重度・高齢化した知的・発達障害のある人への意思決定支援の取り組み

「新ノーマライゼーション」2026年2月号

独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園研究課
村岡美幸(むらおかみゆき)

1. 国立のぞみの園の概要

独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園(以下、国立のぞみの園)は、1971(昭和46)年に国立コロニーのぞみの園(以下、旧コロニー)として開所し、2003(平成15)年10月に独立行政法人となりました。創設当初から、重度の知的障害のある人を対象とした、専門性の高い支援体制の整備と実践の蓄積を担ってきました。当初は480名ほどの知的・発達障害者が生活していましたが、地域移行や死亡退所により、現在は150名弱の知的・発達障害者が、障害者支援施設や共同生活援助(以下、グループホーム)で暮らしています。利用者の平均年齢は70歳代に達し、重度・高齢化しています(図1・2)。それゆえ、日常生活全般にわたる包括的な支援に加えて、健康管理、生活の安全確保、環境調整など、複合的なニーズへの対応が求められています。

図1 旧コロニーからの入所利用者の年齢
図1 旧コロニーからの入所利用者の年齢拡大図・テキスト

図2 旧コロニーからの入所利用者の障害支援区分
図2 旧コロニーからの入所利用者の障害支援区分拡大図・テキスト

一方で、著しい行動障害がある人や医療的ケアが必要となった人などを、一定期間(2~3年)受け入れて集中的に支援し、地域生活への移行や次の支援体制への円滑な引き継ぎにつなげる「有期限利用」の取り組みも行っています。

本稿では、重度・高齢化している知的・発達障害のある人への意思決定支援の取り組み事例をご紹介しつつ、取り組みから見えてきた課題と今後の展開についてご紹介していきたいと思います。

2. 国立のぞみの園における重度・高齢知的・発達障害のある人への意思決定支援の取り組み

■事例 「Aさんの『東京に行きたい』の言葉に秘められた思い

グループホームで生活するAさんは、60代半ばの重度の知的・発達障害のある方です。健脚で、買い物やカラオケ、おいしいものを食べることが好きです。毎週、移動支援を利用しながら、自分で行きたい場所を選び、楽しみのある生活を送っています。

そんなAさんが、ある時期から「東京に行きたい」と繰り返し口にするようになりました。しかし、東京の「どこに」行きたいのか、「何を」したいのかが分からないまま、時間が過ぎていきました。支援者は、国際生活機能分類(ICF)の視点を用いて、Aさんの発言につながる生活歴や経験、関心に関する情報がないか整理しました1)が、手がかりを得ることはできませんでした。そこで、過去の外出時の写真をAさんと一緒に見ながら、「ここに行きたいですか?」と問いかけを繰り返し、行き先のイメージを探ることにしました。

その結果、Aさんの口から出てきた言葉は「よみうりランド」「観覧車」「ジェットコースター」「遊園地」でした。ただし、写真の中に、よみうりランドは含まれていませんでした。この時、支援者には「年齢を考えると、激しいジェットコースターに乗れるだろうか」という不安も生じました。

まず、Aさんが過去によみうりランドに行った経験があるか、家族や関係職員に確認しましたが、「行ったことはない」と分かりました。支援者は検討の末、いきなりよみうりランドに行くのではなく、近場の遊園地で比較的ゆるやかなジェットコースターに乗る様子を確認してから、改めてよみうりランドへの外出を検討することにしました。その方針をAさんに伝えると、Aさんは肩を落とし、元気のない声で「うー」と言いながら、渋々了承しました。

近場の遊園地では、Aさんは自分から積極的に乗り物を選び、乗り、楽しんでいました。しかし、肝心のジェットコースターには乗ろうとしません。支援者が「これがジェットコースターですよ」と伝えると、Aさんは「点検」と言いました。その後もジェットコースターの前を通るたびに「点検」と繰り返します。そこで支援者は、Aさんに乗れる状態であることを理解してもらうために、支援者自身が乗車して見せることにしました。

その時の様子が、写真1です。Aさんは、笑顔で見届けていました。支援者が降車した後、「一緒に乗りますか?」と尋ねると、Aさんの笑顔は消え、再び「点検」と言いました。この時、支援者は、「Aさんにとってジェットコースターは『乗りたいもの』ではなく、『見たいもの』なのかもしれない」と思いました。思い返すとAさんは、「よみうりランド」「観覧車」「ジェットコースター」「遊園地」とは言っていましたが、「乗りたい」とは一度も言っていませんでした。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

近場の遊園地に行った後も、Aさんは「よみうりランド」と口にし、次の外出を楽しみにする様子が見られました。年齢面の配慮もあり、保護者に相談したところ、「かかりつけ医が大丈夫と言うなら」という回答でした。そこでかかりつけ医に相談した結果、「興奮の反動で、帰宅後1週間程度は気分が落ち込む可能性はあるが、よみうりランドへの外出自体は問題ない。プールも入ってきていいですよ」という返答をいただきました。

近場の遊園地に行ってから約1か月後、Aさんは念願のよみうりランドへ出かけました。ゴンドラからジェットコースターが見えると、Aさんは「ジェットコースター!」と指差し、始終笑顔です(写真2)。園内に入ると、Aさんが最初に向かったのは観覧車でした。その後はパンフレットを自分で確認しながら、車両系の乗り物などを選び、楽しむ様子が見られました。一方で、期待していた「ジェットコースター」については、ここでもやはりAさんは「点検」と言い、乗車には至りませんでした。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

今回の意思形成・意思表明・意思実現の支援を通して、Aさんが「遊園地の乗り物」そのものに強い関心をもっていることが分かりました。ただし、ジェットコースターについては、速度や規模にかかわらず「点検」という言葉が一貫しており、「いつか乗りたい」のか、「近くで見たり、動いている様子を確かめたりすることが楽しい」のか、Aさんの真意を十分に理解するには至っていません。

3. 意思決定支援を実施して

Aさんの意思決定支援は、本人と支援者の双方に「楽しい」「しあわせ」と感じられる時間をもたらしました。それは単に「よみうりランドに行けた」という結果だけではなく、本人参加の会議や日々のコミュニケーションを通して、これまで以上に信頼関係を積み重ねることができたからだと考えています。

今回のAさんの意思決定支援は、外出場面におけるものでしたが、「意思」はさまざまな場所やタイミングで生まれ、ふとした瞬間に表れます。例えば、食事の内容、日中の過ごし方、住まいのあり方、睡眠環境、人間関係、隣に座る人、一緒にテレビを見る人など、日常生活のあらゆる場面に選択が存在しています。しかし私たちはこれまで「重度・高齢であること」を理由に、こうした意思を一つひとつ丁寧に汲み取ったり、意思が育つ機会を意図的に設けたりすることが十分ではなかったことに気づかされました。

先に述べたとおり、国立のぞみの園で暮らす知的・発達障害のある人の多くは重度・高齢化しています。それでも味わえる「楽しみ」「しあわせ」はあります。「まだ間に合う」を合言葉に、わずかな動きや視線、発声、表情の変化などを手がかりに本人の意向を丁寧に捉え直し、「生まれてきてよかった」「生きてきてよかった」と感じられる日々を、本人とともに追求し続けます。


【文献】

1)村岡美幸、伊藤省吾、石田尭子:障害者本人の意思を推定する方法に関する研究 ―ICF 情報関連表の活用を通して―,国立のぞみの園紀要,第18号,p.36-41,(2024)