小田久美子(おだくみこ)
1977年生まれ。埼玉県在住。弱視。ピアノ中心に音楽講師をしてきましたが、40歳を過ぎた頃から日常に支障がでて、日本点字図書館にて自立訓練を受けました。そこで点字楽譜を知り筑波大学附属視覚特別支援学校専攻科音楽科に進学し声楽を専攻。2024年3月に卒業し、同年4月から国立音楽大学ディプロマコース声楽専攻にて学びを深めています。
網膜色素変性症と診断されたのは小学1年生の時、学校の健康診断での再検査がきっかけでした。幸い晴眼者と同じように見えていましたので、実感はなく、いつか目が見えなくなるんだな、と他人事で過ごしていました。
ピアノが好きで、音楽学校に進んだ後、小学校・高校・専門学校などで講師をすると共に、近所のお子さんにピアノを教えていました。夫と知り合い、2人の子どもに恵まれてからも変わらず、子育てをしながら音楽講師を続ける日々でした。
そんな中、私は下の娘が小学生になった40歳の頃、子どもが学校からもらってくる手紙が読みづらく、外に出ても人にぶつかったりつまずいて転んだり、方向が分からなくなったり。買い物に出ても値段が分からず、テレビをつけても画面に出ている情報が分からずイライラする日々。一番つらかったのは楽譜が見えなくなり、今までのようにピアノが弾けなくなったことです。いかに今まで目に頼ってきたのかを痛感しました。実際に見えない時がやってきて、とても落ち込み焦りました。そんな時に、全盲のソプラノ歌手の方と出会い、この方のお宅にお邪魔をして日常生活を見せていただきました。そして「日本点字図書館を訪ねなさい!」という助言をいただき、私は何か変わるかもしれない!と思いすぐに日本点字図書館を訪ねました。自立訓練の先生は私の話を丁寧に聞いてくださり、寄り添ってくださいました。私はなんだか救われる気持ちがして、ここで点字と白杖歩行、スマートフォン操作の訓練を受けようと決めました。週2回通うペースで訓練のスタートです。先生方は高い専門知識を持って、私に必要な訓練を考えてくださいました。途中コロナ禍ではオンラインも使って学びを継続できました。訓練の日々は、教えてくださる視覚障害先輩の先生や、一緒に学ぶ視覚障害をもった仲間との交わりの中で、たくさんの貴重な繋がりを得て、私の心はほぐされていきました。訓練も残り半年となった2021年の夏頃、最後に点字楽譜を学びたいとお伝えして、声楽家としても活躍されている先生から点字楽譜を教えていただくようになりました。この先生から筑波大学附属視覚特別支援学校専攻科では、視覚障害をもちながら本格的に音楽を学べることを教えていただきました。私は再び音楽を学べるチャンス!と思い、受験をして2022年4月に入学しました。
専攻は声楽! 再び学べるのならゼロから始められるものを、そしてここまでの声楽家の方たちとの恵まれた繋がりを感じて、憧れでもあった声楽に決めました。
専攻科に通う2年間は、朝は子どもより先に家を出て毎日6時間授業。声楽の他にも音楽史・作曲・ピアノと点字を学ぶことができました。先生方は各分野のスペシャリストで、生徒それぞれに必要な専門の学びを大変豊かに与えてくださいました。しかし、この筑波大学附属視覚特別支援学校専攻科音楽科も私の卒業をもって閉科となることが決まり、2024年3月、私は長い歴史のある専攻科音楽科の最後のたった1人の卒業生となりました。
時折、見えていたら、と思うこともありますが、見えないことで多くの素晴らしい繋がりが与えられているとも気づかされます。
再び音楽が学べる今、声楽家になるという夢に向かっています。2024年の4月からは母校国立音楽大学のディプロマコースで声楽を学んでいます。娘ともいえる歳の仲間と共に素晴らしい先生のもとで学べる日々はとても楽しく、心から感謝しています。
いつか心のこもったうたが歌えるようになりたいです。