Disability-inclusiveな雇用とCSRとは-障害当事者の視点を活かして
ダイバーシティ政策研究所 所長、株式会社アデランス 独立社外取締役、
中央大学総合政策学部兼任講師 山田雅穂
筆者は、障害のある当事者としての視点を活かしながら、障害のある人を含めたDEIB(Diversity, Equity, Inclusion and Belonging)について、CSR(企業の社会的責任)、経営倫理を含めた学際的な研究を行ってきました。2025年7月31日に開催された第27回リハ協カフェでは、これまでの筆者の研究論文をもとに、「Disability-inclusiveな雇用とCSRとは-障害当事者の視点を活かして」をテーマに発表させていただきました。
DEIB(Diversity, Equity, Inclusion and Belonging)とは(出典:山田2022)
ダイバーシティ(diversity)とは「多様性」のことであり、主に①表層的なダイバーシティ:外観から認識できる違い(性別、年齢、人種、国籍、障害の有無など、本人が選択・変更できない属性)と、②深層的なダイバーシティ:外観から認識しにくい違い(性格、考え方、習慣、信条、職歴など)に分けられています。このダイバーシティの議論において忘れてはならないことは、ダイバーシティの概念の背景には、ジェンダー、人種、民族、年齢、性自認や障害などに対する差別や排除の問題があることです(山田2022)。
「労働力の多様性」の議論は1960年代のアメリカの公民権運動に遡ります。1964年の公民権法第7編により、雇用上の性別・人種・宗教・国籍等の差別が禁止され、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)が強化されました(辻村2011:28-29)。これらにより、雇用差別を受けてきたマイノリティに門戸が開かれました。よってダイバーシティを活かすには、①雇用上の差別や排除の問題をなくし、すべての人に雇用の機会を保障することと、②「人権を保障すること」が必要不可欠な基礎となります(山田2022)。
次にDEIBとは、それぞれ次の通りです。Diversityとは多様性であり、Equityとは、日本語では「公平性」であり、「必要な情報、機会やリソースに公平にアクセスできること」とされます。Inclusionは「包摂性、包括性」とされ、ここでは「組織の同じメンバーとして包摂すること」といえます。そしてBelongingは、「その組織のメンバーであるという帰属意識を持つこと」を意味します。
DEIB、CSR(企業の社会的責任)と障害者雇用(出典:山田2014;Yamada 2024)
障害者雇用はCSR(企業の社会的責任)の課題であるという認識が大企業を中心に広まり、ダイバーシティ推進、人材の多様性、DEIやDEIBの課題として捉える企業が増えてきました(山田2014;Yamada2024)。一方で、障害の有無は国籍、言語、民族、人種、宗教、ジェンダー等を含む属性の一つとして言及されるに留まっており、積極的な戦力として捉えた研究は筆者の研究(山田2014、Yamada 2024など)以外には、あまり見当たりません。さらに、日本の障害者雇用の実態を見ると、2024年6月1日現在で実雇用率は2.41%(民間企業の法定雇用率は2.5%)、法定雇用率達成企業の割合は46.0%で(厚生労働省2024)、半数に満たない状況も継続しています。障害者がDEIBの議論から取り残されがちな状態が続いているのはなぜなのか、考えていきたいと思います。
まず、CSRとは何かについてです。企業を含めたあらゆる組織の「社会的責任」に関する国際規格であるISO26000では、「組織の社会的責任」の定義を次のように定めています。
「社会的責任」とは:「組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が行う責任」と定義
- 健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展に寄与する
- ステークホルダーの期待に配慮する
- 関連法令を順守し、国際行動規範と整合している
- その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される
(出典:財団法人 日本規格協会2010:3)
つまり、CSRとは「本業を通じて果たすもの」であり、取り組まなくてもいい「任意のもの」ではないのです(山田2011;Yamada 2024)。よって障害者雇用も、本業を通じて果たすCSRの重要課題であり、経営課題です。先ほど、「障害者雇用はCSRの課題であるとの認識が、日本企業には定着していると考えられる」と述べました。しかし、CSRを「本業を通じて果たすもの」と捉えていない場合、障害者雇用も「任意のものであり、企業は必ずしも取り組まないでもよい」と誤解される可能性があるといえます(Yamada 2024)。しかしながら、障害者雇用は慈善事業ではなく、企業の本業です(山田2011;2014;Yamada 2024)。
