パネル討論 -イギリス、ノルウェー、インドの取り組みから学ぶ-

リチャード・オーム(国際DAISYコンソーシアム チーフ・エクゼクティブ・オフィサー、イギリス)

アルネ・シルシェブー(ノルウェー国立録音図書と点字図書館 開発部長、ノルウェー)

アブニッシュ・シン(国際DAISYコンソーシアム チーフ・オペレーティング・オフィサー/EPUB 3アクセシビリティ・ワーキング・グループ共同議長、インド)

パネル討論

リチャード・オーム

リチャード氏

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ありがとうございます。ここに来ることができて大変うれしく思っております。
私は少しイギリスでの経験をお話したいと思います。視覚障害のある学生から始まる話ですが、最後にはプリントディスアビリティ、あるいはディスレクシアなど学習障害のあるすべての生徒に関係するすばらしい話をします。

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つい10年ほど前ですが、私がイギリス王立盲人援護協会で仕事をしておりましたころに、親や先生、そして学生から教科書を必要なフォーマットで入手できるのが遅い、という話をよく聞きました。そして版も違っていて、同級生とは違った版の教科書で勉強している、ということや、全く教科書を入手できないということがありました。これは視覚障害がある生徒の場合ですが、ほかのプリントディスアビリティの学生の場合は、教科書さえほとんど提供されないという状況でした。そしてこのようなアクセシブルな本をプリントディスアビリティの生徒に提供する場合は、実際に紙で作られた本を電子版に変えるということをしていました。つまり、コンピューターで作られ、印刷された本が、学校の熱心なスタッフによって再び電子書籍に変えられていたということです。

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また、繰り返し同じ電子書籍が作成されないような調整は、地方レベルでのみ、行われていました。このような話を親御さん、あるいは教員、学生などからたくさん聞きました。そこで、我々はその調査をすることにしました。これはちょうど10年ほど前に出版されたのですけれども、「Where’s my book? (私の本はどこ?)」という題です。実際に学生の人たち、あるいは視力を失った人たちが直面している、教科書が入手できないということについて対応するという内容です。

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というのも、政府に話をしましたところ、これが問題ならば聞き及んでいたはずだ、ということだったので、実際にこれが問題だというさまざまなエビデンスを提供したわけです。エビデンスによりますと、例えば実際に幅広く使われている地図や辞書などが、一切アクセシブルなフォーマットでは提供されていませんでした。そして大活字で印刷された数学や科学に関する本は、3%以下でした。教員に対してこれがいかに生徒たちにとって困難なのかということを聞くと、教科書を提供するのが遅れると、やはり学生のソーシャルインクルージョン、そして学習においてかなり、あるいはある程度の影響があるということでした。また、大活字の本は、印刷物をより大きな紙にコピーする、という方法が幅広く行われていましたが、この調査結果によると、学生たちはこのアプローチが嫌だったということです。非常に大きな紙を使わなければいけない。机に置くにも大きすぎる。カバンにも入らなかったということですし、友達からも、あの子は特別だとみなされてしまうのです。それにどっちみち、文字の大きさは十分ではありませんでした。ですから学生も親も、また教員も、よりよいアプローチを求めていたわけです。

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政府は我々に対しまして、もし問題があるならば、本来ならもう知っていたはずであるということだったので、我々は確実に政府に知ってもらうようにしたわけです。こちらのプロジェクターには若い生徒たちが映っています。100名以上の学生、それから親が議会のあるロンドンのビッグベンに集まりました。彼らはプラカードを持って、「私の教科書はどこ?」と言っています。実際に議会に行きますと議員に会いたいと言うことができ、議員はオフィスから出てきて、会わなければいけません。そしてこのような議員がたくさん出てきて、学生と会ったのですが、学生たちはどういう問題があるかということを大変上手に説明しました。このような生徒たちには親が2人いて、彼らはもちろん投票権を持っているので、メッセージがちゃんと伝わったのです。

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そのうち、実際に教育担当の大臣が次のような声明を出しました。すなわち、我々は視覚障害者、あるいはディスレクシアのため印刷物を読むことができない子どもたちに対しての現在の教科書の提供の仕方に満足していない、ということです。そして、政府に問題提起をしたとしてキャンペーンを認め、アクセシブルな形、電子的な形で教科書を提供するのが答えであると宣言しました。そして政府としては、これを実際に実現するために最大限の努力をする、ということを言いました。

