第20回「リハ協カフェ」 共生社会を目指して  地域共生社会について考えるワーク「レッツ協力」報告

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
国際協力推進専門職 宮前 ユミ

2024年2月20日(火)に開催された第20回リハ協カフェにおいて、当協会が開発・運営を行っている人材育成研修「地域共生社会について考えるワーク『レッツ協力』」についてご報告いたしました。レッツ協力研修は当協会が2021年に開発したもので、地域づくりコンサルタントと教育ファシリテーターの方に開発者として関わっていただき、その後の運営にあたっても協働しながら進めています。

研修開発の背景

研修開発の背景として私たちが持っていたのは、次のような問題意識です。まず、高齢化・人口減少が進む日本社会において、障害者・外国人・ひとり親世帯など社会的マイノリティの問題が見えづらくなっていること。そして、様々な分野の課題が絡み合って複雑化している支援の現場では、対象者別・機能別に整備された支援では全てのニーズに対応することが難しく、複合的な支援が必要であることです。そのような複雑な環境のもと、支援の現場からは「「協力」や「連携」が重要なのは分かっているけれど、日々の仕事に追われていて他の団体と連携することまで手が回らない」といった声がよく聞かれていました。当協会はSDGsの理念の一つでもある「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、それに寄与する人材の育成を行ってきたという背景がありましたので、今回、支援の現場での「連携」や「協力」を体感できるような研修を開発することになりました。

研修のねらいと主な対象者

本研修のねらいは4項目あります。

  • ①地域の多様なニーズを知ること 
  • ②一つの組織でできることの限界を知ること
  • ③地域がつながったときの可能性を知ること 
  • ④当事者への直接的アプローチだけではなく、地域へのアプローチの有効性と方法を知ること 対象としては主に次のような方々にご参加いただくことを想定して開発しました。

重層的支援体制整備事業や介護保険事業に携わっている方。地域づくりや外国人、子育てなどのNPOでサービス提供に関わっている方。病院やリハビリテーション施設で地域とのつながりづくりに関わっている方。社協職員、民生委員、地域の民間企業、福祉関係者(障害、高齢、その他)。多職種連携を必要とする専門職の方。地域活動に関心のある学生等。このように、基本的には共生社会づくりに携わっている支援者の方を想定していますが、そのほかにも地域づくりに関わっている住民の方々や、共生社会づくりに関心のある企業の方々にも受講いただいています。

研修の構成

研修は前半と後半に分かれており、前半約1時間をカードゲーム、後半1時間半を振り返りとしています。対面で行う場合は1チーム3-5名のグループを作って進めます。グループ数には制限がなく、全体で1名のファシリテーターがつき、ゲームのルール説明や振り返りのファシリテーションを行います。カードゲーム(*1)の具体的な進め方については紙幅の関係上省略いたしますが、このゲームでは支援の達成度を競うのではなく、支援の組み合わせを検討する過程からインクルーシブな社会のあり方や、どう連携するか?を学びます。後半は振り返りで、グループごとに前半のゲームを経て出てきた「気づき」をシェアします。参加者からは「地域のニーズが多様であった」「一つの組織でできることは限られているけれど、連携したらどんな可能性があるのかわかった」といった声が挙がることがあります。ファシリテーターがその都度補足説明を入れ、考えを深める時間となっています。
(*1):詳細は公式ホームページ(https://www.jsrpd.jp/overview/cbid/training/)をご参照ください。

CBRとCBID

次に、この研修の開発の際に基盤として用いた考え方、CBR、CBID(*2)について簡単にご説明いたします。

CBRとは、Community Based Rehabilitation の略で、地域に根ざしたリハビリテーションと訳しています。CBRは、それまで主にアジアの国々の社会開発で実践されてきた動きをもとに、1980年代にWHOが提唱しました。内容としては、地域社会にすでに存在しているさまざまな資源を活用して、途上国の農村に住む障害のある人と家族の生活の向上を目指して行う活動になります。

CBIDはCommunity-Based Inclusive Development、地域に根ざしたインクルーシブ開発と訳しています。CBIDは、CBRの考えが発展し、障害者に限らず社会のなかにいるさまざまな困難を抱えた人、脆弱な立場にある人など、誰もが地域社会のなかで共に生きていくことができる、インクルーシブ(包括される)な社会の実現を目指す地域づくりの考え方として生まれました。

2010年には、CBRの実施に関するガイドラインが作成され、CBRの実施において重要な構成要素として「保健・教育・生計・社会・エンパワメント」の5つが挙げられました。さらにその5つの要素それぞれについて5つずつ、全部で25個の項目について、どのような取り組みが必要であるかを示したものが「CBRマトリックス」と呼ばれるものです。CBRマトリックスは、当協会のポータルサイト(https://www.dinf.ne.jp/d/5/465.html) から閲覧することができます。

