大学における発達障害のある学生に対する支援の現状と今後の展望:キャリア形成支援の充実に向けて

「新ノーマライゼーション」2025年8月号

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
榎本容子(えのもとようこ)

1. はじめに

大学に在籍する発達障害のある学生は年々増加しており、その多様なニーズに対応した支援の充実が求められています。こうした状況の中、発達障害のある学生は、どのような困難に直面し、それに対し、大学ではどのような支援が行われているのでしょうか。さらに、大学入学後に生じうる困難を予防・低減するためには、どのような支援が求められるのでしょうか。

国立特別支援教育総合研究所では、2021年度から2023年度まで、「高等学校における障害のある生徒の社会への円滑な移行に向けた進路指導と連携の進め方等に関する研究」を実施しました。本研究(国立特別支援教育総合研究所,2024)では、高等学校のほか、進路先となる大学及び企業、連携先となる特別支援学校及び福祉・労働機関に対し調査を実施しています。

本稿では、このうち、大学を対象として実施した調査結果を取り上げ、発達障害のある学生が直面している主な困難や、大学における支援の現状について報告します。

さらに、本研究及び既存の研究の知見を踏まえ、大学における今後のキャリア形成支援の在り方や、入学前からの切れ目ない支援の重要性について考察します。

2. 大学調査の概要

(1)調査手続きと回答事例の属性

本調査は、高等学校卒業後の進路先の一つである大学に焦点を当て、障害のある学生の状況や課題、高等学校に期待される進路指導の在り方を明らかにするために実施しました。全国の四年制大学のうち、学生支援部署(障害学生支援室または学生相談室)及びキャリアセンターの両方を設置している大学を500校抽出し、各大学の2部署に対して調査票を送付しました。未着分を除く992部署を調査対象とし、299部署から有効回答を得ました。

調査では、「適応困難度が高い、または高いと思われた」発達障害等のある学生の事例が186件選定されました。発達障害の種別(複数回答)としてはASDが58.1%、ADHDが37.6%を占めていました。学生の入学前の学校種としては93.0%が「高等学校」であり、大学内の相談部署につながった年次は、1年次が最も多く53.2%を占めていました。さらに、「診断・判定あり/手帳なし」が47.3%、「診断・判定あり/手帳あり」が36.4%と、診断・判定を受けている学生が合わせて83.7%にのぼりました。適応の困難度が高く、手厚い支援が必要とされる学生については、診断を受けたうえで、比較的早い段階から大学の支援体制につながっていることが推察されます。

(2)回答学生の困難像

大学生活における適応困難度について5段階評定でたずねたところ、「5(非常に困難)」が22.2%、「4」が52.2%であり、7割以上の学生が高い適応困難度を示していました。

また、29項目の具体的な困難の状態像について、4段階評定でたずね、「あてはまる」に相当する回答割合を算出しました。その結果、適応困難のある学生の場合、心理面、対人コミュニケーション、実行性の3つの側面において、共通する課題が浮かび上がりました。

心理面では、「メンタルの安定やストレスの解消方法を身につけることが難しい」(87.7%)、「他者とストレスなく過ごすことが難しい」(83.8%)といった項目が高い割合を示しており、情緒面の自己調整に課題を抱えている学生が多いことがうかがえました。対人コミュニケーションでは、「人間関係を築き、チームで活動することが難しい」(86.0%)、「自分の意志や考えを伝えることが難しい」(84.3%)、「相手の意図を正しく理解することが難しい」(84.3%)といった項目が高い割合を示しており、課題遂行における他者とのかかわりに課題を抱えている学生が多いことがうかがえました。また、実行性の面では、「計画的に行動することが難しい」(85.4%)、「臨機応変に対応することが難しい」(81.7%)といった項目が高い割合を示しており、柔軟な行動や自己管理に課題を抱えている学生が多いことがうかがえました。

