職業リハビリテーションの黄金期はこれから〜人間の可能性を拓く支援のかたち
Next Being ラボ 春名 由一郎
(前 独立行政法人高齢・障害求職者雇用支援機構障害者職業総合センター副統括研究員 )
1 はじめに
職業リハビリテーションの近年の大きな成果は、障害、疾病、神経多様性にかかわらず、仕事内容や職場環境が合えば、合理的配慮のもとで多くの人が問題なく活躍できることを明確にしたことです。しかし、「障害者は働けない。企業の負担」という前世紀の固定観念を残す法制度によって、世界水準の専門性を高めている職業リハの現場は「古くて新しい課題」という新旧パラダイムのギャップに長らく悩まされてきました。
一方、欧米ではそのような制度と現実のギャップを解決する解が明確になりつつあります。配慮があれば働ける障害者を制度に位置付け、広範な支援を展開するとともに、公的負担を抑え、より負担の大きい雇用への支援の充実も可能とする。そのためには、職業リハの高度な専門知識の蓄積が鍵となります。本稿では、その実態と、日本の「後発優位」の可能性を示します。
2 現場にある先端の知見と人材
これまで、障害者の就労問題について、経験則や単純集計等により「障害者は働けない。多くの配慮が必要」という考えが強化され続けてきました。しかし、ICF(国際生活機能分類)は障害の構成要素の因果関係を科学的に捉える転換を促しました。障害者職業総合センターの研究では、障害者雇用企業や障害者自身への調査データから「障害者の多くの職業問題は合理的配慮により軽減・解消される」ことが、知的障害、聴覚障害、精神障害、難病等で共通して確認されています。知的障害では作業補助や業務計画改善が対人上の課題を軽減し、重度聴覚障害では上司・同僚の理解や障害に左右されない人事方針、相談員の設置があれば課題は健常者並みに収まります。精神障害では通院配慮や人事方針の明確化が就業継続を高め、難病では治療と仕事の両立支援の欠如が孤立や離職を招くことが示されています。
3 新旧の考え方、制度と現場の深刻なギャップ
日本の障害者雇用の現場では、こうした先端知見を体現する企業関係者や専門人材が多く存在します。加えて、医療連携、自己管理支援、差別禁止と合理的配慮、ジョブコーチ、キャリア支援、職業紹介・マッチング等により、障害者が働けるための実装可能なノウハウも豊富です。「障害者=働けない/企業の負担」であることを前提とする旧パラダイムとのギャップは、日本のあらゆるところで顕著なものとなっています。【図1】
就労支援のあり方は、問題対応に終始する就職前までのタテ割り支援が依然多い中、就職前から就職後まで本人と企業の双方に関与する総合的支援が成果を上げ、後者には専門性を実感している支援者も多くいます。このギャップを縮めるため、福祉と雇用を横断する基礎研修や、本人と家族が就労支援を選べる就労選択支援事業が始まります。

企業の認識も、雇用率の「数合わせ」に終始するか、包摂的な企業経営への投資に取り組むか、異なる認識が混在しています。
まず医療、生活を整えて「就労は究極の目標」という認識ではなく、障害や疾病のある人の医療・生活・就労を一体的に支えようという多職種連携も発展していますが、今なお担当者の熱意や「顔の見える関係」に依存し、構造的基盤が脆弱です。
4 後発優位としての可能性
日本では、制度と現実のギャップの収拾の展望が見えないことで、問題への直面が遅れてきた感があります。しかし、既に諸外国では一定の解が見えてきた段階で、それらを参考に、現場の経験を活かして一気に制度整備を進められる後発優位の立場にあります。すなわち、①企業の配慮と地域支援による包摂的雇用、②合理的配慮の範囲を広げる公的支援、③最も企業の雇用負担の大きな障害者層への支援です。【図2】

(1)企業の配慮と地域支援による包摂的雇用
日本では制度的な位置付けが不明瞭ですが、海外では最も重点的に取り組まれているのが、「企業の配慮と地域支援により可能となる雇用」の充実です。
米国のJAN(Job Accommodation Network)やドイツのREHADATは、障害・機能・職務課題別に配慮の実務知を体系化し相談とデータベースで解を提示します。企業は合理的配慮の中央担当部署で判断と予算を集約し、従業員の自己申告を安心して促します。英国は「仕事・健康・障害の未来」を掲げ、医療・産業保健・就労支援を統合した早期対応と復職支援を進めます。ドイツの連邦参加法は、複数のリハ担当機関の協力を法的責務とし、原則三週間以内の実施や予防的対応を制度化しました。さらに、障害平等指数(DEI)などにより、雇用の量だけでなく質の取り組み(柔軟勤務、自己申告促進、配慮予算の集約、上級管理職のロールモデル等)を可視化します。米国では2008年のADA改正で、厳密な線引きより差別禁止と配慮履行が主眼とされ、自己申告の周知や研修、個人情報保護の説明が徹底され、討議用ガイドも整備されました。
(2)合理的配慮を広げる経済的・技術的支援
さらに、雇用企業と障害者への経済的・技術的な公的支援を(1)の「合理的配慮があれば働ける」層の拡大への社会的投資として位置付ける制度も発展しています。
ドイツでは連邦雇用エージェンシー、統合局、医療保険、福祉扶助などが職業リハ給付を担い、納付金を原資とする助成で職場整備、通勤、試行雇用等を支えます。フランスのAgefiphは、雇用主向けの見習い支援金や職業適応支援金、重度障害関連支援金に加え、本人申請による機器・人的・移動支援や補聴器支援を提供します。英国のAccess to Workは、事業主の合理的調整義務を超える追加費用(サポートワーカー、通勤、特別な援助・機器、精神保健支援、仕事での交通など)を費用対効果の観点で給付し、現場のボトルネック解消に直結します。米国の公的職リハは「二面顧客」戦略により、企業にインターンや職場トレーニング、障害理解研修、支援技術、税額控除の案内等を無償提供し、州を跨いだ総合的支援を提供しています。雇用率制度や数値目標は義務強化だけでなく、エビデンスに基づく説得と実質的支援をセットで進めることが重視されています。
(3)最も企業の雇用負担の大きな障害者層への支援
最重度の障害者、すなわち、配慮を尽くしてもなお雇用企業の負担が続く障害者についても、障害者権利条約による労働の権利への対応のための現実解が様々に見出せます。米国の援助付き就業、IPS(個別就労支援)、カスタマイズ就業は、高い専門性を有する支援者と多分野の専門支援との連携により、個別的な職探しと合理的配慮の充実、地域の継続的支援態勢の確立により福祉的就労でなく一般就業を可能とします。一方、ドイツやフランスでは、雇用関係の尊重を前提に、企業への賃金補填や継続的助成により、福祉的就労以外の就業の選択肢を提供します。また、ドイツの包摂事業所、フランスの適合企業等、障害者雇用を目的とした社会的企業も障害者と健常者が共に働ける場とする等、一般企業を超えた包摂性の高い企業としての位置付けを明確にしています。
これらの層への支援では、社会的相互依存関係、個性発揮、自己実現、キャリア発達といった、人間にとっての職業の意味を問い直すことも重要となります。
5 まとめ
職業リハは、障害や疾病、神経多様性を問わず、つながり・創造性・存在といった、すべての人間の潜在的可能性の発揮を助け、社会の発展に貢献する基盤的営みです。日本の現場には既に豊かな実践知と人材があります。法制度と現場のギャップは後発優位で克服可能です。現在はまさに、支援する側、支援される側のパイの取り合いではなく、誰もが活躍できる社会の基盤となる黄金期の前夜です。