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国際シンポジウム
ソーシャル・ファームを中心とした日本と欧州の連携
報告書

報告4 フィンランドにおけるソーシャル・ファーム-障害者雇用における役割-

マリヤッタ・バランカ(フィンランド)
VATES財団 最高経営責任者

フィリーダ・パービス:フィンランドからいらしたマリヤッタ・バランカさんをご紹介します。フィンランドでは障害者の雇用創出についての専門家として知られ、2009年に国立労働衛生研究所がバランカさんを表彰。彼女の功績を国が称えたということだと思います。

マリヤッタ・バランカ:このシンポジウムに参加できることを大変光栄に存じています。

スライド1
(スライド1の内容)

フィンランドにおけるソーシャル・ファームについてお話をしたいと思います。これは今や政府の公式の雇用プログラムの一環として位置づけられています。

スライド2
(スライド2の内容)

スライド3
(スライド3の内容)

まずソーシャル・ファームのバックグラウンドについてお話をしたいと思います。

雇用、リハビリテーション、職業訓練を担当する省として、雇用経済省、社会保健省、教育省の3つ省が関わっています。個別のサービスは地方レベルで提供されています。

スライド4
(スライド4の内容)

また、雇用の統計もご紹介しないといけませんね。現在、失業率は7.1%ですけれども、90年代は19%にもなっていました。その頃はちょうど経済の移行期でもありました。そのときに特に雇用に不利な立場にある人たちのためのシステムが必要だと政府は考えたわけです。それがきっかけです。

スライド5
(スライド5の内容)

フィンランドは、ヨーロッパで最も高齢化が進んでいる国の一つで、労働力が不足した時代がありました。一方で、労働力になる可能性を秘めた障害年金受給者がいたわけです。そういうこともあって政府としては新しい革新的なプログラムで、障害者も労働力の一環として活用できるのではないかと考えたわけです。同時に、社会保障費も削減できます。

新しい研究の結果によると、障害年金受給者のおよそ3分の1が自分は十分な、あるいは優れた労働力を備えていると感じているそうです。ですから我々の役割は、障害年金を受けている人たちを一般雇用市場で活躍できるようにするということです。

スライド6
(スライド6の内容)

社会的雇用はなかなか制度的には整っているとはいえませんけれども、まず障害者と長期傷病者の特別雇用があり、職場および職業訓練の場が提供されています。これは社会福祉・保健医療サービス/地方自治体補助金などで提供されています。また、雇用に向けたオリエンテーション(ワークショップ)があります。特に、長期失業中の若年者対象として開始されたもので、年間10,000-12,000人が利用しています。主な財源は教育サービス及び地方自治体の補助金です。

1990年代に構造的な失業対策として開始されたのが、長期失業者を対象とした労働活動です。

最近では年間4,000~5,000人を対象にした雇用活動が行われています。そして、2004年にソーシャル・エンタープライズがスタートしました。

スライド7
(スライド7の内容)

スライド8
(スライド8の内容)

一般市場における雇用促進のために、さまざまなサービスを提供する社会的雇用ユニットおよびセンターがります。サービスの一つが有給雇用で、これがフィンランドのソーシャル・ファームの位置づけになると思います。

構造的な失業を解消しようという目的もあるわけです。

スライド9
(スライド9の内容)

ソーシャル・ファームの原則ですけれども、政府の雇用政策の一環といえます。障害のある失業者や長期失業者の削減を目的としています。しばしばソーシャル・ファームは障害者だけを対象としているとも聞きますが、フィンランドでは長期失業者も対象となっています。

ソーシャル・エンタープライズ法が2004年1月1日に施行され、雇用経済省の管轄となりました。フィンランドでは、ソーシャル・エンタープライズという言葉を使いますが、ソーシャル・ファームのことを指しますので、今日のシンポジウムではソーシャル・ファームという言葉を使いたいと思います。法律はありますが、現場との対立もあり、実際に効果を上げているかというと、そうもいかないところがあります。

ソーシャル・ファームの定義ですが、私どもはCEFECの定義を導入しています。これについては他の方が既にお話しになったと思います。フィンランドでソーシャル・ファームが普及し、国家の政策になるのに10年以上かかりました。

ソーシャル・ファームは、国家予算より賃金補助金をうけることができます。一般企業でも、障害者を雇用するに当たっては賃金補助金をある程度受けることができますが、ソーシャル・ファームの方がより容易に獲得することができます。ソーシャル・ファームを立ち上げる場合も、雇用の要件を満たせば、ある程度有利な条件で立ち上げることができます。また、利益分配に関する制限はありません。民間企業としての利益を確保するためです。

スライド10
(スライド10の内容)

ソーシャル・ファームの定義と条件は、CEFECとよく似ています。従業員の少なくとも30%はターゲットグループに所属しなくてはなりません。少なくとも最低賃金を保障しなければなりません。収入の最低51%は売り上げから得なければなりません。またソーシャル・ファームは雇用経済省が保管する商業登記簿に登録します。そうしますと法人や財団その他の事業体の形態をとることが可能になります。ですからあらゆる組織がソーシャル・ファームを立ち上げることができるのです。

スライド11
(スライド11の内容)

政府は雇用補助金を通して小さな組織に障害者を雇用するよう働きかけています。一般企業にも雇用補助金は出ますけれども、ソーシャル・ファームに対してはより多く支給され、最高月額1,300ユーロです。一般企業の場合は550~1,040ユーロです。

補助金の支給期間は、通常は2年間、ソーシャル・ファームは3年間で、個々の再雇用のニーズに応じて連続更新が可能です。しかし一般企業にはこのような条件は認められていません。