経営倫理と障害者雇用 (出典:山田2014;Yamada 2024)
以上のような誤解が生じ、ダイバーシティにおいて障害者が積極的に語られない理由は、これまでのダイバーシティの議論に「経営倫理」の視点が欠けているからであるといえます(山田2014;Yamada 2024)。米国を中心とした従来のダイバーシティの議論では、ダイバーシティの目的は「競争優位」と「組織パフォーマンスの向上」に資することのみに焦点が当てられてきました(山田2014)。しかし、経営倫理とは『旧来からの「効率性原理」と「競争性原理」の二原理中心による利益の極大化を最重要な価値ある考え方とする企業価値観』に対して、「人間性原理」と「社会性原理」をそれらと対等の価値として加えた「経営価値四原理システム」が最も重要な企業価値観・経営の在り方だとする」ものです(水谷2003:12)。
よって障害者雇用も、競争性原理と効率性原理だけでなく、人権を含めた人間性原理と、CSRを含めた社会性原理をも対等な価値として加え、この4つの原理をバランスよく発展させていく「経営倫理」を基盤に置くことが必要不可欠です。
Disability-Inclusiveな雇用とは(出典:Yamada 2024)
最後に「Disability-Inclusiveな雇用とは」について、筆者は論文(Yamada 2024)で、「障害と開発」分野で採用されてきたツイン・トラック・アプローチを障害者雇用とDEIBに応用し、障害インクルーシブな雇用の在り方を提示しました。
ツイン・トラック・アプローチとは、①メインストリーミングと②エンパワメントであり、①メインストリーミングとは、あらゆる社会課題への取り組みの中に「障害の視点」を組み入れること、②エンパワメントとは、障害当事者を主対象とし、障害に特化した課題に取り組むこととされています。障害インクルーシブな社会の実現には、この2つのアプローチの働きかけが不可欠とされています(久野・Seddon 2005)。また久野・Seddon(2005)は「参加そのものがエンパワメント」であり、『様々な社会課題への取り組みに「障害」の視点を入れ、分析するには、障害者自身が行うことでより適切なものになる』と述べています。このことは障害者雇用だけでなく、障害のある当事者を含めたDEIB全体にとって非常に重要であり、今後目指すべき方向性であると考えます。詳細については、Yamada(2024)をぜひご覧いただければと思います。
【出典】
久野研二・Seddon., David. (2003) 『開発における障害(者)分野のTwin-Track Approachの実現に向けて:「開発の障害分析」と「Community-Based Rehabilitation: CBR」の現状と課題、そして効果的な実践についての考察』国際協力事業団・国際協力総合研修所
厚生労働省(2024)『令和6年 障害者雇用状況の集計結果』
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47084.html
財団法人日本規格協会編(2010)『ISO 26000:2010 Guidance on social responsibility「社会的責任に関する手引」』財団法人日本規格協会
辻村みよ子(2011)『ポジティヴ・アクション―「法による平等」の技法』岩波書店
水谷雅一(2003)「経営倫理とは何か」日本経営倫理学会監修・水谷雅一編著『経営倫理』、同文館出版、1-18
山田雅穂(2011)「障害者雇用におけるISO26000の役割と活用の意義―ステークホルダーエンゲージメントと社会的責任の組織への統合から―」『大原社会問題研究所雑誌』第637号、47-64
山田雅穂(2014)「ダイバーシティにおける障害者雇用の位置付けと経営倫理―障害の特性を生かすために」『日本経営倫理学会誌』第21号、43-56
山田雅穂(2022)「連載「広報✕倫理 真のD&Iへの道のり」 vol.1 ダイバーシティ&インクルージョンの推進、まずは背景の理解を」『月刊広報会議』161号(2022年6月号)、p.139
https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/kouhoukaigi/024002/
Yamada., Miho. (2024). Human Rights-Based CSR as the Driver for Disability Inclusion in Business: Based on the Employment of Persons with Disabilities and Diversity and Inclusion (D&I) in Japanese Corporations. Journal of Japan Society for Business Ethics. 31, 251-263.
https://doi.org/10.20664/jabes.31.0_251