青葉園の意思決定支援
「新ノーマライゼーション」2026年2月号
西宮市社会福祉協議会青葉園 園長
粟生史子(あおふみこ)
1. 青葉園について
青葉園は、西宮市南部の市街地中央に建つ、西宮市総合福祉センターの一角にあります。重い障害のある方たちの西宮市独自の地域活動拠点(通所施設)として、1981年に発足し、西宮市社会福祉協議会がその運営に当たっています。
2006年10月より生活介護事業所として活動し、現在では19歳から70歳まで48名の方が平均週4日通所されています。通所するご本人は障害程度区分6の方がほとんどで、全体の4分の3の方が何らかの医療的ケアを必要とされています。そして約3割の方が親元を離れ、重度訪問介護等の支援により、市営住宅や民間賃貸住宅で地域自立生活をされています。
青葉園では、通所する一人ひとりの存在に動かされながら、ご本人の主体性を基盤に活動を創り出す視点を大切にしてきました。基本理念の中でも、さまざまな取り組みによって個性や可能性を見出し、のばし、十分に自己実現をしていくことや、青葉園が地域に開かれており、多くの人々と関わりがもて、さまざまな機会が用意されているという、自由と豊かさを重視しています。この考え方そのものが、青葉園の意思決定支援の基本となっています。
2. 青葉園における意思決定支援の実践
青葉園の大半のご本人は、言葉だけで意思疎通を図ることが難しい方たちです。そのため職員は、ご本人の身体の動き、表情、仕草、発声など、小さな反応の変化に注目し、ご本人のしたいことや興味のあることを探っていきます。『一緒に身体を動かす』『同じ場面を共有する』『共感的に関わる』さまざまなアプローチで関係性をつくり出し、積み重ね、「この職員と一緒にいると、なんか安心」「この取り組みは、きっと楽しい」そんな気持ちを推測しながら、次の活動展開につなげていきます。
例えばこんな感じです。ご本人、ご家族との会話の中から「昔、〇〇へ行くのが好きで、よく家族みんなで出かけたのよ。テレビで見てもニコニコ見てる」と教えてもらいます。すると、「では、一緒に青葉園からも見に行きましょうか?」とご本人と話が発展していきます。ここで大切なのが、職員が「一緒に〇〇を見に行きましょうか?」と思うのと同時に、ご本人と同じ場面を共有したい、共感的に関わりたいと思う視点です。『ご本人のしたいことをかなえる』というような一方的な支援ではなく、もっと距離感の近い、気持ちを共有する感覚を大切にしてきました。
3. 青葉園の活動と『個人総合計画』
青葉園の活動は、重い障害のある方一人ひとりが、豊かに自己実現し、いきいきと暮らしていくための土台となる場づくりです。日中活動の場だけでなく、地域での自立生活の実現に向けて、一人ひとりの『個人総合計画』を作成し、それに基づいてさまざまな経験を積み重ねていきます。その中で作成する『個人総合計画』とは、ご本人を中心として支援する関係者で描き出す計画です。計画の内容は将来を共感的に描き出し、現在、ご本人と支援者が重点を置いて行う活動の計画であり、一人ひとりが、地域社会での生活、活動において、自己実現を図るための計画でもあります。ただ、青葉園のご本人は、言葉だけでコミュニケーションをとるのが難しい人たちです。その方たちの将来の意向をどう捉えていくかですが、人と人が関わり、取り組む中で生まれてくるエピソード(日々の取り組みの様子やさまざまな状況)を振り返り、共感的に将来を捉えようとします。その時に重要となってくるのが、『個人総合計画』と一緒に作成される「相互主体レポート」(職員がご本人と共に感じたこと・関係性の記録)です。内容については、ご本人と職員が共に経験した出来事や職員がご本人から学んだこと。また、ご本人の変化に対して職員がどう関わったか、関係性の中で見えてきたご本人の意向などです。この「相互主体レポート」は外部に出すものではないので、表面的な活動評価ではなく、青葉園や地域の中で、またご家族との中で、ご本人と職員が互いにどのように関わり、共感し、何を生み出し、何を思い、見たのかを書き綴ります。また、職員が関わりの中で発見したこと、悩んでいることを描き、ご本人と過ごした一年間を振り返る時間としています。特に職員自身が強く感じたこと、心に残ったことを取り上げて書くので、『個人総合計画』の書式からでは表現されることのない、内面的な状況を表すことになります。この作成に時間を費やし、思いを巡らせるプロセスを大切に考えています。「相互主体レポート」は、担当職員として一年間ご本人をどれだけ見てきたかということや、ご本人に対する思いが明確に現れる記録です。この「相互主体レポート」に書かれた『思い』は、次年度へ、次の担当へと『個人総合計画』をつないでいくことになります。
4. 意思決定支援をめぐる課題
これまで、ご本人を中心として、支援する関係者で作り出してきた『個人総合計画』を元にさまざまな活動に取り組んできましたが、長い経過の中で課題も見えてきました。
例えば、ご本人の思いを受け止め、推測しながら展開してきた支援は、関わる側の経験や関係性に基づくコミュニケーションが中心となります。ご本人の意思を丁寧に汲み取っても、第三者に説明が難しい場合があり、時として外部から「本当にご本人が望んでいるのか」と疑問を投げかけられることがあります。また、介護保険制度との併用が必要になった場合や終末期の医療同意など、制度上の判断に経験や関係性に基づく気持ちの汲み取りが、反映されにくいところがあります。今後は、これまで行ってきた経験や関係性に基づくコミュニケーションを継続させながら、共有したり、伝える仕組みを考えたり、ご本人の暮らしの豊かさを共に考える対話の場を広げることが必要です。
5. おわりに
若い頃、「例えば、意思決定支援のない本人支援ってなんや?」と問われたことがあります。何と答えたら…と考えているうちに「そんなもんは、ありえんやろ」答えを待つまでもない、という感じでピシャリと言われたことを鮮明に覚えています。
これまで、青葉園のご本人と関わる中で、たくさんのエピソードに巡り合ってきました。言葉を発していない方たちそれぞれの存在により、物事の局面が変わったという出来事ばかりだったことに驚かされます。
時々で起こってくる出来事を、ご本人とどう受け止めていくか、というようなことを考えていました。『ご本人と』と考えることは、その時自分はどうするか、を考えることにつながります。表情や仕草、身体全身を使って伝えようとしてくれるご本人に対して、「私は、このご本人をどう受け止める? 私はどうする?」が日々いろいろな場面で、繰り返されました。
ご本人たちと共に過ごす中で『コレがしたい』という思いを推測し、また、職員も『あの人とコレがしたい』と相互の気持ちが重なる中で、それに刺激を受けた人たちを巻き込み、その動きが次の活動展開につながる。改めて考えると、この繰り返しのやりとりこそが、『意思決定支援』ではないかと考えます。
図1
(拡大図・テキスト)