ひと~マイライフ-恩恵のバトンを渡す~人生を変えたICTを他の人のために活かす
「新ノーマライゼーション」2025年8月号
岸本将志(きしもとまさし)
1983年生まれ。神戸市在住。先天性障害による両手指の機能障害と弱視を併発。2012年より合同会社フロッグワークス代表として障害者向けICT講習、視覚障害者に使いやすいICT機器・福祉用具の販売、Web制作を展開。また、視覚障害者団体にてWebサイトなどのICT関連の実務、ICT活用の情報発信を担当。
生まれつきの弱視と両手指の関節が曲がりにくいという障害があります。今の視力は眼前10センチの物が見える程度です。故郷が兵庫県中部の小さな町であったこともあり、盲学校には進まず小学校から高校まで普通学級で学びました。教科書や黒板の文字は見えにくく、手の障害によって体育や音楽など実技科目にも困難が多くありました。自助具や合理的配慮に関する情報が少なかったこともあり、自分なりに工夫して対応することが多かったです。その中でも当時普及し始めた電子辞書やパソコンは見えにくさを補う画期的なツールとして進学の原動力になりました。大学進学後も講義やレポート作成に大活躍しました。ただし、使い始めた頃は画面のまぶしさや文字の見えにくさなど、さまざまな課題に直面し、何度も挫折しそうになりました。それでも、使いこなせれば心強い存在であると感じ、パソコンの設定を試行錯誤しながら使いやすくすることで解決しました。
大学では、一人暮らしやアルバイトにも挑戦し、充実した日々を送りました。中でも転機となったのは、障害者施設でのアルバイト経験です。四肢麻痺をもつ方のネットショッピングを補助したり、全盲の方と年賀状の作成方法を一緒に工夫したりと、ICTが障害者の暮らしを大きく広げてくれることを肌で感じました。
この経験をきっかけに、プログラミングなどの技術を独学で学び、ICT関連の職業に就くことを目指し始めました。そのかいあって、プログラマーとして医療機器メーカーに就職することができました。やりがいを感じられる職場でしたが、障害の悪化に伴い退職を余儀なくされました。
療養をしながら次の仕事について考えていたとき、大学時代のアルバイト経験を思い出しました。身体の負担を避けながら、ICTの恩恵を受けてきた自分の経験を、今度は他の人のために活かせるのではないか。そう考え、障害者向けのICT講習業を始めました。
この頃、ちょうどスマートフォンが登場し急速に普及していました。私を含めた視覚障害者にとって、それまで触って分かるボタン操作がほとんどできない、高画質化によって文字がさらに小さくなったなどの新たな課題が生まれました。これまで、さまざまな障害に対応するためにパソコンの設定を工夫してきた経験から、音声読み上げ機能や画面拡大機能の活用方法を学び、整理しました。その結果、スマートフォンを含むさまざまな機器に対応した講習を展開することができるようになりました。
講習では、単なる操作説明にとどまらず、「機能を使いこなすことよりも、その方の生活をより良くする機能を習得していただくこと」を常に意識しています。
また、講習をする中で「どのような機器が使いやすいのか」というご相談を多くいただくことから、ICT機器や福祉用具の販売にも進出しました。販売事業では、日々登場するスマートフォンやスマート家電の情報を提供しつつ、同時にガラケーやパソコンのような機器も選択肢として提示しています。最新技術はその方を支える手段であるものの、あくまでも使用者が主役であることを意識しています。
技術は日々進化していますが、それがすべての人にとって「使える」ものであるとは限りません。ICTは万能ではありませんが、自分なりの使い方を見つけられたとき、それが力になることもあります。だからこそ、私が技術と人の仲立ちになれるよう今後も変わらず取り組みを続けていきます。