こうした困難は、学業や対人関係にとどまらず、就職に向けたキャリア形成にも少なからぬ影響を及ぼすことが考えられます。なお、適応困難の背景要因として最も多かったのは「本人自身の理解が十分でなかった」(70.4%)であり、次いで「保護者の理解や支援が十分でなかった」(41.9%)という回答が挙げられていました。今後は、大学での適応と、その後のキャリア形成を見据えるうえで、大学入学前からの自己理解支援と、そのための家庭との連携が重要になると考えられます。

(3)回答学生に対する大学での支援内容

大学生活における学生の困難に対し、大学ではどのような支援が行われているのでしょうか。最も多かったのは「計画的に行動することが難しい」学生への支援(71.5%)であり、次いで「制度を理解し申請の手続きをすることが難しい」(67.9%)、「期待された通り作業や課題に取り組むことが難しい」(64.9%)学生への支援が続いていました。

具体的な支援内容(記述回答)としては、「カウンセリングの提案・実施」(62件)、「合理的配慮に向けた情報共有」(39件)、「課題の期限の調整や必要な機材の購入」(37件)、「授業参加に関する支援」(36件)、「就職活動の支援」(34件)など、学業やキャンパスライフに関する支援が多く挙げられていました。

他方、大学が把握している家庭及び関係機関での支援の状況を見ると、「基本的な自己管理が難しい」(34.8%)など、生活面に関する支援が挙げられていました。なお、メンタルの安定やストレスの解消については、大学と支援機関・家庭の双方が支援を行っている状況がうかがえました。

(4)高等学校に期待する支援

発達障害のある学生の困難の予防・低減に向けては、大学入学前からの切れ目ない支援が重要になると考えられます。大学が、回答学生に対し高等学校段階までに必要であったと考える支援を4段階評定でたずね、「必要」に相当する回答割合を算出したところ、「自己理解を促す支援(障害理解を含む)」が95.5%、「対人コミュニケーション力を高める支援」と「メンタルの安定(ストレスの解消を含む)」がそれぞれ93.3%と、多くの大学がこれらの支援を必要と評価していました。

こうした中、大学に高等学校における進路指導への期待をたずねたところ(記述回答)、「生徒の自己理解(特性・適性)を促す指導・支援」(80件)、「大学のカリキュラム等の理解」(41件)、「適性に応じた学部・学科等の理解」(38件)、「自己理解に基づくキャリア形成支援」(28件)、「保護者との連携」(24件)などが挙げられていました。

さらに、大学入学時の支援体制構築に向けた引継ぎの在り方をたずねたところ(記述回答)、「生徒に関する情報提供(特性や必要とする配慮・支援等)」(130件)、「文書による引継ぎ」(52件)が多く挙げられており、本人及び保護者の同意のもとでの適切な情報共有が望まれていました。

3. 既存の研究から

ここからは、本調査の内容を多角的に考察するうえで、既存の研究を紹介します。

これまで、発達障害のある学生が自分の特性を踏まえ進路選択ができたかどうかについて、いくつかの要因が有意に関連していることが明らかにされています(武澤・榎本・清野・石渡,2025)。具体的には、「業務・生活・対人マナーの理解」「大学生活を通じた成長」「働く体験を通じた成長」「就職活動を通じた成長」「学生の家庭環境」「障害特性に関する情報提供及びアセスメント」「家族や学内の関係者との連携支援」などが挙げられています。

なかでも注目すべき点は、家庭環境と進路選択との関連性です。保護者が学生の障害特性を理解しているかどうか、また家庭内に支援体制が整っているかどうかが、特性に基づく進路選択に影響を及ぼすことが示唆されています。さらに、働く体験等、多様な体験を通して成長の機会を得ることが、よりよい進路選択につながることもうかがえます。