スライド12
(スライド12の内容)

また、職場環境改善助成金があります。障害のある人の職場に対し、最高は2,500ユーロ、特に重度の障害の場合は3,500ユーロが支給されます。これによって特別な機械を入れたりすることができます。これはソーシャル・ファームに限りません。

またソーシャル・ファームのための特別な事業開発補助金があります。これはソーシャル・ファームに特有のものです。事業を始めるときに、総開発費の立ち上がり費用の75%を上限として補助金を得ることができます。運営費用への補助はありませんが、やはり最初の立ち上げのときに補助があるということは大変に助かると思います。

ということで、ソーシャル・ファームを始める人は、政府から事業開発補助金をもらえますし、また障害者を雇うことによって、企業は特別な雇用補助金も得ることができるわけです。

スライド13
(スライド13の内容)

現在では154のソーシャル・ファームが登録しています。その数は増加しつつあります。公認ソーシャル・ファームのうち5分の1は第三セクターまたは地方自治体の機関として運営されています。5分の4は、ソーシャル・ファームとして登録している民間企業または最近新たに設立されたソーシャル・ファームです。時には大企業が障害者を雇用するという場合もあります。

そして現在、総従業員は1,200人です。さほど大きな数字ではありませんが、新規登録企業の大多数は比較的小規模なので、数人しか雇っていないところが多いのです。そのうち750人がターゲットグループに属しています。

ソーシャル・ファームの業種には多様なものがあります。リサイクリングが増えていますが、これは主にソーシャル・ファームの中でも長期失業者協会が設立したものが中心です。彼らは活発に活動しており、ヨーロッパのネットワークを通じて拡大しています。

カフェ、レストラン、在宅介護サービスがあります。現在、ソーシャル・ファームを設立し、介護サービスを提供しようとする国のプログラムもあります。清掃、不動産管理、小規模製造業、下請け製造業、物流、各種サービス業もあります。

スライド14
(スライド14の内容)

私たちは7年間、この制度を進めてきましたが、まだ始まったばかりです。ソーシャル・ファームは一般雇用政策の一部ということで、切り離されて行われているのではありません。一般企業であっても社会的雇用主になることができます。それによって障害のある人々が専門職につくことが可能になってきます。またソーシャル・ファームも一般企業を対象としたアドバイス、融資を受けることができます。

ただ、マイナス面もあります。

賃金補助金と障害の重度は無関係です。また、第三セクター、特に小規模な地域イニシアティブでは、ソーシャル・ファームを立ち上げる財源がありません。財源があっても有意義な雇用の成果を上げるまで時間がかかります。

また、ソーシャル・ファームのモデル開発への様々なアプローチですが、一般雇用への入り口としてとらえるのか、あるいは、ソーシャル・ファーム自体が主流となる可能性があるのかといった議論があります。政府は支援制度を始めましたが、まだ不安定です。

スライド15
(スライド15の内容)

スライド16
(スライド16の内容)

ソーシャル・ファームの開発政策は雇用経済省の管轄です。雇用経済省は、社会的雇用の中でも有給の仕事に対するニーズが高いものの、ソーシャル・ファームの職場の数が足りないと考えています。しかし、充分な職場の数を確保するにいたるまで、ソーシャル・ファームの構造は発展していません。そのため、イギリスのソーシャル・エンタープライズ・モデルを改良した新たなモデルを模索し、例えば介護に携わる労働者の確保など、企業における労働力の有効な活用と長期失業者に雇用をもたらすことを目指しています。

スライド17
(スライド17の内容)

スライド18
(スライド18の内容)

国としての構造に話を戻したいと思います。

障害者、長期傷病者を対象にした職場および職業訓練の場は約16,000あることを申し上げました。

また生産的ワークショップ(授産施設)は、一般労働市場における就労の準備がまだ整っていない障害のある人々に、有給の仕事を提供する場です。これはどこの国にもあると思います。かつてフィンランドには5,000ヶ所ありましたが、現在は1,100ヶ所しかありません。というのは、リハビリテーション、職業訓練施設が増えているからです。

労働活動ユニットというものがあります。これは一般雇用に結び付けるためのものです。

こういったものを将来のソーシャル・ファームに組み込んでいきたいと思っています。

スライド19
(スライド19の内容)

重要な数字を紹介したいと思います。

生産的ワークショップがどのぐらいの費用対効果をもたらしているかの分析結果です。公共の支出、補助金、その他社会保障の支出は60万ユーロ近くになっています。一方で、政府が節約した金額は66万ユーロを超えています。したがって最終的には政府は10万ユーロ近い利益を上げています。

ソーシャル・ファームがまだ計画段階にあった当時、私たちはこの分析結果を雇用経済省に提示し、彼らはそれを見て法律を導入したのです。

スライド20
(スライド20の内容)

第三セクターとして望むことは、ソーシャル・ファームのモデルを、持続可能な雇用制度としてだけでなく、一般就労への移行のための雇用制度としても維持・開発することです。一方で、ソーシャル・ファームの支援制度と資金調達手段をさらに開発することです。また、生産的ワークショップをソーシャル・ファームの開発に組み込むこと、ソーシャル・ファームの職場の量と質を改善することです。

スライド21
(スライド21の内容)

スライド22
(スライド22の内容)

このセミナーでは皆さんにフィンランドの状況を中心に話しましたが、私は、昨日、高島屋でこういったコーナーを見つけましたのでご紹介します。このデパートではソーシャル・ファームのセクションを設けていました。ここに並んでいる商品はいろいろな国からきたものです。私としてもぜひ将来、このようなものが世界中にできればと思います。ありがとうございました。