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それでは現状はどういう状況でしょうか。これはイギリスのウェブサイトで、RNIB(Royal National Institution for the Blind:イギリス王立盲人援護協会)のUKエデュケーション・コレクションというものです。以前はLoad to Learn、学習するためにダウンロードする、と呼ばれていました。学生たちが教科書をダウンロードすることによって学習することができたからです。これはRNIBが率先して行っているものですが、ディスレクシアやそのほかのプリントディスアビリティのある学生にも対応しています。
私の息子はディスレクシアがあるのですが、教科書をダウンロードし、タブレット、あるいはコンピューターで読むことができます。私の兄弟もディスレクシアがかなりひどく、学生時代苦労したのですが、このようなソリューションが当時あればうれしかっただろうと思います。
このウェブサイトの角にはRNIBブックシェアというロゴがあります。先ほどベネテックのブラッドさんからブックシェアの取り組みやどのように世界各国と協力しているかを聞きましたね。
これは国際的な協力の非常に優れた例だと思っています。技術やソリューションというものを新たに発明するのではなくて、他の国の一番よいアイデアを導入すればいいわけです。そして、イギリスはイギリス特有のほかの問題に集中する。我々としてはこのようなソリューションをすばらしいと思っている出版社との協力をさらに強化してまいります。
親が怒りの手紙を書いたり、あるいは教員がこれをぜひ大活字で出してくださいとか、ファイルを送ってくださいというような必死な要求をする必要はなくなりました。必要なファイルをこちらの教育サービスに送れば、それが修正され、プリントディスアビリティのある生徒たちのみがアクセスできるようになっている、信頼のおけるソリューションがあるからです。

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教育関連のものだけがこのウェブサイトから提供されているのですけれども、今日チェックしてみたら、1万7,000以上のタイトルがありました。これらはすべて学校で使われている教科書です。そして学生が必要であると考えた本がそこにない場合は、要求を出すことができます。そうするとこれが出版社に伝わります。実際苦労して1年かけて、教科書をやっと手に入れていたような時代から、教員の方が要求を出すと、翌日のうちにその要求がシステムに取り込まれているというような例を見る時代になりました。本当に迅速な対応になりました。出版社としても、いかに自分たちの本を早くこのシステムにのせることができるかということで競争しているくらいで、大変すばらしいものです。現在は3,000以上のアクセシブルな画像もあります。マーティンさんもおっしゃっていましたが、このようなイメージを触図として印刷することもできます。例えば血液が心臓にどのような形で流れるかとか、あるいは雨水が雲になって、そして、山、川、海に流れるというような何度も何度もくり返し出てくる、一般的な学習に用いられる概念がありますけれども、今までは教員が自分たちの学校で独自の形でその都度作っていたのが、現在は3,000以上のアクセシブルなイメージとなっており、国際的に使うこともできます。また、教員、学習者にとって有効なガイダンスや、著作権とかこのようなシステムを使うにあたって伴う責任についてのガイダンスがあります。これはウェブサイトにアップロードされている知的財産を守るために重要です。
次に教訓です。重要なのは学生たちが直面している問題に対する優れたエビデンスがまずなければいけません。同時に、ソリューションを必要としている人たち自身が特定したソリューションを伝えることが必要です。 政府からのリーダーシップも非常に重要ですし、ともにソリューションを探していく出版社との協力も非常に必要です。このようなソリューションを、オープンスタンダードを使って作りました。これはDAISYコンソーシアムが使っているものでもあります。

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我々はほかの国々からの最も優れたアイデアも導入しています。時にはプリントディスアビリティの子どもたちが学校で成功するためには何が必要かということでモデルを使いますが、これは、Kit, Content, and Confidence(キット、コンテント、コンフィデンス)と呼ばれています。キットというのは1つの装置です。例えばiPadとかスマートフォンとか、実際にその部屋にあるものですが、それを個々の学習者が使って、材料を読むことができるものです。コンテントというのは、出版社が作って、アクセシブルな形で提供している大変すばらしいものです。そしてコンフィデンスとは、学習者が訓練やサポートを受けて、このような機器を使うことを覚え、勉強にベストを尽くすことができることです。
ディスレクシアのある学生、あるいは視覚障害やプリントディスアビリティのある人たちは、イギリスで成功しています。これが我々の経験です。我々は日本のテクノロジーもここで使っていますので、イギリスの経験で皆様方が学ぶことができることがあるならば、ぜひ我々も恩返しをしたいと思います。どうもありがとうございました。
 

