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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年4月号

福祉用具・介護ロボットの開発と普及に向けた方策について

五島清国

1 はじめに

障害者の自立を支援する機器については、ノーマライゼーションの理念に基づき、障害者の活動と参加を促す観点から重要な役割を果たすものであり、障害者のニーズを的確に捉えた製品開発が求められている。

一方、高齢者介護の現場では、少子高齢化が進展する中、介護人材の確保や介護職員の腰痛、さらには認知症高齢者や高齢単独世帯の増加など、在宅・施設を問わず多くの課題がある。

こうしたなか、平成25年6月、政府が掲げた「日本再興戦略」では、障害者や高齢者の自立を支援し、介護労働者の負担軽減を図ることができる実用性の高い介護ロボットの開発を加速させる「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」を開始するとされた。さらに本年1月、内閣府が取り纏(まと)めた「ロボット新戦略」において、介護ロボットの技術革新に柔軟に対応するものとして、在宅介護の負担軽減にも迅速に対応できるよう介護保険制度の種目検討についても弾力化を図ることとされた。

本稿では、今後ますます研究開発が進められる「介護ロボット」の開発と普及に向けた方策について記載する。

2 シーズ(作る人)・ニーズ(使う人)マッチング強化事業の実施

厚生労働省は、平成22年度から「障害者自立支援機器等開発促進事業」を実施し、主に開発するメーカーへ直接的な支援を行なってきた。しかしながら近年、応募するメーカーの数が減少していること。また、障害者のニーズを的確に捉えた開発がなされていないことなどの理由から、実際の利用まで繋(つな)がらないケースが散見されるところである。

こうしたなか、障害者の自立支援機器にロボット技術を活用することが大いに期待されるところであり、26年度、機器開発の新たな支援策として「シーズ・ニーズマッチング強化事業」が創設された(図1)。

図1
図1拡大図・テキスト

本事業は、民間企業や学術団体等の研究機関および障害当事者の知識・技術を結集し、個別具体的な障害者のニーズを的確に反映した機器開発をスタートさせる機会を設けるとともに、開発中の機器について、実証試験の場を紹介すること等により、機器開発分野への新たな企業の参入促進を通じた、適切な価格で障害者が使いやすい機器の製品化・普及を図ることを目的としたものである。

具体的には、当協会において、平成27年3月6日~7日の2日間、東京都江東区のTOC有明にて「シーズ・ニーズマッチング交流会」を開催した。交流会には「作る人」と「使う人」、「機器開発を支援する機関の人」が一堂に集まり、試作器の意見交換や障害者の日常生活やお困り事を詳しく知る機会等を設けるととともに、作る人同士の交流も深めた。

出展した機器の情報は、すべて協会のホームページに掲載し、交流会に参加できなかった方々にも情報提供するとともに、今後、交流会後のフォローアップとして、作る側と使う側の橋渡しを開発の段階ごとに継続的に行い、開発から利活用されるまで切れ目のない対応を行う予定である(図2)。

図2
図2拡大図・テキスト

◇厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/dl/02a_jigyougaiyou.pdf

◇テクノエイド協会:http://www.techno-aids.or.jp/

3 福祉用具・介護ロボットの実用化支援に関する取り組み

厚生労働省と経済産業省は、介護現場の課題を集約し、5分野8項目を重点分野として定め、ロボット介護機器の開発および導入支援に関する取り組みを推進している(図3)。

図3
図3拡大図・テキスト

経済産業省では、主にロボット介護機器の開発援助を行うとともに、介護現場への導入に必要な環境整備として、安全や性能、倫理の基準を検討している。また、厚生労働省では、介護ロボットに関する相談窓口を設置し、開発早期の段階にある介護ロボット等に対するアドバイス支援事業を行い、また実用化に近い機器については、メーカーと介護施設等をマッチングして円滑なモニター調査が行えるよう援助している。

このほか、介護ロボットの普及・啓発、導入促進を目的として、全国8か所の介護実習・普及センターでは、介護ロボットの展示や研修、効果的に導入し活用するためのワークショップなどを行なっている(図4)。

図4
図4拡大図・テキスト

4 経済産業省や総務省における福祉用具の開発支援

経済産業省では、予(かね)てより「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」通じて、福祉用具実用化開発に対する助成事業を行なっているが、平成27年度からは「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」という名称に変更される。具体的には、製品開発を行う民間企業とユーザ評価を担う機関・個人が連携した開発・実用化を支援する予定である(図5)。

