こどもの義手

「新ノーマライゼーション」2025年5月号

国立障害者リハビリテーションセンター企画・情報部 支援機器評価専門官
山﨑伸也(やまさきのぶや)

1. はじめに

現在、日本の上肢切断者の数はおおよそ8万人と推測されています1)。この中に生まれながらに手のない状態、先天性上肢形成不全のこどもたちがおり、義手の対象となるこどもは年間63.4人と推定されています2)

私たちが出展する「こどもの義手」は先天性上肢形成不全で生まれ義手を必要とする「こどもたち」の現況を知っていただくための展示です。本人たちとその家族たちの日常と思い、大人とは異なる義手装着の過程を知っていただけるよう構成されています。

2. こどもの義手を取り巻く状況

大人の義手もこどもの義手も製作する日本の福祉制度は、障害者総合支援法の補装具費支給制度が基になっています。令和3年度に筋電式が支給基準に追加され、装飾用義手、作業用義手、能動義手、筋電義手の4種類の義手が補装具費支給の対象になりました。体格により使う部品は変わりますが、大人でもこどもでも同じものが製作できます。

ここで留意すべきは、大人の義手もこどもの義手も製作するものは同じであっても使えるようになるまでの訓練が異なるという点です。大人になってから後天的に事故や病気で手を失った上肢切断者と先天性上肢形成不全児では、それまで身に付けてきた能力が異なるため必要とされる訓練が変わってきます。大人の場合すでに両手動作など体の使い方が出来上がっているため、それぞれの生活と要望に合わせた義手を製作していきます。対して、障害の有無に限らず生まれてくるこどもたちは誰でも初めから自由に手が使えるわけではありません。手が思い通りに使えるようになるためには、さまざまな失敗や成功体験を繰り返し練習する必要があります。先天的に形成不全がある場合は、義手を使った両手動作を訓練していくことで手を使うというボディイメージを構築するところから始まります。発達に合わせ義手が使えるまでに年単位での期間が必要になり、周りの理解やサポートが必要です。

3. 国立障害者リハビリテーションセンターの取り組み

上肢形成不全で生まれてくるこどもは、生まれながらに片手がないことで体のバランスが崩れ、身体の発達に悪影響を与えてしまいますが、日本においては限られた地域・施設でしか訓練が行われていませんでした2)。このような状況をうけて、国立障害者リハビリテーションセンターでは小児筋電義手の製作経験が多い兵庫県立総合リハビリテーションセンター及び東京大学附属病院と協力し、小児筋電義手の製作にかかわるすべての方を対象とした小児筋電義手基礎研修会を開催しています。また、臨床経験を活かし義手の製作や訓練に直接かかわる専門職の方を対象とした小児筋電義手専門職養成研修会も開催しています。

4. こどもの義手出展内容

出だしとなりますのは、幼い時から義手を使ってきた中学生とその家族の思いを映像と音声でご紹介するものです。訓練を経て義手が自分の手として感じられるようになっていった彼の体験を紹介します。

続いて、義手について知っていただく展示です。

現在の義手は、残念ながら人の手と全く同じ動作を行えるものではありません。1つの義手には1つもしくは2つ程度の機能が付加されているのみで、健常者と同じことを同じように行うためには、やりたいことの数だけ義手が必要になります。義手はそれぞれの義手の持つ機能によって次の4つに分類されています。体表の微弱な電気信号を拾って手先具を稼働させる筋電義手(図1)、外観を整えることに特化した装飾用義手(図2)、マット運動で手をつく鉄棒を握る等固有の使用目的に特化した作業用義手(図3)、そして肩回りの動作をハーネスを介して手先具に伝え巧緻動作を可能とする能動義手(図4)の4種類です。
※掲載者注:図の著作権等の関係で図1~図4はウェブには掲載しておりません。

会場では現在の補装具の制度で支給可能な義手サンプルを展示します。観て、触って、動かしてみて、実際にこどもたちが装着したところを想像してみてください。

また、義手を使っていない時と使った時の様子を映像で紹介していますので、義手の有り無しで何が変わるのか見比べてみてください。義手装着の効果をご理解いただけると思います。

最後に、義手操作を疑似体験していただくことでその難しさを知っていただくための体験コーナーを設けています。今回は実際の義手と同じ仕組みで動く能動義手と筋電義手、2種類の体験用模擬義手を用意しています。長年製作に携わっている我々でも、義手を操るのは難しいものです。義手を装着すればすぐに操作して便利に生活できる訳ではなく、こどもたちの地道でたゆまぬ努力がその裏にあることを知ってもらえると思います。

これら3つのコンテンツをとおして、観て学んで体験して感じていただけるものにしています。

5. 今後の展開

私たちの今までの活動は、先天性上肢形成不全で生まれてくるこどもたちに義手を普及させるため、直接義手にかかわりを持つ職種の方々を対象にして行われてきました。回数を重ねるにつれ、全国各所でこどもの義手への意識の高まりと広がりを感じています。

しかし、普及がなされるにつれこどもたちが義手を使用し続けていくにあたって別種の壁があることが分かってきました。特に、幼稚園や保育園へ入園する時、小学校に入学する時等環境が変わるタイミングがそれにあたります。周りの友達が変わり、学校の先生が変わり、生活の場でこどもにかかわる人たちの義手についての理解者が周りからいなくなります。すると義手でできることできないことが分からないが故の行き違い、時には高価な義手を幼稚園に持ってこないでほしいと言われるような事態が起こっています。このような壁を無くすため、今回のブース展示をきっかけに義手を必要とするこどもたちについて理解を深めていただき、共に生きていく社会を築いていけるよう、私たちはこれからも情報発信を進めていきます。こどもたちを取り巻く状況のさらなる改善と発展、こどもの義手普及のさらなる進展を願ってやみません。

ブース展示の最終日には、成人した障害当事者と先天性上肢形成不全のこどもたちによるトークショーを開催します。障害当事者であってもそうでなくても、自身の意思を持って生活し未来を描くことができる「誰もが夢に挑戦できる世界」を考えます。

日時:6月29日(日)13時30分~14時30分

場所:フューチャーライフヴィレッジエリア FLEステージ

タイトル:「誰もがやりたいことに挑戦できる未来」

テーマ:「未来」

ご来場をお待ちしております。

また、このトークショーは当日現地にご来場いただかなくても、バーチャル万博でライブ配信やアーカイブスを見ることができます。ぜひご覧ください。


【参考文献】

1)生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課.平成18年身体障害児・者実態調査結果,2008.

2)芳賀信彦 他.厚生労働行政推進調査事業費補助金 厚生労働科学特別研究事業 小児筋電義手適用のプロトコールに関する調査研究,2017.