四つのバリアの再考(国際比較)ともう一つのバリア(災害)
金沢工業大学情報デザイン学部環境デザイン創成学科教授 土橋 喜人
【第1部:四つのバリアの再考(国際比較)】
1.はじめに
日本では1993年から政府で制定された「四つのバリア」という考え方に基づいて進められてきました。本報告においては、その「四つのバリア」を他国の取り組みと国際比較することにより見直すことを行ないました。加えて、「もう一つのバリア」として、筆者が能登半島震災支援でのボランティア活動を経験して感じたことについても報告をしました。
第一部として、四つのバリアの再考について、障害者対策推進本部による「障害者対策に関する新長期計画~全員参加の社会づくりをめざして~」(1993)において、物理的な障壁,制度的な障壁,文化・情報面での障壁,意識上の障壁(心の壁)に分けてきました。しかし、既に30年以上もたっており、権利条約の制定・発効、様々な国内法改正も行なわれてきています。レビューを行なう意義があると考え、本研究を実施することとしました。
2.先行研究
日本以外の国でも様々な国において、●●のバリアという研究はなされてきています。本研究の先行研究としては、日本を含めた諸外国等における研究があることがわかりました。ですが、それを踏まえた日本の取り組みに関する研究はなされていません。
3.目的と調査方法
上記のような中、現時点で新たな枠組みを提案する意義としては、①1993年の四つのバリアの定義から既に30年が経過していること、➁様々な国内外の法律や社会の変化がその後に起きていること、③従来までと同じようなことを繰り返しても,障害者にとってのバリアを取り除いた共生社会を作り出すことは難しいこと、から、研究を実施する意義があると考えました。
本研究の目的としては、本研究では,諸外国との国際比較を行い、日本の取り組みを評価することです。
調査方法としては、諸外国(先進国、途上国)との比較を行い、事前調査としてはウェブ調査、主にはインタビュー調査(含むインタビュー先からのレポート提供)で諸外国の有識者と国内の有識者からの見解を得ること、でした。
4.インタビュー対象者と回答概要
| 国 | 所属・肩書 | |
| 1 | 英国 | ロンドン大学UCL校名誉教授 |
| 2 | 豪州 | 豪州UDセンター代表 |
| 3 | フィンランド | ヘルシンキ大学准教授 |
| 4 | タイ | DPO支援CSO(NGO)管理職 |
| 5 | インド | NGOサマルティア代表 |
| 6 | 米国 | アクセスエクスチェンジインターナショナル(AEI)創立者 |
| 7 | ベトナム | バリアフリー推進CSO(NGO)団体代表 |
各インタビュー相手が回答した概要をまとめると以下の通りでした。
英国では、Equality Actがあり、また交通に関する様々な議論がデータを元に検討、実施されてるとのことでした。
豪州では、DDAにより平等が標榜されていますが、予算の課題から各州での実施面の取り組みが不十分な州もあります。2014年から自ら介護サービスを選択できるようになったということであり、日本が2005年の自立支援法での取り組みを考えると日本は遅れてはいないと考えられます。
フィンランドでは、ハード面とソフト面での取り組みがなされており、人権を主とした取り組みをしていますが、不十分な面も存在しており、取り組みが進んではいるものの完ぺきではないということでした。
タイでは、憲法で障害者の権利が保障されていますが、実態はそれに見合ってはいない状態であり、国連の審査でも指摘を受けていました。
インドでは様々な法令が策定され、改善はしていますが、都市部と農村部の格差や公共交通が贅沢品となっており、状況は楽観視はできません。
米国では、ADAがあり、障害者は健常者と同様に社会生活を送ることができる権利を有しています。しかし、地方部での生活は必ずしも快適とは言えず地域の格差があります。
ベトナムでは様々な法令が交通バリアフリーを保証しているが実態は異なっているとのことでした。
5.分析:制約種別や国際比較
前述の内容を踏まえて、マトリクスを作ったところ、四つのバリアについては他の国でも取り組まれていることがわかりました。ですが、逆に他の国では取り組まれているものの、日本では取り組まれてないものとして、権利、遂行・実施、財政、という面が浮かび上がってきました。
これらの結果について、日本国内の有識者・障害当事者のリーダーにもインタビューを行ないコメントを求めたところ下記表の通りでした。大きくまとめると現状のままでは良い状態であるとは言えず、見直しは必要であるが、実施するとした場合には人権や民主的な考えも取り入れた包括的な取り組みが必要であるということでした。
日本の関係者のコメント
| 所属・肩書 | 主なコメント | |
| 1 | DPI日本会議事務局長 | ①障害者団体の運動としては、国連障害者権利条約が中心。 ②人権や実施&遂行は重要で有効。 |
| 2 | 静岡文化芸術大学名誉教授 | ①四つのバリアは意識上のバリアだけは異なる階層。 ②人権は重要で社会が上から目線。 |
| 3 | 日本障害者協議会(JD)代表 | ①四つのバリアを精査するには人権モデルの観点から総点検が必要。 ②計測・評価する大枠が必要。 |
| 4 | 近畿大学名誉教授 | ①重要なのは民主主義の構築。 ②障害者の権利を認め、誰も取り残さない精神が大切. |
6.まとめ:可能性と留意点
