医療的ケア児支援センターの機能と役割
「新ノーマライゼーション」2025年6月号
一般社団法人医療的ケア児等コーディネーター支援協会 代表理事 遠山裕湖(とおやまひろみ)
1. はじめに
医療的ケア児とは、日常生活において医療的な管理や処置(気管切開、経管栄養、人工呼吸器の使用など)を必要とする子どもたちを指します。かつては医療機関や施設での生活が主だったこれらの子どもたちが、現在では在宅で生活するケースが増加しています。令和3年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、同法に基づいて全国47都道府県に、地域社会で医療的ケア児とその家族が安心して暮らすことができるよう、総合的な支援を提供する拠点として医療的ケア児支援センター(以下、支援センター)が設置されました。支援センターは、相談窓口の設置、関係機関との連携、情報提供、研修の実施など、多岐にわたる機能を担っており、地域における中核的な役割を期待されています。
2. 医療的ケア児支援センターの機能と役割
支援センターの主な役割と機能は、以下のとおりです。
1.情報提供と相談支援機能(医療的ケア児本人と家族、支援者の両方に対して)
医療的ケア児とその家族、ならびに関係機関からの相談を受け、必要な情報提供や助言を行います。特に、在宅生活を始めるにあたっての支援体制構築や、保育・教育施設への受け入れ調整など、多様な課題に対応します。
2.関係機関・関係者との連絡調整機能(多機関連携)
医療、福祉、教育、行政などの各分野にまたがる支援を円滑に行うための連携調整を担います。支援センターに配置される医療的ケア児等コーディネーター(以下、コーディネーター)などが中心となり、関係機関同士の橋渡し役を果たすことで、包括的な支援体制の構築を目指します。
3.支援者への助言、援助・研修・啓発活動
医療的ケア児を支援する関係者に対する研修や情報提供を行います。また具体的な助言や援助を行い、医療的ケアに関する知識や支援力の向上を図り、地域全体で支える体制づくりに寄与します。
これらの機能を通じて、支援センターは「つなぐ・支える・育む」役割を果たし、医療的ケア児の包括的な地域生活支援を実現する拠点となっています。
3. 現状と課題
一方で、支援センターが十分にその機能を発揮するためには、いくつかの課題が指摘されています。令和3年度に実施された「医療的ケア児の実態把握及び医療的ケア児等コーディネーターの効果的な配置に関する調査研究」によると、医療的ケア児は全国で約2万人と推計され、その数は年々増加傾向にあります1)。しかし、自治体による実態把握には限界があり、医療的ケアの内容や必要度が多様であるため、個別性の高い支援に対応するソフト、ハード両面での体制整備が必要になります。特に、同調査では専門性と経験を兼ね備えた人材不足は多くの地域で散見されています1)。
令和6年度実施の「子ども子育て推進研究事業 医療的ケア児支援センターの機能強化等に関する調査研究」では、支援センターの機能が多岐にわたりながらも、その体制が十分に整っていないことが課題として浮き彫りになりました2)。
令和3年度当初、支援センターの課題は「ワンストップ相談窓口の整備」や「地域支援者への間接支援機能の発揮」といった、基本的な機能の確立に集中していました。制度創設期には、地域住民への周知やコーディネーターの育成、災害時の避難支援体制整備などの基礎的な課題が多く見られましたが、令和6年度になると、これらの課題の質に変化が見られるようになりました。
例えば、令和6年度には「情報収集・共有の効率化」や「研修内容の質的向上」「市町村との連携の難しさ」など、より複雑な課題が浮上しています。これは、支援センターが相談支援や地域支援体制整備を実行する中で潜在化していた課題が顕在化し、その解決のために「実効性のある支援の展開」へと進んでいることを示しています。
この進展は、同時に支援センターに対して期待が寄せられていることも示唆しています。例えば、支援センターが福祉、教育、医療に加え、防災や労働政策などの分野との連携も求められる一方で、その基盤となる自治体の理解や協力が得られにくいといった実態もあります。
4. 支援センター機能の進展と深化する役割
(1)構造的課題と支援センターの限界
医療的ケア児支援は、福祉・医療・教育それぞれの制度や資源の不均衡の中で進められているという現実があります。例えば、家族が実施している医療的ケアの多くは、違法性の阻却で実施されており、認定特定行為業務以外は、医師か看護師しか代わることができないという現状、短期入所施設の不足、卒業後の居場所の欠如、保育・教育における看護師不足など、医療的ケア児とそのご家族の暮らしを支えるための「基盤」が依然として脆弱なままです。こうした課題は令和3年度調査研究からも指摘されていましたが、令和6年度調査研究においても解消には至っておらず、支援センター単独では対応が困難な問題であるといえます。
また、地域間格差の問題も深刻です。支援体制やサービスの充実度には自治体ごとに大きなばらつきがあり、それは個別避難計画の策定状況や医療的ケア児等コーディネーター養成研修プログラムの質にも表れています。このような格差は、医療的ケア児とそのご家族にとって「どこに住むか」で生活の質が大きく左右されるという不平等を生み出しています。
こうした中で、支援センターは多職種・多機関連携の「ハブ」としての役割を期待されていますが、実際には関係機関との情報共有がうまくいかない場面もあり、その中で対応を行うことも少なくありません。特に、福祉・教育・医療の枠組みを超えて調整を行う際、支援センター単独での対応には限界があります。
(2)「支援システム全体」の再設計へ
これらの課題は、支援センターができても、コーディネーターが育成されてもそれだけでは解決しないという社会構造に起因しています。つまり、より良い支援体制づくりに周囲の関係機関の理解と具体的な行動が肝要と考えます。
支援センターが持続的に機能するためには、以下のような構造的な支援の強化が求められます。
- 市町村レベルでの具体的な支援責任の明確化と実行体制の整備
- 医療、福祉、教育、防災、労働も含めた包括的な連携体制の構築
- 資源の偏在是正と地域格差の縮小に向けた国の積極的な政策展開
- コーディネーターの継続的な人材育成と地域定着を促す制度設計
- ICTの活用による情報共有の標準化と効率化(医療的ケアに関する国のポータルサイト等)
医療的ケア児とそのご家族への支援や地域支援体制整備は、「支援センターさえあればよい」という単純なものではありません。支援センターは、社会全体の支援構造における「要(かなめ)」として重要な存在ですが、決して「万能」ではありません。支援センターの業務を真に実効性あるものとするためには、その周囲にある多機関連携体制、制度、資源のあり方を再設計していく必要があります。
おわりに
全国に設置されてきた支援センターは、地域の中でどのような役割を果たせばよいのか、手本がない中で暗中模索を繰り返しながら、その役割について振り返り、反芻してきました。この数年間、支援センター運営は黎明期ともいえます。支援センターの機能強化と並行して、社会全体がその役割を分かち合い、支援システム全体を俯瞰的に再構築していくことが求められていくと考えます。
【参考文献】
1)厚生労働省(2022)『令和3年度 障害者総合福祉推進事業 医療的ケア児の実態把握及び医療的ケア児等コーディネーターの効果的な配置に関する調査研究』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/index_00004.html (2025.5.20最終確認)
2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング『令和6年度 子ども子育て推進研究事業 医療的ケア児支援センターの機能強化等に関する調査研究』
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2025/04/koukai_250428_03_16.pdf (2025.5.20最終確認)