医療的ケア児支援法改正に向けて―超党派議員連盟の動向や主要論点について
「新ノーマライゼーション」2025年6月号
超党派医療的ケア児者支援議員連盟 事務局補佐
加藤千穂(かとうちほ)
医療的ケア児支援法1(以下、支援法)が2021年6月に成立して、丸4年を迎えようとしています。本稿では、超党派医療的ケア児者支援議員連盟の発足の経緯ならびに動向、法改正に向けた主要論点などの大きな流れを解説いたします。
1. 超党派医療的ケア児者支援議員連盟の発足に至る経緯
支援法成立の際に積み残された最大の課題が、成長して大人になった「医療的ケア者」の定義や社会的基盤の確立です。医療的ケア児については、全国約20,000人の政府推計をもとに、2016年障害者総合支援法・児童福祉法改正において初めて法的定義を位置づけ、自治体に対する努力義務規定も盛り込まれました。2018・19年の厚労科研2により、従来の大島分類に変わる医療的ケア児のための新判定スコア3が確立したことで、まだまだ地域間格差はありますが、スコア3点以上の医療的ケア児がNICUから退院・在宅移行する際に、3歳以下であっても障害者手帳を取得していなくとも、訪問看護や居宅介護などの必要な障害福祉サービスを受けられるようになりました。
しかしながら、医療的ケア者については、範囲や対象を定義づけるための医学的エビデンスの検討にも未着手の状態であったため、まずは社会的に急務であった医療的ケア児の支援法制度を先行せざるを得ないという判断に舵が切られたのです。
支援法第3条の基本理念には、「医療的ケア児が十八歳に達し、又は高等学校等を卒業した後も適切な保健医療サービス及び福祉サービスを受けながら日常生活及び社会生活を営むことができるようにすることにも配慮して行われなければならない。」と規定されています。制定当初から医療的ケア者を盛り込むことができなかった起案者たちの想いが込められた条文です。苦渋の決断から4年を経て、主要政党からバランスよく役員を配置する完全超党派の議員連盟へと移行し、医療的ケア者についての法整備に真っ向から取り組める土俵がいま整いつつあります。
図1 超党派医療的ケア児者支援議員連盟役員名簿
(拡大図・テキスト)
2. 超党派議員連盟の設立趣意と目的
2024年5月、超党派医療的ケア児者支援議員連盟(会長:野田聖子衆議院議員)の設立総会が開催されました。目的や課題認識、目指す社会の方向性について、少々長文ですが設立趣意書から引用してご紹介いたします。
「2021年の医療的ケア児支援法成立・施行により、地域生活の受け皿は徐々に整いつつありますが、地域間格差の大きさ、保育園への通園・希望する学校への就学の壁、通称『18歳の崖』と呼ばれる成人後の医療的ケア者が地域で暮らすための社会的資源がほぼ未整備など、こどもたちの成長とともに課題も推移し、山積しています。
深刻な医療難民問題となりかねない小児科から成人医療への移行期問題、高等教育における合理的配慮の拡充、病院・乳児院に長期社会的入院を余儀なくされる『社会的養護が必要な医療的ケア児』の存在には、まだ光が当たっていません。加えて、現行の就労支援制度においては、医療的ケア児者が働くことをそもそも社会が想定してきませんでした。
医療・福祉・保育・教育・就労・自立・親亡きあとの地域支援・家族きょうだい児支援など、多方面にわたる包括的な支援の整備が求められています。医療的ケア児者を『ハブ』的な存在として、全国どこでも、誰もが自らが生まれ育った地域で人生それぞれのフェーズに応じた選択肢を持って生ききることを支えるための法理念・制度の拡充が急務です。
(中略)私たちは、党派を超えて医療的ケア児者とその家族の支援施策の拡充に取り組み、誰もが安心して暮らせるインクルーシブ社会の実現に向けて行動してまいります。また前身母体として約10年間活動してきた『永田町子ども未来会議』の政・官・民・当事者による協働を尊重し、当事者とそのご家族の思いや孤独、こどもたちの未来への希望に寄り添い、時代やニーズの変化に応じた法制度検証や必要な手直しを行うために継続的に活動してまいります。本議員連盟の趣旨にご賛同いただき、ともに歩んでいただけるようお願い申し上げます。」
昨年5月に47名の国会議員で発足した議連は、約1年後の現在、加入議員96名となり、党派を超えた活発な議論がさらに加速しています。
3. 医療的ケア者の定義・主要な改正論点の方向性
議連発足と連動するように、令和6年度の臨時厚労科研4で、医療的ケア者の定義・調査手法の確立に関する第一弾の研究報告が本年3月末に取りまとめられました。大きな方向性としては、小児期発症疾患の医療的ケア児が成人となる18歳以降から介護保険が適用となる40歳以下の医療的ケア者をベースに置き、定義・調査手法の妥当性を実際に検証するため、令和7年度も継続調査が進められる見通しです。
議連総会に提出された「主要な改正論点」をご参照いただきたいと思います。現行の支援法でカバーできているのは、人生の縦軸でみるとごくわずかな範囲です。高校卒業後の「18歳の壁」の解消に向けた成人移行期の社会インフラ整備が待ったなしであり、また地域間格差の解消や、児から者への接続支援を円滑にし、関係機関・多職種連携による地域包括支援体制をどうつくるかなどという大きな課題が山積です。
改正法案の取りまとめに向けて、年内は続々と論点整理の総会が続きます。2026年通常国会での「医療的ケア児者支援法」への改正を目指して、秋以降、関係諸団体との意見交換も丁寧に行う予定です。誰もが、生まれ育った地域で選択肢をもって生き切る社会を目指して、多くの叡智とお力添えを賜りますようお願いいたします。
図2 医療的ケア児支援法主要な改正論点
(拡大図・テキスト)
1 正式名:医療的ケア児およびその家族の支援に関する法律
https://www.cfa.go.jp/sites/default/files/node/basic_page/field_ref_resources/5218c3a3-610e-4925-8596-a9116889756f/61fecd25/20231013-policies-shougaijishien-care-ji-shien-000801675.pdf
2 厚生労働科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業(身体・知的等障害分野) 障害福祉サービス等報酬における医療的ケア児の判定基準確立のための研究(平成30年度総括・分担研究報告書)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2018/201817017A.pdf
3 障害福祉サービス等利用における医療的ケア判定スコア(医師用)
https://www.mhlw.go.jp/content/000763142.pdf
4 令和6年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業) 医療的ケアが必要な者に関する実態調査と医療的ケアが必要な者の推計方法の確立に関する調査研究(研究代表者:埼玉医科大学総合医療センター教授 是松聖悟)