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発表会:「生活機能」向上をめざして-ICFの保健・医療・介護・福祉・行政での活用-

3.環境因子をどうとらえるか (1)

大川 では残された時間で、環境因子を例にとって、ICFを用いた考え方を具体的に皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
まず、まだ皆様も記憶におありかと思いますが、中越と福岡で地震がありました。地震によってどのように人々の生活が変わるかを、考えてみてください。中越の地震、福岡にしましても、かなり映像として流れましたし、新聞等にも出ましたのでほとんどの方がご存じのことと思います。その時の被災者の方たちの生活機能がどう変わるのかです。

地震とは環境因子の中で、「e230自然災害」で項目がきちんとあります。私どもが最初にICFの仮訳をさせていただいたのですが、そのときに「災害まで入っているよ、環境因子に。本当に必要かしら」と、言いながら訳した記憶がありますが、今回災害時の生活機能の調査を行った結果、きちんと自然災害まで項目だてされていて、実際になかなかよくできていると痛感した次第です。

実は私は廃用症候群、生活不活発病の研究を上田先生のご指導のもと、長年やってきたので、あのような環境の変化の中で廃用症候群がよく起きるのではないかなとは、何となく分かっていました。でも、地震は怖いな、行きたくないなと思っていましたが、私の友人が、他の職業ですが、中越震災に行きまして、専門家として絶対に来るべきだと言われまして、正直なところ「仕方ないな、怖いな」と言いながら行きました。

結論から言いますと、行って、非常によかったです。何故かと言うと、一つは生活不活発病について深められたことがありますが、もう一つはやはりICFの生活機能モデルとしての考え方が非常にクリアになったというところがあります。

ICFモデルの中の「環境因子」というのが地震です。地震という環境因子が、ICFモデル図で真ん中の列にあります生活機能にどう影響するのか考えてみてください。一つは地震が起きると、怖いから外に出ないということで、影響が起きるでしょう。それによって活動の量的な制限が起きるのではないかと考えられます。私自身も最初は、ほとんどが避難所の生活が長い方だとか、仮設住宅に入っている人に生じる問題ではないかと考えておりました。

ところが実際に現地に行きましていろんな場面を見たのです。図4の左側がよく出ていました、ある地区の千人以上が入った避難所です。私も実際、その場に行ったのですが、歩いておりましたらコテッと滑ってしまいました。なぜかと言いますと、たくさんの毛布やビニールシートやらが六重、七重、八重くらいに重なっていまして、おそらく陣取り合戦みたいな感じで重なっていたと思うのですが、そこの上を歩いておりましたら転んでしまいました。少し格好悪い思いをしたのですが、そのように歩きにくくなっているという環境因子もありました。

ですがもう一つ非常にショッキングなことは、ちょうど昼時だったものですから、食事の分配がトレイに載せられて始まりました。そうしましたらお年を召したおじいちゃまが「私がやりますよ」と、ボランティアさんに手を出されたのです。そうしましたらボランティアさんがそれを奪うがごとく取って、「これは私たちの仕事ですから、そんなに気をつかわないでください、無理をしないでください」とおっしゃったのです。そのお年寄りがトレイを持って他の被災者の方に分配するとは「活動」なのです。そういう活動の質の機会がなくなって、それによって動くという活動の量も減らしてしまった。それから「参加」、例えば避難所の中であっても何らかの役割を果たすことができたのですが、それを奪っていたことです。

地震が起きるという環境因子、避難所という環境因子、それからボランティアさんというのも人的な環境因子なのです。そういうものがさまざまな関係で活動を低め、参加を低めているのです。

また地震自体の関係で言いますと環境因子としては、近くを歩こうとしたり家に帰ったりすると、まず土地がかなりでこぼこになっているとか、家の中が大散乱しているという物的な変化が生じることなど、さまざまなことがあります。これによって生活不活発病が生じやすいといえます。

そこで印象で話をしても正確な面をとらえていることにはなりませんから、調査をしました。

次に図4右は福岡県西方沖地震時の避難所です。こちらはきちんとした通路があって、そして横になっている時はプライバシーを守れる程度の高さのパーティションがあって、各家庭の領域が決まっています。そして、昼間はきちんと布団は畳んであるという状況です。そして避難所の中でも被災者の方たちにきちんと役割を持っていただこうと、役割を持っていただくこと自体も方針として対応されていました。

新潟県中越地震時の生活機能調査では、長岡市の方々には非常に大変なときによくご協力いただいたなと感謝しておりますが、その中で調査させていただきましたら、これは地震が起きましてすぐに調査したのですが、それでかなり歩行が落ちていることがわかりました。そこでほぼ6カ月後に詳しい調査しました。生活機能のモデルに添いまして百数十項目、要介護認定者においては200項目以上の調査を行っています。

