当事者主体の災害準備-大震災と向き合えるインクルーシブ社会を目指した障害者エンパワメントプロジェクト2020:オンラインプログラム
「新ノーマライゼーション」2026年3月号
自立生活センター自立の魂
磯部浩司(いそべこうじ)・岩切玄太(いわきりげんた)
NPO法人支援技術開発機構
北村弥生(きたむらやよい)
はじめに
今回と次回では、障害当事者が災害準備活動を企画・運営した例として、「障害者エンパワメントプロジェクト2020(以下、プロジェクト)」を紹介します。主催者の 「自立生活センター自立の魂~略して じりたま!~(以下、じりたま)」は、「障害があってもみんなと同じ町の中で自分らしく生きていける地域づくり」を目標に、障害者が主体となって自分たちの声を社会に届け、情報を発信しながら障害のある仲間同士でのエンパワメントを目指している団体です。横浜を拠点に2001年から活動しています。
じりたま代表の磯部浩司は、1987年に高校の部活動中の事故により頸椎損傷となりました。1989年頃に、チェルノブイリ原子力発電所事故について出版された原子力災害に関する広瀬隆氏の著作を読んだことをきっかけに、横浜から西180kmの位置にある浜岡原発(静岡県)で事故が起きた場合の風による原子力被曝を懸念していました。
2009年に自立生活センター・立川の職員が阪神・淡路大震災にボランティア参加した教訓を伝える講座に代表ら3名が参加したのを契機に、近隣の環境確認、目黒巻(防災教材)の活用、AED教習等を継続しています。また、介助者派遣事業所として介助者活動時の災害発生時の行動マニュアル(連絡先を含む)を作り、避難所への移動訓練と避難所の環境確認等を毎年3月と9月に行っていました。介助者と利用者の安全確保は、利用者に死傷者が出た場合の介助者の心理的負荷を軽減するためにも必須と考えたからです。
東日本大震災(以下、震災)時には、被災障害者を横浜の環境が整った市立施設に迎えようと交渉しましたが、公的な経費補助を得られずに断念しました。一方、震災後に福島県から横浜市に移住した車いす利用者をじりたま職員として迎え、共に災害準備を進めてきました。また、震災では長期休暇期間中の子どものための娯楽活動はありましたが、障害児は参加しにくいこと、成人した障害者のための保養活動は見当たらないことは長く気にかかっていました。障害があると平時でも旅行等の娯楽活動には課題が多いことから、被災後の保養は極めて実現しにくいからです。
そこで被災障害者の保養と、被災経験のある障害者とない障害者との交流を介して「障害当事者自ら生き延びるために必要な災害準備を考え、発信し、進めること」を目的とした宿泊プログラム「障害者エンパワメントプロジェクト2020」を企画しました。福島では、震災による生活環境の変化による心身の保養の必要が続いているからです。
企画段階で、地域で自立生活を営む障害当事者が災害を生き延びるためには何が必要であるかを話し合い、アイデアを共有しながら、障害のために生き延びることを諦めない力を手に入れ高め合うという目的が明確になりました。
また、車いすでの移動や構音障害により発声が難しくても参加しやすい研修プログラムを考案しました。準備経過も含めた詳細な報告書と動画は、じりたまのホームページからご参照ください。介助者と環境整備を必要とするため、通常のプログラムよりも人的・金銭的な資源が多く必要ですが、災害時の調整の予行演習になりました。
オンラインプログラム
当初、2020年3月実施の宿泊プログラム開催を計画しましたが、コロナ禍により延期しました。代わりに、オンラインでのプログラム6回と準備会議6回により(表1、図1)、宿泊プログラムの企画を入念に準備しました。オンラインプログラムには、原則、じりたまのメンバー4名、福島の自立生活センター(特定非営利活動法人あいえるの会、NPO法人ILセンター福島、福祉のまちづくりの会)のメンバー7名が参加しました。全員が、脊髄損傷、脳性マヒ等の車いす利用者でした。第3回と第5回には、協力者と支援者を含めた15名が参加しました。
表1 オンラインプログラムのテーマ・講師・参加者数
| 回 | 開催年月日 | テーマ | 講師 | 参加者数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 2020.6.29 | 顔合わせ、宿泊プログラムの目的、期待、課題 | なし | 8 |
| 2 | 2020.9.25 | みんなの想いを「見える化」することで広がる世界とは | トークグラフィッカー®山口翔太 | |
| 2020.11.20 12.6 | ボランティア説明会 | |||
| 3 | 2020.12.25 | 未来ではなく、今を共に生きるために~相模原障害者殺傷事件から4年~ 映画「生きるのに理由はいるの?」予告編(澤文雄) | 杉浦幹(津久井やまゆり園事件を考え続ける会) | 8 |
| 4 | 2021.3.9 | ・東日本大震災から10年 「今、この時間に災害が起こったら、どういう困りごとが生じるか?」 ・ぐらレコ井戸端会議:防災編 1.大規模地震が起きた時の困り事 2.明日からできることは何か | 青田由幸(さぽーとセンターぴあ) 山口翔太 | 15 |
| 5 | 2021.12.16 | 自立生活と防災~若い自立生活者の声~ | 和田彩起子(自立センター富士)、三宅貴大(あいえるの会) | 8 |
| 6 | 2022.3.8 | 被災後の生活 1.マンションでの在宅避難 2.JDF被災地障害者支援センターの経験 3.帰還した障害者の居場所づくり | 1.谷本恵子(かながわ311ネットワーク) 2.白石清春(あいえるの会) 3.古市貴之(シェルパ) | 15 |
| 7 | 2022.8.5 | 宿泊プログラム:当初案の課題と新たな提案 | なし | 8 |
| 8 | 2023.2.28 | 宿泊プログラム:宿泊地の選択、日程短縮 | 8 |
1~6回のテープ起こしを基にした報告書は、じりたまHPからダウンロードできます。
最後に、経費について書き添えます。当初は、震災10年目の助成事業に採択されましたが、コロナ禍で延期したために期限を越え活用できませんでした。じりたまがデザインしたTシャツ販売(チャリT)も、販売の機会であったメンバーによる講演会がコロナ禍で減り、売り上げは想定を大きく下回りました。最後の手段として、クラウドファンディング(レディフォー)を行い、目標額の95万円を達成しました(手数料減額後は90万円)。後援は、DPI日本会議、全国自立生活センター協議会、神奈川新聞からいただきました。
【参考】
1.自立の魂~略して じりたま!~ http://www.jiritama.jp/
2.東京新聞.能登半島地震1カ月 みんなの避難 考えよう 福島から障害者招き課題検討
2024年2月1日.https://www.tokyo-np.co.jp/article/306604
3.じりたま.障害者エンパワメントプロジェクト2020活動報告.2026.
http://www.jiritama.jp/ivent/%E3%80%90%E3%81%98%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%80%91Disability%20Empowerment%20Project%202020%20Report_20251224.pdf