ひと~マイライフ-バリアフリーが「特別扱い」だと思われない街を目指して

「新ノーマライゼーション」2025年12月号

岡村万記子(おかむらまきこ)

1991年生まれ。聴覚障害をもつ両親の元に生まれ、自身も感音性難聴による聴覚障害者。日本福祉大学社会福祉学部卒業。特定非営利活動法人名古屋難聴者・中途失聴者支援協会に所属し、さまざまな活動を通じて、社会に聴覚障害者に対する正しい理解・認識を広めている。

私は3歳で原因不明の進行性難聴を発症し、5歳でほとんど聞こえなくなりました。それから、同じ聴覚障害をもつ母は「自分と同じ辛い思いをさせないように」という信念から、私にさまざまな経験をさせてくれました。子ども時代に母からしてもらったことは、今でも自分の「生きる力」になっていると感じています。

「たった一人のために特別扱いはしないが、それでもいいなら入学を許可する」。この一言が今でも忘れられません。私が地元の普通学級のある高校に入学する時、高校と母が面談した際に、高校から言われたそうです。令和では考えられないことですが、20数年前は聞こえない子どもが、学校から「学校側で聴覚障害者のための支援ができない、一人を特別扱いすると他の生徒と平等でない」という理由で入学拒否される時代でした。

それから大学へ進学し、福祉分野を学び、社会人になった今は、名古屋市が実施する「バリアフリー整備相談支援事業」に関して、「当事者参画の場」の構成メンバーとして名古屋市に聴覚障害者のバリアフリーについて意見や提案を出しています。名古屋市内における施設などの改修及び整備に関して、障害者の立場からニーズを発信しています。

ハード面の整備では、聴覚障害者のための設備の採用は、かなり置き去りにされがちです。これは健常者の固定観念で「聴覚障害者は自分で歩けて、自分で判断ができて、一人で行動できる」と思われていることの現れだと思います。ですが、ハード面のバリアフリーが整っていれば、災害などの緊急事態に命綱となることもあります。例えば、火災を光で知らせる警報器やエレベーターの仕様など。エレベーターは、停電等で緊急停止した時、内部に閉じ込められた聴覚障害者が、緊急電話による意思疎通ができない場合に備えた機能があるかを確認しています。最近は、エレベーターのカゴ内が外からわかる「シースルー」仕様も多く見かけるようになりました。また、カゴ内から緊急ボタンを押すと、同じ空間に設置されたモニターが管理室と繋がり、テレビ電話のように意思疎通ができる仕組みを採用している施設もあります。このように、ハード面では聴覚障害者の命を守る手段を検討し取り入れてほしいと名古屋市に要望しています。

また、聞こえを補助する「ヒアリングループ」もバリアフリーに重要な設備です。これはスポーツ施設や展示場などに設置を要望しています。車いす専用席があるのと同様に、聞こえを補助する設備があるべきだという考えがまだまだ社会に浸透していないためです。補聴器は万能ではなく、騒音や歓声などが大きいと、本当に聞きたい音が聞こえないためにエンタメや芸術、スポーツ観戦を楽しめません。これでは聴覚障害者にとってバリアとなります。そこで、まずバリアを取り除く一歩として、エンタメ・スポーツ施設にヒアリングループの設置を提案しています。最近では、名城公園内にオープンしたIGアリーナにヒアリングループが設置されています。IGアリーナは収容人数最大17,000人で、日本最大級の複合アリーナです。さまざまな催しが行われる場所で、聞こえに関する心配も少なく済むのはとても心強いです。

最後に、私が生まれ育った名古屋という街が、聴覚障害者にとって暮らしやすい街となることを願ってやみません。今後も、バリアフリーな街づくりに参画し、共生社会の実現という考えのもと、障害者に対する配慮が特別扱いと思われない社会を目指して活動していきたいと思います。