その中で、特に介護予防という観点で歩行の状態についてみますと、地震によって歩行がどう変化をしたのかを、要介護認定を受けていない、いわゆる健康な自立したお年寄りと思われている方々ですが、屋外歩行が難しくなったと感じられる方が25%、屋内歩行も難しくなった方が6%、合わせて3割程度の方がいらっしゃいました。

この方々に、地震前に戻ったのかとうかがいますと、地震の6カ月後ですが、戻っていないという方が1割、いったん戻ったけれども雪の影響で低下したという方がいらっしゃいました。

要介護認定者を比較しますと、当然ながら要介護認定者はもっと低下しやすく、戻っていない方が4割以上いらしたという結果でした。

次に身の回りの行為を見ましても、戻っていない方が非要介護認定者では1割弱、要介護認定者では3割程度という結果になっています。他のいろんな活動に関しましても調査しましたが、低下者が予想以上に多いという結果でした。

では何が影響したのか調査をして分析してみますと、よく質問があるのは「病気があった人でしょう」と、まず病気のことを考えられがちですが、病気があるかないかではあまり大きな差は出ていません。

それから避難所に入ったか否かだろうと、私たちもそう思ったのですが、ある程度影響はしていますがそれほど大きくはありません。仮設住宅に入ったかもある程度は影響はしているけれどそれほど大きくはないのです。

まったく予想していなかったことですが、これはICFの評価点に非常に大きく関係することですが、遠くへも一人で歩いていたという普遍型の自立の方たちはあまり低下していないけれども、同じ自立でも環境限定型の自立だった方は非常に低下しています。同じ自立でもこの両者の差は大きく影響するのです。ICFの評価点基準で言えばゼロなのか1なのかというところが非常に大きく影響しているのです。

この他、いろいろな項目に関しまして地震の前と後の変化をICFにそって調べていきまして、どういう人が落ちやすいのか、そして改善しにくいのかという分析をいろいろとしていきました。結果的にどういう人がハイリスクなのかを見つけていって、チェック表を作っていきました。

これは今日の初めで説明しました「生活不活発病チェックリスト」の元にもなっているものです。チェック表に関する基本的な考え方として、屋外歩行を例にとりますと、地震前で近くなら一人で歩いていたという環境限定型の自立の人は落ちやすいということがあります。

また全体像としてみると、災害の前がどういう状況なのか見ること、それも特に心身機能レベルではなく活動レベルで見ることが、リスクのある人を見つける効果的なやり方だと結論づけることができました。

地震という環境因子についての検討によって、病気は生じていない、すなわち健康状態に変化はないけれども環境因子だけで生活機能の低下が生じることを2,000例以上の人数で証明できたのはかなり画期的なことだといえます。環境因子だけで生活機能がどう変わるのかというところが明らかになったと言えます。

評価をするにしても、「自立」という段階をひとかたまりにするのが今まででしたが、私どもがICFの評価点として提唱しているように、普遍的な自立か環境限定型の自立かを分けて対象を絞ることは、重要なことだと思っています。

実は、普遍的自立については、私は“どこででもできるADL”という名称を使って10年ほど前からリハビリテーションの関係で、家でだけできればいいというのではなく、どんな環境でもできるまで活動向上訓練をする必要があると提唱してきました。これは、臨床的な100例、200例単位の調査をもとにしてきましたが、自治体での数千例単位での大きなマスの調査でもこういう自立を2つにわける必要性が明らかになってきたわけです。

その例ですが、屋外歩行の1年間の変化をみた結果です。2つの市で屋外歩行の自立度が1段階以上落ちる方たちが、全く同様に14%いました。本当に驚くべきことにまったく同じパーセンテージが出ました。そして、1年間で屋外歩行の自立度が1段階落ちる人が、なんと14%もいるのです。これは定期的な検診だけでタイミングよくみつけ出すことは難しいことでして、この低下をいかに早く見つけて早く手を打つのかが、今後の介護予防では非常に重要だと思っています。

このようなデータが、生活機能低下の早期発見・早期対応である「水際作戦」(図5)として介護予防を体系化する必要があると私が主張している非常に大きな根拠の一つです。

こういうことを基にして、チェック表を作ったわけです。

さて、この「生活不活発病チェックリスト」(図1)の使い方ですが、私どもが使っていますのは、地域支援事業とか、予防給付のケアマネジメントのときとか、何よりも一般の病院・診療所、また老人クラブといったところで日常的に使っていただくことです。たった1枚ですし、活動と活動性を見るものですから一般の人にも非常にわかりやすいので、日頃こういうものでチェックをしていただくと効果的だと考えております。
次に環境との関係で、地震で廃用症候群、生活不活発病が起きることを申し上げましたが、次に廃用症候群(生活不活発病)について生活機能の観点から整理していきたいと思います。