アルネ・シルシェブー

アルネ氏

皆さん、こんにちは。本日は大変短いのですけれども、ノルウェーの学生にどういった教科書のサービスを提供しているのか、紹介する機会をいただきましてありがとうございます。

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私はNLB(Norwegian Library of Talking Books and Braille:ノルウェー国立録音図書と点字図書館)を代表しております。我々は国立の図書館で、読むことに困難のある方たちのための図書館であり、文化省に属しています。というのもノルウェーの国立図書館だからです。サービスはすべて無料で、ノルウェーのオスロに所在していますが、国全体にサービスを提供しています。

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我々は主に2つのサービスを提供しています。1つが公共の図書館サービスです。いわゆる普通の図書館サービスですが、これをアクセシブルな形で提供しています。2点目が、高等教育を受けている学生向けに教科書を提供するということです。どういった障害を持っているかに応じて、異なるサービスが提供されます。視覚障害がある場合には、教科書の製作を請求する権利があります。もしその教科書がアクセシブルな形でなければ、その製作を要求することができます。一方でディスレクシアの場合には、貸し出しを請求する権利があります。我々の図書館にそのコンテンツがあれば貸し出すことができますし、もしなかったとしたら、申し訳ありませんと言うしかありません。これはディスレクシアの方の権利が劣るということではなく、我々の持っている予算の制約、財務的な制約、そして我々が元々視覚障害者向けの図書館であったことによるものです。

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ノルウェーでは、大学がアクセシブルな学習環境を提供する義務があります。NLBの義務ではありません。ですので、大学はキャンパスでさまざまなサービスを提供しています。サポートツール、コンテンツへのアクセス、小規模の製作といったものが、大学によって異なりますが多様に展開されています。ですので、責任は大学にあり、我々は大学とさまざまな面で協力をしていて、その1つが教科書を提供することです。

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過去数年間ですが、我々が一番注力してきたのは、量を増やすこと、それから製作時間を短縮することです。製作時間を短くしてたくさんの教科書を提供する必要があるからです。例えば試験の後に生徒に教科書が渡っても遅すぎますので、スピードを上げる必要があります。ですから、さらに効率化に注力してきました。
そのための取り組みの1つがEPUB 3の導入です。現段階ではソースファイルという形でのみEPUB 3が導入されています。ということはEPUB 3のファイルがすべての生産フローとさまざまな最終生産物のソースになっているということです。EPUB 3ファイルはインドで製作されています。マーティンさんの方でも製作の流れを紹介しましたが、非常に類似しています。この時間は非常に短縮していますが、マーティンさんやブラッドさんがおっしゃったように、最初に出版社の方からアクセシブルな形でファイルを提供していただければ、もっとスピードを上げることができます。しかしながら、現段階でも出版社のPDFファイルをインドに送って、それを迅速にEPUB 3のソースファイルにしてもらい、コンテンツを生産するのは、かなり効率的で時間が短縮できています。現在は85%のオーディオブックはTTS(text-to-speech:合成音声)で生産されており、電子書籍はHTMLで多数生産しており、すべて自動化されています。
このプロセスで2~3日かけて本の製作が行われます。以前はひどいときは6か月かかっていた場合もありましたので、大分時間が短縮できていますが、まだ完全ではありません。効率化はできましたが、質の問題というのがあります。例えばTTSでは複雑なコンテンツに対応できていません。ブラッドさんやマーティンさんからこういった難しいコンテンツに関しては説明がありましたが、我々も同じ問題に直面しています。

