精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書
-知的障害者のQOLの向上をめざして-
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
能力開発部 野崎和子・望月 昭
目次
第1部 重度重複障害者における味覚に関する学習と食に関する問題点
- 1日あたりの食費はどのくらいですか?
- 食事の献立は、誰がどのように決めますか?
- 居住者の意見をどのような形で取り入れていますか?
- 特別な献立にはどのようなものがありますか?
- 複数献立を実施していますか?
- 複数献立について
- オヤツのシステムはどのようになっていますか?
- 飲酒の機会・飲酒する人の割合はどのくらいですか?
- 食事に関する工夫について
- 居住施設における理想的な食事とは?
はじめに
1.調査の目的
近年、知的障害者に対する施設での処遇や環境作りは、QOLという軸を以て進められることが当たり前になってきました。では具体的にQOLが向上するというのはどういうことなのか、これまでに様々な議論がありますが、大きく分けて3つの方向性が出されました。それは、本人が心理的に満足する事、物理的環境(建物や調度品など)が良くなる事、そして本人にとっての選択の機会が増える事の3つです。
我々の研究グループは、第3の「本人の選択が拡大する」方向に注目し、重複の障害や最重度の知的障害を持つ人たちが、食べ物やレジャー活動について、選択や自己決定がより円滑に行えるような設定や学習を行ってきました。特に、食べ物に関しては甘い、辛いなどの味覚表現を教え、「甘いものがほしい」等の表出を可能にするような方法を探ってきました。
一方、施設の食事でも、複数メニューの中から選択するというシステムが開始されたり、好きなものを外食するといった頻度は高まりつつあります。そうした環境の中では、本人による選択の表明や、味覚表現を用いた要求なども意味のある学習になってくるのではないかと考えています。しかし、どのくらいの施設で複数メニューが実施されているのか、どのような選択方法が採られているのか、これまで組織的な資料がありませんでした。そこで、「食生活に関するアンケート調査」を実施するに至ったわけです。
従って、この調査には2つの目的がありました。1つは、我々が行っている「重度あるいは重複の知的障害を持った人に味覚表現に関する学習を行う」研究が実際に意味のあることかどうか、またどのように発展させていくべきかについて、施設の方々に率直な評価や意見を述べていただくということです。いま1つの目的は、全国の精神薄弱者更生施設の食事に関する情報を収集分析し、複数メニューの実施については、その方法や頻度、問題点、基礎となる考え方、また特に重い障害を持つ人々の「選択」はどのように実現できるのか等を分析検討し、これからやってみようと思われている施設の方々に優れたアイデアや意見を紹介するということでした。
2.調査の概況
1992年の3月末に、全国876の精神薄弱者更生施設にアンケート調査用紙を郵送いたしました。876施設というのは、当時の精神薄弱者関係施設名簿(愛護協会編集発行)に記載された精神薄弱者更生施設の全数です。そして、同年7月までに486の施設から回答をお寄せいただきました。但し、同じ法人内にある複数の施設が一括して答えていただいたケースもあり、集計分析の対象となった数は477件です。回答形式の多くが記述タイプであり、たいへんお手数をおかけして調査にご協力いただいたことをお礼申し上げる次第です。
さらに、いくつかの施設には、電話や直接の訪問による追加調査にご協力いただきました。訪問した施設では、実際に選択メニューが行われている様子を見せていただき、かつ調査者も選択・試食させていただきました。その節はどうもありがとうございました。改めてこの場を借りて、お礼を申し上げます。
当報告では、アンケートの質問項目に沿って、グラフを中心に結果を報告いたします。結果に関して、ご意見・ご質問等ございましたら、調査の実施者までご連絡下さい(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、能力開発部第1研究室の野崎または望月、電話:0568ー88ー0811 内線3505)。
主題・副題
精神薄弱者更生施設の「食」に関する全国調査報告書:知的障害者のQOLの向上をめざして
著者名・研究者名
野崎和子・望月 昭(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
掲載雑誌名
発行者・出版社
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所能力開発部
巻数および頁数
1頁-45頁
発表年月・発行年月
1994年3月
登録する文献の種類
(3)報告書(実態調査)
情報の分野
(1)社会福祉
キーワード
文献に関する問い合わせ先
愛知県コロニー研究所能力開発部、野崎まで(電話:0568-88-0811 内線3505)