特定非営利活動法人 YES, DEAF CAN! 副代表
一般社団法人撫子寄合副代表 ペギー・プロザー ※
(原文英語のため翻訳)
2011年3月11日、巨大地震と大津波により、日本の東北地方太平洋沿岸が地盤沈下し、水没するのを世界中が目撃しました。さらに、原発のメルトダウン警報も同時に発令されました。多くの混乱が生じ、生存者のための最新情報は長い間なかなか得られませんでした。
震災当時、私は日本に住所を置いておりましたが、国際開発の修士号を取得するための実務研修で米国に滞在していました。ワシントンDC首都圏にある全米ろう者協会(NAD)にインターンとして勤務し、国連障害者権利条約や災害プログラムについて学んでいました。東日本大震災は私にとって衝撃的で、私の研究の一部となりました。
2012年の夏、私はようやく日本に戻ることができました。私の家は地震の被害から免れ、知り合いもほとんど無事でした。私は大きな安堵感を覚えました。
そして日本にいる間に、地震と津波に関する英語の情報や、被災者の体験談を読むことができました。私は引き続き大震災について調べ続けました。記事や体験談を読むうちに、多くの外国人たちが震災後に支援を受けるのに苦労したこと、そして、日本人ろう者への支援が非常に遅れていることを知りました。どちらのグループも、何日も何週間も混乱と絶望に打ちひしがれていました。このことがきっかけとなり、私は日本における外国人向けのサービスやプログラムについて調べ始めました。日本が外交政策を変更し、日本における外国人統合プログラムを追加しようとしていた時期だったので、おそらくタイムリーだったのでしょう。そして、気がつくと、日本における日本人のろう者と外国人のろう者が経験したことを比較していました。
東北の大地震と津波に関するさまざまなニュース記事の中で、私が最初に保存したニュース記事は、オンライン/デジタルの人気英字通信社であるニッポンドットコム(Nippon.Com)で見つけたレポートでした。大森義夫氏による「3月11日後の危機管理」という記事で、掲載日は2011年10月3日でした。元内閣情報調査室長の大森義夫氏は、1995年1月17日に兵庫県神戸市を襲った阪神・淡路大震災以降、日本社会で起こった3つの核心的変化について論じました。氏は、次の点で変化が見られたと書いています。
大森氏は記事の中で、「私たちは、災害時に特に被害を受けやすい外国人への情報提供や外国語での避難指示の必要性を、これまで以上に痛感させられた」と述べています。日本における国際化の問題や懸念が関心の的となりました。日本における外国人ろう者についての質問が、次第に浮かんできました。
日本における外国人ろう者の現状は?
私たちは何者でどこにいるのでしょうか?
日本での永住許可を取得している外国人ろう者である私自身のことも含まれています。質問は他にもあります。私たちが自分を他者と識別するのは国籍によってなのでしょうか。それとも国籍の前にまずろう者であることなのでしょうか。その他にも、日本にいる外国人ろう者は皆、あるいはほとんどの人が同じ経験やフラストレーションを抱えているのかという質問も浮かびました。答えはどこにもありませんでした。私は、外国人ろう者の方たちと連絡を取りながら、自分自身で確かめなければなりませんでした。そして、在日外国人について興味深いことをたくさん学びました。日本に限らず、海外に住む日本人ろう者や、異なる国にいる外国人ろう者にも興味深い答えが見つかりました。このテーマは魅力的です。
本稿の目的は、日本における外国人の増加と、彼らに提供されるサービスの種類、そして日本における外国人ろう者の状況について紹介し、議論することです。これは正式な研究ではありません。日本における外国人ろう者の状況をよりよく理解するための正式な研究が必要であると思います。
さらなる議論に先立ち、日本国外務省との外国人に関する日本での以前の議論や出来事について、いくつか振り返っておきます。
2005年、在日外国人が着実に増加していることを伝える政府や報道機関の報道がありました。また、外務省は、在日外国人の増加とその社会的統合について議論する国際シンポジウムを開催しました。シンポジウムには、国際化に関する国内外の専門家、地方自治体職員、企業経営者など、さまざまな分野の人々が参加しました。シンポジウムでは、日本や諸外国における外国人受入れに関するデータ情報や成功事例が議論されました。
