遠隔就労支援ロボットでなにができるのか?

「新ノーマライゼーション」2025年5月号

国立障害者リハビリテーションセンター研究所/名古屋工業大学大学院
船瀬新王(ふなせあらお)

周南公立大学情報科学部/国立障害者リハビリテーションセンター研究所
河村拓実(かわむらたくみ)

1. 背景

大阪・関西万博において、HEALTH DESIGNが万博メッセを会場として行われます。我々はそのHEALTH DESIGNの中で、図1のような“障害者が障害者の介護補助をすることができる遠隔操作ロボットシステム”を展示する予定となっています。そこで本稿では、本ロボットの開発経緯について話をしたいと思います。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

2. 介護現場に必要なロボット

昨今の障害を抱えている方の介護を含めた介護現場における最大の問題点は人手不足です。この人手不足解消のために考えられる方法は、人手を増やすことと人手でやることを他の方法で置換するということです。我々は、この人手でやることを他の方法で置換する立場で研究を進めています。その一つはコンピュータ等を使用して紙ベースからデータベースへの情報入力に替えることにより、作業のさまざまな情報を可視化・最適化するという方法(DXやICT)です。ただし、これはモノを持ったり話しかけたりするといった身体の活動を伴う行為ではありません。もう一つの人手でやることを他の方法で置換する方法が、モノを持ったり話したりするロボット等が人手でやることを置換するという方法になります。

3. どのようなロボットなのか

そこで我々は、障害を抱えている方の介護の手助けをするロボットについて研究することにしました。このロボットを考える上で我々は、1)ロボットの操作は自動ではなく手動であること。2)ロボットは遠隔地から操作すること。3)ロボットは介護者の補助をするためのアームを持ち、さらにアームで持ったモノを移動させることができるパワーを備えること。4)ロボットは介護者と介護をされる側の障害を抱えている方とが話ができるしくみと、顔等を表示できる機能を持つこと。5)このロボットの操作者として障害を抱えている方でも使用することができること。の5つの条件を考えました(図2参照)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図2はウェブには掲載しておりません。

1)に関しては、介護現場は雑多な環境であるために現時点においては自動ロボットが入り込むのは難しいと考えたためです。すでにファミリーレストランのような場所では自動配膳ロボットが活躍しています。しかしながら、介護の現場においてはもっと雑多な環境のためにヒトと協調して動作するロボットが必要とされます。この点において、自動ロボットではできないことの実現を目指しました。

2)に関しては、一人の操作者が複数のロボットを操作することにより、人手不足を解消しようと考えたためです。さらに、操作されるロボットはそれぞれの介護現場に予め置いてある状況を想定しています。つまり、今日の午前中はA施設での介護補助、今日の午後はB施設で、今日の夕方はC施設で、という働き方が可能となるということです。このことは、それぞれの介護施設において一番忙しい時に合わせてロボットを運用できるようになるという意味でもあります。

3)に関しては、当センターの介護士、ソーシャルワーカ、理学療法士、作業療法士等との話し合いの中で、介護中にちょっとモノを持ってほしいや取ってきてほしいというニーズが一定数あったためです。さらにそのようなちょっとした作業をロボットに任せることで専門性の高い業務に介護士が集中できる利点もあります。当センターで運ばれるモノは介護をされる方々に応じ千差万別で、介護士が専門性の高い業務の合間をぬって対応していました。ロボットのアームにどれだけ複雑なことをさせることができるようにするかは重要なポイントとなります。当然複雑なことが可能であればあるほどロボットの有用性が上がりますが、その分操作が難しく、コストも高くなります。そこで、今回は単純なモノの持ち上げと移動が可能なロボットとしました。買い物カゴのような汎用的で便利な入れもので、千差万別な日用品を管理する想定です。

4)に関しては、介護者が介護をされる方から離れなければならないちょっとの時間に、ロボットが介護をされる方と話ができたりする機能です。そこにロボット操作者の顔やCGの顔の絵が表示されることで、ロボットの先にヒトがいるということを想像でき、親しみがさらにわくことになります。プライベートな補助を頼む際にはCGのほうが気兼ねしないとの声もあり、両方に対応しています。また当然このことは、介護される方にとってだけではなく介護者にも同様の影響を与えます。このようなヒトとヒトとの関わり合いを重要視するためには、現状においては遠隔で操作し会話をする操作者が必要になるということになります。

最後に5)ですが、本ロボットは遠隔操作型であるためにどこにいても操作が可能であるという点から、障害を抱えている方でも使用できるものにすべきと考えました。遠隔操作ならば、自分で歩くことができなくてもロボットが動いてくれる、自分で持つことができなくてもロボットが持ってくれるという身体的拡張を行うことができます。このことにより、障害を抱えている方々ができることが増えることになります。このために、操作をスムーズ化・低負担化するさまざまなアシスト技術を研究しています([1]-[4]など)。さらに、今回のロボットは障害を抱えている方の介護現場での使用を想定しています。比較的経験の浅い介護者が介護する時、ロボットの操作者である障害を抱えた方が介護の仕方について自分の実際の体験をもとにアドバイスを行えるとも考えています。つまりメンターのような立場としてロボットが振る舞えるということです。この点は、障害を抱えている方の経験を実際のOn-the-job trainingに反映できるという点からも有用と考えています。介護をされる側の障害を抱えた方々から見ても、ロボットの操作者である障害を抱えた方はメンターのような存在です。些細なことでも相談できたり将来の働き方をイメージできたり、障害を抱えた方々が互いに支え合う互助の点からも有用と考えています。

4. 最後に

これらの1)から5)を踏まえて開発した試作型のロボット(図1参照)をHEALTH DESIGNにおいて展示しデモをする予定になっています。デモでは健常者だけでなく車いすに乗っている方も使うことができることをお見せします。さらには、デモのみならず、パネルをタッチすることによりこのロボットを離れたところから操作できることを体験してもらう予定です。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で図1はウェブには掲載しておりません。

本ロボットは試作型のロボットであり、まだまだ改良の余地はあります。しかし、一つの介護現場の将来像として本ロボットを見学・体験しに来ていただければ幸いです。


【参考文献】

[1]Kawamura et al., A Preliminary Study on Immersion Levels in Various Work Processes for Collaboration between Remote Operators and Semi-Autonomous Robots, Proc. of the AROB(2025), pp. 1064-1069.

[2]河村, 藤本, 遠隔操作の実行段階での映像拡大に起因する予測誤差と補償可能性の考察, 日本機械学会論文集(2021),DOI: 10.1299/transjsme.21-00161.

[3]河村, ロボット視点の情報のみからなる2D映像を常時観察しつつ任意点までの奥行き誤差を認知できるインタフェースの提案と実用上の課題, 日本機械学会論文集(2021), DOI: 10.1299/transjsme.20-00269.

[4]Kawamura and Fujimoto, Analysis of stereo camera parameters effect on stereo matching performed by remote operator, Proc. of IEEE LifeTech(2020), DOI:10.1109/LifeTech48969.2020.1570618948.