四半世紀ぶりの日本開催世界理学療法連盟学会2025 を終えて

公益社団法人 日本理学療法士協会 伊藤智典

2025年5月末、東京国際フォーラムにおいて、世界理学療法連盟学会(World Physiotherapy Congress 2025、以下WPC2025)を開催しました。本稿では、開催の背景、準備・運営における日本理学療法士協会(以下、JPTA)の役割、学会の成果や課題、そして今後の展望について報告します。

1.開催の背景と意義

世界理学療法連盟(World Physiotherapy)は1951年に設立された、ロンドンに本部を置く国際組織です。加盟組織は2025年6月現在で129団体にのぼり、全世界から60万人以上の理学療法士を代表しています。世界規模の学会は隔年で開催されており、これまでも研究成果の発表や臨床実践の共有、国際的なネットワーク形成の場として、重要な役割を果たしてきました。

初めての日本での大会は1999年横浜で、今回は約四半世紀ぶりの日本開催です。当時、運営の責任者として副大会長を務めたのは、草創期の理学療法士、故)田口順子氏でした。彼女は障害分野の国際協力において特に功績があることから、2011年には世界理学療法連盟の国際貢献賞にも輝いた人物です。彼女は多くの人々に影響を与えましたが、本稿の筆者もその影響を受けた一人です。

2回目の開催となった今回は、日本の理学療法のプレゼンスを国際的に示す歴史的な機会となりました。会場には110以上の国や地域から理学療法分野の研究者、教育者、政策担当者らが集い、幅広いテーマで議論が展開されました。特に145のメインセッションや700以上のポスター、ワークショップに加え、展示会やヘルシーエクササイズなど多彩なプログラムが組まれ、過去最大規模の約5,000名が集まる一大イベントとなりました。

2.誘致活動と開催準備

WPC2025の誘致は2017年に始まり、2019年ジュネーブ大会にて東京開催が正式に公表されました。しかし、その後COVID-19パンデミックの影響により、2021年大会はオンライン開催、2023年はドバイでの開催となり、東京大会は2025年に延期となりました。こうした経緯を経て実現しました東京開催は、長期的かつ粘り強い誘致活動の成果であったと思います。

JPTAは主催団体ではないものの、地元加盟団体として様々な役割を担いました。具体的には、国際会議開催助成や環境配慮型MICE助成、次世代型MICE助成などの助成金申請において、世界組織に代わって日本語での申請を行い、学会の運営を支えました。また、JPTA会員への周知活動として、地方学会やブロック学会での広報、養成校や所属施設へのポスター送付、SNSや広報誌での周知などを実施し、参加促進に努めました。さらに、国際学会での発表経験の少ない会員に向けた支援プログラムを展開するなど、将来にむけたグローバル人材の育成、発掘に寄与しました。

3.運営と具体的対応

大会は、ボランティアコーディネーター、ヘルシーリビングコーディネーター、クリニカルビジットコーディネーター、そして関係企業、団体など多くのボランティアの協力を得て行われました。クリニカルビジットは、都内の病院やクリニック、介護施設、スポーツ施設など16施設、22枠で実施されました。募集開始ですぐに約200名の参加が埋まり、キャンセル待ちが出るほどの、大人気のプログラムとなりました。準備においては施設調整、参加者の事前説明、通訳担当の配置、移動手段の確保など、細部にわたる調整が求められました。

大会は、日本人の理学療法学生やアジア西太平洋地区の理学療法士らを中心としました123名のボランティアがその運営を支えました。JPTAが運営を担ったJapan Houseでも、延べ44名の日本人ボランティアが活躍し、折紙や法被を用いた文化体験や、日本人としてのおもてなしの重要な役割を担いました。JPTAでは、シフト調整やマニュアル整備、名札や物品の準備なども含め、周到な準備を行いました。

さらに、展示に関わる医療機器の輸入申請や、アフリカを中心としました低所得国からの参加者に対しますVISAの特別な支援といった、予期せぬ課題も発生しましました。これらの対応は在外公館、東京都の担当局、関東信越厚生局、海運業者などとのやり取りにて迅速に進められ、国際会議運営の複雑さを改めて認識する契機となりました。

4.学会の様子とレガシー

開会式やCongress Partyでは、国際的な交流が活発に行われました。Japan Houseでは日本の理学療法教育の国際基準を紹介し、文化的背景を共有する場として機能しました。さらに、大丸有エリアマネジメント協会や日本ラジオ体操協会と連携した「ラジオ体操」プログラムは、健康づくりを象徴する企画として、海外からの参加者に強い印象を与えたものと考えます。

