国際法となり、アクセシブルな形式の図書や資料が国境を越えて交換が可能となる。彼は、「マラケッシュ条約がプリントディスアビリティのある人のための条約だけでなく図書館や社会がよりインクルーシブで公平であることに手助けをする条約となる。」と述べた。筆者が、まだⅠ団体しか批准していないが、批准を待つのではなく、何かWIPOとしての取り組みはないのかどうかをたずねたところ、今年度より始まっているAccessible Book Consortium(ABC)(注5)の活動について取り上げ、そこにDAISYコンソーシアムや世界盲人連合(WBU)も関わっていることを述べた。

 LSN分科会のもう一つのセッションはディスレクシアの人に対する図書館のサービスについてであった。「ディスレクシア? 図書館にようこそ!」と題するセッションで、最初にヨーロッパディスレクシア協会(EDA)のアン(Anne-Marie Montarnal)が基調講演を行った。彼女の息子がディスレクシアであることから研究者としてEDAに関わり、今も積極的に関わっていることが話された。当事者の母親と研究者の立場からの講演であった。

アンのプレゼンの様子

「アンのプレゼンの様子」

 次に、ディスレクシアガイドラインプロジェクトのリーダーであるヘレン(Helle Mortensen)とサスキア(Saskia・Boets)がガイドラインとについて講演を行った。ディスレクシアガイドラインは蔵書と支援技術(機器)、スペースの活用と配架の工夫、図書館スタッフと連携、マーケティング、総合的なアプローチ、ディスレクシアの人に対する図書館サービスのヒントが満載の チェックリスト、世界の有効事例と知識ベース等の内容になっている。有効事例と知識ベースの情報は、年ごとに更新をしていく予定である。現在、最終案をIFLAに提出して、承認を待っているところである。

ヘレとサスキアのプレゼンの様子

「ヘレとサスキアのプレゼンの様子」

 スウェーデンのハイディ(Heidi Carlsson-Asplund)は、5パーセントから8パーセントと言われるスウェーデンのディスレクシアの人への図書館サービスについて語った。スウェーデンにおける対象者への図書館サービスは、日本の図書館員にとっても参考になる話であった。
 またアンと同じようにディスレクシアの息子を持つアメリカのナンシー(Nancy Bolt)は、米国の図書館におけるディスレクシアの人々へのサービスについて調査を行い、アメリカにおけるDAISYを活用した支援に注目をした発表であった。

 以上、これらのセッションの開催においては、8カ月前から始まり、スカイプでのミーティングやメーリングリストでの討議を重ねながら企画し、最適な講演者を見つけていく。また地域のバランスなどを考えながら決定していく。現在は、LSN常任委員会の委員として、次回の年次大会が行われるアフリカのケープタウンでのセッションの開催を目指し、時差に悩まされながらも連携した活動を行っている。日本の図書館員がこれらの活動に参加し、年次大会にも積極的に参加していただけることを期待したい。

1 情報へのアクセスと開発に関するリヨン宣言
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/lyon-declaration_jp.html

2 ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/mdgs/about.html

3 LSNのミッション
http://www.ifla.org/about-lsn

4 一般的意見第2号(2014年)第9条:アクセシビリティ
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/crpd_gc2_2014_article9.html

5 アクセシブル・ブック・コンソーシアム(Accessible Book Consortium)
http://www.accessiblebooksconsortium.org/portal/en/index.html