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ノルウェーで最近すばらしい展開があったのですが、文化省と教育省から次のような要請を受けました。プレゼンテーションの最初に視覚障害の方とディスレクシアの方で、持っている権限が違うというお話をしましたが、ディスレクシアの学生が、視覚障害者と同じサービスを受けられたら、どのような結果になるか評価してほしい、というものです。これはとてもいい機会で、レポートを提出することになっているのですが、状況やニーズを分析し、解決策を提案することになっています。2017年3月までにこのレポートをまとめて提出する予定なので、まだ結果については申し上げられませんが、現在、我々はこういったことを進めています。文化省、教育省ともに現在、この点を非常に重要と考えています。また、ディスレクシアの方に対しても同じ権利を付与し、彼らのニーズにより応えられるようになれば望ましいと考えています。ノルウェーというのはそんなに大きな国ではありません。東京都の人口の35%程度です。ですから、そんなに人口は多くないのですが、マーティンさんとブラッドさんが、アクセシブルな本の読者の9割がディスレクシアの方だとおっしゃっていましたけれども、我々も同じような状況です。ですので、現在は本来よりごくわずかな人数の方々にしかサービスを提供していないということになりますが、このレポートが出来上がり、承認されて、より多くの方々にサービスを提供できるようになることを希望しています。

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今後、2017年に向けたフォーカス・アクティビティーですけれども、より大きなユーザー・グループによりよいサービスを目指します。本日、EPUB 3や新しい規格のさまざまな可能性についてのすばらしいプレゼンテーションがありましたのでくり返す必要はありませんが、さまざまなユーザー・グループに関する知識・知見を蓄えていく必要があります。ある意味新しいユーザー・グループの1つがディスレクシアの方々です。今までは視覚障害者と同じサービスが提供されていましたが、どのようなニーズがあるのか、視覚障害の方と違うニーズがあるのか、そしてどのように対応していくかについて考えなくてはいけません。
また、2017年には教科書に関するEPUB 3への移行が行われます。流通もEPUB 3で行われることになります。この理由については、本日すでにすばらしい説明が聞けました。さまざまな可能性と、現在欠けているものがわかっていますので、今後はEPUB 3の規格にすべて移行します。これは大きな進化だと思います。
出版社、大学とも協力もしておりまして、これもまた改善が進んでいます。しかしながら教科書に関して出版社から受け取るファイルにはさまざまな課題があります。ノルウェーで使われている教科書の4割はノルウェーで作られたものではなく、イギリスまたは米国で作られたものですので、そこにも課題があります。
また、今後はTTSと朗読を組み合わせたオーディオブックを作る試みをします。今は朗読とTTSの2つの流れがありますが、今後はそれを組み合わせていくのが一番良いのではないかと思います。オーディオブックに関しては、基本はTTSで行って、そこに、それが十分でない場合にナレーションを加えるといった形で、今後はそれを組み合わせるということをしていきたいと思います。2017年は具体的にこのようなことをやって、我々の本を劇的に改善していきたいと思っています。
 

アブニッシュ・シン

アベニッシュ氏

ありがとうございます。再び東京に来ることができて大変うれしく思っております。日本DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会、そして日本財団からもご招待をいただきました。
私の話はちょっと違ったレベルからのお話になります。プレゼンテーションは今回、インドからです。この国では、非常に大規模にいろいろな物事が行われます。ですので、障害のある人たちも非常に膨大な人数となります。 それでは我々のインドが直面している問題は一体何でしょうか。

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まず、我々のターゲットは非常に大きいです。約1,200万人がプリントディスアビリティを持っています。視覚障害のある方々は大体530万人です。それ以外はほかの障害のある方、例えば認知障害やそのほかの障害で紙の本、昔ながらの本そのものを読む障害のある方たちです。ということでこの1,200万人の中でわずか5万人だけが、我々がちゃんとリーチできている人口です。例えばNGOのアウトリーチの活動、そして政府の活動が含まれますが、我々はアクセシブルの本をわずか5万人にしか提供できていません。しかしながら、プリントディスアビリティのある人たちは1,200万人もいるわけです。ということは、実際にアクセシブルなフォーマットの本は、わずか1%未満だけだということです。

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1つ、なぜこうなのかということを考えました。なぜこれまでに大きな格差があるのでしょうか。その理由は、アプローチがバラバラだということです。教科書というものはインドにおいて、国レベルでの教育委員会もあれば州レベルのものもあります。そしてコースのカリキュラムもそれぞれ異なっています。時には1つの州に100以上のコースがある場合があります。出版社も非常にバラバラです。本は政府が出版するものもあれば、ほかの出版社も教科書を印刷しています。そしてこれは州の教育委員会などで認められているのです。さらにインドの政府は、従来プリントディスアビリティのある方のための本として、点字の本のみを正式に認め、サポートしてきたのです。

