トピックス-きこえない・きこえにくい人のオリンピック「東京2025デフリンピック」が開催されます!

「新ノーマライゼーション」2025年1月号

一般財団法人全日本ろうあ連盟デフリンピック運営委員会 事務局長
倉野直紀(くらのなおき)

いよいよ、今年11月に、きこえない選手のオリンピックといわれる「デフリンピック」が日本で初めて開催されます。1924年にフランスで夏季大会が開催されてから100年という、パラリンピックよりも長い歴史を持つこの大会は、今まで日本で開催されたことはありませんでした。

デフリンピック初開催から100周年、そして日本初開催と記念すべき大会となります。

また、デフリンピックはその運営体制に大きな特徴があります。オリンピック・パラリンピックは都市が開催立候補をしますが、デフリンピックはその国のろう者スポーツ委員会が立候補し、大会運営もろう当事者が担うのです。つまり、日本開催にあたり、大会運営は、ろうスポーツ委員会を有する当連盟が担うことになります。国際スポーツ大会を障害当事者が運営するというのは、まず、デフリンピック以外に例を見ません。

これは、デフリンピックの理念からきています。後に“ろう者版のクーベルタン男爵”または“デフリンピックの父”といわれるフランス人のウジェーヌ・ルーベンス-アルケ氏(1884-1963)の提唱により、始まりました。なお、アルケ氏自身もろう者であり、デフ(英語できこえない人)アスリートでした。

当時は、ろう者は社会的地位が低く、廃人とみなされ、手話言語も言語と認められていませんでした。アルケ氏は、ろう当事者による運営で、きこえない人の国際スポーツ大会を開催することで、手話言語やきこえない人への理解を広め、社会を変えようとしたのです。またろう者自身で国際スポーツ大会を運営することで、「きこえなくてもできる」ことを実証し、きこえない人の社会的地位を向上させようとしたのです。

オリンピックは平和のために、パラリンピックはリハビリのためにと始まりましたが、デフリンピックはまるでろうあ運動のように社会を変えようと始まったのです。デフリンピックの理念は「Per Ludos Aequalitas (Equality through sport スポーツを通じた平等)」です。

私たちはアルケ氏の想いそしてデフリンピックの理念を引き継ぎ、東京2025デフリンピックの大会ビジョンを掲げました。

1.デフスポーツの魅力や価値を伝え人々や社会とつなぐ

2.世界に、そして未来につながる大会へ

3.“誰もが個性を活かし力を発揮できる”共生社会の実現

東京2020オリンピック・パラリンピックは、心や街のバリアフリーを推し進め、また人々の障がいに対する意識や社会を変えました。東京2025デフリンピックは、そのレガシーを引き継ぎ、さらに発展させていく大会を目指しています。

大会のキーワードとなるのは、「きこえない人ときこえる人が共に協働し、活躍できる共生社会」であり、その姿を見せることではないかと考えています。

大会運営では当連盟が主体となりますが、東京都や中央競技団体等と連携をしながら進める、つまり、きこえない人ときこえる人が共に取り組むのです。

また、競技でも、デフリンピックにはオリンピックと同じように、陸上や水泳などの競技があり、正式競技数は21競技です。競技ルールはオリンピックとほぼ同じですが、スタートの合図などの音をきこえない選手に、「目」で分かるように伝えるため、さまざまな工夫がされています。例えば陸上や水泳ではスターターの音をランプのフラッシュで、サッカーは笛の代わりに旗をあげるなど、選手たちが競技上で必要な音を目で分かるようにしています。

そして、競技運営を担う審判も、国際審判の資格を持つきこえない審判員を世界中から招き、国内のきこえる審判員と協働していただくことを考えています。

また、世界中から来るきこえない選手やスタッフ、観客へのおもてなしを支えるボランティアの活動は、大会の印象や思い出を決める重要なものとなります。

2024年11月から2025年1月末まで大会ボランティア(約3,000人)をウェブで募集しました。募集にあたり、手話言語ができることを必須条件とはしませんでした。なぜなら、きこえる、きこえない、また、障害のあるなしにかかわらず、多様な人々が協働して活躍していただくことが、“誰もが個性を活かし力を発揮できる”共生社会の実現につながるからです。

ボランティアの方々には共通研修、手話言語研修・ろう者の文化等理解研修を受けていただく予定です。研修を通して社会課題を学び、共生社会づくりに貢献していただければと思っています。

また、東京2020オリンピック・パラリンピックでは、全国の地域や学校で「オリンピック・パラリンピック教育」が行われました。東京2025デフリンピックでも同様に、学校や地域で、きこえない人や選手から、次世代を担う子どもたちに障がいやきこえないことへの理解、手話言語の普及を行いたいと考えています。

そのため、当運営委員会は2024年10月に『東京2025デフリンピック大会に向けた未来へつながるプログラム』を公開しました。本プログラムは、学校向けの「教育ワークショップ型プログラム」、自治体向けの「イベントワークショップ型プログラム」、講師等をご紹介する「コンテンツ紹介」で構成しています。

子どもたちや市民の皆さんに、さまざまな体験や活動を通して大会への関心を高めていただくとともに、障害や多様性、共生社会について考えるきっかけとしてほしいのです。幸い、今、全国各地の学校や企業から問い合わせや相談が来ており、嬉しい悲鳴を上げています。

デフリンピックはオリンピックやパラリンピックと比べると規模ははるかに小さいですが、それでも国際総合スポーツ大会という、大きな意義のある大会です。

大会では、さまざまな場面できこえない人ときこえる人が協働し活躍する姿を、ぜひ、多くの国民に見ていただきたいのです。

東京2025デフリンピックは、日本や社会を変え、共生社会に近づく大きな一歩になると信じています。

【デフスポーツ・サポーター制度のご紹介】

全日本ろうあ連盟はデフアスリートへの支援や競技環境の向上を通して、きこえない選手や子どもたちの可能性を広げ、デフスポーツの発展を目指しています。

その取り組みに、ご理解とご賛同をいただける皆さまに、サポーター入会をお願いしています。ぜひ、私たちと一緒に『共生社会の実現』に取り組みませんか!

〈私たちの取り組み〉

〇 デフスポーツの啓発、普及

〇 スポーツ手話通訳者等の育成

〇 全国ろうあ者体育大会(夏季・冬季) 開催

〇 デフリンピックやアジア大会等、国際大会に選手団派遣

〇 デフリンピック等国際大会の支援基盤の整備

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