他方、大学のキャリアセンターにおいて、発達障害のある学生の就労支援を行う際に直面している課題についても明らかにされています(榎本・清野・木口, 2018)。具体的には、学生の実態を把握することが難しいこと、学生が自分の障害特性を自覚し受け入れることに課題があること、保護者の理解不足や連携の難しさがあること、大学内部署との情報共有や連携がうまく機能しにくいこと、学生の支援に必要な専門知識やスキルが十分に備わっていないこと、そして、現在の支援体制そのものに限界があることなどが挙げられています。

これらの知見を踏まえると、大学では、学生が自分の障害特性を理解し、それを踏まえてキャリア形成に取り組めるよう、継続的な伴走支援を行うとともに、保護者や学内外の関係部署・機関との連携体制を強化し、支援の方針や情報を共有していくことが求められます。

4. 大学におけるキャリア形成支援の展望と入学前からの切れ目ない支援の重要性

(1)支援の展望

今後は、心理面、対人コミュニケーション、実行性にかかわる困難に対して、支援の充実が求められます。そのためには、現在、大学で実施しているカウンセリングや授業参加に関する支援、就職支援などの内容を拡充し、支援体制を整えるとともに、関係職員の専門性を高めていくことも重要です。

また、既存の研究では、特性に基づく進路選択と「働く体験を通じた成長」などが関連していることが示されています。実際の就業体験は、発達障害のある学生にとって、仕事に対する理解やそれに基づく自己理解を深める有効な機会となります。こうした経験は、働くことへの自信の向上と将来の適職選択につながると考えられるため、大学においてキャリア形成支援の一環として柔軟に取り入れていくことが望まれます。さらに、家庭環境も進路選択に影響を与えることから、大学として保護者との連携を強化し、支援の方向性を共有していくことが重要です。

(2)切れ目ない支援の重要性

大学における支援の充実に加えて、高等学校段階から継続的に指導や支援を行うことは、発達障害のある学生が大学生活に適応し、自分の力を発揮してキャリア形成を進めていくための重要な土台を築くことにつながります。高等学校では、キャリア教育の充実を通じて、生徒が自己理解や仕事理解を深める機会を提供することが重要です。その一環として、職場見学や職業体験など、実践的な学びの機会を設けることが望まれます。また、大学入学後に生じうる困難の予防・低減に向けて、心理面、対人コミュニケーション、実行性にかかわる指導や支援を段階的に行っていくことも重要です。

さらに、大学との円滑な接続を図るためには、本人及び保護者の同意のもと、生徒に関する情報を適切に引き継ぐことが重要です。個別の教育支援計画等を活用し、大学が入学前から対象学生のニーズを的確に把握できるようにすることで、入学初期から適切な支援を提供する体制が整い、学生本人も安心して大学生活を始めることができると期待されます。

5. おわりに

発達障害のある学生のキャリア形成支援に向けては、大学の支援体制の強化に加え、高等学校段階からの段階的な指導や支援、そして両者をつなぐ連携体制の構築が欠かせません。今後は、大学と高等学校の連携、保護者を含む地域支援ネットワークの強化を通じて、学生が自分らしいキャリアを築くための基盤を整え、安心して将来に向かって歩んでいけるよう、切れ目ない支援を共に築いていくことが求められます。


【文献】

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2024)高等学校における障害のある生徒の社会への円滑な移行に向けた進路指導と連携の進め方等に関する研究.令和3年度~令和5年度 重点課題研究研究成果報告書.
https://www.nise.go.jp/nc/report_material/research_results_publications/specialized_research/b-405

榎本容子・清野絵・木口美恵子(2018)大学キャリアセンターの発達障害学生に対する就労支援上の困り感とは?―質問紙調査の自由記述及びインタビュー調査結果の分析から―.福祉社会開発研究, 10,33-46.

武澤友広・榎本容子・清野絵・石渡利奈(2025)発達障害のある大学生の特性を踏まえた進路選択に関連する要因の探索的検討.青少年教育振興機構青少年教育研究センター紀要, (13) , 2-12.