2010年2月20日、外務省、神奈川県、国際移住機関(IOM)は共催で、日本における外国人の受入れと社会統合に焦点を当てた第1回国際ワークショップを開催しました。ワークショップの目的は、日本における外国人の増加についての意識を高めることでした。このイベントは一般にも公開されました。
2011年2月17日、第2回ワークショップ「将来における我が国の外国人政策を中心にして」が開催されました。出入国管理法の改正や、専門的・技術的分野における熟練した外国人労働者への門戸開放についての提言がなされました。
そして、数週間後の2011年3月11日、巨大地震と津波が発生し、日本に甚大な被害をもたらしました。地震、津波、そして原発事故は、日本経済だけでなく社会全体にも大きな影響を与えました。そして、この地域に住む外国人にまつわる問題は、外国籍の人々を日本社会によりよく溶け込ませる必要性を証明しました。
こうした東日本大震災後の状況を踏まえ、2012年3月1日、外務省、国際移住機関(IMO)、明治大学が共催で、「第3回と外国人受入れと社会統合のための国際ワークショップ」を開催しました。このワークショップでは、外国人数名が日本におけるステークホルダーとしてパネルディスカッションに参加し、在日外国人としての経験や考えを共有しました。このワークショップは、日本におけるさまざまな外国人の生活について、大きな示唆を与えてくれました。外務省は、日本に住み、働く外国人の社会参加を促進することに合意しました。その結果、自治体に日本語教室の開催を呼びかけるなど、外国人住民と日本人住民が共存し調和できる環境づくりを推奨するなど、新たな取り組みが始まりました。
それは良いことではありますが、外国人ろう者が外国人向けのプログラムやサービスに参加しているのか、私たち外国人ろう者がそういうプログラムやサービスを知っているのか、という疑問が残ります。在日外国人ろう者が何を知っているのかを私たちは知っているのでしょうか。なぜなら、日本の外国人ろう者に関するデータ情報が調査されていないからです。
私は、日本にいる外国人ろう者の種類と彼らの状況について一般的な観察と大まかな分析を行いました。彼らの出身地、ビザの種類、働いているか否か、日本語や手話を知っているのか、そして、幸せなのかなどを知ることができました。私が得た情報の多くは、個人的にコーヒーを飲みながら、ランチを食べながらの話し合いや、外国人ろう者との交流会から得たものです。グループミーティング、遠足、ワークショップ、そして、もちろん、誕生日パーティーなどを通じて彼らと会う機会がありました。私は、東京にあるろう者のための言語サービスセンター「撫子寄合」との意見交換の集計をしました。「撫子寄合」は、東京で外国人ろう者に日本語教室と手話サービスを提供しています。私はまた、さまざまな外国人ろう者から刺激的な体験談や恐ろしい話を集め、挫折、差別、暴力、抑うつを経験した人たちを慰める手助けをすることができました。
確かに、日本における外国人ろう者に関する研究は、彼らの経験や状況をよりよく理解するのに役立つでしょう。しかし、外国人ろう者の数は少なく、日本全国のさまざまな都市に住んでおり、離れているので、外国人ろう者を集め、一緒に過ごすことは難しいです。また、手話は国際的なものではなく、外国人ろう者に皆日本語や日本手話を学ぶ機会があるわけではないので、コミュニケーションや言葉の壁があります。日本で外国人向けに行われている日本語教室は、聴覚障害のある外国人にはあまり役に立ちません。なぜなら、耳の聞こえない人は、講師や授業の内容をすぐに理解することができないからです。 通常、ろう者には別のアプローチが必要です。このテーマについてはここで論じません。別の機会に譲ります。
では、日本にいる外国人ろう者はどうすればいいのでしょうか?私たちは、日本の大都市―東京、大阪、名古屋など―にろう者がいることを知っています。しかし、日本に何人のろう者がいるかはわかりません。情報を追跡する方法がないのです。出入国管理局は、障害を持つ外国人の数を数えていません。しかし、日本のろう者コミュニティや全国のろう学校に外国人ろう者がいるので、ある程度のことはわかります。日本には聴覚障害のある外国人の大人と子供がいると言っていいと思います。