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それでは、このような問題に対してどのような解決策があるのでしょうか。これほどまでにバラバラだということは、みんなを1つのプラットフォームにもってこなければいけません。みんなが1つのプラットフォームを共有していれば、このような一貫性のなさというのは解決されますが、これは可能でしょうか。すべての教育委員会と教科書の出版社が1つの決まった規格を守ればいいわけです。しかしながらまだ規格はありません。この規格には、満たさなければならない条件があります。この規格はさまざまなプリントディスアビリティの人たちのニーズに応えていかなければなりません。そして、目、耳、そして指ですばらしい読書の経験が提供されなければなりません。この規格によって1つの本のマスターコピーができなければなりません。10、15ものマスターコピーをいろいろな障害者に提供することがあってはなりません。1つのマスターコピーを使って、それぞれの障害に合った形の本を提供できなければいけません。
最後になりましたが、一番重要なものの1つは、すべてのインドの言語に対応する規格でなければならないということです。認定されているだけで22の言語がありますが、それ以外にも地方の言語がありますので、この規格というものは複数のインドの言語に対応していなければなりません。

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それではどのような行動計画があるでしょうか。我々が作った戦略は、まず適切な規格を特定するということです。規格がなければ、このようなバラバラな状況は解決できません。ですから最も適切な規格は何であるかということを考えるということ。そしてアクセシブルなEPUB 3が、すべての条件を満たす規格だということがわかりました。 次のステップとしては、EPUB 3というものを教科書の出版にもっとも適切な規格であることを、国と州の教育委員会に周知しなければなりません。しかしながらこれだけでは十分ではありませんでした。規格に加えて、さらに共通のプラットフォームが必要です。それに並行して我々はオンラインの全国図書館、本のリポジトリというものを考えました。そこにすべてのアクセシブルな本を集めて、プリントディスアビリティの障害を抱えている人たちがアクセシブルな本を入手できるようにするというものです。このイニシアティブはDAISYフォーラム・オブ・インディアが行いました。それではDAISYフォーラム・オブ・インディアについて申し上げたいと思います。

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これはDAISY for Allプロジェクトの傘下にあったDAISYフォーカル・ポイントから生まれました。DAISY for Allは大変ありがたいことに日本財団が資金提供をしてくれました。最初は、DAISYの本を作ったり、あるいは流通させていたインドの組織で構成されたフォーラムでした。現在では会員数が100以上になっています。そしてこれがインド中に広がっています。北から南のケーララ州、それからグジャラート州、また東の西ベンガル州にまで広がっています。これがDAISYフォーラム・オブ・インディアです。
それでは、この行動計画の結果はどういうものだったでしょうか。

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決定的なマイルストーンとして達成できたもの。EPUB 3を政府が認めました。そして専門家委員会が通信・情報技術省のもとでできて、EPUB 3が一般の学生にも障害を抱えた学生にも最も適したものとして推奨されました。通信・情報技術省下の専門委員会が適切と認めた規格は、すべての人に適切な規格ということになりました。NCERT(National Council of Educational Research and Training:全国教育研究訓練機関)やNational Institute of Open Schooling(公開教育国立協会)といった主要な政府機関と出版社がEPUB 3のフォーマットで教科書を提供し始めました。
そして3点目、DAISYオンライン・ライブラリーというイニシアティブがありますが、これは2016年8月24日、数か月前ですけれども、オンラインの図書館が立ち上げられました。ヒンズー語の名前はSugamya Pustakalaya(スガミャ・プスタカーレイ)です。これは通信・情報技術省、人材資源開発省、社会正義・エンパワメント省の3つの省が合同で発足させました。このイニシアティブを全面的にサポートしたのはインドの政府なのです。

