実現・当事者目線の支援機器-時間の量を見える化!自閉症・知的障害のある人の時間管理をサポートする「タイムプランナー」
「新ノーマライゼーション」2025年4月号
アドプラス 中井美恵(なかいみえ)
1. タイムプランナー開発のきっかけ
娘の特徴と時間管理の課題
私の娘には知的障害を伴う自閉症があります。自閉症のある人は時間の流れを把握しにくく、急な予定変更に不安を感じやすい傾向があります。特に娘は、話し言葉だけでは状況をイメージしにくく、記憶もあいまいになりやすいため、視覚的に「見える化」されたスケジュールのほうが理解しやすいのです。
幼少期に療育で通っていた大阪自閉症支援センターで「見通しがあること」が娘の安心感につながると教えていただいたので、写真やイラストカードを使って予定を伝えるようにしました。
最初は「今からすること」だけを示し、それが理解できるようになったら「今」と「次」、さらに半日、1日と、少しずつスケジュールを広げていきました。その結果、娘は予定を見て楽しみに待てるようになり、行動の切り替えもスムーズに。見通しが立つことで安心し、安心することで自分の力を発揮できるようになったのです。
「時間には限りがある」ことをどう伝える?
娘はお出かけが決まると、大好きなことをすべてやろうと張り切ります。
「カラオケをして、ランチをして、ヘアカットをして、買い物をして、コスメも見に行きたい!」
しかし、移動時間も考えると、とてもすべてをこなす時間はありません。「今日のガイドヘルパーさんとのお出かけは4時間だから、全部は無理だよ」と伝えると、娘は「お母さんが意地悪している!」と感じ、怒ってしまいます。ヘルパーさんも、できるだけ娘の希望に応えようと工夫してくださいますが、どれも中途半端になり、娘は「やりたいことが全部できなかった」と不満そうに怒ります。
この経験を通して、娘に時間の使い方を理解してもらうには、ただスケジュールを示すだけでは不十分だと気づきました。
2. タイムプランナーの開発
視覚的に時間の量を示す工夫
知的障害や自閉症のある方、特に娘のように時間の計算が苦手な人でも、感覚的に時間を理解し、自分でスケジュールを組み立てられるようにしたい―そんな思いから「タイムプランナー」の開発を始めました。
時間を数字ではなく量で示せば、より直感的に理解しやすいと考え、「チップの大きさ(高さ)で時間の長さを示す」方法を採用しました。さらに、予定をパズルのように枠にはめ込むことで、「時間には限りがある」ことを自然に理解できるよう工夫しています。
やりたいことが多くても、タイムプランナーを使うことで、限られた時間の中で優先順位をつける練習ができます。「今日すること」を精一杯楽しめば満足感が生まれ、「今日はしない」と決めたことは、改めて計画を立てるきっかけにもなります。
多くの人の声を反映した試行錯誤
公益財団法人テクノエイド協会主催の「ニーズ・シーズマッチング交流会」では、3年にわたり試作品を展示し、毎年改良を重ねてきました。
1年目は、市販のボードにマグネットで紙製のチップを貼る形で展示しました。この時点で、チップの高さで時間の長さを表す仕組みはすでに採用していましたが、「枠がないと自閉症のある方にはわかりにくいのでは?」というご意見をいただきました。
2年目は、より直感的に使えるよう、パズルのようにはめ込んでスケジュールを作る仕組みに改良しました。ボードの表面にはチップを入れるための枠を作り、フチを少し高くすることで、チップが固定されやすく、視覚的にも整理しやすいデザインにしました。また、色や形、素材、サイズについても多くのご意見をいただきました。
3年目には、紙製で試作していたチップを、耐久性の観点からマグネットシートに変更しました。さらに、視認性を向上させるために色の調整も行いました。カラフルな色調とパステルカラーの2種類を用意して展示したところ、色弱のある方から「淡い色は見分けにくい」との指摘を受け、より多くの方が使いやすいように、現在の色調に決定しました。
従来のスケジュール製品に機能をプラス
1.スケジュールを「見える化」
- イラストや文字で予定を整理し、一目で流れがわかる
2.予定変更が簡単
- 活動チップを入れ替えるだけで柔軟に対応可能
3.時間の長さを「感覚的に」理解
- チップの高さが時間の長さを示し、自然に時間感覚を習得
- 1コマ~4コマの4種類を基本セットに用意
4.12分割のタイムバーで自由な時間設定
- 1コマの長さを調整でき、短時間のタスク管理から長時間の予定まで対応
5.計画を立てる力を育む
- 限られた枠内でスケジュールを組み、優先順位を考える習慣がつく
- パズル感覚で楽しみながら時間管理を練習
3. 時間の使い方を考える力を身につける
娘は時間の流れをつかみにくく、「空いた時間に何ができるか」を判断するのが苦手でした。例えば、「10分なら休憩」「60分ならゲーム」といった選択が難しく、急ぐ場面でも順番にこだわったり、短い空き時間に新しい活動を始めて時間が足りなかったりすることもありました。
しかし、タイムプランナーを使うことで、活動にかける時間を意識しながらスケジュールを組み立てる習慣がつき、「何かを選ぶには、何かをあきらめることも必要」という大切な学びを得ました。
また、以前は時間の制限を伝え、母が提案するスケジュールを「押し付けられている」と感じ、「母 vs. 娘」という対立構造になりがちでしたが、タイムプランナーを使うことで、時間の使い方を一緒に考える「母娘 vs. 時間」という関係に変化しました。
このツールを通じて、娘が自分で時間の使い方を決める力を身につけ、親子の関係にもポジティブな変化が生まれました。
4. おわりに
時間の使い方が上手になることは、生活の質に大きくかかわります。予定を把握し、時間をうまく使えるようになることで、日々のストレスが減り、自分らしい生活につながります。特に、自閉症や知的障害のある方にとっては、「時間が見える」ことで生活の安定感が増し、より主体的に行動できるようになります。
また、時間を管理する力は、自立した生活を送るうえでも大切です。自分の時間をどう使うかを考え選択し、決める力を育むことにつながります。タイムプランナーを通じて、一人ひとりが「自分の時間を自分でコントロールする楽しさ」を感じてもらえたら嬉しく思います。