以下は、日本で外国人ろう者が持っているビザのリストです。このリストは取得数の多いものから並べてあり、他の種類のビザは含まれていません。
私の観察では、外国人ろう者が日本で取得するビザで最も多いのは、日本人の配偶者等ビザであると思われます。
2010年以降、外務省と法務省出入国管理局は、外国人と日本人が共生できる環境づくりのための計画や新しいプログラムを策定しています。
法務省は2022年6月、外国人との共生を実現するために地方自治体がとるべき施策をまとめたロードマップを策定しました。外国人が日本社会に参画するために取り組むべき4つのポイントが示されています。
以下は、日本各地の区や市で実施されているプログラムやサービスの一覧です。
上記の他にもさらに多くの情報が掲載されています。そして毎年、法務省は新しいプログラムや政策を追加しています。新しいプログラムやサービスの意図は非常に良いものですが、外国人ろう者がこれらのサービスを利用するかどうかという疑問は残ります。むしろ、日本語を知らないと、あるいは手話通訳の助けを借りないと参加できない人の方が多いでしょう。外国人ろう者は、代わりに手話を含むプログラムやサービスを求める可能性が非常に高いです。
日本人ろう者と外国人ろう者に大きな違いはあるのかと聞かれることがよくありますが、コミュニケーションや情報へのアクセスに関連する障壁はどちらも同じなので、大きな違いはありません。私が思いつく唯一の違いは、外国人ろう者がコミュニケーションや情報収集のために使う言語でしょう。例外として、日本語を知っている外国人ろう者であれば、情報収集やアンケートに回答するための文章を読むことはできるでしょう。しかし、日本語の読み書きが流暢にでき、日本手話も流暢にできる外国人ろう者はごく少数だと思います。
日本語の読み書きができることが、外国人ろう者にとって必ずしも解決策になるとは限りません。なぜなら、ろう者であるということは聞こえないということですから、どうやって話し言葉を聞き取れというのでしょうか。すべての補聴器がろう者のために機能するわけではないことも付け加えておかなければなりません。また、すべてのろう者が話すわけではありません。多くのろう者は、見知らぬ人に自分の言葉が理解されないとわかったとき、言葉を発しません。世界中のろう者は、話すことと聞くことに関して、しばしば同じ経験を共有しています。日本人ろう者と外国人ろう者は、日本語を使えば共にアクセシビリティを提唱することができます。
ここでもうひとつ一覧表をお見せします。誰もが利用できると言われている重要な公共サービスやプログラムのいくつかです。しかし、ろう者のことを考えると、どうでしょうか。
サービスやプログラムを実施する際、手話通訳を入れたり、スクリーンにキャプションを付けたり、ろう者の顧客やゲストに対応するために手話の専門家を雇ったりすることで、アクセシブルにすることができます。私たちは、外国人のためのコミュニケーションや情報へのアクセスは解決済みであるため、問題に対する解決策があることを知っています。例えば、様々な機械、ロボット、AIを搭載したツールやテクノロジーは、音声や聴覚による多言語コンテンツの最適化に設定することができます。
入手可能な外国語の情報の他に、多くのろう者は、話し言葉の通訳者や読み物を利用するよりも、家族や日本人の友人と一緒に公共施設や市役所を訪れたり、日本手話の通訳者を使ったりする方を好むと述べています。ろう者にとって、話したり聞いたりすることが好ましいコミュニケーション方法でないことは明らかです。多くのろう者は誤解を避けるために、聞いたり話したりすることを避けています。そのため、外国人ろう者が日本手話通訳者と一緒にケースワーカーや販売員と会っているのを見かけることがあります。
さて、日本のろう者向けサービスについてです。通常、日本のろう者向けサービスは、外国人ろう者ではなく、日本人ろう者を対象としています。私たちが耳にしたことのあるサービスには、次のようなものがあります。
上記のようなサービスは、外国人ろう者にも役に立つはずだと思われますが、実は役に立たないということがわかり驚きました。その理由は、上記サービスが日本人ろう者向けのものであるためです。
