もぐもぐで一緒のしあわせ
「新ノーマライゼーション」2026年4月号
一般社団法人mogmog engine 共同代表
加藤さくら(かとう)
現在高校生の私の娘は先天性の筋疾患があるため、小学校低学年から噛む力が弱くなりました。我が子に摂食嚥下障害があることを機に、子どもの摂食嚥下障害に関する情報共有の場として、2020年、摂食嚥下障害がある子とその家族のコミュニティ『スナック都ろ美』を、同じく摂食嚥下障害がある子がいる親と共同で立ち上げ、2026年3月の時点で1800名を超える会員(以下、常連さん)が全国にいます。
2024年一般社団法人mogmog engine(モグモグ エンジン)を設立し、毎日の食事が楽しく、幸せな時間になるよう、コミュニティ内で摂食嚥下障害に関わる悩みや課題を常連さん同士で解決する他、飲食店と協働でサービス開発、フード開発などを展開しています。
コミュニティを始めた当初は、介護食を扱う企業でも小児で摂食嚥下障害がある子がいる事実を知らない方が多く、高齢者向けのメニューとは異なる、胃袋が元気な子ども向けメニューのニーズがあることを切に伝えてきました。また、外食時の困りごとやそれらを解決するための提案を飲食店に伝える他、メディアなどを通して草の根活動で啓発し続けてきました。しかし現実は厳しく、ビジネスにならないなどという理由でスムーズに事が運ばず、どうしたら企業の方や摂食嚥下障害がある方とご家族など、みんなにとってハッピーな状況をつくれるのか試行錯誤する日々でした。
そんな中、「お子さんに喜んでもらえるやわらか食のメニューを開発したい!」「家族みんなでお食事を楽しめる環境を提供したい!」という心温まる声をくださる企業や飲食店の方々に出逢いました。
そして、私たち当事者家族の声に真摯に向き合ってくださった料理人、企業のみなさまのおかげで、希望に満ちた商品やサービスが生まれ始めました。咀嚼や嚥下に配慮されていて、かつ、“みんなで一緒に食べられる”おいしい見た目や味の食べ物を『インクルーシブフード』と造語で表現し、介護食ではない、新たな食の選択肢をつくったのです。摂食嚥下障害がある子どもに心から「おいしいね」と伝えながら、一緒に食を楽しみたいと願う親心が、アイデアの発端です。
インクルーシブフードという選択肢は、「正直、自分は食べたくない」と思う食事を子どもに与える罪悪感からの解放でもあり、誰もが一生食を楽しむための希望溢れる道でもあるのです。
2022年、東京都と東京医科歯科大学(現在の東京科学大学)、東京大学の共同事業『インクルーシブフードの開発と普及』にて、弊社がコーディネーターとして参画し、プロの料理人やパティシエの方々の愛ある発想と技術のもと、インクルーシブフードが数品誕生しました。
子どもが喜ぶメニューをBOXに詰め込んだ「もぐもぐBOX-とろみ出汁付-」(produced by かんさい)、見た目が美しく味がおいしいのはもちろん、いろんな食感が楽しめるスイーツ(produced by 志水香代)は、すべて鼻・胃・口からもぐもぐできます。
完成披露会では、10組の摂食嚥下障害がある子とその家族の他、飲食業や企業、東京都の職員などがテーブルを囲み、開発したインクルーシブフードを楽しみました。「いただきます」をしてからミキサーなどで加工する必要がないため、同じタイミングで同じものを親子で楽しめることに親御さんたちは感動していました。そして、「この空間に障害はなかった」という参加者の声を聞き、私たちは食に関する障害は攻略できると確信したのです。
インクルーシブフードは、既存の商品の中にもたくさんあります。スナック都ろ美のコミュニティでは「この商品、うちの子も食べられたよ!」とスーパーやコンビニなどで身近なインクルーシブフードを発見するたびに情報がシェアされます。
また世の中には摂食嚥下障害がある方を起点にして開発され、見た目も味も素晴らしい商品がいくつもあります。これらは子どもや高齢者に限らず、全人類に有益な情報だと思い、コミュニティ内だけでなく、メディアなどでも周知するようにしていました。
いつしか「ここに来れば、おいしい情報に出逢える!という場所があれば便利だな」と思うようになり、2025年12月、おいしい介護食のレシピ、インクルーシブフード、仲間に出逢えるECサイト『mogmogレシピ』をオープンしました。仲間に出逢えるコミュニティは体制が整い次第スタートします。
サイト内のオンラインショップ『mogmogレシピ SHOP』では、選りすぐりのインクルーシブフードを販売しています。
ECサイトで販売する商品の選定基準は、1.見た目2.やわらかさ3.鼻・胃・口からいけるか4.おいしさ(子どもや大切な人と食べたいか)5.自分が買いたいか、誰かにプレゼントしたいか、の5つ。(3はマストではない)
商品を選ぶのは、摂食嚥下障害がある子どもの親たちです。数か月に一度、『mogmogオーディション』と名付けた選定会で、自腹で取り寄せた商品をみんなで試食します。忖度のない素直な選定で、本当においしいと思うものしか扱いません。商品は不定期で増えていくので、ぜひちょこちょこサイトを覗きにきてください。
また、mogmogレシピを立ち上げる動機になったことがもう一つあります。各所でインクルーシブフードを紹介する際に「親が亡くなる前に知っていたら食べさせてあげられたのに……」という声を聞くことが多々あるのです。商品の存在を知らないが故に叶えられない願いがあるなんて、悲しすぎます。
mogmogレシピの認知度が上がれば上がるほど、食に対する希望を持ち続けることができる方が増えると信じ、これからもっと内容を充実させていきますので、ぜひ、サイトの周知や商品をご購入いただくことで応援していただけるとうれしいです。
みんなで手を取り合い、一生食を楽しむ世の中を創っていきましょう!