これらの取り組みは、学会の一過性イベントとしての側面を超え、日本の理学療法の国際的な知名度向上と教育・文化発信の基盤づくりにつながりました。WPC2025は、わが国の理学療法士にとって国際的な連携や発信力を強化する大きな転機となりました。

5.成果と意義

第一に、国際的知識と経験の共有が達成された。過去最大の参加者、演題申請数で、最先端の研究成果や臨床のベストプラクティスを直接共有できたことは、国内外の理学療法士にとって大きな学びとなりました。第二に、経済的・社会的な効果が認められたことです。学会前後で、他地方への観光の高まりなど、国内における経済的な波及効果もありました。また展示会への賛助会員企業の参加により、業界間の国際連携も強化されました。さらに、ヴィーガン食やハラール対応、礼拝のためのルーム設置など、多文化理解の促進も実現しました。第三に、国内外のネットワークが広がったことが挙げられるでしょう。JPTA内では会員間のつながりも強化され、エンゲージメント向上につながりました。従来、接点の少なかった航空業界や観光業界との連携も生まれ、理学療法士のプレゼンスが高まりました。総じて、理学療法業界のみならず、多くの関係者らの支援のおかげで学会が成功したのですが、このつながりは将来にむけた大きな財産であると言えるでしょう。

6.課題と学び

一方で、いくつかの課題も明らかになりました。まず、招致・準備には膨大なリソースが必要であり、資料作成、会議対応、視察の調整などに多大な時間と人件費を要しました。助成金申請や組織内の意思決定には厳格な期限があったことから、他業務との両立には工夫が必要でした。初めての大規模な国際学会の運営支援をするホスト組織としては、複雑なロジスティクス管理やリスク管理を行う必要がありました。

海外参加者のVISA取得や医療機器輸入の法規制対応など、予期せぬ制度、仕組みの壁にも直面しましました。これらに対しては、World Physiotherapyの事務局や、関係省庁との誠実かつ迅速なコミュニケーションを重ねることで、リスクを最小化して学会当日を迎えることができました。これらの経験は今後、国際会議を運営します場合における貴重な教訓となることでしょう。

7.今後の展望

WPC2025を通じて得られた経験と学び、そしてネットワークを今後にどう活かすかが重要です。JPTAの中長期計画において「2030年の国民の生きがいを支える理学療法士のビジョン」を軸とし、①疾病や障がいとともに安心して暮らせる社会の実現、②心身ともに健やかに暮らせる社会の実現、③国民が相互に支え合って、住みたい地域で人生を過ごせる社会の実現、④安定した組織基盤の構築の4つの柱を設定しました。この中において、国を超えた地域活性化という中項目のもと、国際活動への積極的な参加、地域に根ざした共生社会の実現(Community based inclusive development)への取組などを掲げました。理学療法士の国際発表や交流の拡充、国際的な活動の後押しなど、予防・医療・介護・福祉に限らず、国際の切り口から、観光やパラスポーツなど、幅広い分野での価値を発信していく必要があります。多くの関係者、組織と連携してこれらを推進することで、障害を持つ人も持たない人も、幸せに生活できる社会にむけて貢献できるものと信じています。

8.まとめ

WPC2025は、理学療法の国際的な発展と日本のプレゼンス向上に大きく貢献しましました。JPTAは開催準備から運営、成果の最大化まで多面的な役割を果たし、組織としての成長と新たな学びを得ることができました。今後、この経験を基盤として、グローバルかつ発展的な事業を推進して、社会に還元していくことが期待されます。

学会開会式の様子

東京国際フォーラムで開催された世界理学療法連盟学会2025(WPC2025)開会式の様子。約5,000名が参加した大規模な会場のスクリーンには、登壇者の映像とともに「World Physiotherapy Congress 2025 TOKYO」のロゴが大きく映し出されている。

ヘルシーリビングの様子

世界理学療法連盟学会2025(WPC2025)の「EXERCISE AND WELLBEING ZONE」で行われたヘルシーリビング・プログラムの様子。鯉が描かれた青いバックパネルの前で、参加者たちが芝生のようなマットの上で横になり、エクササイズを行っている。

学会展示での日本の踊りの様子

東京国際フォーラムの学会展示エリアで行われた、日本の伝統文化発信の様子。着物姿に和傘や太鼓を持ったチンドン屋が練り歩き、「Follow me to Hall E... enjoy traditional Japanese dance!」と書かれた案内板を掲げ、海外からの参加者を楽しませながら文化交流を行っている。

学会開会式の様子

WPC2025開会式にて、大型スクリーンに映し出された記念品授与の様子。ステージ上で2名の男性が「World Physiotherapy Congress 2025 TOKYO」のロゴが入った額縁を掲げており、日本の理学療法の国際的なプレゼンス向上を象徴する場面となっている。