DET沖縄代表 小林学美 (琉球大学・沖縄国際大学兼任非常勤講師)
今年は元旦から能登半島地震、新年度が始まったばかりの4月に台湾東部での地震により、沖縄県でも初めての津波警報が発令されました。震災はいつ、どこでも起こりうる課題と再認識することとなりました。被害に遭われた地域の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
「共生社会」にはジレンマと葛藤が付きまとうものだと、一旦立ち止まって考える機会が増えました。人口減少が進む日本では、教育・福祉・医療、そしてサービス業においても「人材不足」で頭を抱える時代となり、専門職としても、地域の一市民としても、連携や協力せざるを得ない状況があらゆるところで起きています。半面、「当事者主体、他者・多様性の尊重」という言葉も、共通認識されているのか、本来の狙い通りに理解されているのかは別として一般的に広く普及しつつあり、戸惑う場面が増えているのではないかと推察されます。
社会格差が広がり、子どもの貧困も課題となる中、足りない人材で十分な権利保障のためのサービスなどの提供が足りない、そんな時代だからこそ、連携や協力、協働は必須といえるでしょう。また、冒頭で触れた災害時を想定した「防災」の活動には、言わずもがな、公助・共助において、連携は欠かせません。
「社会的弱者」という言葉がありますが、「弱者」とはどのような人々のことなのか、誰が弱者を作り出しているのか?筆者が日頃から問い続けている課題提起に、報告会で共感してくださった方がいました。また、「支援」が当事者抜きの支援者側からの上から目線のものになってしまった場合、現在の福祉の理念に反することになるという、青いといわれるかもしれないような、しかし大切な原則へのこだわりにもとても共感してくださる方々がおり、ホッとした気持ちになりました。なぜならば、筆者自身もこれまでの支援の経験の中で、知識が増えや経験値が上がるほど、「つい」わかっているつもりになってアドバイス志向になりがちだったり、時間に追われるているなどでしっかり聴き受けることができず、前のめりな助言をしてしまいそうになるヒヤリ・ハットが少なくなかったからです。
『Nothing about us without us』 私(当事者)抜きで、私のことを決めないで。
国連で障害者権利条約ができた際のこのスローガンは、障害者問題だけでなく、すべての人々のすべての生活場面に当てはまる言葉だと思います。社会の構造が障壁(ハード面もソフト面も)を作り出し、そのために社会の中で弱者が生み出され、支援を必要とすることになるのであれば、そこには必ず「対等な対話=アサーション」が必要です。お互いを理解し今ある課題を解決するために、相手の話をしっかり聴き受け、自分の考えもしっかり伝える積み重ねです。仮に一方的な主張ばかりで対極のままだとすれば、それはインクルージョンという形には生り得ず、共生社会の実現は難しいでしょう。しかし、現実社会では往々にしてこのような事態が起きています。そこで、カードゲームを楽しむ感覚で「支援」や「連携」、そして特に大切な「エンパワメント」を理解するこの『Let‘s協力』は非常に有効な手段であると実感しました。
社会福祉の専門職及び看護師を目指す学生たちに、将来どんな分野に進みたいかと毎年質問をします。最近の傾向として「地域」というキーワードがとても増えてきています。福祉職であれば「地域福祉」、看護師であれば「訪問看護」をやりたいと言う回答が多くなりました。しかし、福祉や医療の専門職を目指す学生の中には思いが強いほど「してあげたい」となりがちです。また、エンパワメントを言葉として学んでも、実際の支援の中で、どんな支援がその言葉につながるのか、教授する側としてもこれまでとても難しいものだと感じてきました。
このカードゲームは、支援において必要な5つの領域を意識することができ、それらの領域の中で、楽しみながら考えを巡らすことができる点がとても魅力です。保健、教育、生計、社会、エンパワメントの5つの領域の中で、最初はなかなかエンパワメントの発想が出てきません。自分の引いたカードのニーズにエンパワメントと記されていた場合、考え込むメンバーの様子がよく見られました。しかし先述した通り、支援において「当事者主体」は原則なのです。繰り返しゲームを行う中で、ふとそのことに気がつく瞬間がくると、ストンと何かが開けたかのように、エンパワメントの応用が次々と進みました。そして優先ニーズにも付帯ニーズにも、時には自分のカードのニーズにそれがなくても、「エンパワメントも使えるんじゃない?〇〇さん、私にもエンパワメントのカードをもらえませんか」などと言う言葉のやりとりが見えてきました。
実際のケースとして、現代の社会課題である「ヤングケアラー」「精神障害」「LGBT」「言語課題で困り感を抱える外国人」「依存症」「老老介護」などがニーズを持った人々として挙げられます。どのケースにおいても、社会のカテゴリーの中のサービス利用、相談業務、訪問看護や訪問介護からの介入が真っ先に頭に浮かぶのですが、長期的に考えた場合、ストレングスの視点に頭を切り替えると、エンパワメントへと行き着くのです。課題を抱える同士がつながり合い、本来持っている力を高め合う、そして課題解決のための効果を上げていくなど、自然とエンパワメントが重要だということに気づいていく過程が見受けられました。わかりやすい5つの領域で考えてみようとヒントがあっても、自分自身にも、今いるメンバー間で協力し合っても、限界があるということも理解していく過程がしっかり見て取れました。そのような場合「もっとこんな支援があったらいいのに」または「こんな社会資源、どこかで作れませんかね?」などと言う会話のやりとりも生まれました。
また課題を抱えている人が支援者と出会っても、必ずしも主訴が一致するとは限りません。当事者の主訴はAだったとしても、支援者から見た優先ニーズはBまたはCということも実際の現場では起こりえます。その場合に、実際にはどの順番で課題を解消していくのでしょうか。ここで真っ先に頭に浮かぶのは「当事者の尊重」です。共に課題を多角的にみた上で当事者主体で優先順位をつけ、まずはAに取り組み、ついでBやCに取り組んでいくということがなされれば良いのですが、そこで話し合いもせず、支援者が優位に立ってその視点から見た支援を優先してしまった場合、それは押し付けや強要になってしまう危険性があります。実際の支援の現場では、このようなことが行われている事も少なくありません。他者から見て、表面的に見えやすい課題や、目先で課題にかり気をとられていると、当事者の声に耳を傾けることが忘れがちとなってしまいます。
もう一つ、ゲームだからこそ楽しみながら且つ思い切った、大胆なアプローチを提案できることで、実際の場面でまだ経験したことのない支援の方法や技術を体験することができます。楽しみながらゲームを行うことでそれが支援者自身の自信へと変わっていくと感じました。また、連携を意識しながらゲームを楽しむ流れになっていくと、徐々に盛り上がって「お願い上手」になっていく様子も見受けられました。自分には使える手がないけれど、誰かがそのカードを持っていると「そのカードで助けてもらえませんか」や「どなたか良いカードを持っていませんか」と積極的に声が上がり、また「よかったら私のこの支援カード使ってみませんか」と提案する場面もありました。
メンバーを変えたり、回数を重ねることで、より実際の社会課題やその支援の理解につながる面白さを感じるゲームです。ぜひ体験してみてください。