音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

発表会:「生活機能」向上をめざして-ICFの保健・医療・介護・福祉・行政での活用-

3.環境因子をどうとらえるか

大川 さて「介護予防・サービス支援計画表」の一番左のアセスメント領域と表1を対照してご覧下さい。計画表の一番上の「運動・移動」というのがありますが、これは表1の下から3番目の「a4:運動・移動」とまさに同じです。そして次の「日常生活・家庭生活」は、「a5:セルフケア」、「a6:家庭生活」に該当します。それから3番目の「社会参加、対人関係・コミュニケーション」は「a7:対人関係」、「a8:主要な生活領域」、「a9:コミュニティライフ・社会生活・市民生活」、「a3:コミュニケーション」に該当することになります。そして、計画書の一番下の「健康管理」はICFの「a570」です。ICFではセルフケアの中に健康管理として「健康に注意する」ことがはいっています。表1ではこの「a570:健康に注意する」ことが、他の項目との関連が大きいので、中項目ではありますが、重要なので大項目のリストである表1に含めているものです。

ですから、介護予防のケアプランを立てる時に、支援計画表の各「アセスメント領域」で何を見るのかという時には、今述べました大項目の内の更に中・小項目をきいていけばよいわけです。たとえば御本人は「移動・運動の状態は?希望は?」と言われてもよくわからないとか、「日常生活・家庭生活は?」と問われても、また「日常生活で何をしたいですか」というように聞いても、なかなか真の希望は出にくいものです。くわしく「セルフケア・家庭生活」の中項目としてはどうなのだろうかと希望をきき、評価をして、そして目標を立てていくというように考えていただければと思います。

その場合に、時間がありましたら本当はここを丁寧に説明すべきことですが時間がないので、ポイントだけ述べますが、介護予防のマネジメントの中においては、特に廃用症候群の予防というのが重視されていますので、そういう観点でいえばやはり「運動・移動」というところが非常に重要だと考えます。「運動・移動」がかなり上のほうに、最初に聞くという位置づけでできたとお考えいただければと思います。

大項目の「運動・移動」のなかでも中項目として「a460」で「さまざまな場所での移動」があります。その中でも、更に細かい項目のなかで、同じ「室内歩行」でも、「a460.自宅内での歩行」、「a4601.自宅以外の屋内歩行」等々があります。これもなかなか鋭いところで、介護予防関係で言えば、自宅の中を歩いているという屋内歩行と、デイケア、デイサービスやそれから病院に行った時の屋内移動とは全く違うものです。家では伝い歩きをしていたけれども、病院やデイケアに行ったら車椅子という方もいらっしゃいます。家の中では伝い歩きだけれどもデイケアだったらシルバーカーで歩けることもあるのです。ですから同じ歩行そして屋内歩行でもそのように細かく見ることが必要であり、介護予防で言えば、移動のところだけは中項目だけではなくて小項目の評価をしようというような、必要性によって評価、使用する項目の細かさを考えていくことが大事になってくると思います。

環境因子とは環境因子だけで考えるものではなくて、その環境因子が活動、参加にどう影響するのかで評価するものです。

ですから、たとえばこれは医療や介護関係以外で、たとえば建築関係でも、たとえば日本建築学会の中でもICFを勉強する会が正式にあるようですが、非常に良いことだと思っています。たとえば建築の効果を確認する時にも、ICFのこのチェックリスト、評価法を使っていただき、たとえば段差をなくす、たとえば手すりを付けることは、この方のある動作に関してはいいかもしれないけれど、他の動作に関してはどうだろうかをみていただきます。専門家が興味を持っているから、また患者さんや依頼者が訴えているところだけではなくて、全人間的にICFモデルとしてその環境の変化がどのように影響するのかを評価して見るべきではないかと提唱させていただきたいと思います。

たとえばこのスライドに示すように、段差があります。これは以前もこの発表会で使った資料だと思いますが、この段差がどのように影響するのかを考えると、この方の場合は第4章の「運動・移動」の「家庭内移動」に関して言えば、これは阻害因子になっています。しかしながら、これは「家庭生活」の中の「家事」の中では、このような掃除をしたりとか、そういう類のことにおいては、むしろ促進因子になることがあります。

というように、環境因子と言っても、環境因子それ自体が単純にプラスの促進因子になるわけではないしマイナスになるわけでもありません。ある特定の人にとって、更に、一人ひとりの個人の中でもそれぞれの活動、参加においてどのように影響するのかを見るべきです。

