筋ジストロフィー病棟における食を楽しむ取り組み~院内に「吉野家」を開店して~
「新ノーマライゼーション」2026年4月号
国立病院機構下志津病院 栄養管理室
白戸ゆり(しろと)・妹尾真佑(せのおまゆ)
療育指導室
稲澤淳一(いなざわじゅんいち)・髙田絵里(たかだえり)
下志津病院とは
国立病院機構下志津病院とは千葉県四街道市にある医療機関で、地域医療と国の政策医療(難病・障害など)を担う病院です。院内には一般病棟に加え、筋ジストロフィー病棟、重症心身障害児(者)病棟があり、長期入院や生活支援を含めた医療を提供しています。
筋ジストロフィー病棟での食事提供とは
院内には筋ジストロフィー病棟が3つあり、患者さんの平均年齢は51歳、年齢構成は30代から50代の方で6割を占めています。入院期間が長い方が多く、これらの方々にとって当院は「生活の場」となっています。
筋ジストロフィーとは筋繊維の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性疾患です。筋委縮・筋力低下は進行性であり、これらは消化や呼吸、運動機能や嚥下、心機能や中枢神経などに影響を及ぼします。
嚥下機能も徐々に低下していきますが、この低下に合わせ、食形態を下げることは患者さんにとって、簡単なことではありません。時に患者さんが希望する食事と食べられる食形態にギャップが生まれてくることもあります。嚥下障害があっても、筋ジストロフィー患者さんにとって、口から食べることへの思いは強いと感じることが多いです。
このような状況の中、医療者は窒息や誤嚥の予防に向け、安全な食事提供に努める必要があります。また筋力低下により、ADLは低下し、生活の自立度も下がります。管理栄養士は食の提供者として、患者のQOLの維持と向上に寄与する必要があります。
筋ジストロフィー病棟で提供している食事
当院の筋ジストロフィー病棟では、食事摂取されている方の約2割が固形食で、それ以外の方は形態調整食を食べられています。形態調整食とは一口大食(きざみ食)やソフト食(学会分類3)、ペースト食(学会分類2-2)などです。固形食を食べている方より形態調整食を食べている方のほうが多いため、行事食やイベント食をする際には形態調整食までの展開を考え、献立作成を行っています。
一口大食(きざみ食)は1cm程度の角切りです。ソフト食は既製品も使用していますが、病院で手作りしているものも多々あります。
吉野家イベントが始まった経緯
吉野家イベントとは、当院の筋ジストロフィー病棟で吉野家の牛丼を提供する食事イベントです。コロナ禍に患者さんから、「気分転換がしたい」「外食気分を味わいたい」とのご意見を多々受けました。療育指導室と何かできないかと考えていたところ、吉野家が施設向けの食事イベントを行っていることを知り、イベントの協力依頼をしました。
吉野家イベントの開催
吉野家より牛丼を取り寄せ、お店のメニューに合わせて豚汁・お新香・サラダ等を準備しました。また温泉卵やキムチなどのトッピング類も用意しています。
食事に応じた牛丼とトッピング類が【写真3】のようになっています。固形食は牛丼、トッピングには温泉卵、チーズ、キムチ、紅ショウガなどを用意しました。一口大食(きざみ食)はこれらを1cm角に切っています。温泉卵とチーズはそのまま提供しています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。
ソフト食は牛丼をミキサーにかけたものにとろみ剤を入れ、固めています。トッピングの温泉卵とチーズはそのまま提供し、キムチと紅ショウガは汁にとろみをつけました。形態については調理師と試作をして確認をしながら、調整を行いました。
実施にあたっては、院内の会議で医師やスタッフの方にも試食もしてもらいました。トッピングの希望は、保育士や児童指導員の方々が患者さん個々に聞き取りしてくれ、提供にあたっては最終的に医師から了承のサインをもらっています。
店舗と同じ雰囲気で食べるということを重視し、吉野家からメラミン製の丼をレンタルしています。また院内の飾りつけやユニフォームの準備も行いました。病棟で調理師が患者さんに「つゆだくにしますか?」「肉増しにしますか?」などお声掛けしながら、牛丼を盛り付けしています。
イベントを開催して
実施にあたってはさまざまな職種(医師・看護師・介助員・児童指導員・保育士・管理栄養士・調理師)が連携・協力し、イベントを成功させることができました。
患者さんからは「美味しい」「毎年開催してほしい」「懐かしい」などお声をいただき、大変好評でした。令和5年より当院の毎年のイベントとなっています。
今後の展望
筋ジストロフィー患者さんにとって当院は「生活の場」にもなっています。食べたいという思いを大切にしながら、安全な食事提供につなげていくことが大事です。今後も院内での多職種連携力を強め、「美味しく・楽しい食事」が提供できるよう、フードサービスの充実に努めていきます。