行政の動き-静岡県発:環境と福祉をつなぐ「環福連携モデル」の取り組み

「新ノーマライゼーション」2026年4月号

静岡環福連携促進協議会 事務局長
河合俊通(かわいとしみち)

1. 発足の背景:地域が直面する2つの課題

近年、日本社会では2つの重要な課題が同時に進行しています。一つは、持続可能な社会の実現に向けた資源循環の推進であり、もう一つは障害のある人の就労機会の拡大です。

環境分野では、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」という一方向型の経済から、資源を効率的に循環させながら持続的な成長を目指す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」への転換が求められています。特に、家庭や企業で「都市鉱山」として眠っている使用済みパソコンには、多くのレアメタルが含まれていますが、その適正な回収と再資源化は依然として大きな課題です。

一方、障害者雇用の分野では、法定雇用率の段階的な引き上げを背景に、単なる「雇用数の達成」にとどまらず、障害のある人が企業の戦力として活躍できる環境づくりが重要なテーマとなっています。しかし、静岡県における2025年の障害者雇用率は2.44%(全国32位)であり、法定雇用率を達成している企業の割合も52.1%と、改善の余地を多く残しているのが現状です。

こうした状況の中で、資源の有効活用という「環境(環)」と、障害のある人の職域拡大という「福祉(福)」を掛け合わせ、地域全体で解決を図る「環福連携(かんぷくれんけい)」の構想が立ち上がりました。

2. 環福連携協定と推進体制の構築

この構想を具体化するため、2025年10月6日、リネットジャパンリサイクル株式会社(以下、リネットジャパン)、株式会社クラ・ゼミ(以下、クラ・ゼミ)、静岡県の三者により「環福連携協定」が締結されました。この協定は、県規模の自治体としては国内初の試みとなります。

本協定の最大の特徴は、行政と専門性の異なる民間企業2社が、それぞれの強みを明確に分担している点にあります。

●リネットジャパンは、小型家電リサイクル法の認定事業者として、パソコンの適切な回収、データ消去、そして障害のある人が従事しやすいリサイクル工程の構築を担います。

●クラ・ゼミは、長年の福祉事業で培った知見を活かし、リサイクル業務を行う障害のある人の確保や場所の提供、職場定着に向けた伴走支援を担当します。

●静岡県は、県内の自治体や企業に対し、本モデルの紹介や参加の呼びかけを行い、積極的な広報活動を通して社会的な機運を醸成します。

そして、この協定の理念を静岡県全体に広げるための実践的なプラットフォームとして、2025年11月1日、静岡環福連携促進協議会(以下、本協議会)が設立されました。事務局はリネットジャパンとクラ・ゼミが共同で務め、官民が一体となって活動しています。

図1 環福連携の3者の関係
図1 環福連携の3者の関係拡大図・テキスト

3. 協議会の役割と支援の3ステップ

本協議会は、単なる情報交換の場ではなく、自治体・企業・支援機関が連携して具体的な取り組みを進める「実践型プラットフォーム」です。その活動は、以下の3つのステップで展開されています。

◎ステップ1:みえる(現状の見える化と普及) 企業や自治体に対し、環境分野の事業と障害者雇用を組み合わせた新しい取り組みを広く紹介し、地域における課題と解決策を可視化します。環福連携モデルに賛同する企業を増やし、取り組みの輪を広げています。

◎ステップ2:つながる(官民連携と業務設計) 企業への障害者雇用支援として、単なる人材紹介ではなく、企業内の業務分析を行い、障害のある人が担うことのできる業務を設計する「業務創出型」の支援を行っています。また、クラ・ゼミが運営する専用のサテライトオフィス等を活用し、企業が自社の枠組みの中で雇用を創出しやすい環境を整えています。

◎ステップ3:そだつ(技術の習得と地域の対応力向上) リネットジャパンが培ってきたパソコンの手分解技術や、クラ・ゼミによる就労サポートのノウハウを共有し、障害のある方々が専門的な技能を身につけ、地域社会の中で自立して活躍できる機会を増やしていきます。

4. 具体的な取り組み:パソコンリサイクルによる職の創出

環福連携モデルの核となるのが、使用済みパソコンのリサイクル業務です。

パソコンの再資源化工程には、手作業による細かな部品分解や素材の選別が多く含まれています。この「丁寧さが求められる手作業」は、障害のある方々にとって強みを活かしやすい領域です。

具体的な流れは以下のとおりです。

1.リネットジャパンが静岡県内の家庭や企業からパソコンを回収し、データ消去等を行い「リサイクル業務ができる状態」へ整えます。

2.これらのパソコンのリサイクル業務を、県内各企業の障害者雇用という形で担います。

3.クラ・ゼミが、企業向けの雇用コンサルティングや障害のある人への就労サポートを行い、安定した就業環境を提供します。

この流れにより、企業は法定雇用率の達成と環境保護への貢献を同時に果たすことができ、障害のある人にとっては社会から必要とされる明確な役割を得ることにつながります。

5. 環福連携の意義:Win-Win-Winの社会モデル

環福連携の最大の特徴は、「環境問題」と「障害者雇用」という異なる社会課題を相互に結びつけて解決を図る点にあります。

鈴木知事が指摘するように、本取り組みは「障害のある人にとっても、企業にとっても、自治体にとっても、参加者全員がWin-Win-Winになれる」モデルです。

● 障害のある人にとっては、適切なサポートを受けながら専門的な職務に従事し、経済的自立を目指す舞台となります。

● 企業にとっては、資源の有効活用(ESG経営)と多様な人材の活用を同時に実現できます。

● 自治体にとっては、地域の資源が循環し、誰もが活躍できる持続可能な地域社会の構築につながります。

一つの組織だけでは解決が難しい課題であっても、リネットジャパン、クラ・ゼミ、静岡県、という公立・民間の異なるセクターが連携し、地域全体の仕組みとして取り組むことで、新たな社会的価値が生まれています。

6. 今後の展開:静岡モデルを全国へ

本協議会では、今後、次の3つの方向を目指して活動を推進していきます。

第1に、参加企業のさらなる拡大です。県内各地域や中小企業においても環福連携モデルが導入できるよう、事例の共有や相談体制を強化します。第2に、他分野への応用です。現在はパソコンリサイクルが中心ですが、今後は他の環境分野や社会課題においても、福祉と連携した新たな職域の開拓を目指します。第3に、「静岡モデル」の全国展開です。静岡県で生まれたこの先駆的な取り組みを全国へ発信し、各地域の実情に応じた形で展開されることを期待しています。

環境問題と障害者雇用という2つの重要なテーマを結びつけることで、地域の資源が循環し、人が輝き、企業が成長する。本協議会は、その実践の場として、これからも地域の関係者とともに、インクルーシブな社会の実現に向けて取り組んでまいります。