では、環境因子がどのように影響するのかというのが分析ですが、次にそれに対してどのように対応するのかを考えた場合に、マイナスになっている環境因子があればそれはすぐに除外すればいいというわけではなくて、あくまでも活動、参加をよくするために環境因子をどう活用するのかという観点で、また同様に評価表を使っていただき、抜けがないように、興味のある活動だけではなく、全てのところを見た上で、どのように環境を変化させるのかを考えるべきだと思います。

この例でお話ししますと、段差があるので歩きにくいので、手すりを付けたらどうか?また段差をなくす方法はどうか?それから、段差をこのままにすることも提案しましたけれども、この方は結果的には手すりは付けないことを選択されたのです。

現在は足を段差にかけて安定させることによって重たいものを運べるように、むしろ促進因子としてすら段差を活用しています。例えば、掃除機を持ち上げて段差をクリアできます。またたとえば、10kg、20kgの米袋も、ここに足を引っかけて固定することで、安定してこの段差をクリアすることができます。

ではどうやって普通ここの段差を歩く時にはクリアしているかというと、柱に背中をもたれかからせて、横歩きのようにしてクリアされています。

この方がこのように段差をこのままにし、手すりもつけないことを選んだ過程ですが、「柱にもたれかかってやるというやり方を頻回にやっていったら上手になるのか」と質問され、「それは上手になる」と申し上げましたら、東北にいる親類の家に行ったりとか、近くにいる娘さんの家に行ったりとか、お友だちの家に行ったりとかした時に、段差が多い。家の段差に手すりを付けてしまったら、手すりがなければできないようになっちゃうでしょう。でもこういうやり方を家で頻回にやって上手になればいろいろなところに行けるから、段差をこのままにしておく方法を選択したいとのことでした。

また手すりをしょっちゅう見ていると、家族に迷惑をかけているなと思うとか、いろいろな理由がありまして、結局は改造しなかったわけです。そして10年以上経って、要介護度3ですが全く介護保険のサービスは受けておられません。

このようにして、一個一個の環境因子への対応にしても、こういう観点で見ることが必要なのです。

次に、車椅子用の洗面台と普通の洗面台ですが、ある病院内でどちらが改造前かといいうと、この普通の洗面台が改造後です。車椅子用の洗面台は、車椅子使用時には促進因子ですが、やっと歩いてやっと立てるような方にとってはむしろ阻害因子となります。膝の前にもたれかかる板がありますと膝折れしなくても立っていられます。バリアフリーという言葉よく使われますが、その方のどの「活動」のどの項目に関してなのかという観点で正確に使うことが必要だと思います。

最後に強調させていただきたいことは、ICFとは「共通言語」という観点です。今日はその点については充分に議論できなかったことが残念ですが、あくまでもご本人たちの生活や人生をハッピーにするための共通のものの考え方です。環境因子の活動・参加への影響は御本人だからこそわかることが多くあります。また環境因子をどう促進因子として活用するかをICFを活用してご本人が整理することも効果的です。また今日の発表会でも大きなテーマとなりました介護予防の中でも使っていく必要があると思います。

介護予防に関しては、「明老活発でいこう。」をどうぞご活用下さい。生活不活発病が介護予防の重要なターゲットになっていますが、調査をすると、ほとんどの自治体で生活不活発病についてご存じの高齢の一般住民の方は約1割でした。そして、生活不活発病についても、それから廃用症候群についても認知度は同様です。生活不活発病等はほとんどメディアを通じてそれもごく半年以内ぐらいでしかご存じないはずなのですが、それと廃用症候群の認知度はほとんど同じでした。

介護保険を受けている方についても、ほとんど同じです。介護保険のサービスを受けていても、1割の方しか廃用症候群、もしくは生活不活発病の名称をご存じでなかった。ということは、それについての説明を受けていなかったということです。

ご自分の状態を知っていなければ、サービスに関しての本当の、正しい希望は出ないのです。ですから、今後の介護予防におきましては、説明の義務として、生活機能というのがどういうものであるのか、その考え方、それから廃用症候群はどういうものであるのかをきちんと利用者さん、患者さんにご説明する必要があると思います。その時に、この「明朗活発でいこう」はお役に立つと思います。これは、基本的にはご本人に理解していただくために作った冊子ですが、専門家の方々も説明をする前にまずご一読いただいて、これまでの知識を再整理していただき、ご本人たちへの説明に使っていただければと思っています。廃用症候群はどういうものなのかと、それから生活機能に関しましても簡単にまとめて説明しやすく作っています。

要介護認定を受けるようになってから初めてではなくて、むしろその前に一般的な知識として廃用症候群、生活不活発病、生活機能をわかっていただくように、知識として持っていただくように、早めに啓発していただくことが必要ではないかと考えています。

今回の研究成果発表会の発表はこれで終わらせていただきます。

「閉会のことば」へ