図5
図5拡大図・テキスト

また、総務省の「情報通信研究機構(NICT)」では、公募により「情報バリアフリー事業助成金(チャレンジド向け通信・放送役務提供・開発推進助成金)」の交付を行なっている。

◇経済産業省:http://www.tohoku.meti.go.jp/somu/yosan/pdf/27-3.pdf

◇総務省:http://www.soumu.go.jp/soutsu/chugoku/fieldinfo/johoka_minkan_shien03.html

5 「地域医療介護総合確保基金」による介護ロボットの導入支援

介護施設等が働きやすい職場環境を構築するため、先駆的な取り組みにより介護従事者が行う介護業務の負担軽減や効率化に資する介護ロボットの導入について支援を行うこととされた。

本事業の対象となる介護ロボットは、介護施設等での「移乗支援」、「移動支援」、「排泄支援」、「見守り支援」、「入浴支援」において利用することで、業務の効率化や負担軽減などの効果があるものとし、導入のための補助額は1機器につき10万円が予定されており、基金は都道府県が国に基金事業計画を提出して活用する仕組みになっている(図6)。

図6
図6拡大図・テキスト

6 「ロボット新戦略」に基づく介護ロボットの普及方策

首相官邸に設置されたロボット革命実現会議が取り纏(まと)めた「ロボット新戦略」では、ロボット利用の基本的な考え方として、介護は人の手により提供されるといった基本概念を維持しつつロボット介護機器の活用による業務の効率化・省人力化へとパラダイムシフトを支援し、開発の場面においては、介護現場のニーズに即した実用性の高い機器が開発されるよう、具体的な現場ニーズを特定した上で、研究開発支援や開発の段階に応じた介護現場と開発現場のマッチング支援を実施するとされた。また、介護施設等が働きやすい職場環境を構築するため、先駆的な取り組みにより介護従事者が行う介護業務の負担軽減や効率化に資する介護ロボットの導入について支援を行うこととされた。

また、2020年までに目指すべき姿として、移乗介助等に介護ロボットを用いることで、介護者が腰痛を引き起こすハイリスク機会をゼロにすることを目指すとしている。

ロボットを効果的に活用するための規制緩和および新たな法体系・利用環境の整備としては、現行3年に一度となっている介護保険制度の種目検討について、要望受付・検討等の体制の弾力化を図り、技術革新に迅速に対応可能とする。具体的には、介護保険の給付対象に関する要望の随時受付や現行種目において解釈できる種目等の速やかな周知を行うほか、新たな種目の追加についても「介護保険福祉用具評価検討会」および「社会保障審議会介護給付費分科会」を必要に応じて随時開催し、随時決定するとしている。

◇首相官邸:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/robot/

7 真に必要とされる介護ロボットの開発・普及に向けた方策

以上これまで述べてきたとおり、障害者や高齢者、または介護者が使用する介護ロボットの開発や普及については、現在、国によるさまざまな施策が講じられているが、開発にあたっては、早い段階から想定する使用者とのマッチングを図り、当事者参加型の機器開発を行う必要がある。当事者が試作器の被験者となる場合には、本人から同意を得ることはもちろんのこと、倫理審査を経て実証試験を行う必要がある。また実証試験を行うことにより、科学的なエビデンスを収集し分析するためには、計画書策定の段階から専門家と現場の協力が必要である。

また、実際の現場で長期間利用するモニター調査を行うことも当該機器の有用性や介護の在り方を検討する上で極めて重要である。具体的には、介護ロボットを実際に使用し、1.利用に伴う倫理面の配慮 2.利用者に対する有用性 3.介護者に対する有用性 4.介護サービスの全体に与える有用性 5.機器の使い勝手に関する評価等を行うことが重要であると考える。

最後に、これまで多くの開発者と使用者の打ち合わせに参加し、介護ロボットの開発普及に特に必要と感じたことを簡素に記述して本稿を終える。

  • 対象者の自己決定を尊重し、尊厳の維持、基本は本人が使用するもの
  • 対象者とその適用範囲を明確にすること
  • シンプルで使用しやすいものにすること
  • 効果が明確に分かるもの
  • 使用場面を想定した安全性がきちんと確保されているもの

(ごしまきよくに 公益財団法人テクノエイド協会企画部長)