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事例報告(先生、保護者からの報告)

矢田 勝(静岡県浜松市立神久呂中学校 教諭)

浜松の神久呂中学校の通級指導教室を担当しております矢田と申します。

昨年の3月29日に神戸で、私どもの通級に来ている生徒で相当長くDAISYを使っている子の事例について報告しました。今日、野村さんの話で言われた4年目というのは多分、その子に当たるんじゃないかと思います。その子のことも報告いたしますが、現在5人ほど通級指導教室の関係で活用していますので、いろいろな意見が寄せられております。こちらの資料集もときどき使いますので、封筒に入っていると思いますがご覧いただきながら進めていきたいと思います。

DAISYを活用した特性に合わせた中学生の学習方法の研究

資料内容1

DAISYに出会ってよかったことから話します。ハイライト部分が動くので、つられて見てしまう。この子は、ADHDの傾向が非常に強くて何か珍しいものがあると、すぐに触ってみるという子なんです。そういう子が気がついたら30分から1時間近く、DAISY教科書だと読んでしまう。試しにDAISYなしで音読させようとしたら15分が限界でした。この子は、読むのが苦痛だったのです。

1.DAISYに出会ってよかったことは

資料内容2

音読スキルの問題では、勝手読み、飛ばし読みという生徒で、昨年の3月29日に報告した生徒は、まさにそのような生徒でしたが、なかなか改善しにくいところもあるんですけれども減っています。それと同時に、それ以上に効果的だったのが、何回も使っていると、内容を暗記できる。DAISY教科書で大事なのは、音読スキルを向上させるとともに、内容をいかに理解できるか。語彙力が増えてすらすらと活字情報に接することができる、自分でそれが好きになるということだと思いますけれども、それはできるようになりました。好きな本を見つけて読むようになりました。

あと特に、視覚情報に機敏に反応するというか、ハイライト部分が動くというのが、目で見ていろいろな情報に接するので、それが好きで、「好きな本は?」と聞くと、「図鑑」と言っています。そういう子にとってはイラストとともに印象深く記憶できるということが一番いいと思いました。

それから、わからない漢字の読み方を教えてもらえる。今の教科書はかなりルビが振られるようになりましたけれども、まだまだ少ないところもありますので、分からない漢字で止まってしまう。それが教えてもらえるのでよかった。読める言葉が増えてきて語彙が増えると読書好きになる。最後に、ここには書いてないですけど、成績も上がる。テストの点数もよくなったとか。中学生は小学生と違って、その辺りが敏感に反応しますので、学校の成績がよくなることが、こんなにうれしいことはないと、やはり切実な思いです。

そのこととも関連して次に、通級利用生徒の悩みという話をします。知的には遅れはないんです。フルIQでいうと100前後とか、一番高い子は115とか120ぐらいの子も通級で来ているんですけれども、成績は2、3というくらいで、え?と思うようなことがあるんですね。そういう子たちは読み取りが苦手、書き取りが苦手という。ここに書き忘れましたが、その背景に、私は聞き取りと見取りが苦手だということがあると思います。聞き取り・見取り・読み取り・書き取り、これらが苦しいので学校の勉強はなかなかうまくいかない。その背景には短期記憶の問題があると思います。すぐに忘れてしまうということです。黒板に書いてある字を見てノートに写そうとするともう忘れているということがありました。何度も注意されて、自尊感情がどんどん下がる。「やはり僕はできないんだ」とフルIQが115くらいの子が言っていますので、「そんなことはないよ」と、手立てを工夫しつつあります。

2.多くの通級利用生徒の悩み

資料内容3

普通に音読していると疲れてしまうということに対して、単調で苦しいかもしれないが、無理をさせてがんばらせる。けれども、それができない。このようなことが積み重なって授業やテストで苦戦を強いられていることになっています。

彼らが求めているのは自分の特性に合わせた学習方法だと思うのです。ではどうしたらいいのかということで、脳の特性を利用して、無理なく身につけていく工夫。勉強は苦労するものだというのも一面は真実ですけれども、その子の特性に応じて、自分はこういうやり方だったらうまくいけるってことを通級側も開発する義務があると思って取り組んでいます。できるだけ知っている内容と結びつける。最近のニュースやテレビ番組だとか、そういう子どもが興味・関心を持っている内容ですね。そして印象深い内容、えっと驚くようなことと結びつける。それから、興味ある話題。SLファンの子がいたら、それいうものに関心づけるとかします。DAISY教科書を読むときも、できるだけその子の興味を考えながらやるわけです。

3.脳の癖を利用して無理なく身に付けていく工夫とDAISY利用

資料内容4

あと、記憶にとどめるには何回も繰り返すことが必要ですけれども、単調な繰り返しでは飽きてしまいます。アレンジしながらゲーム感覚でやっていくなどします。

まずは大きく鳥の目と言っていますが、同時処理的な機能というか、物語だと全体像がわからないと部分部分を細かく読んでも何のことかわからなくなってしまうので、まずは通して読みます。その通しで読むとき、DAISY教科書はすばらしいです。

中学になると小さい文字で7~8ページの物語文とか説明文などがあります。長くて通しでは読めないのです。それがDAISY教科書だったら、気づいたら読んでしまったということになります。そういうことがあって、子どももびっくり親もびっくりで、こちらもびっくりします。

