実現・当事者目線の支援機器-“自分で食べる喜び”が、人生を変える~“ひと口の自由”と“笑顔の時間”を運ぶ食事介助ロボット Obi

「新ノーマライゼーション」2025年6月号

ダブル技研株式会社福祉機器事業部 部長 堀込貴嗣(ほりごめたかつぐ)

「食べること」は、誰にとっても人生のハイライト

朝昼晩、毎日のごはんは、ただお腹を満たすだけのものではありません。味を楽しみ、心を通わせ、人とのつながりを感じる―。食事は、人生を彩る大切な“ひととき”です。

しかし、病気や障害によって「自分で食べる」ことができなくなると、その楽しみは制限され、介助者・被介助者ともに見えない負担や葛藤を抱えることも少なくありません。そんな食卓の不安と不自由に、テクノロジーがやさしく寄り添います。それが、食事介助ロボット Obi(オビー)です。

“選んで、自分のペースで食べられる”という奇跡

Obiは、スイッチ操作で選んだひと皿からスプーンが料理をすくい自分の口元まで運んでくれる食事介助ロボットです。操作はとてもシンプル。指先、足、頬、呼気など、どこか1か所でも動かせる部位があれば、Obiはその動作を「自分らしい食事」に変えてくれます。

Obiが生み出すのは、ただの便利さではありません。「自分で選んで食べる」という小さな自由が、人を大きく輝かせるのです。

「自分で食べさせてあげたい」食事介助ロボットObiに込められた思い

Obiは、単なる食事補助機器ではありません。身体が不自由な人々に「自分の力で食べる」喜びを取り戻し、家族や介助者との食卓に再び笑顔をもたらすために誕生した、思いの詰まったロボットです。その誕生の背景には、一人のエンジニアの祖父への深い思いから始まりました。

開発者であるジョン・デカー氏は、アメリカで暮らす機械工学専攻の大学生でした。ある日、彼の祖父が神経筋疾患を患い、自分の手で食事を取ることができなくなってしまいます。介助を受けながらの食事は、祖父にとっても、見守る家族にとっても決して心地よいものではありませんでした。「自分の好きなものを自分の好きなペースで食べたい」と口にした祖父のささやかな願いと、「せめて食卓くらいは一緒に笑い合いたい」という家族の思い。そのどちらも叶えるすべを、ジョン氏は真剣に考えました。

彼は大学の寮で、祖父と一緒に食事ができるロボットを作ることを決意し、そこから開発はスタートしますが、道のりは決して平坦ではありませんでした。スプーンの角度、食べ物のすくい方、口元までの距離や角度の調整―人間の繊細な動きをロボットで再現するには、細部にわたる設計と何度もの試作・修正を重ね、そして、6年にわたる開発とテストを経て、ついにObiが完成します。

このロボットには、特別な名前が付けられました。「Obi」という名前の由来は、英語の“obeisance(オベイサンス)”、つまり「お辞儀」や「敬意」を表す言葉です。Obiは起動時、頭を下げるような動作をします。この所作は、敬意と親しみを込めた演出であり、ジョン氏が「単なる機械ではなく、食事を共にする“仲間”として感じてほしい」という思いが込められています。

Obiは、スイッチ操作ができる方や嚥下機能があり、座位保持ができる方にご利用いただけます。ALS、脳梗塞後遺症、頸髄損傷など、さまざまな疾患の方にご活用いただいています(認知症や重度知的障害のある方には適していません)。

【体験談】「Obiが来てから、食卓に笑い声が戻ったんです」

ALS患者のご主人と暮らす奥様は、導入後にこうお話してくれました。「食事中、ずっと細かい声かけや指示をしていて、楽しむ余裕がありませんでした。でもObiを使い始めてからは、目を見て、笑って話せる時間が増えたんです」

ご主人も、「自分で“選んで食べる”って、こんなに気持ちいいものなんですね。スイッチ操作も直感的でストレスがなく、会話も弾みます」

さらに、こんな愛着も。「スプーンが料理をすくう動きが、なんだかかわいい。今では家族の一員みたいな存在ですよ」

初回の貸し出し体験後、費用面でいったんは導入を諦めたご夫婦。しかし、介助中心の食卓に戻ると、ストレスやすれ違いが増え、言い争いも増えていきました。

そんなある日、奥様がつぶやきました。「せめて、ごはんの時くらいは、笑って向き合いたい」。何度も話し合い、ふたたびObiを迎える決断をされたご夫婦。その選択が、何よりも価値ある時間を取り戻すことにつながったのです。

食事を“楽しい場”に変える力

ある方は、食事を一通り終えたあとに試したのが―なんと日本酒。スプーンで少しずつすくって楽しむ日本酒に、満面の笑みを浮かべてこう言いました。「Obi、これ、日本酒とも相性抜群ですよ!」

Obiが運ぶのは、食事だけではありません。そこには、笑い声や驚き、そして“新しい楽しみ方”があります。

そのほか、人手不足に直面する介護施設でも、Obiは注目を集めています。「驚くほど動作が正確で、自然に“自分で食べている”感覚が得られました」「今やロボットは介護現場の当たり前。Obiはその象徴のような存在になるでしょう」といった声が届いています。

外食にも、旅行にも。Obiがあれば、自由が広がる

Obiはわずか3.5kg。充電式で持ち運びやすく、レストランや旅行先でも使われています。“自宅だけの食事”という枠を越え、家族や友人と食卓を囲む幸せが、もう一度、広がっていきます。

気になる価格について

現時点で厚労省の福祉用具給付制度には含まれていませんが、一部自治体では助成実績あり(例:川崎市)。今後は補助対象化に向けて活動を進めるとともに、レンタルや分割払い制度など、導入しやすい仕組みを整えています。

導入・サポートは「ダブル技研」へ

Obiは世界20か国以上で使われ、累計3,200台以上の販売実績を誇ります。私たちダブル技研は、コミュニケーション機器の取り扱いを約30年間続けており、2024年から、日本で唯一のObiの取り扱いを始めました。導入支援・スイッチ選定・導入後のサポートまで一貫して対応しています。

Obiは、「もう一度、自分で食べたい」―その気持ちに応える存在です。食卓に戻ってくる笑顔、自分の力で味わう喜びは、何ものにも代えがたい“生きる力”となります。

今後も、より多くの方が食事の時間を笑顔で迎えられるよう、私たちは活動を続けてまいります。