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それではこのオンラインの図書館について申し上げます。このDAISYのオンライン国立図書館には、さまざまな利害関係者が関わっています。例えば出版社、NGOでこのようなDAISY本を作っているところ、また、公立の図書館、大学の図書館、そして政府の機関などもそうです。ですから、政府のサポートがここでは得られることになっています。この図書館はDAISYフォーマットの本を取り込むことができる。そして出版社のファイルをEPUB 3、EPUB 2、PDF、その他の出版社のフォーマットでも取り込み、アクセシブルな形で本を提供します。例えばDAISY、EPUB 3、点字などです。いろいろなところからいろいろなフォーマットで本を取り込み、それをアクセシブルな形で提供する。実際にプリントディスアビリティのユーザーは、こういったファイルを図書館から直接ダウンロードすることができます。現在ではこの大きな運動をさらに進め、今後4年間に100万人のプリントディスアビリティのある人たちに対応することを次の目標としています。このような形で、インドでは、インド独自のやり方でやっております。また、それと並行しましてブックシェアとも協力をしています。オンラインの図書館とブックシェアが協力しています。
さらに、マラケシュ条約の効果についても目を向けていきたいと思っています。

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インドは、マラケシュ条約を批准した最初の国です。また、DAISYフォーラム・オブ・インディアは、アクセシブル・ブック・コンソーシアムの本の交流プラットフォームに加わる準備をしています。我々は楽観的で、このような本の交換が国際的になれば、インドにおけるアクセシブルなコンテンツは何倍にも増えるだろうと考えています。
これはインドの移民のためにもなると思います。例えばカナダとかオーストラリア、アメリカに移民したインド人にとっても有効だと思っています。

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これがインドの戦略的なイニシアティブであります。非常に大きな形でその運動が行われていますが、それは我々の抱えている問題が非常に大きなものだからです。
 

パネル討論

河村●
ありがとうございました。それでは極めて短いディスカッションをしたいと思います。リチャードさんとアルネさんも前に出てきてください。時間の制約がありますので短くまとめのパネルディスカッションをしたいと思います。同時通訳、それから日本語と英語の要約筆記をしていらっしゃる方がいます。彼らは4時半までしかサポートができないということですので、時間内におさめたいと思います。
これはパネルディスカッションの時間です。私がパネリストの皆さんに伺いたいのは、皆さんのマイルストーンとしてDAISYコンソーシアムのイニシアティブであるEPUBアクセシビリティ1.0の導入について、どのように対応していますか? また、アクセシビリティ認証システムにはどのように対応されるのでしょうか? この2点について、皆さんの国の状況を踏まえてコメントをいただきたいと思います。それではリチャードさん、お願いいたします。
 
リチャード・オーム●
私はさまざまな状況でイギリスにおいて、またそのほかの国において、EPUBのアクセシビリティのベースラインの概念について出版社と話をするたくさんのすばらしい機会に恵まれましたが、例外なく常に非常に温かく歓迎されています。特に出版社がそうで、彼らとしても直面している問題を解決したいと考えているわけです。
また、RNIBのエデュケーション・コレクションのようなサービスと、それが学習者でさまざまなリーディング・ディスアビリティーのある生徒にどのようなことをもたらすかといった観点からすると、2つのことが言えると思います。1つはこのようなサービスに取り込まれるファイルは、より体系的で、よりよいセマンティックのものであり、そしてベースラインのアクセシビリティを有するので、マーティンさんなども話されたのですけれども、効率も高まり、お客様の経験もよりよくなるということです。
また、もう1つ重要な点としましては、実際の学生さんたちは必ずしも特別なサービスのところにいく必要はないということです。例えばRNIBのサービスなどにいく必要はないわけです。なぜかといいますと、そういったタイトルに関してベースラインのアクセシビリティがあれば、メインストリームのチャンネルからそれを入手することができるからです。もちろんすべてのものを解決する万能薬というわけではないですし、1人の学生が単一のソリューションを選ぶことはないのですが、あるものについては特別なサービスを求め、またメインストリームからも本を入手できるという選択肢があることは、非常に強力なものですし、また、その人の自信や自尊心にとっても大変重要なことです。私の息子の場合は、特別なサービスを受けていますが、教育を受ける中で、彼も同じような本をこのようなシステムから入手したいと思うようになるだろうと思っています。友人と同じような経験を求めるようになると思います。そういった意味でもこれは非常に重要だと考えています。
 
アルネ・シルシェブー●
リチャードさんの言ったこと、すべて私も同意ですが、もう少し補足します。EPUBスタンダードがさらに進化している、さらに前進しているというのは我々にとっても非常に大きな改善です。また、出版社が直面する課題にも対応しているので、これをきちんと伝えたいと思います。
こういったことが主流になることによって、出版社にEPUBを採用するよう説得することも容易になると思います。
 
アブニッシュ・シン●
我々としてはもう既にこのポリシーの取り組みを開始しています。DAISYオンライン国立図書館ということで、省が我々にアクセシビリティのための対応をする審議会を設けることを約束していまして、この審議会では、アクセシビリティ・ベースラインを電子教科書の政策の中に導入してくれるということです。
 
河村●
ありがとうございました。
出版社側の反応に対して各国で何か懸念はありますか? もしあったら簡潔にお願いしたいと思います。いずれ出版社がEPUB 3.1のアクセシビリティや認証システムを受け入れてくださるとお考えでしょうか。いかがでしょうか?
 
