実現・当事者目線の支援機器-見えないことであきらめていた方に光を―メガネ型拡大読書器「ATARO」で見えにくさを解消―

「新ノーマライゼーション」2026年4月号

BOVLIFE株式会社 代表取締役/視覚支援技術研究
石塚隆之(いしづかたかゆき)

見えにくさに悩む人は世界で22億人以上

暗い場所で物が見えにくい、視野が狭く周囲の様子がつかみにくい。こうした「見えにくさ」に悩む人は、世界で約22億人、日本でも3,000万人以上いるといわれています。高齢化や強度近視などの増加により、その数は今後さらに増えていくと予測されています。

このような背景のもと、私たちは2026年発売予定の、世界的にも前例の少ないメガネ型拡大読書器「ATARO(注)」の開発を進めてきました。

開発の原点は約11年前の研究から

本開発の原点は2015年にさかのぼります。私がHOYA株式会社で眼鏡レンズの企画に従事していた当時、九州大学病院の池田准教授(現・宮崎大学病院教授)と出会い、暗所視支援眼鏡の共同研究を開始しました。当初は夜盲症の方への支援を目的としていましたが、2023年、研究や臨床を通じて、視野障害など複合的な課題があることが明らかになりました。

そこで私たちは、「暗所視」と「視野支援」を両立する新しい視覚支援機器の開発へと発展させました。これまでに約1,000人以上の当事者の声を伺う中で、「やりたかったことをあきらめた」という無念さに何度も触れてきました。その思いに応えたいという一心で開発を続けてきました。2025年10月に、日本臨床眼科学会で宮崎大学より臨床試験結果の発表がなされた際には、多くの眼科医様から関心を寄せられ、大きな反響を得るとともに、多くの方が待っていると再確認することができました。

実用化までに立ちはだかった技術的な壁

実用化に向けては多くの技術的課題がありました。現代の生活では屋外での利用が不可欠であり、「人に頼らず自分で移動したい」というニーズも強くあります。しかし従来の据え置き型拡大読書器では対応できず、また視野が狭い方にとっては物を落とした際に探すことが困難であるため、ハンズフリーで使えるメガネ型が求められていました。

さらに屋外では夜間や雨天などの環境変化にも対応する必要があります。こうした条件の中で、軽量化・装用感・耐久性を両立させるため、設計の見直しを何度も重ねてきました。

ATAROとはどんな機器?

ATAROは、独自開発の小型カメラで捉えた映像をリアルタイムで処理し、利用者の症状に合わせて表示する眼鏡型デバイスです。最大の特長は、「暗所視支援」と「視野支援」を同時に実現している点にあります。

暗所視支援では、暗い場所でも明るいカラー画像として周囲を把握できるため、夕方以降や夜間でも環境認識が可能になります。

一方で、視野支援は本機器の中核機能です。視野が狭くなっている場合でも映像を縮小して表示することで、より広い範囲を一度に把握することができます。これにより周囲の状況や人の動き、障害物の位置関係などを把握しやすくなります。

さらに、白黒反転やグレースケールなどの表示モードにより、文字や対象物の視認性を高めることが可能です。また、オートフォーカス機能により、近距離から遠方まで自然に焦点が合い、落とし物の発見や動く対象の認識にも寄与します。

これらの機能を組み合わせることで、歩行時には白杖を使用して、距離感を確認しながら足元の段差や障害物の把握がしやすくなり、安全な移動を支援します。暗所視と視野支援が同時に働くことで、これまで難しかった夜間や屋外での行動の幅が広がります。

どんな人に使ってほしいのか

手元の字が読みづらい方や夜盲、視野狭窄でお困りの方にご体験いただきたい視覚支援機器です。昨年の宮崎大学の臨床試験では緑内障や網膜色素変性症でお困りの方にご参加いただきました。

ATAROの社会実装実験

開発においては臨床試験に加え、社会実装実験も重ねてきました。工場夜景ツアーでは夜盲症の方に夜景を体験いただき、サッカースタジアム観戦では拡大倍率の検証を行いました。また図書館や飲食店、スキー場など多様な環境での使用検証を実施しています。

体験者からは、「暗い場所でも明るく見える」「足元が見えることで安心できる」「夜でも外出できるかもしれない」といった声が寄せられています。ATAROをかけて何を見たいかという質問に、季節柄、夜桜見物があがったので、3月にはさっそく千鳥ヶ淵に夜桜を見に行き、とても喜んでいただき励みになりました。

実用化に向けて進む研究開発

ATAROは現在、実用化の最終段階にあり、2026年夏頃の発売を予定しています。

今後は、海外では国際眼科学会(WOC2026)、国内では日本眼科学会総会・ロービジョン学会での発表も予定しており、医学的根拠と実使用環境の両面から信頼性の高い製品開発を進めてまいります。

見えにくさの先にある新しい日常へ

見えにくさによって制限されていた行動が広がることは、生活の利便性だけでなく、自信や希望にもつながります。

BOVLIFEという社名は、私が初めて出会った盲導犬「BOV」に由来しています。盲導犬のように寄り添い続ける存在でありたいという思いを込めました。

ATAROを通じて、見えにくさの先にある新しい日常を、世界へ届けていきたいと考えています。

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(注) ATAROは「Assistive Technology Augmented Reality Optics」の略です。