また、CBRのもう一つの特徴として、ツイントラックアプローチという考え方があります。

ツイントラックとは、複線の、複数の側面からのアプローチという意味です。上述のCBRガイドラインでも、CBIDを実現する方法としてこのツイントラックアプローチが重要であると述べられています。

ここでのツイントラックアプローチは、一つは障害に特化した支援で、もう一つは障害者を含む困難を抱える人々のインクルージョンが進むよう、地域社会に働きかけ活性化することです。このほかにも、行政などが行うフォーマル(公的)な支援と地域社会などが行うインフォーマル(制度化されていない)支援の組み合わせという複線アプローチもあります。これらの複線的アプローチが組み合わさることで、よりインクルーシブな地域を築くことができる、そうした地域社会を目指すのがCBIDの考え方です。

今回のLet’s協力のカードゲームは、このCBRの考え方を基に設計されています。ニーズ、支援それぞれのカードが、上述のCBRマトリックスの5つのカテゴリー「保健・教育・生計・社会・エンパワメント」に基づく形で作られ、支援カードはツイントラックアプローチの考え方である「個人への働きかけ」と「地域への働きかけ」もしくは「フォーマル」「インフォーマル」なものがそれぞれ準備されています。それらを組み合わせることの重要性が、カードゲームを進める過程で浮き彫りになっていきます。誰もが安心して暮らせる社会を目指す考え方としてCBRやCBIDがあり、このCBIDの実現に向け、関係者同士がつながって連携しあうこと。それを楽しみながら体感的に学ぼう、というのが本研修の目指すところです。
(*2): CBR、CBIDの詳細についてはこちらをご参照ください(https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/glossary/CBR.html)。

これまでの活動と参加者のコメント

昨年度(令和5年)はオンライン・対面含め10箇所での研修と、ファシリテーター研修を2回開催しました(表1、2参照)。ファシリテーター研修は、研修の受講者の中から、自分の団体や地域でも自主的にやってみたいという方を対象に実施しています。昨年度は合計15名のファシリテーターが誕生しました。

表1 令和5年度研修実績

日時開催地、参加者
2022年
4月20日
オンライン公開講座
認定NPO法人 難民を助ける会職員他 計3名
5月2日オンライン公開講座
東京都中央区社会福祉協議会、三重県津市社会福祉協議会職員 計3名
6月13日京都大学大学院健康管理学講座医学コミュニケーション学
同大学岩隈美穂准教授の授業を受講している大学院生  計9名(留学生含む)
7月14日東京都西東京市ひばりヶ丘
ノーマライゼーション西東京の会メンバー(福祉関係者、地域づくり関係者) 計11名
8月10日オンライン公開講座
特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会  職員他 計3名
10月27日中京大学現代社会学部
同大学現代社会学部中田雅美准教授ゼミ生(2年生) 計18名
11月14日オンライン公開講座
一般社団法人南栃木社会福祉士事務所、東京都まちづくり関係者他  計3名
12月10日東京都新宿区戸山サンライズ
「障害児・者とのコミュニケーション支援技術研修会」参加者21名
(介護福祉士、生活支援員、児童支援員、サービス管理責任者等)
12月16日愛知県日進市アジア保健研修所(AHI)
地域の保健・福祉や地域づくりに携わる方 15名
12月20日横浜市都筑区福祉保健課
都筑区の社会福祉職・保健師等(高齢支援担当、障害支援担当、こども家庭支援担当、生活保護・生活困窮支援担当、健康増進・感染症担当、地域福祉保健推進担当 等) 25名程度

表2 令和5年度ファシリテーター研修実績

第1回(東京)第2回(愛知)
日時:2023年10月21日(土)10:00-17:00
場所:戸山サンライズ(東京都新宿区)
参加者:6名(社会福祉協議会職員、総合病院職員、NPO職員)
講師:稲葉久之氏(教育ファシリテーター)
日時:2023年11月23日(木祝)10:00-17:00
場所:愛知県日進市 アジア保健研修所(AHI)
参加者:9名(市議会議員、地域づくり関係者、国際協力NGO職員)
講師:稲葉久之氏(教育ファシリテーター)

また、これまで研修に参加してくださった方からは次のようなコメントを頂いています(一部抜粋)。

  • 支援の資源が有限であることが、カードを通して視覚化できた。
  • 地域のリソースを知ることの重要性に気づかされた。
  • 連携するとはこういうことか、と体感することができた。
  • 参加者の方の意見で、新しい見方があることがわかった。

今後の方向性、予定について

開発から3年間は、主に研修の普及に注力してきましたが、今後はその普及のみにとどまらず共生社会づくりに取り組む様々な団体と協働して人材育成を進めていくという形にシフトしていけたらと思っています。また、これまで海外の方に研修内容を紹介する機会が何度かあり、高い関心を示してくださる方が多かったので、将来的には海外版の開発も進めていけたらと考えています。

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