でも大事なことは順序を踏んでというか、継次処理的な配慮で虫の目で、丁寧に読んでいく。このようにDAISYなら同時処理的手法も、継次処理的な手法も両方できる。いろいろな教材で工夫しつつありますが、目・耳・体をフルに使って5回以上、アレンジしながら繰り返してやると定着していく方法を、今進めています。

そこで、3つのタイプの学習方法ということをやっています。WISCとかK-ABCで出てきますが、耳が得意な子とか、数字を逆に言ったり、一番得意な子は、7ケタを逆唱できたりするという「数唱」が得意というすごい子がいます。そういう子は音読が得意なので、DAISYが用意できていないときでも、こちらが音読テープを用意してそれを聞かせたり、自分で録音して何度も聞くということをしたりすると、それだけでもテストの点数が上がったと喜んでいました。

4.3つのタイプの学習方法

資料内容5

あと、目でイラストを見るのが得意な子、このタイプは2通りあると私は思っています。動きを追うのが得意です。K-ABCの検査では「手の動作」という下位検査で手を動かして、またやってごらんと言ってやってみると、よく覚えている子はそれが得意ということですが、動画とか動く映像が好きな子は、DAISYのハイライトの動きを追いかけるのも好きなものですから、そういうのがちょうどいいのです。バレーボール部の選手をしている通級生徒に該当する生徒がいました。

カードが好きな子がいます。K-ABCでいうと「位置探し」とか。WISCで言うと「絵画配列」みたいな検査が得意な子です。神経衰弱が得意な子や、日常生活の場面でどういうものがどういう順番で来るかカードを順番に並べるのが得意な子は、コマ割りカードで手順を示しながらの学習が得意です。DAISYの読み取り文章とイラストの対応は、彼らにはコマ割りカードのように対応するとよく分かるようです。

でも、これはDAISY製作技術の現状では難しいですよね。それを細かくアスペルガーの子は指摘します。「先生、この画面に出ている文章と絵は横に並んでるけど合ってないよ」など、難しいですね。実は、教科書自体そうなんです。私は社会科の教員でもあるものですから、教科書を見てると、ほとんど現在の教科書では、多数の写真や図表が掲載されていて資料集のようになっていますが、でもその資料と文字がうまく対応できていません。なんとか「図の何番参照」とか書いてほしいなと思います。

それから、教科書に掲載されているイラストなどを編集して掲示した教科学習用のポスターを通級指導のなかで作製し、それらをクイズにして紙風船バレーボールをやりながら体で覚えるというゲームもやっています。DAISYを使った音読学習とセットで行い、内容理解を深めたり、学習への興味付けに活用したりしています。

英語も今、活用してやっています。英文だけ聞いてもなかなか意味がわからない。まず自分の知っている日本文とどう結びつくのか、かたまりで覚えるのです。それでキーワードのカードを作って、耳と目とロールプレイで理解を確認しながらやっています。

文字を書くことによる小テストは一番最後に実施しています。やっぱり記憶したものは必ず確かめる。入力だけではなく、出力までやらなければ学習内容の定着状況が確認できません。

5.英語でDAISY活用の工夫

資料内容6

社会科についてはA問題とかB問題など、音読してもらった後、ただ「上手にできたね」じゃなくてどれだけ理解できているかというのを確認するのです。例えば、穴埋め問題がA問題であって、B問題というのはキーワードを使っての質問に論述式で答えられるかということを確かめるのです。どの程度中身がわかっているかということの確認です。「君はこれについてどう思うんだ?」と自分の意見を求めるというところまでやっております。

6.社会科歴史でのDAISY活用の工夫

資料内容7

LD周辺の子に対しての活用も進めています。自閉傾向の子どもはお守りのように使っている子がいます。不登校傾向の子も何人か来ていて、その子は英語を全く授業でやっていなくて、小学校4年から不登校で中学生までなってしまい、日本文が入っていないとDAISY教科書をそのまま使っても、「何もわかりませんでした」ということになっています。さらに、外国籍の子。浜松の場合はブラジル国籍の方が非常に多いのです。DAISY教科書1枚で1冊の教科書が入って使いやすくなっておりますので、日本の歴史の勉強にも役立っています。

7.LD周辺の人々による熱望

資料内容8

あと、昨年の6月に文科省が『特別支援学校指導要領解説自立活動編』を発行し、その中にDAISY教科書のことがちゃんと書かれているのです。その73ページに、「LDのある児童生徒は文字を読んで理解することに極端に困難を示す場合がある。このような場合、聞いて理解する力を伸ばしつつ、読んで理解する力の形成を図る必要があり、その際、コンピュータのディスプレイに表示された文章が音声で読み上げられると同時に読み上げられた箇所の文字の色が変わっていくようなソフトウエアを使って読むことを繰り返し指導することが考えられる」と書かれているのです。これはマルチメディアDAISYそのものかと思いますが、ただ問題点は、ここで「極端な困難を示す場合」と書いてあるので、これをとらえて、「じゃ、使わなくていいな。この子は極端ではないから」と、そういうことを言われかねないという問題点が出てきます。

文科省はすべての子どもの学力を高める必要があると言っています。DAISY教科書を活用すれば、いわゆる勉強が得意な子が使ってもさらに力が高まります。DAISY教科書は、どの児童生徒も、さらに大人、中でも高齢者が使っても楽しんで学習ができる、まさにユニバーサルデザインの教材と思います。そこで、「極端な困難を示す場合」という制限的な文言は早く撤廃してもらいたいなと思います。

矢田氏配布資料