実現・当事者目線の支援機器-ベッドでシャワー 快適な洗身を実現~介護用洗身用具「switle BODY」

「新ノーマライゼーション」2025年12月号

株式会社シリウス 代表取締役
亀井隆平(かめいりゅうへい)

株式会社シリウスとは

株式会社シリウスは2008年設立、従業員17名の小さなベンチャー企業です。

社長の亀井隆平(以下、筆者)は三洋電機でのマーケティングや営業企画の経験を活かし、世の中の”困った”を解決し新しい市場を創造する『新市場創造型』のものづくりに徹しております。

2017年に発表した水洗いクリーナーヘッドswitleは、今まで雑巾で拭くしか策がなかったカーペットやソファといったファブリック製品の食べこぼしや飲み残し、ペットの阻喪などに対し掃除機の吸引力を利用して水やお湯を吹きつけながら同時に吸い取る機構を採用した世界初となる水洗いクリーナーヘッドを発表し、その年の日本イノベーター大賞優秀賞を受賞しました。

介護用洗身用具switle BODY開発のきっかけ

1.自らの介護体験

筆者は歩行が困難な母親を約5年にわたり妻と2人で介護した経験があります。お風呂に入れるのは筆者の担当でした。ある時お風呂の洗い場に母親が座り込んでしまい、自ら立ち上がることも這い出ることもできずに、筆者が抱きかかえて救出しようとしましたが、裸でしかも体が濡れた母を柔道六段、185cm100kgの筆者をしても抱きかかえることができず、妻の助けもありようやく救出ができました。

一般のご家庭で同じようなことが起こったとしたら、重大な事故に繋がると感じ、『ベッドに寝たまま洗うことができたら』助かる人たちがいるだろうと思いました。

2.困窮する介護の現場

妻の親友が千葉の介護施設に20年以上にわたり介護士として働いており、サービスの中でも入浴や清拭が最も大変で時間と労力が掛かっていて困っているとのことでした。シリウスで省力化に繋がる機器を開発してくれたら現場はどんなに助かるか、とお願いされました。

3.ベースとなるのは水洗いクリーナーヘッドswitle

そこで、2017年に発表した水洗いクリーナーヘッドswitleのように、お湯を肌に吹き付けながら、同時に吸い取ったら、ベッドやお布団を濡らさず汚さず洗うことができるのでは?と推察しました。2023年6月に機構設計やデザインに着手し、この年の暮れには試作品が完成し、2024年4月に発売を開始しました。

世の中になかったものを発売開始

世界初認定のステラアソシエ社の調べでは、ソープとお湯が出て着脱可能な廃水タンクを有する洗身用具として世界初であると認定を受けました。

世の中になかったものを多くの方々に知ってもらうため、発売前より全国47都道府県にて新商品発表会及び代理店説明会を筆者自ら出向き開催しました。また、各地で開催した新商品発表会にはテレビ局や新聞社の取材を受け大いに認知度拡大に貢献いただき、売れ上げも順調に推移していきました。

開発の落とし穴

ある新聞社の紹介で、著名な介護施設にswitle BODYを試験的に使っていただくことになりました。筆者が神戸まで出向き、使い方の説明から商品の魅力などをお伝えし1週間のお約束でサンプル機を貸し出しました。

しかし、1週間も経たない5日目に理事長より「大変に申し訳ないけれど、2つの理由があり当施設ではswitle BODYの採用は見合わせさせていただく」という連絡を受けました。「理由のひとつは、お年寄りが寒く感じる。ふたつ目は、ヘッド部分があたって痛い。場合によっては傷つくかもしれない」とのことでした。

筆者も自ら出向いて説明したにもかかわらず、不採用とは? 即日、再度神戸へ出向き、詳しく経緯をお聞きしましたが、使用法や運用の仕方は間違っておらず、早速、原因究明と対策を技術陣と共に練ることとしました。

その結果、お湯は噴出しているものの、お布団を絶対濡らさないため、吸い込みが優位となっていました。また、お湯もお肌にあたる前に吸い込まれてしまっていることが分かり部品を追加して肌に近いところで噴出するようにしました。他にも、スポンジの厚さを5mm厚くしたりと10項目以上の改良を3週間で仕上げ、再度、理事長を訪ね、実際に体感していただきますと、見違えるほどに気持ちよくなったと高い評価を得ることができました。今では全館3フロアで3台フル活用していただいています。

本当のことをおっしゃっていただいた理事長には深く感謝しています。技術陣が『絶対にお布団に水滴を垂らさない』という使命の下で開発していたため、体感や気持ちよさを後回しにしてしまった、まさに『開発の落とし穴』の存在が教訓となりました。

改良版にすべて入れ替え

7月に改良版の試作品が仕上がり9月には量産化できました。その期間は売り上げを落としてでも出荷を止めました。また、すでに販売したサンプルを含め700台ほどの商品は筆者指示の下、すべて改良版へ商品交換をしました。

引き揚げてきた商品のうち、使用品は改良した後、新品同様にリペアし、貸し出し用として出荷し、未使用品に関しては改良し再度市場へ投入しています。代理店各社からは売りっ放しではない企業姿勢に共感をいただきました。

各賞受賞

世の中になかったものを開発したので、「介護用洗身用具」の存在を知ってもらうには、マスコミが一番手っ取り早いのですが、限界もあります。そういった意味からも、各種賞レースに応募したらどうか?と社内で協議し、switle BODYに合った賞レースを選別し応募した結果、デザインやコンセプト、社会貢献度などが高く評価されさまざまな賞を受賞いたしました。

〇公益財団法人日本デザイン振興会主催

グッドデザイン賞 ベスト100

グッドデザイン賞 金賞(5,773作品中2位)

〇東京都産業労働局主催

東京都ベンチャー技術大賞 技術特別賞

〇日本経済新聞社主催

日経優秀製品サービス賞 最優秀賞

〇レジリエンスジャパン推進協議会主催

ジャパン・レジリエンス・アワード 国土強靭化担当大臣賞

〇りそな中小企業振興財団・日刊工業新聞主催

第37回中小企業優秀新技術・新製品賞 優良賞

〇国立研究開発法人科学技術振興機構主催

「STI for SDGs」アワード2024 優秀賞

〇Consumer Electronics Show主催

113 Best of CES 2025 選出

新たなターゲット

マスコミで何度も取り上げられ、さまざまな賞を受賞した結果、ターゲット層の広がりがありました。

当初のターゲット層は、『入浴が困難な身体が不自由な方やお年寄り』としていましたので、介護度が高いお年寄りや身体障がい者を想定していましたが、医療機関からは術後の患者様やギブスを使用している患者様に使用したいとお問い合わせが来ています。また、たった1リットルの水で、全身シャワーを浴びたようにきれいに洗うことができるので、地方自治体や介護医療施設などの災害復旧対策(BCP)として検討したいとの問い合わせも増えてきています。

世界へ発信

確かに介護を担う人手不足と高齢化社会の加速化は日本だけの問題ではなく、世界も遅かれ早かれいずれ到来します。日本で培った技術を世界へ発信し、ゆりかごから死ぬ直前まで、清潔で快適に暮らすことができる『尊厳』の一助になるべく全社一丸で取り組み、さらなる改良を重ね、コストや性能を常に究極まで詰めてまいります。