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事例報告(先生、保護者からの報告)

荒川 一志(栃木県鹿沼市立みなみ小学校 教諭)

皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました栃木県鹿沼市立みなみ小学校の荒川と申します。このような場で話す機会が少ないものですから、聞き取りにくい点がありましたらご容赦願います。早速ご報告をさせていただきたいと思います。

本校は250名弱の学校ですが、その中に読み書きに困難を抱えている児童がおります。また本校には、児童養護施設から通うお子さんもおりまして、その子の大半が非虐待児ということもあり、乳幼児期に適切な愛情・教育を受けてきていないために読み書きにかなりな困難を呈しています。また外国籍児童も通学しておりまして、保護者のほとんどが日本語ができないために子どもも日本語が十分にできないという面で、かなり混乱を感じているお子さんがいます。

はじめに

資料内容1

昨年度、私と校長とで日本LD学会の広島大会に参加した折に、DAISY教科書が提供されるというお話を聞きまして、申請し活用を始めました。概ね1年活用した上で、指導体制を模索したり、指導法をいろいろ試したりしながら、若干ではありますが効果が見られましたので、今日は事例を示しながらお話しできればと考えております。

本校ではDAISYを活用するに当たり、まず保護者の了解を得て、簡単な読み書きの検査、必要に応じてWISC-3(ウィスクサード)などの検査も行って、その子の認知特性等について把握をしております。その後、DAISY教科書を活用した方が有効だと思われるお子さんについては、保護者の了解を得るとともに、スクリーニング検査をもとにその子のアセスメントを立てます。実際にそれを受けて指導を開始し、約半年ほど経過した段階で、もう一度指導の評価のために検査を行い、指導の有効性について検討します。それをもとにまた個別にアセスメントを立て直し指導に当たるということで、現在、指導に当たっております。

DAISY教科書活用の流れ

資料内容2

実際に読み物を読んでいくに当たってどのような形で私が進めているかと申しますと、まずは音声ガイダンスを聞きながらフレーズ部分を指でなぞらせています。その次に音声ガイダンスを聞いた後一時停止をかけて、そのフレーズのまねをさせるというか、同じように読ませています。これは概ね文字と音のマッチングさせることを狙っています。それに慣れてきた次の段階で、今度は音声ガイダンスを聞いた後に一時停止をかけて、指でなぞらずに読む。その後に、音声ガイダンスを消して、フレーズのハイライト部分を読んでいくということをやっています。この3、4については、主に読みの習熟を図っていきたいというふうに考えています。

DAISY教科書活用の仕方

資料内容3

使用するに当たって使用しているのは、まずはフォントサイズの変更。今5段階用意されていますので、概ね真ん中の3つの段階。ただ、単元や児童によって、好みや読みやすさが異なるので、その辺は若干調節しながら活用しています。色の変更ですが、私の方でいくつか組み合わせを試したところ、大体どの子もフレーズの色はテキストが黒で背景が黄色、ハイコントラストはテキストが白で背景が紺が見やすいと言っている子どもが多いので、主にそれを使用しております。

再生速度については、若干、音質等の変化もあるので衝動性が強いお子さんはそれに反応してしまって集中できない場合もあるので、学習の4の段階で音声ガイダンスを消したときに児童の読みの速さに合わせて若干、速度を変える形で活用しています。

パソコン操作については、簡易表示を使用しております。初めは私が子どもの隣でつきそい、慣れてきた段階で子どもに操作を任せるということで活用しております。

実際の活用の様子はこの写真ですが、このお子さんも特別支援学級に在籍していますが、教室は刺激が多すぎるので、パソコン室だとかなり単調な感じになるので集中して学習できるということで、主にパソコン室で学習を進めております。今のお子さんですが、事前検査をした結果、聞いて書くことでは拗音や助詞の誤りが多く、脱字も多い。見て書く、書き写しですね、促音とか字形とか読点の誤りも多い。一番顕著だったのが、大半が逐字読み。仮名を一つひとつ拾って読んでいく読み方が目立ちました。また、見た文字を誤って読んでしまう。例えば「パンダ」を「ポンダ」とか、「きゅうに」を「きょうに」というような勝手読みも見られた。

対象児の読み書きの特徴(A児)