廃用症候群、生活不活発病を防ぐことは介護予防の基本でもあります。その際、まずなぜ起きたのかというところの診断を必ずつけることが大事になります。そのときに生活機能の関係で生活不活発病がどのようにして起きたのかを、ぜひ診断してください。

生活不活発病、廃用症候群になっている人ですが、地域支援事業の対象者や要介護認定者は、よほど活動的に動き回る認知症の方以外は、ほとんどは廃用症候群を起こしていると考えてください。

図6で生活機能低下の悪循環について説明します。まず廃用症候群はあくまでも機能障害です。その原因は生活が不活発になっていることで、「活動制限」が起きていることです。そのときに大事なことは、活動制限に、「量的な低下」と「質的な低下」の両方があることです。量的な低下から起きたのか、質的な低下から起きたのかを見ることです。

またこの活動制限は「健康状態」の問題だけでなく、参加レベルの低下が原因になっているかもしれないことを、一緒に考えていただくことです。今日の前半にお話ししました、「サービス支援計画表」をまとめるときに表の右下の「総合的方針」の生活不活発病に関係することですが、必ずこのサイクルの中の参加、活動の質と量がどのような状態であるかをご確認ください。

そのとき、図7に示すように「生活不活発病発生の3タイプ」として、「活動の量の減少」、「質の減少」、それから「参加低下タイプ」があります。この3つに分けてお考えになると、非常に整理がしやすいと思います。

これが要介護認定のときの廃用症候群に関する新しい調査項目で、「活動の量」、「活動の質」、それから「参加の低下」の観点から、3つの新しい項目と、移動の特記事項の充実を考えていただく時に参考になると思います。

「活動の量的減少のタイプ」(図7-1)とは、病気との関係で言っても結構関連が深いものがあり、病気のときの安静のとりすぎや、とりすぎではなく、どうしても安静をとらなければならないというときに起きやすいものです。ただし病気だけでなく、「歳だから無理しちゃダメよ」とか、聞こえにくかったり目がみえにくいこと等から外出が少なくなったことなども影響します。

「活動の質的なタイプ」(図7-2)は、これは非常にわかりやすいことだと思いますが、病気のためにたとえば関節が痛いとか腰が痛いとか等で、動作自体がしにくくなっているものです。

「参加の低下タイプ」(図7-3)ですが、私どもが調査をする前の予想としては真ん中の「活動の質的な低下」というのが多いのではないかと思っていました。ところが実はそうではなくて、この「活動の量的減少のタイプ」と「参加の低下タイプ」が多いという結果になりました。「参加の低下」とは、社会参加の機会が減ってきたとか、ご家族、特に息子さん夫婦と同居して、お嫁さんがいろいろなことをやってくださるものだから、むしろ家庭内での役割が減ってしまって動かなくなったというようなこと等が理由です。その社会参加の制約の誘因には、退職や転居や死別というような環境因子があります。

 基本的なところに戻りまして、介護予防を、何故このICFの研修会でお話をするかというと、介護予防とは生活機能低下予防であることで、生活機能というのが非常に中心的な概念として用いられているからです。介護予防では生活機能低下を廃用症候群モデルと脳卒中モデルとで整理をし、そして廃用症候群(生活不活発病)発生の契機として3つにタイプを分けることで方針を立てれば、わかりやすいのではないかと考えています。これがまず原因の明確化です。

次に生活不活発病の予防・改善に向けてどういう手を打つのかということですが、一言でいって生活を活発にすることです。その際明らかにした原因・誘因を改善することは大事です。ですが、マイナスをとにかくよくするということはICFの考えではありません。ひき出せる活動・参加のプラスはなにかと考えることも必要です。

結果的に起きたのは生活不活発病なのだから、生活不活発病の個々の症状に対応しようかというようには考えないでください。生活が不活発なことが原因なのですから、それを活発化させないと、症状にいくら対応しようとしても、それはただ対症的な療法になってしまうのです。生活機能の各レベルには、相対的独立性があることはICFのポイントです。特に生活機能向上にむけての働きかけを考える時には重要です。

表5に示すように、生活不活発病とはこれだけたくさんの症状があるのです。たとえば筋力が低下していたら、心肺機能が低下していたら、褥瘡ができていたら、他にここに示す症状が全部あると考えて下さい。そうしたら、何か自分が興味あるからとか、うちの自治体はこれに関心を持っているからとか、またこういう治療法ができるから、メニューが提供できるからと、それだけをやるのではなくて、あくまでも私どもが対応するのは一人一人の人間です。目的は一人の方の生活機能をいかによくするのかです。

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