アブニッシュ・シン●
政府側のさまざまな官僚的な手続き面での困難さというのはありますが、これはそもそも政府のイニシアティブでもあります。国がすべての教科書出版に関してアクセシビリティ要件を満たさなくてはいけないという方針を打ち出せば、いずれ出版社は従うことになります。また、出版社として進んでそういったことに取り組んでいるところもあります。3か月くらい前にアクセシビリティ・ベースラインがほぼ完成に近づいてきたころに、ベースラインについての情報が欲しいと、我々のプロセスをどのようにアップデートするべきか教えてほしいと言った出版社もありました。
 
リチャード・オーム●
幸運にもフランクフルト・ブックフェアに先月、参加することができました。非常に大きなブックフェアなんですけれども、たくさん出版社の方もいる中で、アクセシビリティの話をしました。
そこで出てきた懸念というのは、教科書をすばらしいものにするために、たくさん努力を重ねているので、読者の経験もすばらしいものにしたいと、閲覧ソリューションについて気にしていました。
しかしこれに関しては、我々は自信を持っています。なぜなら市場がありますし、大企業がEPUBをサポートして、すばらしいソリューションを低価格、もしくは無料で誰でもデスクトップで読めるような形で提供するというすばらしい宣伝をしたりと、このような話を毎日のように聞きますので、閲覧ソリューションに関しては今後、急速に出てきます。また、スケールも今後、何百万、何十億いう顧客グループを狙った企業によって、拡大されてくると思います。これはすべての人に対応する、メインストリームのアクセシブルなフォーマットに移行するということに対しての利点です。
とういことで出版社からは閲覧ソリューションについての懸念がありましたが、これはまた大きなチャンスでもあるということです。
 
河村●
アルネさん、いかがでしょうか?
 
アルネ・シルシェブー●
私の懸念はそこではありません。他のところに懸念があります。ノルウェーでの教科書のチェックをしているのですが、その結果一番懸念となっているのは、それぞれが異なる基準を選んでしまっている、もしくは各自の基準を使っている、またはまったく基準を使っていない、ということです。ですので、EPUBの基準を売り込んでいくことに注力しなければいけません。
 
河村●
ありがとうございます。それでは最後に日本語でご挨拶したいと思います。
今まで少しコメントをしてもらったんですけれども、これまでずっと紹介されてきた新しいEPUB 3.1、これは恐らく投票で承認されるだろうと思います。その中にはアクセシビリティ・ガイドラインが含まれています。そのアクセシビリティに合格しないとEPUBチェックというツールが、「これはダメですよ」というシグナルを出します。さらに認証制度を作って、A、AA、AAAというふうに、ちゃんと信頼できる機関で認証しようと。そうすることによって普通の書店から、あるいはダウンロードで買う本が最初からアクセシブルになるバージョンを持っているというふうにしようというふうにしているわけです。そうすることによって、読書環境は飛躍的に改善できるだろうということで、それぞれの国でどうですかということを今、お話しいただきました。
さて、日本ではどうでしょうか、というのが私たちの日本でのこれからの課題です。
あと1分で終われという指示がありましたので、同時通訳の方、キャプションの方、本当にご苦労さまでした。どうもありがとうございました。3時間支えていただきました。これで締めますけれども、この後、この会場は日本財団のご厚意でもう1時間借りてあります。ですからみんなまだ、スピーカーも、それから大変興味深い参加者の皆さんも残っておられますので、まだ残れる方たちはぜひこの空間と時間を有効に活用してください。その中で、次の日本での私たちの回答を探りたいと思います。
本日はお忙しい中、熱心にご参加いただきましてありがとうございました。これを持ちましてシンポジウムを閉じさせていただきます。
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