熊本県における「実践共同体」の取り組み~共創する“拠り所”と“学びの場”での活動を通して~
「新ノーマライゼーション」2026年3月号
社会福祉法人慶信会
山口洋平(やまぐちようへい)
はじめに
熊本県内で障害福祉サービスに従事するサービス管理責任者および児童発達支援管理責任者(以下、サビ児管)が、現場における不安や悩みを解決するため、知恵を出し合いながら地域に創設した「くまもとサビ児管base~ココカラ~(以下、ココカラ)」の取り組みについてご紹介します。
地域で実践共同体(注)を創設した経緯
筆者は、10年ほど前から熊本県サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者研修(以下、サビ管等研修)の企画運営に携わっています。2019年度の制度改正により、サビ管等研修は段階的な構造となり、OJT期間を含む体系的な育成が求められるようになりました。しかし、現場では後進育成に苦慮する声が聞かれるなど、孤立感や不安感が顕在化していました。このような背景から、法定のサビ管等研修を補完する機能が必要ではないかと考えるようになりました。また、この問題を解決するには多角的な視点が必要だと感じ、サビ管等研修企画メンバーの同志と通信制大学マネジメント系学科でリスキリングを試みました。その結果、サビ児管の役割は、「支援」と「管理」をバランスよく展開することだと再認識します。さらに、大人の学習メカニズム等の学びを進め、「実践共同体(Community of Practice)」という仕組みを知りました。この仕組みを現役サビ児管のマネジメントの学びに活かせると感じたのです。なお、通信制大学は孤独と向き合うことが多いですが、我々2人は違いました。新たな学びを伝え合い、支え合い、刺激し合うことで、経験学習サイクルを体感し、その有効性を実感しました。このたった2人の体験の輪を広げ、「実践共同体」を創りたい。しかし、職場の実践に追われながら一念発起することは簡単ではありませんでした。やらざるを得ない環境づくりとして、日本社会事業大学大学院・福祉マネジメント研究科への入学を決意し、実践課題研究を展開しながら熊本の仲間と「ココカラ」を創設することができました。
実践共同体の目的・価値・役割
本共同体の目的は、サビ児管が安心して悩みを共有し、相互に学び合いながら実践力を高める“学びの場”と“拠り所”を創出することです。創設前の意向調査では、ケアマネジメント(支援)以上に、チームマネジメント(管理)を学びたいというニーズや、悩みを共有できる場を求める声が多く寄せられました。
本共同体の価値は、1.心理的安全性のある「学びの場」、2.答えのない悩みを「伝え合える場」、3.多様性や個性を「認め合える場」という3つの機能を重ね合わせた「場」として機能し始めていることです(図1)。これにより、法定研修を補完し、経験学習サイクルを現場で回し続けるための基盤となることを役割としています。
図1 「ココカラ」における3つの場
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具体的な活動
オンラインによる事例検討会や意見交換会、対面での事例検討会と懇親会などを段階的に実施しています。活動における留意点として、年齢や経験に捉われないフラットな雰囲気づくりを心がけ、エンパワメントし合える関係性を大切にしています。その結果、イベント後のアンケートでは、「自分の知識が事例提供者の役に立って嬉しかった」「知識不足でも否定されず安心した」「普段会えない人の意見は刺激的だった」などの感想が寄せられています。
活動の効果とメンバーの声
先述した大学院での実践課題研究の一環で実施したコアメンバーへのグループインタビューの分析から、参加動機の変化、自己覚知の深化、モチベーションの向上などが確認されています。当初は戸惑いを抱えながら参加したメンバーも、対話を通じて信頼関係を築き、自身の専門性や課題を見つめ直す機会を得ています。また、「ココカラ」で得た経験を自組織に持ち帰り、実践に活かそうとする動きもみられています(図2)。
図2 越境による2通りの経験学習サイクル
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一方で、大規模組織に所属するメンバーからは、組織文化や権限構造との葛藤も語られました。そのような葛藤を抱えながらも、「みんなの顔を見てホッとした」と語られるように、本共同体はピアスーパービジョンの機能を果たし、挑戦を支える心理的基盤となっています。小規模事業所のメンバーにとっては孤立からの脱却の場となり、大規模組織のメンバーにとっては外部視点を得る越境の場となるなど、組織規模に応じた多様な効果が期待されています(図3)。
図3 越境元の組織規模による違い
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現状と今後の展開
現在、メーリングリスト登録者は150名を超えました。当初は発起人2人による強い推進力が顕著でしたが、現在はコアメンバーによるチーム力で企画運営が進んでいます。今後は、参加者とコアメンバーが協力し、各イベントの企画運営を進めるなど、参加者とコアメンバーの垣根のない状態を目指したいと話し合われています。また、チームマネジメントをより体系的に学べるプログラムの充実を目指しています。
おわりに
本共同体は、「参加者とコアメンバーの境をつくらない」というモットーのもと、“学びの場”である前に“拠り所”として機能しています。心理的安全性を基盤とする3つの「場」が重なり合うことで、経験学習サイクルが促進され、法定研修を補完する実践的な学びの機会が創出されることを目指しています。今後も、組織の垣根を越えて経験を持ち寄りながら実践知を共創することで、サビ児管の学びと成長を支える「場」でありたいと考えています。
(注) 実践共同体(Community of Practice)とは、「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」のことであり「学習のための共同体」と言い換えることもできる。(Lave & Wenger 1991)