日本語をマスターしていない限り、ほとんどの外国人ろう者は画面のキャプションを読むことができません。日本のテレビの字幕は常に日本語です。キャプションを理解するためには、まず日本語を学ぶ必要があります。また、手話通訳やビデオリレーサービスを利用するには、日本語の手話が流暢でなければなりません。手話通訳の派遣を依頼するためには、外国人ろう者が日本語で書かれた質問用紙に回答し、手話通訳の必要性を説明する必要があります。多くのろう者向けのサービス依頼書は日本語で作成されており、日本語での回答を必要とします。 そのため、多くの外国人は、日本でろう者向けのサービスを利用しようとしません。
ろう者のための日本語教室の必要性は明らかです。日本語を知っていれば、日本でろう者が利用できるあらゆるサービスを利用することができます。
また、2016年4月1日に施行された障害者差別解消法も同様に重要です。この法律は、国内の約788万人の障害者を保護しています。この数字からは、ろう者や難聴者が何人いるのか、また、外国人ろう者を含む外国人障害者が何人いるのかを知ることはできません。
この法律により、地方自治体と日本のろう者団体を含む日本の障害者コミュニティは、バリアフリーの環境作りに共に取り組むことになります。ろう者が日本社会に参加するための新たな展開に、日本ろう者コミュニティがステークホルダーとして参加することは間違いありません。
外国人ろう者は、日本のろう者のための政策や制度に参加しているのだろうかという質問につながります。外国人ろう者もこれに関わっているのでしょうか。
また、手話通訳も懸念事項の一つです。多くの外国人ろう者は日本語や日本手話を習得していないかもしれませんが、突然手話通訳が必要になる事態がいつ起こるかわかりません。医療上の緊急事態かもしれませんし、出入国管理上の問題かもしれません。日本人と外国人ろう者の通訳には、熟練した手話通訳者を派遣する必要があります。この場合、手話通訳者派遣会社は通訳者なら誰でも良いというわけではありません。外国人ろう者との通訳に最も相応しい通訳者の派遣を検討する必要があります。特別な手話通訳の技術を持った特定の通訳者が必要です。
外国人ろう者のための手話通訳者資格を得るためには、外国人ろう者が日本人ろう者とチームを組み、日本の手話通訳者を評価する必要があると思います。在日外国人ろう者は手話通訳の重要なステークホルダーです。日本の手話通訳者の技術の評価や審査に、外国人ろう者も参加する必要があると思います。日本の手話通訳者の評価や訓練に、外国人ろう者を含めることを日本の通訳コミュニティに知らせる必要があります。
外国人ろう者は、広範な日本社会、在日外国人コミュニティ、そして日本のろう者コミュニティという3つの社会から疎外されているように見えるかもしれません。これは、外国人ろう者が幸せではないということではなく、私たちが日本では特別な存在であるということです。多くの外国人ろう者は、日本社会に参加するために苦労し続けています。外国人ろう者のための日本語教室が必要です。また、ろう者サービスの発展のためにも外国人ろう者をステークホルダーに加えることが重要です。
多様性とインクルージョンを受入れるとは、人種、民族、性別、年齢、性的指向、身体的能力等々における個人間に存在する違いを認識し、尊重することです。それは、背景やアイデンティティにかかわらず、誰もが評価され、尊重され、包摂されていると感じられる環境を作ることです。多様性とインクルージョンを受入れることで、組織やコミュニティは多様性の力を活用し、成長、刷新、調和を促進することができます。
今日、日本で行われているすべての改正された法律、新しいプログラム、改善されたサービスによって、すべての人が共存し、共生できると私は信じています。
※Peggy Prosser(ペギープロザー)さん
アメリカ生まれのろう者、日本在住31年。一般社団法人撫子寄合副代表。特定非営利活動法人YES, DEAF CAN!副代表。ギャローデット大学で国際開発学を専攻、経営学の学士号を取得。2013年に世界ろう連盟(WFD)の職員として、ニューヨークにある国際機関や組織の国連とのコミュニケーションを図っていた。現在はフリーランスとして言語指導、手話通訳、観光及び国際開発コンサルティング関係の仕事に携わっている。毎年春から秋の間は世界各国から訪れる観光客を日本の様々な場所へ案内している。また、日本に住む外国人ろう者について、講演活動もしている。