他国では明確に「いくつのバリア」といった整理をしている国はありませんでした。一方、各種課題は似たようなものが多いということも見えてきました。「四つのバリア」そのものは共通で重要ということです。日本では問題視されてきていない課題も多くあり、特に「権利・尊厳(人権)」、「実施や遂行」、「財政面」。ということについては他国のほとんどでは取り組まれていないもの、日本では課題とみなされていません。
そのため、検討すべき概念としては、一つ目は「人権のバリア」、二つ目は「実施・実行・実効性のバリア」、三つ目は「財政面のバリア」といったことを含めて取り組みを考えていく必要があるのではないかと考えております。
その為には、各種障害者団体などとも協議し、適切なものを見い出す合意ができれば、国内向けに提案していけると考えられるでしょう。
(謝辞:本研究は科研費21K14259によって実施したものです。本研究のインタビューおよびレポートの提出にご協力をいただいた8か国のリソースパーソンに心より感謝申し上げます。)
【第2部:災害時のバリア】
第1部でお伝えした各種のバリアに加えて、「もう一つのバリア」として考えるべきことが、「災害時のバリア」です。能登半島地震の経験を通じての考察となります。
1.自分自身の被災と貢献
2024年1月1日に発災した際、私は金沢にいました。自宅の被害は最小でしたが怖い思いをしました。
足に障害を抱えている私が力仕事がメインのボランティアに行っても意味がなく、逆にケアされる側であり、現地入りは諦めました。その代わり、直ぐに石川県庁や、震災支援を表明したNGO等への寄付をしました。
2.友人たちの支援参加
各種NGOを通じて、現地支援を近しい友人たちが行っていました。地元の国際協力NGOでも現地支援を行なっていました。JDFの働きかけによって、初めて石川県内の諸団体が一堂に会して話し合いを持つようになりました。
地元のNGOの事務局長が土橋の授業で能登半島地震の支援をした際、いくら土橋が「ボランティアにいってみたらどう?」と呼び掛けても反応がなかったものが、TLAGの事務局長が話をしたら10名弱が参加しました。また、地元NGO(石川バリアフリーツアーセンター)が発災直後に物資支援を大々的に実施していました。
3.教育や研究として
学生にもボランティア活動への参加を勧奨しました。
様々なステークホルダーと石川バリアフリーツアーセンターがつながり、バリアフリーツアーセンターの全国各地の支援や、民間企業等と能登2市3町の支援を実施しており、今後、学会でも発表していく予定です。
4.発災1年後
- 1) 現地の状況も落ち着いてきたため、ボランティアの活動が力仕事ではなく、傾聴や見守りになってきました。複数の団体に相談し、JDFで行くこととしました。
- 2) 能登半島地震:土橋の経験:日本障害フォーラム(JDF)①
2025年2月に参加(5泊6日)しました。 - 3)土橋の活動:障害者団体、仮設住宅個別支援先、仮設住宅への訪問&送迎などを行ないました。詳細は、支援活動ニュース「やわやわと」に掲載されています。:https://jdf-hq-hp.normanet.ne.jp/noto/news/news_39.pdf
5.災害のバリア=もう一つのバリア
第一部でお伝えした通り、従来は、物理的バリア、情報・文化のバリア、制度のバリア、心理的バリア(心のバリア)と言われていたところ、第1部の成果でお伝えしたように「権利」「実施力」「財政」も検討していく必要があると提案しております。
加えて、今回の一連の経験・研究より、更に「もう一つのバリア」として「災害」も加わるのではないかと考えるようになりました。「災害対策基本法」の改正により「福祉的支援等の充実」をすることになる(なった)が災害弱者(高齢者等の要配慮者)が(他被災者に)「優先」して支援されることにはなっていません。
6.まとめ
能登半島地震の問題は日本の問題ではないか、というのが私のボランティア経験(実は他の団体にも別日程で参加)でした。災害時の課題だけではなく、日常の障害者が持つ課題を浮き彫りにしており、当事者も関係者ももっと声をあげる必要があるでしょう。
災害対策法において「より脆弱な高齢者・障害者も含める」とはなったが「優先して救援する」ところまでは踏み込めていないため、より踏み込めないかと考えます。一人一人ができることをしていく、積み上げていくことも必要でしょう。情報発信を各自で行なっていくことも必要です。情報は被災者に配慮しながらも発信していく必要があり、風化させないようにしかないといけません。でも、心に傷を負っている人もいるのでそこは傷付けないようにしていかないといけないでしょう。
(参考文献)
土橋喜人. 2024. 四つのバリアの再考:8か国の国際比較を通じた考察、札幌: 第28回日本福祉のまちづくり学会全国大会2024
Dobashi, Y. 2024. How Many Barriers Do You Recognize? Comparison of Accessibility Barriers to Persons with Disabilities in Eight Countries、Seoul, Korea: Asian-Pacific Planning Societies 2024
土橋喜人・中子富貴子・坂井さゆり. 2025. 緊急支援時の支援物資に関する考察:能登半島地震の災害弱者支援を事例に. 香川大学: 第71回土木計画学研究発表大会2025