資料内容4

このお子さんの場合は耳からは情報が有意に入ってくるんですが、文字を見てそれを出力することができない。また、聞いたことを出すときに、「トウモロコシ」を「トウモコロシ」と言ったり、「マヨネーズ」を「マネヨーズ」と言ったり、間違った言葉として表す場合も多い。

そのためにDAISYを活用しながら、特に音声ガイダンスを活用して、音と文字をマッチングさせていきたいという目標を立てて活用を始めました。

今は週3~4回、活用しております。初めは5分程度でした。一番大切にしたことは、読むことが嫌いにならないように、子どもが、やりたくないときには早期にやめてしまう。読みを嫌、嫌いとならないようにと気をつけながらやっていきまして、今では平均10~15分、長いときでは20分くらい集中して読むことができるようになりました。

指導の経緯1

資料内容5

指導の経緯2

資料内容6

これが事前の検査です。聞いて書くという段階では抜かして書く。黄色い部分が誤りで下が本児なんですが、抜かして書くという傾向が見られます。それがDAISYを半年活用して同じ検査を行ったところ、若干誤りが減ってきている。

A 聴写(指導後)1

資料内容7

A 聴写(指導後)2

資料内容8

次の、見て書き写すという作業でもやはりDAISYを活用する前は、抜かして書いたり句読点も抜いている場合があったんですが、それも若干ではあるけれども減少してきている。

B 視写(指導前)

資料内容9

B 視写(指導後)

資料内容10

一番顕著に変化が見られたのはやはり読み。黄色い部分 (棒線) が誤って読んだところです。逐字読みでかなを一つひとつ読んでいたのです。例えばこんな感じで、 「 きょ・う・お・か・あ・さ・ん・と 」 という感じで読んでいた。白い部分はある程度スムーズに読めたんですが、これだけの部分でこれだけ読みにつかえていたのが、半年使用してこれぐらい改善されてきた。かなり文節や単語、文章を意識しながら読めるようになってきて、読み楽しいなということで、最近では自ら絵本を開いて読むようになってきた。

C 読み(指導前)

資料内容11

C 読み(指導後)

資料内容12

これがグラフで表したものですが、一番顕著に表れたのは下のグラフの一番右側です。1音1音読んでいたものがスムーズに読めるようになったので、間違いが3分の1に減少した。それに伴って、右下のグラフですが、やはり読みの時間も減少してきたということです。

半年間、4~9月までの中では、結果として学習に集中して取り組めるようになってきたということが一番大きな効果です。2つ目に、DAISYを活用することで逐語読みから、文節読みに移り変わっていったために、誤読が減少して速度も上がった。

読み書き検査の比較(A児)

資料内容13

3つ目、書字についてはなかなか顕著な改善は見られませんでしたけれども、読みは比較的早い段階でいい結果が得られた。

4つ目、DAISYのハイコントラスト機能を使ったりフォントのサイズを変更することで、その子に合わせた読みができるので、興味を持って取り組めるようになった上に、音と文字も一致してきたという意味で効果が出ました。

5つ目、何よりも自分のペースで繰り返し学習できる。間違っても別にとがめられない、自分のペースでできるということで、一人学習の習慣がついた。そして自分自身の自信が回復してきたということで、前向きな姿勢に変わってきました。

結果(半年の指導期間)

資料内容14

6つ目、文が読めるようになったことで、例えば算数の学習問題も読めるようになったということで、かなり他の教科へもいい影響が表れてきました。

最後に課題ですが、やはり1つ目に、個々のニーズが多様化しているので、これという指導にはなかなかいかないので、その子その子に合わせた指導法を、手さぐりをしながら指導に当たっていく必要がある。

2つ目に、読みは比較的早い段階で改善するのですが、できるだけ書字にもつなげてあげたいということを考えています。

課題

資料内容15

3つ目に、今回は特別支援学級のお子さんが中心でしたが、通常学級のお子さんにもそういった支援を要するお子さんがいるんですが、我々教員の数の問題とか時間割の問題で、なかなかニーズに合った指導で取り出してあげられない部分もあるので、その辺の指導態勢を整備していく。それは我々の問題なんですが、していかなければならないなと思っております。

4つ目に、家庭と連携しながらその子に合った支援、指導を行っていければ、一番いいのかなと今のところ考えています。早口で申し訳ありませんでしたが、私からの報告は以上です。ご清聴ありがとうございました。

ご静聴ありがとうございました。

資料内容16

荒川氏配布資料